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リアクション
【10】
クルセイダーの追跡対象となってから、遠藤 寿子(えんどう・ひさこ)は、雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)とベファーナ・ディ・カルボーネ(べふぁーな・でぃかるぼーね)とともに身を隠していた。
第7地区で騒動があったため、彼女達に対する追跡は幾分和らいだものの、ここに来てヌギルが第8地区で騒動を起こしたため、再び危険に晒されることになってしまった。
「こっちですわ、寿子様!」
「う、うん!」
人気のない通りを渡り歩く三人。しかし、クルセイダーの気配は町のいたるところから感じる。
その時、黒崎 天音(くろさき・あまね)とブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)が目の前に現れた。
手招きする彼らに導かれ路地裏に入ると、すぐさま慌ただしく通りを駆け抜けるクルセイダーの足音が聞こえた。
「……助かりました、ありがとうございます。黒崎様、アッシュワース様」
「黒崎……様?」
お嬢様感を放つリナに、天音は不気味さを感じた。
生来、どこに出しても恥ずかしいビッチのリナだが、合コンへの情熱と記憶障害がケミストリーした結果、奇跡的に貞淑さを得たのである。
「君も妙なことになってるようだね」
それから、天音は彼女達が目立たないようにグランツ教のローブを渡した。内ポケットには逃走資金も入っている。
「何から何まですみません」
「構わないよ。君達はこれからどうするつもりだい?」
「アイリちゃんを探そうと思うんだけど……」
寿子が言うと、リナは眉を八の字に曲げた。
「……その、おそらくアイリ様はここには来ていないと思いますわ」
リナは少し前に記憶を思い出したのだ。
彼女が負傷し、この作戦には参加していないことを伝えると、寿子はますます不安な顔になった。
けれどリナは、彼女の手を取って励ます。何故なら、あの暗い研究室でアイリは言ったのだ。寿子のことを頼む、と。
「……その件で僕も伝えなければならないことがある」
天音は、サルベージ組合と特務隊に属するこの世界のアイリのことを話した。
「第9地区に……この世界のアイリちゃんが?」
「どうするかは君達次第だ。じゃあ僕達はもう行くよ」
寿子とリナと別れ、天音とブルーズは商店通りに向かう。
「……一応、寿子と会ったことは叶に報告しておくぞ」
ブルーズは通信機を組み込んで使用可能になったHCで情報を送る。
するとすぐ白竜から返信(彼らのHCも通信装置が入ったようだ)があった。太公望の正体に関する報告だ。
「……そうか。一目会いたいな、2046年のスーさんに」
報告に目を通す彼の口元から笑みが溢れる。
「これからどうする?」
「また目立たない衣装を調達しよう。神官の聖衣と、フルフェイスヘルメットとライダースーツも揃えておこうか」
「クルセイダーの真似事でもする気か?」
「必要があればね」
「……Barで勇作さんと飲んだ事を思い出すわね」
荒井 雅香(あらい・もとか)は煌明亭の前で立ち止まった。
彼女の記憶は少しずつ戻ってきた。やるべき事も見えてきた。
ただ、気になるのは大文字勇作の行方だった。研究者としての立場を追われた大文字博士は、今どこにいるのだろうか。
「23年後だから還暦過ぎってところかしら……勇作さんの事だから老け込んだりせずに元気に熱く過ごしてそうだけど」
ただ、この時空の大文字は雅香の知る彼とは別人だ。もし会えても彼女のことを知らないかもしれない。そう思うと胸が痛む。
雅香は町で必要なもの(着替えの服と通信機)の買い物終え、、滞在先に選んだホテルに戻る。
「”大勇玩具店”……?」
