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まほろば遊郭譚 第三回/全四回

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まほろば遊郭譚 第三回/全四回

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第四章 洛外の戦い3

 鬼鎧のもつ力が果てしてどれほどのものなのか知る必要があった。
 毛利 元就(もうり・もとなり)は、ほぼ作戦通りに襲撃が行われているのを確認したが、不安はぬぐいきれなかった。
「十分とは言い難いにしても、必要な備えはしてきたわ。ただ、龍騎士相手にそれが通用するのどうか……どれだけ粘れるかしら」
「あうー! あうぅー!!」
 まだ赤ん坊の毛利 輝元(もうり・てるもと)が、陣頭の指揮をとっているつもりなのか、ブカブカな兜をかぶってよちよちと歩いている。
 頭の重さにひっくり返ると、元就は兜を外してやった。
 ちなみに、こう見えて彼女は輝元のおばあちゃんにあたる。
 輝元が泣き出した。
「これ、泣くんじゃない。鬼城と毛利の血を引く者が、弱虫じゃだーめ!」
 おばあちゃんのいいつけに、さらに泣き出す輝元。
 元就はこの先はどうなるのかと思いやられた。
「鬼鎧が言っていた言葉が気になります。ただ一言――ショーグン――と」
 メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)は顎に手をあてている。
 鬼鎧が発見されてから今日、いくつもの論証が行われてきたものの、能力すべてを解明できてはない。
 メイベルは輝元を見つめながら、将軍家の意味に付いて考えていた。
 フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)が、おそるおそる口にする。
「廃嫡された鬼城家の血は……どうなっているのでしょう? 鬼鎧に活用できないでしょうか。鬼鎧が求める主君たる『将軍』。そのために天鬼神の血が不可欠なのは確かなのではないですか。何とか鬼城家にそのことで協力をいただけないかしら……」
 フィリッパも今の状況が鬼鎧を活かしきれていないことを知っている。
 また、鬼鎧が機会(マシン)ではなく、もともと鬼として、生物として生きていたことも知っている。
 鬼鎧は意思を持ち続けているのだ。
「鬼鎧は、数も乗り手も足りていませんし、せめて質だけでも高めていかないといけませんね。それには、意志の統一というものが必要に思います。マホロバの戦国時代に鬼城家が勝利したのも、鬼鎧……つまり旗本への采配ときいてます。武士道とか忠義といったものが支えであり、それが強さだったのではないでしょうか」
 ヘリシャ・ヴォルテール(へりしゃ・う゛ぉるてーる)は、何とかして、鬼鎧と武士道を結び付けられないものかと思った。
「それは、ボクは随分と前から考えていましたよ。だから、鬼鎧を現在の将軍白継(しろつぐ)様に謁見させたいと思います」
 これまで鬼鎧調査隊として携わってきた卍 悠也(まんじ・ゆうや)が云った。
「貞康様や白継様がこの扶桑の都へ上られるそです」
「扶桑の都へ? なぜ?」
 セシリア・ライト(せしりあ・らいと)が聞き返す。
「扶桑の噴花が再び起こりそうなんだそうだ。それで……」
「扶桑……回復してよかったけど、噴花するかもしれないの?」
 セシリアは扶桑と、それを助けた世界樹イルミンスールに思いをはせる。
 扶桑が持ち直したとはいえ、コーラルネットワークの危険な行為はもう二度と行ってはいけないと思う。
 シャンバラの世界樹になにかあれば、今度はシャンバラに影響が出ることだろう。
「ボクの個人的な感傷を持ち込んではいかないと思ったんだ。鬼鎧たちの望みは……マホロバを、この国の人たちを守る事だから。彼らに義を見つけてもらいたい」
 悠也は自分の感情を押さえて、再び鬼鎧研究に邁進していた。
 そんな悠也を影ながら支えていたのが、卍 神楽(まんじ・かぐら)黒妖 魔夜(こくよう・まや)だった。
「お兄ちゃん、機嫌悪いのかな? なんか、楽しそうじゃない……」
 魔夜は悠也の横顔を見て独り言のようにつぶやく。
 普段は穏やかな悠也の表情を、このところすっと見ることができないのと彼女も感じていた。
 しかし彼らは、二条城に入場したという将軍白継の前では、そのような様子は見せなかった。
 扶桑の噴花を前に緊張感が張り詰めていたが、白継とその隣にいた鬼城 貞康(きじょう・さだやす)への謁見が特別に許されたのだ。
 神楽は淡々を訴える。
「謁見を許可いただきありがとうございます。でも、本当にお会いいただきたいのは、私たちではありません。鬼鎧です。どうか、将軍御自らが、全ての鬼鎧に向けて戦の宣言をしてください。兄様の提案は以上です」
 幼将軍にはまだこれらの判断はつかない。
 突然、大人たちの前に連れ出されて怯えているようだ。
 しかし、今マホロバを統治する『天鬼神』の力を持つのは、他ならぬ白継のみである。
 貞康は神楽の言葉をいたく気に入ったらしく、白継を抱いたまま、ずらりと城の庭に並べられた鬼鎧の元へ躍り出た。
 悠也たちの鬼鎧緋染羅刹の姿もある。
「白継、よく見ておれ。マホロバの真の宝物は、刀や槍、珍しい品々ではない。マホロバのために命を賭けてくれる武士だ。この侍たちを何にもかえがたい宝と思い、いつも秘蔵としておれ!」
 白継はじっと鬼鎧を見つめている。
 やがて、幼少軍が声にならない声を発した。
 鬼鎧は一斉に膝まずき、刀や槍を掲げる。
「鬼鎧一千機……それは今では遠い。しかし、わずかに残ったものでも心が残っているのなら、再び火を起こすこともできるかもしれん」
 貞継の言葉に呼応するように、これまで試作どまりであった火車が勢い良く燃え上がった。
 よくみると、鬼鎧の目に炎が宿っている。
「ゆくが良い、マホロバの鬼――鬼鎧(旗本)たちよ。侍魂がある限り、そなたたちの魂は不滅だ!」