リアクション
卍卍卍 引きこもりの権造が倒された、という報は瞬く間に牙攻裏塞島を駆け巡った。 振動が止まず煙の濃くなる中央塔に潜んでいたヴェルチェ・クライウォルフは、このままミツエに勝利させてなるものかと、死にかけのサーバにとどめを刺すために動き出す。 そして同じことを考えている人がここにも。 「てめぇは……!」 「あら、考えることは一緒かしら?」 ヴェルチェと仏滅 サンダー明彦がいるのは、広大な権造のいるフロアでもまだ破壊されていない一画だった。 明彦はニヤリとするとパートナーの平 清景(たいらの・きよかげ)に呼びかけた。 「清景、敵がこの辺に来たら適当に追い払え」 落ち武者を通り越して腐乱死体の態の清景は、もげかけた首をぐるりと回して引き受けた。 明彦はヴェルチェに向き直ると声をひそめて言った。 「こんなこともあろうかと、実はとっておきがあるんだ。こいつでこの島の全サーバは全滅だ」 「あたしは配電盤を破壊してやろうと思ったんだけど、その後にとっておくわね」 「これでミツエは戦に勝っても戦利品ナシだ。ざまぁみろ! これで自慢の貧乳ももっとみすぼらしくなるだろうよ!」 ヒャハハハハ! と、半ば狂気じみた笑い声を上げながらも、明彦は放置されていた端末を開きウィルスプログラムを捩じ込んでいった。 これでサーバに負荷をかけてダウンさせ、戦利品である不健全動画を得られなくて焦るミツエ達が、復旧作業に勤しんでいる間にヴェルチェが配電盤を破壊。 「二段階の嫌がらせだ! 完璧だ!」 絶好調の明彦だった。 まさかそんな悪巧みがされているとは知らないミツエは、破壊された機器類からあがる煙の向こうで、水洛邪堂の拳が権造を仕留めたのを見た。 倒れた権造はピクリとも動かない。 権造はもちろんだが、ミツエ達も散々だった。気力も体力も使い果たしていた。 フロアには焦げ臭いにおいと白煙が充満してきている。 「皆さん、無事ですか!?」 「イリーナさん! ミツエさん!」 外でミツエに成りすまして敵兵を引き付けていたはずの桐生ひなの声がした。後に続いたのはエレーナ・アシュケナージだ。 ひなはボロボロのミツエ達に「あっ」と小さく声を上げると、視線を巡らせて権造で止まった。 「権造が倒されたというのは、本当だったのですね……」 「本当よ。ところで、無事なサーバは残ってる?」 エレーナのヒールでどうにか立ち上がることができるようになったミツエが、白煙の向こうを見るように目を眇めた時、イリーナがわずかに苛立ちを見せて告げた。 「落ちてる……どれもダメだ。権造め」 「ざーんねんでしたァ! サーバは俺がとっておきで満腹にしてやったぜ!」 「配電盤も今から修復不可能にしてあげるわ」 ゲラゲラクスクスと笑う明彦とヴェルチェ。 ミツエの悔しがる顔を見たくて、我慢できずに出てきたのだ。 「あの二人を捕らえよ!」 まさにその悔しそうな顔でミツエが命令を飛ばすのを満足そうに眺めて、明彦とヴェルチェはさっさと逃げ出した。その際、ヴェルチェは配電盤にダガーを突き立てていくのを忘れない。 あーっ、というミツエの焦りの声が二人の耳を楽しませた。 権造が死ぬと百人のアリスが苦しむというので、ミツエ達は彼を文字通り引きずって塔の外へと脱出を図った。 疲労により自分一人の体も重いというのに、巨体の増加は拷問のようにきつかった。 交代で運び出す途中、権造は一度も目覚めなかった。 途中でアリス解放に向かった味方達と百人のアリスと合流し、上を目指す。 電気系統が全て壊されたため、地道に階段だ。 「もう少しで地上よ、頑張って!」 先頭のミツエが続く味方達を励ます。 |
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