雅香は、商店通りのはずれにある寂れた玩具屋の前で立ち止まった。
ゴシック建築の建物に、昭和なトタンの看板。趣きのある西洋の街並のグランツミレニアムにあって、随分と垢抜けない店構えだった。全力で町の景観に逆らってるところに反骨精神を感じないでもない。
「大勇……大文字勇作……まさか、ね。でも、勇作さんロボットとか好きだから、もしかしたらこういう店に立ち寄ったりするかも」
店の中は看板に偽りなしの雰囲気で、小さな町のプラモ屋さんのようだった。ほこりを被った棚に、ところ狭しと並べ重ねられた商品、プラモの箱は色褪せていい風合いをしている。
中には先客がいた。神官の聖衣を纏った天音とブルーズ。それから、輝石 ライス(きせき・らいす)とミリシャ・スパロウズ(みりしゃ・すぱろうず)。
「あ、お前らこの間店に来た……」
「やあ。先日はどうも。君達も”彼”に会いに来たのかい?」
「だってどう見てもあのおっさん、天学の大文字先生だからなぁ……」
「……しかしいいのか?」
ブルースが言った。
「何がだよ?」
「煌明亭だ。先ほど店の前を通ったが随分客が入ってるようだったぞ」
「……う。だ、だってよぉ、バイトしてる場合じゃねぇだろ」
「……ううむ。戻ったら榊に謝らなねばならんな」
ライスの横で、ミリシャは申し分けなさそうに唸った。
先客は他にもいる。新風 燕馬(にいかぜ・えんま)と新風 颯馬(にいかぜ・そうま)とリューグナー・ベトルーガー(りゅーぐなー・べとるーがー)だ。
ネカフェで情報収集していた彼らは、第8地区の店舗情報にあった大勇玩具店の名前にふと目が止まった。
燕馬の記憶では、大勇玩具店は”魔法少女仮契約書”のメーカー。それはグランツ教の敵対者を弱体化させる謎空間”シャドウレイヤー”に対抗する手段だ。この世界には教団の行う何かを止めに来た。それが何かはまだ思い出せないが、教団と戦うなら仮契約書が必要になるかもしれない。
「……と言うわけで、仮契約書はどこだろな?」
燕馬は眠そうな目で店の奥に。
「大勇玩具店……やはり、”大”文字”勇”作ということなのかしらね?」
リューグナーも一緒に仮契約書を探す。
颯馬は、フューチャーサングラスの通信機能を修復するための通信装置を探して、並べられている商品を物色している。ここにあるものでは、トランシーバーに付いてる装置で、サングラスの通信機能を回復出来そうだった。
「まずこのトランシーバーと……」
あとは”武器”になるものを調達しておきたい。玩具屋で武器探しというのも妙な話だが、武器屋に行くには少しリスクがある。教団に守られたこの都市で、武器や防具を買い込む。その人間を見て市民はどう思うだろうか。特にクルセイダーが殺気立って、第8地区を巡回している今は危険だ。
「イコプラなら武器にもなるが基本は玩具枠、怪しまれることもない」
それに2046年なら強力な戦闘用イコプラがあるかも、と考えた。
棚には、焔虎と鋼竜の色褪せた箱が山のようにあった。ジェファルコンのような花形のイコプラは一切なし。町のプラモ屋特有の渋いラインナップである。
しかし颯馬は買う。トランシーバーの箱の上に、焔虎と鋼竜の箱を乗せた。
「あ、買うんだ」
燕馬は言った。
「渋すぎて逆に気に入った。ハードボイルドな男には鋼鉄の色がよく似合う。それにこのイコプラ、何気に2040年製じゃし。さぞ性能も上がって……」
ちなみに性能は2023年の戦闘用イコプラと大差ない。
その時、奥の扉が開いた。
「珍しいこともあるものだ。うちの店にこんなに客が来るとは」
店主の大文字が現れた。
初老の男性ながら、大柄で若々しい。逆立った白い髪は炎のよう。ラップアラウンド型のサングラスを装着し、店名の入ったエプロンを身に付けている。
「おじさん、魔法少女仮契約書を山ほどくれ!」
「仮契約書ならそこの棚にあると思うが……」
