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横山ミツエの演義(第2回/全4回)

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横山ミツエの演義(第2回/全4回)

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まさかの伏兵


 待ちなさい、と追いかけてくる桐生ひなのしつこさに仏滅 サンダー明彦は舌打ちした。
「清景、ぶちかましてやれ!」
 あまり気乗りしなさそうにひなの前に立ちふさがる平 清景。
 そのあまりの気味の悪い外見に一瞬ひるんだひなだったが、清景がおもむろにギターを構えたことで警戒心をあらわにした。

 ポロロン、ポロン……

 それは、とても、とても侘しげな……。
「だーッ! 誰がそんなシケた弾き方しろっつったよ!」
「それがし、琵琶しか弾いたことがないでござる……」
 キレる明彦にしょげる清景。
 ぽかんとしていたひなが我に返り、明彦と清景は言い合っている間にひなの配下の兵に捕らえられてしまった。


 明彦とは途中で別れて別ルートから脱出をはかったヴェルチェ。
「クリスティとクレオパトラとは連絡取れないし……どうなってるの?」
 ミツエの悔しがる顔は見れたが、連れ二人と音信不通になっているのがずっと気にかかっていた。
 ヴェルチェは正門を目指す。
 勝利に酔っている今なら、正面を突っ切っても誰も気にとめないだろう。
 案の定、ミツエ軍の不良達はヴェルチェを微塵も疑わなかった。それどころか気軽に声さえかけてくる。
「ふふ、ちょろいわね」
 思わず笑みが浮かんだ時。
「ヴェルチェ様!」
「やっと来おったか」
 行方不明になっていたクリスティとクレオパトラの声が聞こえた。
 どうしてこんな敵陣の真っ只中で、と不審に思いながらも声のしたほうを見れば、二人の傍には不敵に笑うミツエがいた。
「!?」
 ミツエはまだ中央塔から出てきていないはず。
「お……あたしの亡霊でも見たのかし、ら?」
 どこかぎこちない目の前のミツエ。
 クリスティとクレオパトラの見張りと思われる伊達恭之郎とナガン ウェルロッドが視線をそらせて笑いをこらえている……ように見える。
 ミツエはアサルトカービンの銃口をヴェルチェに向けて、ゆっくりと歩み寄ってくる。
「じゅ、銃? あなたは……っ」
「へへっ、悪いな。こんな手、本当は使いたくねぇんだけど、できるだけ敵は捕らえろって言われててね。卑怯は承知だ」
 ヴェルチェは唇をギュッと噛み締めた。


 いささか感傷にひたりすぎたのか、南鮪一行は風間光太郎と風祭隼人に追いかけられるはめになっていた。
「光太郎の奴、敵だったのか! 幻 奘め!」
 ミツエ軍の兵糧隊の守りは弱いと言い、攻撃に出た幻 奘。そして、もともとミツエ軍内部にいた反勢力が起こした騒ぎに乗じて攻め込み、痛手を与えて戻ってきたはずだった。
 しかしそれは幻 奘に変装した隼人だったのだ。
 何も知らなかった権造は無駄に兵を減らされたというわけだ。
「こんなところで捕まらんぞ!」
 城壁での追いかけっこもそろそろ終わる。ここを降りたらバイクで逃げるのみ。
 逃げ足の速い鮪達に追いつけそうもないと判断した隼人は、ポケットから携帯を取り出すと万が一の時のための相手に繋いだ。

 連絡を受けた人物は、標的が権造ではないと知るととたんにやる気をなくしたが、パートナーが「ミツエと大事な交渉がすんでいない」と強く訴えるので渋々了承した。
「……金の亡者め」
「何とでも言うがいい」
 パートナーはシレッとしていた。
 吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)は携帯から隼人の指示を受けつつ移動を開始した。
 これから始まる儲け話のためにアイン・ペンブローク(あいん・ぺんぶろーく)は張り切っていた。
 そして二人は鮪達が降りてくる地点で血煙爪を構えて待つのだった。

卍卍卍


 牙攻裏塞島にいた反ミツエ勢力を捕らえ、ミツエ自身も脱出した数秒後に中央塔から花火大会のラストのような爆発音が何回も起こり、炎と煙が噴き出す。しかし塔はそれを最後に静かになった。
 正門前の安全なところに集まったミツエ軍。
 ミツエは捕らえた反対勢力の者達を眺め回した後、
「よくやってくれたわ!」
 と、ひなや和希や竜司、光太郎に隼人と順に見て笑顔を見せた。
 牙攻裏塞島を拠点にするにはちょっと頑張って修復しないといけないかもしれないが、まずは場所だけでも確保できたか、と思えた。
 ようやくミツエの肩からも力が抜けるかと思われたのだが。
 今度は参道のほうで爆発が起こった。
 全員がいっせいに振り返るが、どうしてこんなことになっているのかわからない。
「まさか、落ちる……?」
 誰かが呟いた。
 その不安の呟きは波紋のように広がり、たちまちにあたりに満ちていった。
「冗談じゃねぇ! せっかく勝ったのにこんなところで終わってたまるかよ!」
「おい、何とかなんねぇのか!」
 焦りの叫びが上がる中、和希は爆炎の向こうに藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)の影を見た。
「ガイウス、追うぞ!」
「わかった」
 言いながらすでに駆け出している和希の後を追いかけるガイウス・バーンハート(がいうす・ばーんはーと)
 慌てるあまり走って追いかける和希を、バイクを走らせてきたガイウスが拾う。
「少し落ち着け」
「いいからスピード上げろっ」
 バシバシと背を叩かれ、ガイウスはやれやれと肩を落した。

「ふふふ。いい音でしたね。これで島が落ちれば不健全なサイトの一つは消え去りますね。いいことです。うっかりミツエさん達がいるのに爆発させてしまいましたが……尊い犠牲です」」
 雲を散らした爆発を楽しそうに眺めながら白々しく言う優梨子だったが、宙波 蕪之進(ちゅぱ・かぶらのしん)の焦ったような声で意識を現実に戻した。
「何か来るぜ」
「……あら、和希さん」
 こらーッ! と、怒声を上げながら炎を突っ切って和希がやって来る。鬼のようだ。
 優梨子はぼんやりと和希を見ているモケレ・ムベンベ(もけれ・むべんべ)に、
「面倒ですから行きますよ」
 と声をかけるとスパイクバイクのエンジンをふかした。
「バラけたほうがよくねぇか?」
「そうですね。ではお二人共、また後でお会いしましょう」
 蕪之進の提案を受け入れた優梨子は、優雅に手を振るとバイクを発進させた。
「行くぜ」
 蕪之進もムベンベを促すと、光学迷彩で姿を消して逃走に入った。
 最後まで残っていたムベンベも、再び集まってきた雲に隠れるようにさっさと走り出す。もう少し行けばちゃんと隠れ身に使えそうなものも出てくるだろう。
 自分達は捕まらないという自信が、彼らにはあった。