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栄光は誰のために~火線の迷図~(第2回/全3回)

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栄光は誰のために~火線の迷図~(第2回/全3回)

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 亮司たちの輸送隊は、その後敵に見つかることなく、無事に遺跡にたどりついた。遺跡の前では壕掘りと掘った土を使った土嚢によるバリケードの強化工事が行われており、輸送隊の生徒たちは壕と壕との隙間を通って、バリケードの中に入った。
 「お疲れ様です」
 査問委員の香取 翔子(かとり・しょうこ)が輸送隊を出迎えた。そのまま物資用の大型テントまで荷物を運んでもらい、受け入れリストと配分リストの作成を始める。そこへ、
 「無線機の補充を頼んだのだけど、届いていますか?」
 参謀科の教官沙 鈴(しゃ・りん)とパートナーの剣の花嫁綺羅 瑠璃(きら・るー)がやって来た。
 「無線機ですか? ……はい、届いているようです。そちらの箱の中ではないかと」
 受け入れリストをめくって、翔子は答えた。
 「それから、義勇隊に志願した他校生が、危険物を持ち込もうとしたという連絡が本校からあったから、一応、荷物の中に怪しいものが入っていないかどうか、開梱して調べさせてもらえる?」
 「ええ。どうせこれから配給する部隊別に物資を分けるところだったから、何なら手伝いましょうか?」
 瑠璃の言葉に、翔子はうなずいた。二人は手分けして荷物を開き始める。先に目当ての無線機を探し出した鈴は、何の気なしに翔子が置いたリストを手に取った。物資の受け入れと配分が滞りなく行われているか見ておこうとリストを繰る。受け入れの方は順調なようだったが、配分のリストを見て、鈴は眉を寄せた。
 「……このリストを作ったのは、あなたですか?」
 「……はい」
 翔子は一瞬、表情を強張らせた。
 「遺跡探索部隊用の弾薬や食糧の分配にむらがあるようですわね。本人からの申告の関係もあるのかも知れませんが、極端に多く配分されている生徒と、少なく配分されている生徒がいるのは良くありませんわ」
 鈴は素早く配分リストに目を通した。どうやら、『白騎士(ヴァイサーリッター)』の生徒には少なく、その分風紀委員や技術科の生徒には多く配分されているようだ。
 「これは……」
 鈴は探るように翔子を見た。そこへ、妲己が現れた。
 「沙教官、どうかされましたか?」
 「ええ、ちょっと、彼女が作った物資の分配リストに気になる点がありましたの。見て下さる?」
 鈴は妲己にリストを渡した。
 「これはつまり、『一部の生徒への』物資の補給が滞っている、ということですわ。教導団全体の効率を考えれば、好ましくないことです」
 『一部の生徒への』の部分を強調して鈴は言った。妲己は静かに頭を下げた。
 「教官のおっしゃる通りです。彼女には私が言い聞かせましょう。香取さん、こちらへ」
 妲己は翔子を連れてテントを出た。
 「……何があったの?」
 瑠璃は鈴に訊ねた。
 「『白騎士』の生徒たちへの分配を少なくして、かれらの行動を妨害しようとしていたようですわ」
 鈴はため息をついた。
 「風紀委員と査問委員は、団長直属と言っても、少し突出しすぎているように思えます。派閥争いなどに無駄なエネルギーを使うより、団長の下に一本化するべきですわ」
 「でも、風紀委員と査問委員は、学校における団長の手足と目だもの。団長が他の委員会や部活と同じように扱うようになるとは思えないし……そういう存在である以上、たとえ『白騎士』が無くなっても、反発する生徒は必ず出ると思わない? 李鵬悠と妲己が突出しているつもりがなくても、どうしてもそうなってしまうって言うか……」
 根本的には、今の教導団の構造を変えなくては、というところまで行ってしまいそうな問題なのだが、何とか今のままで上手く行かせる方法はないものかしら、と瑠璃は唸った。

 「……あまり上手いやり方ではありませんでしたね」
 一方、翔子をテントの外へ連れ出した妲己は、そう言って翔子をたしなめた。
 「沙教官がリストに気付かなくても、物資の分配が少なければ、『白騎士』からクレームが来るでしょう?」
 「鏖殺寺院の襲撃を受けた輸送隊も居ますし、物資が届くのが遅れていると言えば良いかと思ったのですが……」
 翔子は悔しそうにうつむいた。
 「広くはない場所で頻繁に顔をあわせているのですもの、自分たちのところだけ配られる物資が少なければ、おそらく気がつくのではないかしら? 林教官は中国系だけれど、私たちと『白騎士』を公平に扱おうとしている方だから、『白騎士』からクレームが入れば、おそらく、全体の補給が完了するまで探索部隊の出発を延期するでしょう。……だから、遺跡の中に入ってしまってから、補給を遅延させれば良いんです」
 妲己の言葉に、翔子は弾かれたように顔を上げた。
 「遺跡の規模と中の状況を考えれば、探索中に遺跡内部への補給が必要になる可能性は高いでしょう? ちょっと道に迷ってしまったとか、外の防衛戦の戦況が芳しくなくて補給が遅れた……ということが起きても、不思議ではありません」
 「……次こそ必ず、委員長と団長のお役に立ってみせます」
 翔子は決意を込めて言った。