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狙われた乙女~ヴァイシャリー編~(第3回/全3回)

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狙われた乙女~ヴァイシャリー編~(第3回/全3回)

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第5章 河川敷の戦い

「なんだあれ!」
 ゴンドラに乗って、パラ実の仲間と共に運河を渡っていた羽高 魅世瑠(はだか・みせる)は、ぷかぷかと至る所に浮いている浮きを発見し、大声を上げた。
「パラ実生も招待? 無料でハロウィンパーティーに参加できるみたいだ。これ面白そうじゃね? 行ってみようぜ、なあなあ」
 仲間達の腕をぐいぐい引っ張る。
「折角の招待だ、むげに断るこたぁねぇ。腹ごしらえと腕ならしとシャレこもうじゃねぇか」
「食べ物? 飲ミ物? ラズ、行きタイ!」
 フローレンス・モントゴメリー(ふろーれんす・もんとごめりー)ラズ・ヴィシャ(らず・う゛ぃしゃ)も乗り気だった。
 ラズの方は飲み食べ放題の文字を見て、よだれをどばっと流している。
「罠だったら踏み破りゃいいじゃねーか、人数では勝ってるんだし」
「まあ、そうだな……ちと見てみっか〜!」
 そのゴンドラの中で一番身体つきの良い男がそう言うと、皆も歓声や雄叫びを上げる。
 上陸するはずだった河川敷を通り過ぎて、そのままパーティーが開かれるという倉庫街の方へと向かうのだった。

「おーし、様子を見て来るぞー!」
「ヒャッハー!」
 パラ実の国頭 武尊(くにがみ・たける)は、仲間と共に、はばたき広場に集まっていた。
 百合園で集会をやると聞いた武尊は、日時的にハロウィンパーチーだろうと、信じて疑わなかった。
 百合園でやるってことは、百合園主催だろうと。パラ実は招待されたんだぜーと。勝手に思い込んだ。都合のいいように。
 百合園にパラ実生が招待されるなんて、普段なら絶対ありえない事だと怪しむ所だが、そんな細かいこたあ気にしない! 生粋のパラ実生だから。
 だが、大勢のパラ実生が一度に押掛けたら、大変だろうし、受け入れ準備が整ってないかもしれないと、そっちの方には頭が働き、知った奴等に声をかけ、遠回りをして少し早めにはばたき広場に集合したのだ。
 仲間達と別れて、数人で百合園女学院の方へバイクを走らせていると、周囲を見回しながら歩いている2人組みの百合園生が目に留まった。
「おーい! パーティの準備できてるか〜♪」
 物凄い笑顔で、すっごく期待しながら、武尊は少女達に近付いた。
「……え? パーティ……?」
 学院の周りを警戒して歩き回っていた百合園のエルサーラ サイジャリー(えるさーら・さいじゃりー)と、パートナーのペシェ・アルカウス(ぺしぇ・あるかうす)は、親しげに声をかけてきたパラ実生に驚きを覚える。
「ん? どうした?」
「あ、ちょっとまって」
 エルサーラは携帯電話を取り出すと、白百合団の団長に電話をかけた。
 何を喋っているのかは、バイクのエンジン音に阻まれ武尊達には聞こえなかった。とにかく武尊達はわくわく待っていた。
「っと」
 エルサーラは電話を切ると、武尊達の方を向き、一方を指差した。
「パラ実生を招いてのハロウィンパーティーはあっちの倉庫街で行なわれてるそうです」
「ん? 百合園って聞いたんだが?」
「……いえ、百合園は今日は休校です。百合園生も沢山参加していますので、宜しく!」
 ちょっと強張ってしまったが、エルサーラは一生懸命作り笑いを浮かべる。
 細かいことは気にしないパラ実生としては、ちと場所が遠くなっただけのこと。
「そんじゃ、行くぜ〜!」
「ヒャッハー!」
 武尊はバイクを走らせ、はばたき広場で仲間と合流した後、倉庫街へ向かったのだった。

