校長室
海に潜むは亡国の艦 ~大界征くは幻の艦~(第1回/全3回)
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★ ★ ★ やっと、リフトが動きだす。 「なんだったんだ!? アペイリアー、出るぞ!」 滑走路に出ると、無限大吾がアペイリアー・ヘーリオスを発進させた。 すでに敵が艦隊の陣形の中に入り込んでいる。各艦の対空放火によって、あまり近づけないでいるという感じだ。 「味方の弾にやられるな」 「任して」 超感覚で周囲を警戒しながら、西表アリカが無限大吾に答えた。 「前方敵機!」 「エルブレイカーで落とす!」 フリングホルニの上に位置すると、接近してくるヴァラヌス・フライヤーにむかって無限大吾がビームアサルトライフルを放った。直撃を受けたヴァラヌス・フライヤーが墜落するが、別の機体が対空ミサイルを発射してきた。 スラスターでアクロバティックに回避運動をしながら、ガトリングガンでミサイルを撃ち落とす。 空中に、爆炎が広がった。 その炎を突き破るようにして、アートゥラ・フィーニクスが突っ込んできた。 アペイリアー・ヘーリオスをやり過ごして、フリングホルニに迫る。 そこを、下からツインレーザーライフルが襲った。たまらず、アートゥラ・フィーニクスが上方へと回避する。それを追うようにして、スクリーチャー・オウルが上昇してきた。一気に加速してアートゥラ・フィーニクスを追い詰める。だが、速度に勝るアートゥラ・フィーニクスがそのまま逃げようとする。 「逃がさない、落とすわよ!」 天貴彩羽がさらに加速した。それを待ち構えていたかのように、アートゥラ・フィーニクスが変形反転する。人型形態がエアブレーキとなって、一瞬にしてアートゥラ・フィーニクスがスクリーチャー・オウルの後ろを取った。 「後ろでござる!」 「分かってる」 スベシア・エリシクスの忠告に、天貴彩羽がノイズ・グレネードを背後にむけて放出した。ツインビームライフルを発射しようとしていた敵の動きが一瞬止まる。 『今でござる!』 スベシア・エリシクスが叫んだ。 『――きたぞ!』 データを受け取ったウルスラーディ・シマックが、精神感応で高崎朋美をうながした。 『――撃つよ!』 ウインダムが、指示されたポイントをアサルトライフルで狙撃する。パックパックを撃ち抜かれて、アートゥラ・フィーニクスがバランスを崩して落下した。 「もらったわ!」 急降下してきたスクリーチャー・オウルがギロチンアームでアートゥラ・フィーニクスを真っ二つにした。そのまま、爆発する機体の間を抜けて、地上すれすれで水平飛行に移る。 ★ ★ ★ 「敵が来たんだな。指令官は、ボクのヘルタースケルターでグリムロックへ避難するんだな」 ブリッジ内に無理矢理に飛び込んできて、ブルタ・バルチャが叫んだ。何かあれば、エステル・シャンフロウを連れ出して恐竜要塞グリムロックに行く手はずになっていたのだ。 「私は、ここを動きません。あなたは、イコンで迎撃に出なさい、命令です」 きっぱりとエステル・シャンフロウが言った。 「そうはいかないんだな」 エステル・シャンフロウの言葉を聞かず、ブルタ・バルチャが彼女に迫った。そのままエステル・シャンフロウをかかえて連れ出しかねない勢いで迫る。 「きゃあ」 さすがに、エステル・シャンフロウが逃げた。ブルタ・バルチャのような者に迫られれば、女の子であれはたいていは逃げだしてあたりまえだ。 「貴様、指令に対して何をする!」 当然、グレン・ドミトリーたち親衛騎士団がブルタ・バルチャの前に立ちはだかった。デュランドール・ロンバスがいれば、ブルタ・バルチャの命は危なかったかもしれないが、それでも、幾多の死線をくぐり抜けてきた者である、一筋縄ではいかなかった。期せずして、ブリッジの中で追いかけっこのようになる。 「邪魔をするんなら……」 呪うぞと言いかけて、ブルタ・バルチャが止まった。ニルス・マイトナーの手に、呪符を見たからである。もし、陰陽師だとしたら、呪詛祓いがある。ブルタ・バルチャは、忌々しそうに、自分のIDカードを見た。 その隙に、エステル・シャンフロウが身を隠す。 どこへ行ったとブルタ・バルチャが周囲を見回した一瞬をついて、ニルス・マイトナーとフレロビー・マイトナーが彼を押さえ込んだ。 「ふう、とりあえず運び出せ。これ以上かき回されては、まずい」 ニルス・マイトナーたちに、ブルタ・バルチャを外へ出すようにと、グレン・ドミトリーが命じた。 実際、今の騒ぎは非常にまずかった。指揮系統が、完全に混乱したのである。 「敵イコン接近。防衛線内に入られました!」 リカイン・フェルマータが叫んだ。エッツェル・アザトースの侵入と、ブルタ・バルチャのブリッジへの乱入で、指揮系統が完全に乱れ、敵イコンを迎撃するための味方イコンへの指示が、完全にタイミングを逸してしまったのだ。 「全艦、対空防御。甲板のイコンにも迎撃指示を。総力を持って、敵を排除しなさい」 やっと艦長席に戻ると、エステル・シャンフロウが、遅ればせに全艦隊にむかって命令を発した。 ★ ★ ★ 「何をやっている。フリングホルニのイコンの動きが鈍いぞ。陣風も出せ」 土佐のブリッジで、湊川亮一が叫んだ。 「了解。陣風、発進してください」 命令を受けて、高嶋梓がイコンの発進命令を格納庫に伝える。 「総員、第1戦闘配置! ブリッジ要員はCICに移動!」 命令し、湊川亮一が高嶋梓らと共に昇降機で装甲に被われた戦闘指揮所へと移動する。 「発進ですよー」 長谷川真琴が、イコンデッキで叫んだ。 「カタパルト接続完了。いつでも出せるよ」 クリスチーナ・アーヴィンが、陣風をカタパルトに移動させて言った。長谷川真琴がシグナルを青に変える。 「今回は待機かと思ったけど、出番ありましたね」 陣風のサブパイロット席から、アルバート・ハウゼン(あるばーと・はうぜん)がソフィア・グロリア(そふぃあ・ぐろりあ)に言った。スフィーダをベースとした陣風は、大型ビームキャノンを装備したブースター型のイコンホースが、ボリュームのある脚部ブースターと共に重圧なフォルムを作りだしている。その分、逆進翼はやや小振りだ。 「ええ。活躍しますわよ。陣風、発進します!」 コバルトブルーのスフィーダが、土佐のカタパルトから勢いよく発進していった。 ★ ★ ★ 「フリングホルニに怪我人多数ですって? 医療班の支援要請が来ています」 連絡を受けたミカエラ・ウォーレンシュタットが、トマス・ファーニナルに告げた。 「分かった。こちらはミカエラに任せる。魯粛、僕と一緒に来てくれ」 「承知です」 トマス・ファーニナルに言われて、魯粛子敬がうなずいた。 「こちらは、お任せください」 ミカエラ・ウォーレンシュタットが、トマス・ファーニナルたちを送り出した。 「俺は、予定通り砲手に回る。だあああ、もう、見てられねえ」 我慢の限界に達したのか、テノーリオ・メイベアが叫んだ。 「うまくやってくださいね」 「ああ、任せとけって。一発で沈めてきてやる」 そう言うと、テノーリオ・メイベアが主砲塔の方へと走っていった。