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三つの試練 第三回 砂漠に隠されたもの

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三つの試練 第三回 砂漠に隠されたもの

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●第八試合 メインパイロットアレフティナ・ストルイピン(あれふてぃな・すとるいぴん)・サブパイロットスレヴィ・ユシライネン(すれう゛ぃ・ゆしらいねん)VSメインパイロット変熊 仮面(へんくま・かめん)・サブパイロット巨熊 イオマンテ(きょぐま・いおまんて)

『ともに薔薇の学舎、シパーヒー同士の対決です。華麗な試合となるでしょうか』
 変熊がしきりに、「俺の秘策を見よっ!」と豪語していたあたり、不安しかない。だがそれを振り払い、侘助は落ち着いた声で実況を続ける。

「スレヴィさん、こちらも作戦通りで良いんですよね?」
「ああ、そうだ」
 スレヴィはそう答えつつ、展開されているモニター画像に目を走らせる。
 試合に集中するのはあくまでアレフティナ。スレヴィ自身は、試合中も警戒を緩めるつもりはない。すでに襲撃はあったというが、一度で済むという保証はどこにもないのだ。
(けど、相手が変熊とはね……)
 どんな手でくるかは知らないが、まぁ少し、楽しみでもある。
「頑張りますよー! 武器は死んでも離しません!」
 アレフティナは気合いとともに、長い耳をぴんとたてた。
「耳はこっちに向けておけよ」
「はい!」
『試合、開始!』
「さて……いくぞ」
 変熊はコックピットの中で、にやりと笑った。ヤシュブとの約束もある。華麗に戦う下準備はばっちりだ。
「装甲とは守り。すなわち弱さ! 真に華麗に舞うために、一切の重量は不要……つまり!」
 シパーヒーが背を丸め、エネルギーを放電させつつ、ぎしぎしと軋んだ音をたてる。
「装甲パージ! ……見よ、これが、変熊仕様全裸シパーヒー!!!!!
 その声とともに、シパーヒーの装甲が一気に剥がれ落ちる。仁王立ちをした機体は、ほぼ骨組み状態のものだった。
「ええええええ!!!!!!」
 さすがに会場全体が、あっけにとられる。
 しかしイコンについては素人の変熊である。腕の外装をはずした結果、手に武器を持たせられなくなったのだ。
「武器をつける所ならあるじゃないか!」
 変熊は股間に空いていた穴にサーベルの柄を半ば無理矢理に突っ込み、装備した。
 結果誕生した(?)イコンは……。
「意外すぎる変形だが……日本のネット上で20年ほど前に流行したロボットに似ているな。たしか中国語で“先駆者”を意味する……」
「どうでもいいよ! 結局イコンに乗ったって変態は変態ってことでしょうが!」
 感心する榊孝明の隣で、つくづく自分が相手でなくて良かったと、思わず益田椿は両腕で自分の身体を抱きしめた。
「すごいねぇ、変熊さん!」
 ヤシュブは無邪気に手を叩いて喝采を送っているが、藍澤黎は苦虫をまとめて百匹ほどかみつぶした表情だ。
 ウゲンもまた、「これはいい」と大笑いしている。
「ど、どうしましょうスレヴィさん」
「あいつのペースに巻き込まれんな。その……しょーがねーから、股間を狙え!」
「は、はぁい!」
 スレヴィの指示に、いくらか落ち着きを取り戻し、アレフティナは正面の(見た目の変化という意味で)変態シパーヒーをはたと見据えた。
 だが、攻撃に転じようとした、その時。
「……!? 動かない?」
 アレフティナの機体が、何者かに邪魔されているかのように、動かない。むしろ前のめりに倒れかけ、あわててアレフティナはバランスをとった。
 何故なら……。
「くっくっくっ……油断したな。勝負は、勝てばいいんじゃ!」
 背後から、ぎっちりと巨熊 イオマンテ(きょぐま・いおまんて)が、シパーヒーの足を抱え込んでいたからだ。しかも、光学迷彩により、まわりにはその姿は見えない。スレヴィたちには、モニタをサーモグラフィーモードに切り替えることで察知したのみだ。
「そんなんありかよ!」
「ルールには、パートナーの妨害を禁ず、とは、書いてないけんのぉ。今じゃ、兄者、ボッコボコにしたれ!」
「ふふ……いくぞ……!」
 くいくいと腰を前後に動かし、変熊がサーベルを揺らす。だが。
「負けませんよ……っ!」
 アレフティナのシパーヒーが、激しい駆動音をたて、一気にイオマンテをはじき飛ばしたのだ。
「い、意外とパワー凄!」
 吹っ飛ばされたイオマンテが、砂漠に落下する。飛び散る砂塵に、嫌でも人々はそこに『何か』があるとわかってしまう。しかも、SP切れにより、光学迷彩が解けた。
「あ、……バレちゃった?」
 てへ、と変熊が笑って誤魔化すが、それでフォローがきくような空気でもない。
「勝負ありだな」
 やれやれ、と呆れた表情でラドゥが呟いた。

 ――結果としては、もともとイコンは一人ではその能力が発揮できない。その上、装甲がゼロだ。あっけなく、変熊はアレフティナのシパーヒーにぼっこぼこにされたのだった。

『勝者、アレフティナ・ストルイピン!』