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栄光は誰のために~火線の迷図~(第2回/全3回)

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栄光は誰のために~火線の迷図~(第2回/全3回)

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 一方、林の元には、作戦について提案があるという義勇隊の志願者たちと、義勇隊に加わりたいという教導団の生徒たちが来ていた。既に水原 ゆかりの他に、宇都宮 祥子、松平 岩造、後鳥羽 樹理とそのパートナーらが他校生の監視役を志願しているが、水渡 雫とパートナーのローランド・セーレーンは、監視役としてではなく、義勇隊の一員になりたいと言い出したのだ。
 林は、義勇隊の志願者の意見には「採用できるかどうかはともかく、聞くだけは聞いてやるから言ってみろ」と柔軟な姿勢を見せた。しかし、その一方で、義勇隊に加わりたいという教導団の生徒たちの願いは
 「他所ではどうだったか知らんが、ここでは義勇隊の奴らはまだ『味方』じゃない。現実に、我々を攻撃しようとした他校生も居たことを忘れたか? 敵の敵は必ずしも味方ではないということを理解しろ。どうしても義勇隊と行動を共にしたいなら、監視役に回るんだな。ただし、戦闘の時も混成部隊にはしないで、義勇隊の後方に配置することになるが」
 と却下し、結局、雫とローランドは監視役に回ることになった。
 (義勇隊は思ったより士気が高いようで一安心だな。林教官も、使えるものは使うつもりで、志願者たちの士気が落ちない配慮はしているようだ。むしろ、問題はあちらだな)
 戻って行く雫とローランドを見送りながら、ロブ・ファインズ(ろぶ・ふぁいんず)は思った。
 (感化されて妙な気を起こされても困る。林教官の言うことを聞いて大人しくしていればいいが、教導団の生徒同志で監視しあうような状況は御免だぞ……)
 「さて、義勇隊の諸君には、とりあえず壕を掘ってもらおうと……」
 林が義勇隊に向き直って言いかけたその時、バリケードの内側に作られた見張り用の櫓の上で見張りをしていたグレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)が叫んだ。
 「上空に小型飛空艇!!」
 生徒たちに緊張が走る。バリケードの外で壕を掘っていた生徒たちが、バチツルやスコップを放って、バリケードの内側に駆け戻って来た。
 「数は2機、航空科が迎撃しています!!」
 グレンのパートナー、機晶姫のソニア・アディール(そにあ・あでぃーる)が双眼鏡で上空の状況を追いながら言う。
 「小型飛空艇2機だけなら航空科の敵じゃないだろうが、墜落や落下物の危険もある。監視怠るなよ!」
 林が怒鳴る。
 「はいっ!」
 グレンとソニアは声をあわせて答えた。
 「陽動の可能性もある、教導団の生徒は一応配置についておけ。義勇隊はその場で待機!」
 林の号令以下、教導団の生徒は武器を取り走って行く。


 「飛空艇の操縦者はいずれも他学校の女子生徒と確認。おそらく蒼空学園の生徒と思われます。とりあえず説得を試みます」
 セスナで上空からの索敵と哨戒を行っていた早瀬 咲希(はやせ・さき)とパートナーのギルバート・グラフトン(ぎるばーと・ぐらふとん)は、旋回しながら小型飛空艇に近付いて行った。小型飛空艇とセスナでは速度に相当な違いがあって並んで飛ぶことは出来ないし、相手はむき出しの生身だ。慎重に操縦せざるを得ない。
 『現在、当地域は鏖殺寺院との交戦状態にあります。危険が予想されるますので、早急に退去して下さい。なお、降下した場合は敵勢力と判断します』
 拡声器で呼びかけると、飛空艇の少女が何かを叫んだように見えた。だが、コクピットの中でエンジン音に包まれている咲希には、何を言っているか聞き取ることが出来ない。
 『どうしますか、咲希』
 ギルバートが聞いてきた。セスナには一応機銃が搭載されているが、この状況で撃つのはさすがに抵抗がある。
 「何とかして、発砲せずに樹海の外へ誘導しましょう」
 咲希は応答し、退去するようにと繰り返し呼びかけながら、飛空艇を樹海の外へ押し出すようにセスナを旋回させた。飛空艇の少女たちはしばらく何か叫び続けていたようだったが、やがて諦めて、樹海の外へ去って行った。
 「小型飛空艇、退去完了しました。上空の哨戒を続けます」
 『了解。ご苦労だったな』
 林の返信を聞いて、咲希はふうっと息を吐き、視線を地上に向けた。
 「敵は、どこに隠れてるのかしら……」
 咲希たちの本来の目的は、他校生の排除ではなく、敵の指揮官を探すことだった。
 「戦況を把握できる場所……高い所に居ると思うんだけど……」
 しかし、上空から見る限り、鬱蒼と生い茂る木々があるだけだし、上空も小型飛空艇が去った後は鳥が飛んでいるだけだ。遺跡前のバリケードはかろうじて見えるが、それは教導団の生徒たちがバリケードを作るために木を伐採して空き地が出来たからで、その他に人為的に作られたものは見当たらない。
 「うーん……少なくとも、空から指揮してるって言うことはないのかも。私たちがここから見て、地上で動いているものは見えないものね」
 『高い場所に居るとしても、上空から見て判らないようカモフラージュしているのかも知れません。我々の仲間にも、身を隠す技能を持つ者が居るのですから、敵にも居てもおかしくないでしょう』
 ギルバートが言う。
 「そうね。でも、さっきみたいに他校生が来ることもあるかも知れないし、哨戒を続けましょう」
 咲希は遠くまで見通せるよう、少しセスナの高度を上げた。