校長室
海に潜むは亡国の艦 ~大界征くは幻の艦~(第1回/全3回)
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★ ★ ★ 「艦内に、不審物です」 リカイン・フェルマータが告げる。 「不明瞭である。的確に報告せよ」 グレン・ドミトリーが叱責する。 「ええと、潜入者のようなのですが、正体がはっきりしません。これを見てください」 リカイン・フェルマータが、船内監視カメラの映像に切り替えた。画面の端を、何か得体の知れないものと言うべき物体がズルズルと横切る。 「なんだこれは。いつ侵入された」 さすがに、グレン・ドミトリーの顔が険しくなる。 「すでに、負傷者が出ているようです。医務室でコレット・パームラズが治療に当たっています」 現状を確認しながら、リカイン・フェルマータが言った。 「保安用に艦内にいる者たちを対応に当たらせろ。私も、行く。ニルスとフレロビーをエステル卿の護衛に呼び戻せ。ブリッジは封鎖、いいな」 素早く指示を出すと、デュランドール・ロンバスが対応にむかった。 ★ ★ ★ 「戦闘は始まっているのでございましょうか」 「そのようですね」 フリングホルニ艦内の喫茶コーナーで紅茶を飲んでいたアルティア・シールアムに訊ねられて、イグナ・スプリントが答えた。と、その顔が急に険しくなる。 「どうかしましたか?」 「殺気が……。我の後ろに隠れて……」 イグナ・スプリントが後ろ手にかばったときだった。その背後で、アルティア・シールアムがばったりと倒れた。 「アルティア……、なんだ、この障気は……」 アルティア・シールアムを助け起こそうとした、イグナ・スプリントであったが、彼女もまた倒れてしまった。 「こっちなんだな、その侵入者というのは。人か、使い魔か?」 ブリッジのリカイン・フェルマータと連絡を取りながら、酒杜陽一が現場に駆けつけてきた。艦内の保安要員をすると言ったが、本当に敵に入り込まれるとは。 「なんだ、この障気は……」 ソーマヘルムを深く被りなおして、なんとか立ち籠める障気を防ぐ。 「怪我人だ。人をよこしてくれ。それから、防毒マスクを忘れないように。艦内換気を最大にしてくれ」 リカイン・フェルマータに連絡すると、酒杜陽一が慎重に周囲を調べた。 ナノサイトで、何かの這いずったような跡を見つける。 「こっちか……」 その跡から行動を予測して、酒杜陽一が通路を走っていった。 何かに追いついた。 それは、一言で言ってしまえば、異形だ。長虫の絡み合ったような怪異の躯からは、異形化左腕がのびている。ソウルアベレイターとして変化しすぎてしまったアンデッドボディは、もはや人と言えないものとなっていた。 「エッツェルなのか!?」 酒杜陽一が呻いた。 この姿は、行方不明になっているエッツェル・アザトースに違いない。おそらくは、キマクの荒野を彷徨っているうちに、停泊していたフリングホルニに取り憑いたというところだろうか。 「ちょうどいい。パートナーたちも捜している……」 酒杜陽一が呼びかけたが、低い音とも唸り声ともつかないものを発するだけだ。 その動きに、絶対暗黒領域が発生し、思わず酒杜陽一が後退る。その間に、エッツェル・アザトースの姿が消えた。 壁にわずかな亀裂がある。そこから別の場所に移動してしまったようだ。 「逃げられた。追えるか?」 酒杜陽一が、リカイン・フェルマータに追跡を頼む。そこへ、コレット・パームラズが駆けつけてきた。 「敵が侵入したんだよね?」 急いでコレット・パームラズがイグナ・スプリントとアルティア・シールアムに駆け寄り、ナーシングで解毒を始めた。 「敵じゃあない。だが危険だ。まだ被害者が出るかもしれないから、医務室で待機していてくれ。手が足りなければ、テメレーアから応援を頼んでくれ」 そう言うと、酒杜陽一はエッツェル・アザトースを追って行った。 コレット・パームラズが応援を呼んでイグナ・スプリントとアルティア・シールアムを医務室に運んでいく。他にも数名、エッツェル・アザトースの死の風に当てられた者が、医務室へと運び込まれていった。 「敵旗艦に乗り込む前に、こちらに乗り込まれるとはね。面白いじゃない」 「いたよ、あいつじゃあね?」 艦内待機していたセフィー・グローリィアと、オルフィナ・ランディが、リカイン・フェルマータの誘導に従ってエッツェル・アザトースを追い詰めていった。 「そこの者。もう逃げられないわよ。大人しく確保されなさい」 セフィー・グローリィアが、エッツェル・アザトースに対して投降するように呼びかけた。だが、それを無視して、エッツェル・アザトースがむかってくる。 「口で言っても、分からないんじゃん?」 