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三つの試練 第三回 砂漠に隠されたもの

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三つの試練 第三回 砂漠に隠されたもの

リアクション

2.

 こうして、御前試合は興奮の中で続いていた。
 しかし、その影には、また別の出来事も進行しつつあったのだ。

 騒がしい観客席を離れ、来賓たちが観戦をする建物の方へ歩き出した者たちがいた。
 日に焼けた肌と、薄汚れた衣服。一見、どこにでもいる若者の姿ではある。全員がまとまって動いているわけではないが、ざっと見て、五人から十人ほど。
「失礼。どちらへ?」
 そう、彼らに声をかけたのは、漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)だった。
「ああ……遅れて来たら、いい席がなくてさ。あっちのほうが、見やすそうだろ?」
 へらへらと愛想笑いを浮かべつつ、男達が彼女を取り囲んだ。相手は女、しかも大人数に対して一人とあれば、なんとでもなると思ったのだろう。
「ちょっとくらい、いいじゃないか」
「それとも、貧乏人は近寄るなって?」
 口々にそう言いながら、彼らは月夜を威嚇してくる。しかし、彼女は眉一つ変えず、口を開いた。
「観客席は、安全のために作られてもいるのよ。戻ってください」
「硬いこと言うなって〜」
 月夜の長い黒髪を、男の一人が手にとり、無遠慮に引っ張った。
「やめなよ。レディにすることじゃないよ」
 そう声をかけたのは、サトゥルヌス・ルーンティア(さとぅぬるす・るーんてぃあ)だ。そして、樹月 刀真(きづき・とうま)が男の手を掴み、月夜から離させる。
「なんだお前ら……」
「禁漁区に反応有り。……鏖殺寺院の、関係ですね」
 刀真がそう告げる。途端に、男達の目の色が変わった。
 サトゥルヌスと月夜が身構える。その間に、素早く刀真は常時接続にしていた回線に、状況を報告した。相手は、ディヤープやエメ・シェンノート、鬼院 尋人(きいん・ひろと)、久途侘助といったメンバーだ。
「鬼院はそのまま待機。久途も現段階では実況を続けろ。イコンはまだ動かすな。北条は、その場で他の寺院の動きに注意。来賓席警備の面々も同様。騒ぎにはするな。アーダベルトたちは樹月に手を貸せ。俺もすぐ行く。樹月、それまで持ちこたえろ」
 ディヤーブの素早い指示が飛ぶ。
 男たちは、正体に気づかれた時点で、その本性をむき出しにした。隠し持っていたライフルを構え、ためらいなく銃口を向けた。
 刀真がトライアンフを手にし、サトゥルヌスは奪魂のカーマインの銃口を彼らに突きつける。
 駆けつけたヴィナ・アーダベルト(びな・あーだべると)の身体を、魔鎧に変形した貴志 真白(きし・ましろ)が防御する。ティア・ルスカ(てぃあ・るすか)ウィリアム・セシル(うぃりあむ・せしる)もまた、背後からテロリストたちを取り囲んだ。
「形勢逆転だね。諦めたほうがいいよ?」
 サトゥルヌスが微かな笑みを浮かべてそう告げた。元より、コントラクターと一般人では、その能力には大きな差があるのだ。
 事実、怯んだ彼らは、切り札とばかりに小型の装置を手にする。……おそらくは、起爆スイッチだ。この会場のどこかに、爆薬をしかけておいたのだろう。
「ジェイダス共々、滅びるがいい!」
 半ば自暴自棄に、男はスイッチを押す。だが、変化はなにもない。
「それならばもう、とうに排除済みよ」
 月夜が静かに告げた。
「くっそ……!」
 がらくたと貸した起爆装置を地面に投げ捨て、男達は歯がみした。
「捕らえろ!」
 駆けつけたディヤーブが、一喝する。それが、乱戦の始まりだった。

 イコンの激しい戦いの音にかき消され、気づいた者は少なかったろう。
 ティアの身体が輝き、全体に光りが衝撃となって炸裂する。刀真は銃弾を剣で受けつつ、あえて柄の部分でもって敵を打擲し、打ち倒した。
 気絶したものを、サトゥルヌスとウィリアムが拘束し、捕らえる。
 ――だが。
「ディヤーブ!」
「ぐ……っ」
 ほんの一瞬の隙だった。
 ディヤーブの半月刀に倒れた男が、倒れんとするまさにその最後の力を振り絞り、ディヤーブにむけてライフルを連射したのだ。
 幸い、ほとんどは的をはずれ、空へと放たれた。しかし、数発は脇腹や足へと命中し、ディヤーブはその場に片膝をついた。
 刀真と月夜がすぐさま駆け寄り、その傷を確かめる。
「大丈夫か!」
「ああ……」
 傷を押さえつけ、止血する間に、ティアがヒールでその傷を癒す。しかし、その傷は思いの外、深いようだった。
「すまない」
 脂汗を浮かべつつも、先ほどよりは幾分落ち着いた表情で、ディヤーブがそう詫びる。しかし、刀真は彼に手を貸し、立ち上がらせつつ「いいえ」と首を振った。
「無事で良かったです」
「…………」
 その言葉に、ディヤーブは珍しく、照れくさそうに微笑んだのだった。

 また、別働隊は直接王族たちの館の襲撃を狙ったが、そちらは来賓警備に当たっていた面々の活躍により、無事、秘密裏のうちに、襲撃を退けることができた。
(これで終わり……なら、いいけどな)
 一見、何事もなく実況をすすめながら、裏で通信を続けていた侘助からの報告に、ソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)は安堵しつつも、一抹の不安を覚えていた。
 次第に暮れていく空には雲一つなく、風すらも凪いではいる。しかしその裏には、まだなにかが潜んでいるのではないか……そんな気がして、ならなかったのだ。