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【●】月乞う獣、哀叫の咆哮(第2回/全3回)

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【●】月乞う獣、哀叫の咆哮(第2回/全3回)

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「超獣の呪詛がそちらに影響しているなら、逆にこちらからそれを弱められれば、助けになるかもしれませんね……」
 フレデリカは呟くように言ったが、歯切れが悪い。その心当たりはありすぎるほどあるが、それは即ち。
「私を使うべきだろうな」
 クローディスが頷く。
「巫女とリンクした私の方へ、呪詛を側へ引き寄せれば、祠の力がそれを上回ることが出来るはずだ」
「駄目だ、流石にそれは……危険すぎる」
 ディミトリアスが即座に否定したが、クローディスは「今更だ」と苦笑して首を振った。
「他に方法がないし、検討している時間も惜しい」
 どの場所にいる契約者たちも、現状を維持するのに一所懸命で、他に手を割く余裕はない。クローディスの提示する方法が、最も可能性がある手段だ、とは判ってはいるが、皆、諸手を上げて賛成、というわけには行かなかった。
 呪詛を祓った後ならば兎も角、真っ只中に飛び込もうというのだ。危険は当初の予定よりも、かなり高くなってしまっている。
 だがそんな空気を悟りながらも、クローディスは苦笑して肩を竦めた。
「深刻な顔をされると困るな、勝算がゼロの勝負じゃないんだ」
 案ずるより生むが易し、と言うだろう、とすぐさま術に入ろうとしたクローディスに「待った」とグラルダが声を上げた。
「もう少し、慎重になった方がいいわ」
「大丈夫、耐性はあるほうだ」
 危険を心配して言ったのだろうと、クローディスは安心させるように笑ったが、グラルダは首を振る。
「そうじゃなくって……何か方法がある気がするのよ」
 だがそれが何か判らない。もやつくものに、苛立たしげに頭をかいたグラルダの横で、シィシャがぽつりと「形代」と呟いた。
「形代?」
「そう……魂が依り、憑く、依り代」 陰陽道か、とグラルダが思った、その途端。頭の中で弾けるように知識が繋がって「それだ」と思わず声を漏らして、ディミトリアスを振り返っていた。
「アンタたちの使う術は、要素を繋げて意味を持たせるんだったわね。それなら、彼女と、何か繋げられるものは無い?」
 例えば遺跡とかに、と続いた言葉に、今度はディミトリアスのほうがはっとしたように「そうか……」と声を漏らした。
「”糸の端を掴む者”……」
 ディミトリアスが目の色を変えて、高速で頭を回転させる。
「あんたは、地下の柱に触れていたな?」
「え? あ、ああ……そういえば」
 突然ふられてクローディスが目を瞬いたが、アルケリウスが最初に姿を現した際に、確かに柱に触れた記憶がある。その返事によし、とディミトリアスが頷いた。
「その縁を、この体の主の力で結べば、呪詛をあちらへ流して、いくらか相殺できるはずだ」
「あちら……って」
 一人納得したように言うのに、屍鬼乃が首を傾げていると、ディミトリアスは続ける。
「地下の、神殿だ。あそこは、俺の領域でもある」
 殆ど独り言のような言葉だったが、それを正確に拾って、理王が訝しげに首を傾げた。
「それは……トゥーゲドアに影響は出ないのか?」
「問題ない。月の刻印へは、俺の力と直接繋がっている」
 町へは流さず、こちらに引き受けることは可能だ、とディミトリアスは力強く言った。それなら、直接術士である自分に呪詛を引き寄せれば良さそうなものだが、それは呪詛の指向性の問題らしい。超獣に向う呪詛なので、ディミトリアス自身にはその因果は直接向わないため、迂回するしかないそうだ。勿論、完全に引き寄せられるかどうかも賭けではあるが、一人で負うより二人で負うほうがまだ負担は軽くすむはずだ。
「そうと決まれば、善は急げだ」
『あいよ』
 応えて、愚者達が術の発動の準備を始める中、クローディスは、険しい表情をする白竜に苦笑を浮かべた。
「そんな顔をするな、私は人身御供になるつもりは無いんだ」
「判っています。現時点では、貴方を頼るしかないことも」
 ですが、と白竜は決意と共に続ける。
「頼りっぱなしになるつもりはありません。どうあっても必ず、取り戻してみせますから」
「ああ、頼りにしている」
 硬く生真面目なセリフに、クローディスは思わず笑ったが、直ぐにその顔を引き締めた。
 グラルダの口から紡がれる呪文と、呪文を必要としないのか、シャランと錫杖を回転させるディミトリアスの、ゆっくりと発動される二つの術が、クローディスの体を包み始めたのだ。静かで冷たい光が、クローディスに吸い込まれ、淡くその体を発光させたかと思った、次の瞬間。
「―――……ぐ、う……っ」
 クローディスが、呻くような声を漏らしてたたらを踏んだ。体に変調をきたさないようにと、待機していた英虎が、咄嗟に駆け寄ろうとしたが、それより早く「触るなっ!」と強い声が飛んだ。
「……呪詛が、漏れ出ている……迂闊に、触るのは……危険だ」
 幾分かをディミトリアスが引き受けているとは言え、掛かる負担は相当なものでありながら、息を乱しながらも、クローディスは物騒な笑いをその口元へ浮かべた。


「同じ苦痛を、巫女が受けていると言うなら……アルケリウスの奴は、一度、殴ってやらんと気が済まないな……」