 武尊が走り去った後、エルサーラは大きく息をついて再び電話をかけて、現在までの状況も併せて白百合団団長、及び副団長にも報告を入れる。
 その後、目を向けたのはここからは見えない正門の方。
「色々謎があったりパーティがあったりする傍らで、この学校の立場そのものを守る静かな戦いがあるのだな」
 作戦についても、エルサーラは耳にしていた。
「攻撃をせず、ただ守り相手の譲歩を引き出すのは、かなり根性がいる。裏切られるのは慣れてるから、自分は裏切ったりしない。根性きめたら、引かない自信はある。――だから、本当はあそこに立ちたかったといったら、お前笑う?」
 エルサーラの言葉にペシェは首を左右に振った。
「けど、団員でもない私には、あそこに居場所はない」
「でもエルなりに何か力になろうとしているのはわかるよ。だから、僕も手伝ってる。ここが、もっと2人にとって居心地のいい場所であるようにね」
「わかったよペシェ、それでも当事者だっていいたいんだろう」
 吐息と共に、エルサーラは軽く笑みを浮かべた。
 次はきっと、自分も正門を守っているだろう。
「そろそろ始まるね。あっちに伝えてほしいこと、念押ししたいことはない? あるなら任せて。携帯じゃ伝わらない細かいニュアンスは僕達が届けるよ。それに、皆携帯使うゆとり……ないでしょ」
 パラ実生と思われる騒ぎ声が響いてくる。
「その時は頼むよ」
 2人は正門ではなく、裏門の方へと歩いていく――。 