素早く動いたオルフィナ・ランディが、バスタードソードで容赦なくエッツェル・アザトースに斬りつけた。 大きく胸のあたりが斬り裂かれるが、みるみるうちに回復して傷口がふさがっていく。 「リジェネレーションか、やっかいだよ」 パワードスーツで死の風を防いだオルフィナ・ランディが、セフィー・グローリィアを下がらせる。セフィー・グローリィアが離れた場所から禍心のカーマインを撃ち込むが、やはり致命打にはならない。 「ここか。エッツェル、もうやめろ」 酒杜陽一までもがやってくる、エッツェル・アザトースは再び逃げだした。追われて、イコンデッキの方へと移動する。 「退避しろ。死の風を吸うな!」 酒杜陽一の声に、メカニックたちがあわてて避難する。 「どうしたの、リフトが止まっちゃったよ!?」 まさに甲板のあがろうとしていたアペイリアー・ヘーリオスの中で、西表アリカが戸惑った。 「わからん、問い合わせて見ろ」 これでは動けないと、無限大吾が西表アリカに指示した。 だが、敵に侵入されたと思って軽いパニックになったメカニックたちはそれどころではない。 「だからいわんこっちゃないんだ」 天城一輝が、本当に侵入されたのかと叫んだ。ローザ・セントレスやユリウス・プッロらとともに、資材を積んだ小型飛空艇アルバトロスの陰に隠れる。 「何、あれは」 イコンデッキの隅っこで居心地悪そうに待機していたシルフィスティ・ロスヴァイセがやってくる。ばったりと、エッツェル・アザトースと出会ってしまう。 「エリザベータ、そちらをふさいで」 追いついてきたセフィー・グローリィアが、イコンデッキにいたエリザベータ・ブリュメールにむかって叫んだ。 「キモいから燃えて。鮮烈の業炎、受けなさい!」 シルフィスティ・ロスヴァイセが、エッツェル・アザトースをパイロキネシスで燃やそうとした。 全身を火につつまれたエッツェル・アザトースが、フールパペットをシルフィスティ・ロスヴァイセに放つ。 「イコンなんて、みんな壊れちゃえばいいのよお!」 混乱して突然暴れだしたシルフィスティ・ロスヴァイセを、セフィー・グローリィアがエリザベータ・ブリュメールと共にあわてて取り押さえた。 「ここか。まだ排除できていないのか」 遅ればせに、デュランドール・ロンバスが駆けつけてきた。 「死の風がやっかいで。それに、あれは化け物じゃない」 「どこをどう見ても化け物ではないか」 デュランドール・ロンバスが、酒杜陽一に言い返した。 「こい、こちらだ。私が相手になってやろう」 デュランドール・ロンバスがプロボークでエッツェル・アザトースを挑発した。 唸り声をあげて、エッツェル・アザトースがむかってくる。 「忌むべき物よ、その力光に照らされて影を失え!」 デュランドール・ロンバスが、エッツェル・アザトースにむかって手をかざした。スカージの閃光が走り、それに焼かれたエッツェル・アザトースが後退する。スキルを封じられて、死の風が止まった 「その悪しき力、封じさせてもらった」 圧倒的なチャンピオンの力で、デュランドール・ロンバスがエッツェル・アザトースを退けた。ソウルアベレイターであるエッツェル・アザトースとしては、あまりに相性が悪い。 「みんな、下がれ!」 動きの止まったエッツェル・アザトースめがけて、天城一輝が小型飛空艇アルバトロスを飛ばした。途中で飛び降り、無人の小型飛空艇をそのままエッツェル・アザトースにぶつける。 イコンデッキ内を、エッツェル・アザトースを貼りつけるようにして、小型飛空艇が飛んでいく。 ユリウス・プッロが、イコンデッキの艦首ハッチを開けた。シャッターが開いて、非常用発進口が顕わになる。そこから、エッツェル・アザトースとともに小型飛空艇が外へ飛び出していった。 直後に、爆発が起きる。イコンから狙撃を受けたようだ。 一同があわてて艦首へと駆けつけると、ひしゃげた小型飛空艇が地上へと墜落していくところであった。エッツェル・アザトースの姿は確認できない。 ほっとしたのも束の間、視界の端をアーテル・フィーニクスが横切った。小型飛空艇を撃ち落としたのは、この敵イコンのようだ。 「敵を接近させたのか! 防護シャッターを閉じろ!」 デュランドール・ロンバスが叫んだ。 ユリウス・プッロが、シャッターを急いで閉じる。 「フレロビー、急げ。ストライカーを出す。こちらへ来い。各自、あいているイコンを出せ!」 ブリッジに連絡を入れると、デュランドール・ロンバスはヤクート・ヴァラヌス・ストライカーへと急いだ。 『こちらも早く上げて!』 アペイリアー・ヘーリオスとは反対のリフトへとスクリーチャー・オウルを移動させながら、天貴彩羽が近くにいたユリウス・プッロを急かした。