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横山ミツエの演義(第2回/全4回)

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横山ミツエの演義(第2回/全4回)

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次は建国よ!


 参道は落ちなかった。
 宇都宮祥子の補強工事はしっかりしていたのだ。
「軍のみんなの命の恩人ね」
 ミツエも安堵した顔で祥子に礼を言う。
 祥子はすぐに兵を引き連れて参道の点検に出かけた。
 途中で悔しそうな和希とすれ違う。
「捕まえられなかった」
 和希は短くそれだけを言った。
 祥子は軽く肩を叩いて慰めることしかできなかった。

 祥子の点検の間、残りの兵糧が再び調理されて振舞われた。ちょっとした宴会である。
 食中り騒動の犯人がわかったことで元気を取り戻した弁天屋菊が再び腕を揮ったのだ。
 食事は捕虜達にも配られた。
 これを機にとアイン・ペンブロークはミツエにとある交渉に向かった。
「アリス達をアイドルグループに?」
「そうだ。いい案であろう」
 怪訝な顔をするミツエに対し、アインはやる気満々である。
「権造はどうするの?」
 その問いに答えたのはアインではなく権造自身だった。
「なあ、それ、地球でやらねぇか? 地球なら俺も行くぜ。これ以上パラミタにいても生徒会に責任とらされるだけだ。地球でアイドルグループ作ってやる。プロデューサーはお前だ。俺は地球でアリス達をまとめる。どうだ?」
 地球で、というのは少々遠いがアリス百人の契約者は権造なので、彼についていてもらったほうが何かと都合がいいかもしれない。
 考え込むアインに権造は疑われていると思ったのか、言葉を付け加えた。
「逃げたりなんかしねぇよ。これでも負けた時の身の振り方はわきまえてるつもりだ」
 そのわりには人一倍食べている権造だが。
「……いいだろう」
 アインが了承し、話はまとまった。
 それを待っていた五条武が権造にあることを質問した。
「改造科過激派について聞きたい。ずっと追ってるんだ。B級四天王の君なら」
「悪いが知らねぇ。改造科はティターン族を見た通りだが、過激派は聞いたことねぇな……」
 嘘をついているようには見えなかったし、権造が今さら武に嘘を言ったところで何の得もない。
 そうはわかっても、落胆せずにはいられない武だった。
 肩に上にちょこんと座っているトト・ジェイバウォッカが慰めるように頭を撫でた。

 緋桜ケイと食事を楽しんでいた和希は、配下の不良に呼ばれて箸を止めた。
「褒美にくれるって言ってた動画のコピーが来ねぇんだけど」
「……え?」
 ケイはその不良と目を合わせないように背を向けた。
「くれるもんくれねぇって、どうなの?」
 一人が言えば、俺も俺もと声が上がる。
 問い詰められ追い詰められた結果、和希は勢い良く立ち上がると不良達に指を突きつけ声を張り上げた。
「塔がこてんぱんに破壊されたからコピーはねぇ! その代わり俺が!」
「ダメだ!」
 服に手をかけた和希の腕を、慌てたケイが止める。
「女の子が簡単にそんなことしちゃダメだろ!」
「止めるなケイ。報酬は払えなくなったんだ。代わりがいるだろ?」
 ケイの手を振り払い、和希は衣服を脱いだ!
 おおおっ、と盛り上がった不良達の歓声が、おおぉ〜……、とたちまちしぼむ。
 ミツエの服を脱いだ和希は、下にTシャツとミニスカートをしっかり着ていたからだ。
「はっはっはー! 甘い甘い。こんなとこ一つ落したくらいじゃな。中原制覇したら見せてやるぜ。それまで死ぬ気でついてきやがれ! ほら飯を食え! お前ら今日は本当によくやったぜ!」
 そりゃねぇよ、とこぼしながらも和希の隊は再び和やかな空気になっていった。
 和希の悪戯っぷりにケイは頭痛を覚え、悠久ノ カナタはクスクスと笑った。。

