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栄光は誰のために~火線の迷図~(第2回/全3回)

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栄光は誰のために~火線の迷図~(第2回/全3回)

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第一章 思わぬ障害

 ヒラニプラ近郊の樹海で発見された遺跡は、《工場(ファクトリー)》と名付けられた。
 鏖殺寺院の手先と見られる蛮族の襲撃を何とか退けた教導団の生徒たちだったが、前回の襲撃は小手調べに過ぎず、再度襲撃があるだろうと予測されているため、遺跡の入口付近では、バリケードの強化など守りを固める作業が急ピッチで行われていた。
 戦部 小次郎は、バリケードの外で、首に巻いたタオルで汗を拭いながら、バチツル(先端がのみのように平面になっているツルハシ)を振るっていた。
 木を組んで作られている現在のバリケードは、火をつけられたら弱い。この樹海はサバイバル訓練に使われるだけあって水源は豊富で、教導団の宿営地の近くにも湧き水があり、調理や衛生用途の水は豊富とは言えないものの一応確保できていたが、消火用水までは用意できないのが現状だ。そこで、小次郎は壕を掘るのにあわせて、掘った土で土嚢を作り、バリケードの外側に積むことで、バリケードを強化しようと考えたのである。
 しかし、ここは樹海の中である。植物の根が邪魔をして、作業は遅々としてはかどらない。
 「もうすぐ義勇隊に志願した連中が到着する。そうしたらこっちの作業を手伝わせるからな」
 現地指揮官の林 偉(りん い)は、小次郎の提案を容れて手が空いている生徒たちを作業に回してくれた上で、義勇隊の受け入れ準備や補給関係の手配などの雑務の合間にねぎらいに来てくれたが、当分補給のための道路を敷設する予定はないらしく、人力での作業が続くことになる。
 「おい、深さはどのくらいにするんだ?」
 壕を掘るのを手伝っているデゼル・レイナードが声をかけて来た。
 「一か所を深く掘るより、膝くらいで良いんで幅や数を掘った方が良いと思うんですよ。で、底の方を狭く……壕の断面がくさび形になるようにお願いします」
 壕の底に足をきちんと着くスペースがなければ、体勢が不安定になり、壕が浅くても進軍のスピードをそぐことができるだろう、という考えだ。
 「デゼルにそんな細かい作業は無理かも知れませんよ? デゼルには土嚢運びをしてもらって、オレが掘った方がいいかも」
 土嚢を積みに行って戻って来た、デゼルのパートナーの機晶姫ルケト・ツーレが苦笑する。
 「……確かに、うだうだ考えながら何かするより、何も考えないで単純作業してる方が性にあってるけどよ……だから壕掘るのを手伝いに来たんだし……だけど、そうはっきり言うこたぁないだろ!」
 デゼルは不機嫌そうに、バチツルを放り出した。
 「デゼルさん、土嚢を運ぶのも大変で大切なお仕事ですから」
 土嚢に土を詰めながら、小次郎のパートナーの守護天使リース・バーロットがデゼルをなだめる。
 「例えばですけど、私が壕を掘って小次郎さんが土を詰めるより、今の方が作業が進みますでしょう? 適材適所と申しますもの、自分に出来ること、向いていることをすれば良いのではないでしょうか?」
 「というわけですから、交代しましょう」
 放り出されたバチツルをルケトが拾う。デゼルは無言で壕から上がって、ルケトのかわりに土嚢を運び始めた。
 「……間に合うといいんですが」
 まだほとんど木がむき出しになっているバリケードの方を振り向いて、小次郎は呟いた。前回の攻撃では、魔法や大口径の火器を使った攻撃はなかったが、次の攻撃でそれがないという保証は、どこにもないのだ。


 義勇隊に志願してきた他校生たちと一緒に、技術科主任教官楊 明花(やん みんほあ)が、量産された魔法防御力の高い盾を持って拠点に到着したのは、その数日後のことだった。
 昴 コウジと相沢 洋は、明花の元に火力の増強をすべきだという要請をしに行った。
 「多数の敵戦力に相対するためには、やはり火力が必要です。しかも、点ではなく面を攻撃する必要性があります。弾薬を多数用意することも重要ですが、同時に、面を攻撃可能な手段を考えなくてはならないと思うんです」
 「義勇隊が戦闘の混乱に乗じて反乱を起こしたり、遺跡内部に入ろうとした場合に鎮圧するためにも、是非武装強化をお願いします」
 コウジと洋は口々に明花を説得しようとしたが、
 「あなたがたは、技術科を何でも出てくる玉手箱か何かだと思ってるの?」
 二人の話を聞いて、明花は不機嫌そうに思い切り眉を寄せた。
 「いえ、そういうわけでは……」
 思わぬ反応に、二人は口ごもる。
 「そうね、確かにそういう兵器があれば都合が良いわね。でも、パラミタには地球から直接兵器は持ち込めない。全部現地生産しなくてはならないわ。それどころか、兵器を作るための工具や工作機械を、まずパラミタで作らなくてはならないのよ? 確かに技術科には色々な工具や機械が揃っているけれど、それは試験的に製作することができる程度のものであって、量産したいなら外部の工廠に依頼しなくてはならない。増産体勢を整えるのも大変なことなの。地球上とは訳が違うのよ。現在既に量産されているものの補給を増やして欲しいということならまだしも、新しい武器の開発や増産について、安易に考えないでちょうだい」
 明花は苛立ちを隠さない口調で言った。
 「私とパートナーの太乙(たいいつ)は当分ここに居るつもりだから、新しい武器の手配については本校に戻ってからになるわ。今後長期に渡る必要性があるかどうかや、材料の調達や予算の検討も必要になるし、戻ってもすぐには無理ね」
 そう言い切られて、コウジと洋はすごすごと引き下がった。林をして「あの女を止めることが出来るのは団長くらいだろう」と言わしめる明花だが、主任教官としてそれなりに色々と苦労はあるらしい。