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栄光は誰のために~火線の迷図~(第2回/全3回)

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栄光は誰のために~火線の迷図~(第2回/全3回)

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第三章 黒き影、闇より来たりて

 その後数日間を、生徒たちはぴりぴりとした緊張の中で過ごした。遺跡探索隊はまだ戻ってこない。遺跡内とは無線が通じにくいので詳細は不明だが、弾薬などの補給に行く生徒からの報告では、時間がかかってはいるものの大きな損害は出しておらず、探索を続けているとのことだ。
 そして、数日後の明け方、ついに鏖殺寺院の遺跡への攻勢が始まった。口火を切ったのは、何とか完成した防御陣地の向こうの樹海から投擲される火炎瓶だった。まだ薄暗い樹海に、ぽつぽつとオレンジ色の炎が踊る。森の木を使って射出装置を作ったらしく、バリケードを越えて拠点の中まで飛んできそうな勢いだ。既に幾つかは土嚢を積んで強化されたバリケードにぶつかり、炎を上げている。
 「敵襲ーッ!!」
 グレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)が叫びながら見張り台を駆け下りようとするのを、槍を持って駆けつけた林が止めた。
 「いや、降りてこないで、そのまま敵の監視を続けろ! 蛮族を操ってそうな奴が居たら人数を数えておけ!」
 「了解しました!」
 グレンは見張り台の上に戻った。
 「敵が近付くまでお手伝いします!」
 ソニア・アディール(そにあ・あでぃーる)が銀の髪を翻して見張り台によじ登る。
 「遠隔攻撃担当者は前へ! 火炎瓶を撃ち落とせ! 近接戦闘しか出来ない奴は突出せず待機!」
 自らドラゴンアーツによる遠当てで火炎瓶を撃ち落しながら、林が次々と指示を飛ばす。