 曹操のところでは清良川エリスと邪馬壹之 壹與比売が大量に持ち込んだ地球のマンガ読み会が始まっていた。
「素晴らしい活躍だったそうじゃないか、ラルク、ガートルード」
 曹操の労いの言葉に二人は頭を下げるも、表情はいまいち冴えない。
 自分の手で権造にとどめを刺せなかったからだ。
「今日果たせなかったことは次に果たせばよかろう。まだ戦いは続くだからな。そうであろう、元譲」
「もちろんです」
 声をかけられた夏候惇・元譲は静かに頷いた。
 それから、と曹操は言葉を続ける。
「ガートルードの申したことは本当であったな。董卓のすぐ傍で乱があった」
 食中り騒動のことである。
 あの後、董卓もひどい腹痛に襲われ、苦しみの末になんとすっきりと標準体型になってしまったのだとか。
「貴公は卜占の心得もあるのか?」
 悪戯っぽく笑う曹操からは、本気で言っているのかふざけているのかよくわからない。
 ふと、曹操は世界の氣について考察している清良川エリスと壹與比売に向かって言った。
「貴公達、行くあてがないなら朕と共に来ないか?」

 ニヤリと獰猛な笑顔で配下の不良に近寄るカリン・シェフィールド。
 冷や汗をかきながらじりじりと後退する一人の不良。
 はらはらと見守るメイ・ベンフォード。
「なるほど。キミが一番乗り。よしよし、よくやった。約束通りハグしてやろう」
「いえ、別に……」
 俺が一番乗りだ、と名乗り出た彼は今とても後悔していた。
 ハグってこんなに怖いものだったっけ、と。
 そうこうしているうちにカリンの手が彼の服を引っ張り、引き寄せられる。
「あたしより目立ってんじゃねー!」
「あぎゃぁあ〜」
 ハグはハグでもベアハッグだった。
 その様子を見ながら孫権が「何やってんだか」と笑う。
 それから、周瑜 公瑾に目を移してカリンのほうを指差す。お前も見ろよ、と。
 公瑾は穏やかに微笑んだ。

 劉備が注いだ茶を受ける張遼 文遠。
 名残惜しそうに劉備は彼を見つめる。
「今日は助かりました。ありがとうございます」
「いえ、当然のことをしたまででござる」
 彼は蜀軍に正式についたわけではない。客将である。
「できればこれからも……とはいかないのでしょうね」
「申し訳ない」
 はっきりと断られてしまったわけだが、劉備は先ほどまで引きずっていた未練を今度は綺麗に断ち切った。
「ゆっくりと疲れを癒してください」
 張遼に一礼して席を立った劉備は、次に時雨塚亜鷺のもとに向かった。
 ガツガツと食事に手をつけている亜鷺の前に座った劉備は、今日は大手柄だったと亜鷺を褒めた。
「あなたの言うとおり、シー・イーさんの部隊に行ってもらったら、ちょうど兵糧隊で食中りが起こっていて兵が不足していたというではありませんか。もしもあなたの進言がなければ、下手したら兵糧隊は潰されていたかもしれません」
「いや……そうかな」
 多少の後ろめたさがあるせいか、素直にお礼を受け入れられない亜鷺。
 しかし、劉備はそれを照れと見たのか、微笑ましそうにしている。
「ミツエ様にも、あなたのおかげですと伝えておきましたよ」
 アハハハ、と乾いた笑い声をあげる亜鷺だった。

