リアクション
卍卍卍 「そなたのような家柄も器量も良い娘を大奥のお花実に差し出すとは、そなたの父君はよほど勇気の要ったことだろう」 「めっそうもございませんわ。父は喜んでおりました」 次のお花実候補は先ほどとはうって変わり、美しい調度に囲まれた部屋で粛々と双手礼で迎える樹龍院 白姫(きりゅうりん・しろひめ)。 彼女自身は白を基調にしたお淑やかな着物をまとい、傍には古来の詩集などが置いてある。 良家で学のある子女の証だ。 「白姫は葦原の屋敷でお家の為、国のためにお役に立つようにと言われ育てられてきました。マホロバの将来のため、将軍様のために、ご寵愛賜ること叶うならば幸せでございます」 そして、房姫のことは敬愛しているのだとも語った。 「白姫は将軍様をただ愛し、愛おしまれればそれだけで……」 彼女は貞継を前にして、胸がいっぱいになったようで言葉が続かない。 「それもそうか」 貞継はしばらく考え込んでいたが、ふいに白姫に近付くと、ぐっと彼女を引き寄せた。 細身の腕とはいっても男だ。力はある。 将軍のさらりとした黒髪が白姫の高潮した頬にかかった。 「ん……んんっ」 「すまんな。今宵はこれで許せ」 ややあって、貞継は白姫の唇から口を離す。 熱い吐息が漏れた。 ゴトッ…… 「ん?」 貞継は衝立の向こうで物音を聞いた。 ひょいと覗き込むと、頭を隠して尻尾をこちら側に向けた獣人土雲 葉莉(つちくも・はり)がびくびくとうずくまっていた。 「お前は白姫の従者か? 聞き耳を立ててはよいが、見てはならんぞ」 「そっ、そんなつもりはないです。ひょえ〜!?」 目の前に将軍がいることに気がつき、葉莉は真っ赤になってうつむいた。 たとえ聞こうと思わなくても、耳の鋭い狼の獣人である葉莉には無理な話だ。 葉莉はますます縮こまる。 「あ、あたしは白姫様の……ご、ご主人様のお役に立てれば〜って付いてきただけです。将軍様、何にもみっ、みてないです〜」 「そうか、ではお前の主人を頼む。こちらはあまり長居ができぬゆえ」 白姫は唇を両手で押さえたまま、座り込んでいた。 真っ白になって固まっている。 「殿方って……暖かい」 彼女は意識が遠のいていった。 |
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