○    ○    ○    ○


 運河に浮かぶパラ実生大歓迎のハロウィンパーティーの広告は、功を奏しはしたが、全てのパラ実生がそちらに向うことはなかった。
 訪れた四天王【陽炎の】ツイスダーの舎弟、子分達と、横の繋がりのある者達。数百人の男女が百合園女学院の南側に位置する河川敷に上陸していくのだった。
「百合園をぶっ壊す。行くぞ!」
「待ってください」
 船からバイクで下りてくる男達の前に、蒼空学園の風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)が躍り出た。
「……僕は付近の会社に、ここの警備を任された者です。ここは、あなた方の領地ではありません。通行はできません」
 優斗は隼人と共に、光太郎から事情を聞いており、パラ実生が百合園に報復をしに来たのだと察していた。
 百合園にバイクで乗り込むパラ実生や、百合園の生徒が襲われた件に関して、逆恨みからくる嫌がらせ、と判断し、毅然とした対応をすべきであると判断した。
 そうでなければ、相手をつけあがらせることになる。悪党とは断固戦うべきと考え、前線を訪れたのだが……。
 相手は、嫌がらせ程度の出で立ちではなかった。
 武器を携え怒声を上げるその様子は、集会……ではなく、まるで戦争に来たかのように見える。
「邪魔だ虫けら」
 パラ実生が銃を乱射する。
 付近に隠れる場所はない。優斗は身体に弾丸を受けながら雷術を放つ。
「構うな。行け」
 ツイスダーの言葉を受け、バイクの一団が河川敷を突破しようとする。
「待ちなよ」
 バイクの前にスパイラルバイクを横付けにして行く手を塞いだのはカリン・シェフィールド(かりん・しぇふぃーるど)だった。
 知った顔に一団はバイクを止める。
「ちと訳ありでね……。これより先に行こうってんなら、あたしを倒してから進みな!」
 カリンは刃物も銃器も持ってはいない。
 ただ、木刀のみを振り上げて、一団の元に躍りかかった。
 銃弾が、刃がカリンの身体を掠め、切り裂いていく。
 勝てはしないということは、分かっていた。
 ……だけれど、百合学園で出会った人を守りたくて。
 苦労して潜入し、得た場所、知り合い、友達と思ってくれる人々。
 全て、壊されたくなかった。
「キマクへ戻れってんだよ!」
 銃を撃つ男に、木刀を叩き込みバイクから落とす。
 ナイフを飛ばす男の元に跳んで、腹を突く。
 血だらけになり、視界が真っ赤に染まり、見えなくなろうともカリンは木刀を振るい続ける。
「気に入りませんね」
 弾丸がツイスダーの方へと放たれる。撃たれた舎弟、子分が1人、腕を押さえて蹲る。
 パラ実の朱 黎明(しゅ・れいめい)が、遠方で嘲笑を浮かべていた。
「気に入らねぇ? それだけの理由で四天王の俺に銃を向けるとはな」
 ツイスダーの言葉と共に、舎弟、子分達の――数百の武器が黎明に向けられる。
「ドージェ様は中国軍を相手にたった一人で立ち向かったそうじゃないですか。それなら私も同じことをしてみたいと思うのは当然でしょう?」
「黎明様の願いは、わたくしの願い」
 後から飛び出したネア・メヴァクト(ねあ・めう゛ぁくと)が、パワーブレスを自身に使い、ウォーハンマーを振り上げる。
「申し訳ありませんが、戦わせていただきます」
 ツイスダーの側に集まる者達に、ネアがウォーハンマーを振り回しなぎ倒していく。
 銃を構える者を、黎明はスプレーショットで撃ち倒していく。
「切り刻んでやるぜ。準備体操代わりだ」
 ツイスダーが抜いたのは鋭利な刃物だ。
「いい機会です。その四天王の座、戴きましょうか」
 ツイスダーを囲む者達に、黎明は弾丸をばら撒いていく。
「仕方ありません……っ」
 囲まれ、次々と武器を向けられたネアはバニッシュを放ち隙を作り、再びウォーハンマーを叩きつけていく。
「眠って下さい」
 重傷者を出さないように力を加減する……が、多勢に無勢状態でのその心遣い故に、彼女はそう長くは持ちそうもなかった。
 黎明は彼女の状態を視野に入れながら、銃を撃っていく。
 ツイスダーの舎弟、子分達は何れも契約者のようであり、簡単には倒すことが出来ない。
 数千人に顔が利く四天王だ。流石に暴走族のリーダー程度の四天王とは違う。
「いか、せるか……っ!」
 赤く染まった視界。激しい痛みが感じない程に朦朧としながらも、カリンは木刀を振るい続けバイクを、百合園に向かおうとする者達を打っていく。
「……ぐ……っ」
 木刀を振る彼女の身体に、バイクが突撃し、弾き飛ばされてカリンは倒れた。
「殺っちまえ」
 ツイスダーの声が飛び、バイクが倒れたカリンの方に向いた。
「やめろ! ここヴァイシャリーでの悪事は俺が許さん!」
「許しません!」
 突如、激しい声が飛び河川敷に男が駆け込んでくる――教導団の松平 岩造(まつだいら・がんぞう)と、フェイト・シュタール(ふぇいと・しゅたーる)だ。
「俺の名は、ヴァイシャリーの夜に現れるヴァイシャリーの剣士、ここに参る!!!!」
 グレートソードを振り上げて、パラ実生の元に走り斬り込む。
「容赦は致しません」
 後方からは、フェイトがアーミーショットガンでスプレーショットを使い、群がるパラ実の男女に容赦なく弾丸を浴びせていく。
「こんな私にも誇りがありましてね。悪を為すなら美しく、とね。あなたたちの悪は全く美しくない……目ざわりなんですよ」
 岩造の出現に気をとられたツイスダーに黎明が接近した。
「黎明、様……」
 いくつもの銃弾と打撃を受けたネアはついに地に伏した。
「てめぇの美学なんか知るか」
「死ね!」
 舎弟達が黎明に斬り込む。
 精神力はもう残ってはいない。黎明はただ、ひたすら銃のトリガーを引き、ツイスダーの急所を狙う。
「……っ」
 ツイスダーは翻弄するように素早く動き、弾丸は当らない。……とその時。
 ツイスダーの後方から放たれた1本のナイフが、地に突き刺さった。彼が避けた瞬間。できた一瞬の隙に、黎明は銃を彼の頭に向けて撃つ。
「……が……っ」
 弾丸はツイスダーの眉間を弾いた。顔面半分を赤く染めて、ツイスダーが黎明を見た時には――黎明はツイスダーの舎弟、子分の総攻撃を受け、倒れていた。
「……やっぱ、勝てないか……この戦力差だからな」
 遠くの木の陰から、リターニングダガーを投げつけたのは悠司だった。
「俺の名をヴァイシャリー全体に轟かしてやる!!!!」
 高らかに叫びながら、岩造は剣を、フェイトは銃弾を撃ち放つも、やはり多勢に無勢だった。
 バイクが岩造に何台も突進し、フェイトにはツイスダーの舎弟、子分達が後方から銃弾を浴びせる。
「それでも……僕達は退きません。あなた方には決して屈しません!」
 傷口に手を当てながら立ち上がる優斗に、飛びかかった男が剣を叩き込んだ。
 身体を血に染めて、優斗は倒れた。
「行くぞ……!」
 倒れた黎明を激しい怒りの形相で蹴り飛ばし、ツイスダーは舎弟、子分達数百人を連れて、百合園女学院の方へと向かう。
「……岩造、様……」
 身体中血に染まりながら、フェイトはバイクに轢かれ、骨を砕かれ動けずにいる岩造の元に這うように近付いた。
「大丈夫だ、フェイト……無事でよかった。フェイト、俺はおまえの事を一番愛しているんだ」
 苦しげだけれど、とても優しい彼の言葉に、フェイトは涙を落とし彼に覆い被さった。
「岩造様の事を一番愛しています」