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三つの試練 第三回 砂漠に隠されたもの

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三つの試練 第三回 砂漠に隠されたもの

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●第三試合 メインパイロット早川 呼雪(はやかわ・こゆき)・サブパイロットヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)VS メインパイロット真城 直(ましろ・すなお)・サブパイロットヴィスタ・ユド・ベルニオス(う゛ぃすた・ゆどべるにおす)

『第三試合も、引き続きシパーヒー同士の対決となります。早川選手の機体名は『ラシュヌ』。真城選手の機体名は、『シャリオ』です』
「コユキ、大丈夫かなぁ……」
 試合を見守るファル・サラーム(ふぁる・さらーむ)が、シパーヒーを見上げつつぽつりと呟いた。
「大丈夫でしょう。ヘルも一緒なのですから」
 傍らのユニコルノ・ディセッテ(ゆにこるの・でぃせって)が、そう答えながらファルのたてがみを撫でる。
 あの『薔薇の種の試練』以来、呼雪の体調は思わしくない。時折、ひどく苦しげにしているときもある。ファルはそれを盛んに心配しているが、ユニコルノはその性質故か、おそらくは本人よりも冷静に呼雪の状態を理解していた。
 それよりも、むしろ。
「…………」
 彼女は興奮に沸き返る観客席を、ちらりと見やる。微かだが、怪しい気配はしている。鏖殺寺院の関係者は、ほぼ間違いなくこの会場にいるのだ。できれば事前に見つけ出したいとは思うが、先ほどからの歓声と熱気に、スムーズにはいかない。
「ユノちゃん? もうすぐ始まるみたいだよ」
「……ええ」
 頷き、ユノは目の前で日差しを受けて輝く機体へと目をやった。

「……ねぇ、呼雪。ほんとに大丈夫?」
 ヘルがそう尋ねる。
「問題ない」
 呼雪の声は、緊張は微かに滲んでいるものの、嘘は感じられない。そのことに、ヘルは密かにほっと安堵した。
 ――ラシュヌへと搭乗する前。呼雪にヘルは己の血を分け与えていた。そう求められたからだ。まだ、あの苗床となった影響が残っているのかもしれない。
 その要望に対しては、ヘルは屈託なく笑い、彼を強く抱きしめて、囁いた。
「いいよー、お礼はご褒美と一緒に後でたっぷりもらうから」
「…………」
 ぴく、と肩を震わせ、呼雪はやや恥じらうように視線をそらす。……彼自身、己の変化に対し戸惑いを拭い切れてはいなかった。しかし欲求には抗しきれず、ヘルの首筋にそっと歯をたてたのだった。
(血をあげるのは全然かまわないんだけど、吸血直後の呼雪の目がうっとりしてるの見ちゃうと生殺しの気分……。……そういう顔、他の人に見せちゃダメだよ)
 もう、とその時のことをヘルが一人思い出していると、呼雪がそんな彼に「行くぞ」と声をかけた。
「あ、うん!」
「ヘル」
「なぁに?」
「……礼と褒美は、勝った後だからな」
「……! うん!」
 ぱぁっと青い瞳を輝かせ、ヘルはコックピットの中で、再度体勢を調えた。

『試合、開始!』

「よろしく頼むよ」
「……ま、頑張ろうか」
 直とヴィスタの操るシャリオが、ラシュヌと対峙する。
『両者、じっと間合いを計っているようです……が。真城選手が、飛びあがった! 頭上からの攻撃を狙うか!』
(やはり、真城もそう考えたか)
 シパーヒーの性能を『魅せる』ための舞台だ。飛行はある程度、演出として必要だということは、呼雪の頭にもあった。
「迎え撃つぞ」
「わかった!」
 イコンが、その巨大さを感じさせない素早さで飛び上がり、空中に対峙する。
『競技台の範囲であれば、上空は移動可能です。試合は続行されます』
 侘助がそう解説をいれる。
「すごい、飛ぶんだ!」
 来賓席に備え付けられたモニタが、いよいよその役目を発揮する。ヤシュブは驚きに目を丸くし、画面の中の機体に釘付けだ。あまりに興奮しているので、翡翠などは、熱を出しはしないかと思うほどだった。
 もちろん、ヤシュブ以外の人々の反応も同様だ。
「ヘル、コユキ、頑張れー!!」
 マルクスから購入した応援用メガホンで、地上からファルが声の限りに叫ぶ。
「さすがイエニチェリね……」
 ユニコルノはそう感嘆をしつつ、じっと試合の成り行きを見ていた。

「デモンストレーションとしては、上等だな」
「ああ。後は魅せるとしたら?」
「スピード」
「模範解答だ!」
 直の答えに、ヴィスタが笑って答えた。
『これは……互いに一歩も退かない攻撃です! 早川選手が右を狙います! すかさず真城選手が避け……』
 そう侘助が実況するが、そのスピードについていくのがやっとだ。上になり下になり、二体の戦いはさながら空中の演舞にも見えた。
 ――そして、決着は一瞬だった。わずかなスキをつき、呼雪のサーベルが直の手から武器をはじき飛ばす。くるくると回転したそれは、競技台のすぐ横に落下し、突き立てられた。
 制限時間ぎりぎりの、勝利だった。

『勝者、早川呼雪!』

「……こりゃ、まいったわ」
 ふぅ、と息をつき、直が仮面を外してぼやく。
「愛の力だね!」
 ご褒美を楽しみにしているのを隠しもしない態で、ヘルはガッツポーズを決めた。