 「と、とうとう来ちゃいましたね」
 今回の戦いが初陣となる機甲科のアクィラ・グラッツィアーニ(あくぃら・ぐらっつぃあーに)は、アサルトカービンを携えてバリケードに向かいながら、相沢 洋(あいざわ・ひろし)昴 コウジ(すばる・こうじ)に言った。
 「なんか、いつも戦車とか輸送車両に乗ってるもんで、体がむき出しだと落ち着かないって言うか、頼りないような感じがするって言うか……」
 「だからいつも言ってるだろう、機甲科だからって歩兵戦闘の訓練を疎かにするなって。今回は最初から戦車がないが、戦車に乗っていても、撃破されたら白兵戦をやることもあるんだぞ」
 緊張で饒舌になっているアクィラに並んで走りながら、洋は先輩風を吹かせる。
 「相沢氏の言う通り、すべての戦闘行為の基本だからね。将来アキラ氏が戦車長になった暁には、僕が随伴致しますよ」
 前回の戦いにも参加しているコウジが軽口を叩く。
 「アキラじゃなくて、アクィラです!」
 「だからアキラだろ?」
 アクィラは訂正するが、違いが聞き取れないのかそれともわざとなのか、コウジの呼び方は直らない。
 「先輩がた、いつもご教示ありがとうございます。これからもよろしくお願いしますね!」
 アクィラのパートナー、シャンバラ人のクリスティーナ・カンパニーレ(くりすてぃーな・かんぱにーれ)はにっこりと笑って言うと、ぽんぽんとアクィラの肩を叩いた。
 「任務なんですから、頑張りましょう。先輩がたのおっしゃる通り、歩兵戦闘も……いいえ、これから起きること全部、アクィラさんの『経験』になるんですもの」
 「……そ、そうだね」
 アクィラはうなずいて、アサルトカービンを抱え直す。その間に洋は、一足先にバリケードの左翼に到着した。
 「敵は目の前にいるものだけではない。遺跡を狙う他校生徒もそうだ。義勇隊員といえど、まだ信用は出来ない。ゆえに見せつけねばならん!我々、シャンバラ教導団の敵となりし者の末路の惨めさを!!」
 土嚢で固められたバリケードの上によじ登り、洋は吼えた。おおっ!!と教導団の生徒たちから声が上がる。その中で、クリスティーナが一人頭を抱え、悲鳴を上げてしゃがみ込んだ。
 「きゃーっ!!」
 何事かと生徒たちは周囲を見回す。と、こちらめがけて火炎瓶が飛んでくるのが見えた。
 「クレー射撃かよっ!」
 精密射撃で火炎瓶を打ち落としながら、コウジが叫ぶ。破壊された火炎瓶はバリケードの内側に落ちたが、中身が広範囲に飛び散ったため、火勢はさして強くない。生徒たちは足で踏んだり、上着で叩いたりして火を消した。
 「す、すみません、私、びっくりして」
 はわはわと動揺しながらクリスティーナが謝る。
 「飛んで来るのが判るなら、そう言って警告してください!」
 ギャザリングヘクスで用意してあった魔女のスープを携帯用マグから飲み干し、しっかりなさい、と洋のパートナー乃木坂 みと(のぎさか・みと)がクリスティーナに言う。
 「みと! 敵が隠れているあたりを火術で攻撃できるか!?」
 みとはバリケードに駆け寄り、そっと頭を出してバリケードと樹海の縁の距離を測った。
 「ギャザリングヘクスで強化してもギリギリの距離ですが、やってみますわ!」
 敵の攻撃を届きにくくするということは、状況の開始時点では味方の攻撃も届きにくいということである。みとの放った火術は、ギリギリで樹海に届いたが、まだあたりが薄暗いこともあり、そこに隠れている者たちにダメージを与えられたかどうかは確認できない。そして、樹海からは相変わらず火炎瓶が飛んでくる。飛ばしているうちに距離感が掴めて来たのだろう、バリケードの内側へ届く瓶が増えて来た。輸送隊の生徒たちが、物資に引火しないように懸命に火を消して回っている。
 「前回と、随分状況が違うでありますね」
 コウジ同様、精密射撃で火炎瓶を打ち落としながら金住 健勝(かなずみ・けんしょう)は言った。前回の作戦には参加しておらず、レポートを読んだり参加者に話を聞いたりして今回の作戦に臨んだのだが、味方も敵も、今回は前回とかなり様相が異なる。
 「このまま、火炎瓶による攻撃を続けるつもりでしょうか? それとも……」
 「来るぞーッ!!」
 見張り台からグレンの叫び声がした。そこここに広がる炎に照らされて、樹海の暗がりから蛮族たちが姿を現す。
 「火炎瓶もまだ来るかも知れん! 警戒を怠るなよ!」
 林が叫んだ。その言葉通り、壕に行く手を阻まれつつも、火炎瓶の援護を受けて、蛮族たちはこちらへ向かって来る。生徒たちは蛮族を攻撃したいのだが、火炎瓶も打ち落とさなくてはならないため、蛮族に攻撃を集中し切れない状況だ。しかも、バリケードの中央部に配置されている義勇隊の方で、何やら揉め事が起こっている。
 「フリッツ、バリケードの外へ出たら? バリケードのすぐ前なら、射撃や魔法の邪魔にはならないんじゃないかな。よろしいですか、林教官!」
 守護天使サーデヴァル・ジレスン(さーでばる・じれすん)が叫ぶ。
 「出すぎて遠隔攻撃に巻き込まれんようにしろよ!」
 林は振り向きもせず、ただ了承のしるしに手を挙げた。それを見て、サーデヴァルのパートナーフリッツ・ヴァンジヤード(ふりっつ・ばんじやーど)は周囲の生徒たちに言った。
 「物資や弾薬に引火しないよう、射撃や魔法で攻撃する者は主に火炎瓶を防いで欲しい。蛮族がバリケードに到達したら、その時は我が食い止める!」
 「了解であります! 敵は蛮族だけではないかも知れません、気をつけて下さい!」
 応えて、健勝は再び空へと目を向けた。フリッツはバリケードを乗り越えて外へ出る。