 その頃ミツエはナリュキ・オジョカン(なりゅき・おじょかん)とエレーナ・アシュケナージにからかわれていた。
 それは、ミツエが川村まりあのパートナーのアリスに変装する時の話だ。
 イリーナに説得されて身を隠すことを承知したミツエだったが、エレーナとナリュキに着替えなどを手伝ってもらっている時、胸のサイズの話になった。
 不意に、ナリュキがミツエの胸を掴んだのだ。服の上からだったが。
 ショックでハニワのような顔になっているミツエに、ナリュキは一人頷く。
「ふむふむ。確かに感触はよいの。じゃが、もう少し大きくなったほうがより良いと思うぞ」
 パンパン、とさらに軽く叩かれようやく我に返るミツエ。
「よ、余計なお世話よっ。早く着替えるわよっ」
 早口にまくし立てた後、私だってそのうち、とか何とかブツブツ言っていたのをナリュキとエレーナの耳はしっかり捉えていたのだった。
 そのことを、みんなの前で暴露されたためミツエは「いい加減にしなさいよっ」と顔を赤くして叫んでいたが、何の効果もない。
 不貞腐れているミツエのところに、ボコボコにされた風祭隼人とプリプリ怒っているアイナ・クラリアスがやって来た。
 アイナはズイッとミツエの前に隼人の携帯を突き出す。
「これ、みんなに配るといいよ。隼人が掠め取ってきた不健全動画のコピー」
 幻 奘として牙攻裏塞島に一足先に忍び込んでいた隼人は、こっそり自分の携帯に動画をコピーしていたのだ。
 それを誰にも──特にアイナに知られないようにしていたのだが、挙動不審だったのかバレてしまった。
 そして攻防の末、敗北。
 それに喜んだのはミツエはもちろん、隼人の双子の片割れ優斗もだった。
 報酬が消えてなくなってしまったため、どうしたものかと頭を悩ませていたのだ。
「アイナさん、お手柄です」
 携帯は優斗が受け取った。
 憧れの相手に褒められてアイナは嬉しそうに頬を染めた。
 そして優斗はミツエに一言いって、動画を不良達に配るために席を立った。
 それをミツエが引き止める。
「一人で行って大丈夫なの? すごい勢いで詰めかけて来るかもよ。あたしも一緒に」
「大丈夫ですよ」
 優斗はやんわりとミツエを抑える。
「僕はミツエさんのような破天荒な女の子は大好きで、つい協力したくなってしまうみたいです。これくらい無茶でも何でもないです。もっと大変なことを命じてくださってもいいんですよ」
 穏やかに言って、優斗は行ってしまった。
 そんな二人のやり取りをムスッとした顔で睨むように見ているテレサ・ツリーベル(てれさ・つりーべる)ミア・ティンクル(みあ・てぃんくる)
「優斗お兄ちゃんが、穢れていく……」
 ミアはこの世の終わりのような声を出す。
 テレサはジトッとミツエを見つめる。
「な、何よ」
「優斗さんの携帯へのコピーはダメですからね」
「あたしに言われても」
「優斗お兄ちゃんは僕のナイトなんだからねっ」
 二人から責められてミツエは困り果ててしまう。
 クスクスとエレーナが笑いをこぼした。
「お二人は優斗さんがとてもお好きなのですね」
 とたんに黙り込むテレサとミア。
 ミツエは二人の怒りの原因がわかり、ホッとしたように息を吐く。
 落ち着きを取り戻したミツエに、テレサは何故か言い訳をするように早口で詰め寄った。
「べ、別に優斗さんが他の女の人に興味を持ってはいけないとか思っていませんよ。本当ですよ」
「わかったわ」
 ニコニコというよりはニヤニヤに近い笑みで応じるミツエ。
 テレサは焦りをごまかすように、一気にお茶を飲み干した。
 ミアだけは挑むようにミツエを見ていた。
 パートナーとして、不安やら何やらいろいろあったのだろう。

 祥子も戻ってきて参道の無事がわかると、不安も消えたミツエ三国軍の雰囲気はますます明るくなった。
 そして食事も終わったところでミツエは全員に向けて、今回の戦いに勝てたことを喜び、協力してくれたことに感謝の意を述べた。
「みんなはあたしが誇る最高の精鋭よ。次は国をつくるわよ!」
 それからミツエは捕虜となった者達に、一緒に来ないかと誘いをかけた。
「あなた達が味方になってくれれば、今まで以上に心強いわ」
 答えは次までに考えておいてほしいとミツエは言った。

 この時、やった本人も忘れていたのだが、権造は自身とミツエ三国軍の戦いの記録動画を地球に送っていたのである。これは一週間に一度の地上とのデータのやり取りによる偶然のものだったが、これによりミツエの存在が地球に知られることになる。


 以下、第三回へ続く

担当マスターより

▼担当マスター

冷泉みのり

▼マスターコメント

 大変お待たせいたしました。
 前回以上にお届けが遅れてしまい、申し訳ありません。

 今回は参加者の皆様に何かしらの称号をお贈りしております。
 その中で【ミツエ三国軍・捕虜】となっている方は、次回は脱出するかミツエ三国軍に仕えるかを選ぶことから始まります。

 第三回のシナリオガイド発表は二十日頃の予定となっております。
 それでは、また次回もお会いできることを願って。