燕馬の勢いに驚きつつ、大文字は商品の場所を指差した。
「……3枚しかないけど?」
「別件が忙しくて在庫補充を怠っておったな。すまんが在庫はそれだけだ」
「ええ! こ、困るよ!」
少なくとも未来に送り込まれた仲間の分、それからアイリと仲間の分は必要だった。でなければ、シャドウレイヤーを使われた時にひとたまりもない。
「世界を救うために魔法少女仮契約書が必要なんだ、どうにかならないか!」
「魔法少女が世界を救うって……君はアニメの見過ぎだと思うぞ」
「ああもう!」
ややこしくなりそうだったので、リューグナーは燕馬を押しのけた。
「そなた、大文字勇作博士ですわね?」
大文字は目を丸くした。
「……そう呼ばれた時代もあったな」
「わらわ達は博士の話を聞きたくてここにきたのですわ」
「……ふっ。世間にも忘れられた大ボラ吹きの研究者に何を聞くことがある?」
「あなたはそんな人ではありません。立派な研究者です」
雅香ははっきりと言った。
「君は……?」
「オレ達は博士が海京崩壊の時に見たものが何なのか知りてぇんだよ!」
「2023年の海京に何があったのか、教えてくれないかな?」
ライスと天音も言う。
「……まぁそこまで聞きたいという奴らを邪険にも出来んな」
大文字は海京崩壊のことを語り始めた。
それは2023年のある日。突如、海京を襲った時空震の直後に起こった。
空間を引き裂き現れたのは、一匹の巨大な”白竜”だった。全身が白く発光する、七つの首を持った目の無い竜だ。竜は業火の雨を海京に降らし、猛毒をばらまき、巨大なくちで町を喰らった。
天御柱学院を筆頭に、海京は勢力を上げて応戦したがまるで歯が立たない。最後の手段に海京を自爆させ、どうにか竜を葬ることに成功したのだった。
そして、その海京の自爆スイッチを押したのが大文字だった。
「博士が?」
「その時には、学院幹部も技術者もほとんど……だから、生き残った私がそうせざるを得なかった。あの化物から世界を守るために」
「……で、その竜は”紫の煙”になって消えてしまったんだよね?」
「ああそうだ。奴の正体を探ろうにも何の手がかりもなくなってしまった」
紫の煙。天音は口元に手を当て思考を巡らせる。
「……クルセイダーやガーディアンは元々は同じなのかな」
「どうした、天音?」
「ブルーズ……いや、ちょっと気になってね」
大文字はひと通り話を終え、不可解そうにみんなを見回す。
「だが、何故こんなことを聞く? 23年も昔の話だぞ?」
「博士には昔の事かもしんねぇけど、オレ達にはそうじゃねぇんだ。オレ達、2023年から時を超えてこの町に来たんだ」
「そして、私達を送り込んだのはあなたよ、勇作さん」
ライスと雅香はここに来るまでの経緯、そして来た目的を話す。
流石の大文字も驚いたのか言葉を失った。
「俺達に力を貸してくれないか、博士」
燕馬は言った。
「荒唐無稽の与太話なのは自覚してるし、証拠もない。信じてくれとしか言えない。それでも頼む。俺達に力を貸してくれ」
しばらく沈黙が場を制した後、大文字は沈黙を破った。
「……くくく……ワッハッハッハ!!」
「博士……?」
「荒唐無稽の与太話、大いに結構! つまらん教えを説くグランツ教より、君達の飛ばす与太のほうが私は好きだ! 信じよう、時空を超えて来た諸君!」
みんな、顔を見合わせ微笑んだ。
「……あ、でも魔法少女仮契約書はないんだよなー」
仮契約書に拘る燕馬が唇を尖らせると、ふと天音が前に出た。
「大丈夫。博士は教団と戦えるだけの”力”を持っているよ」
「どういうことだ、黒崎?」
この都市に何かを輸送する潜水艦。Gの刻印を帯びた謎のユニット。水面下で暗躍する影の正体。今こうして彼と話すことで全てが繋がった。
「……“G”の“謎の開発者”ってあなただよね? プロフェッサー・大文字」
みんなの視線が大文字に集まる。
「……………………」
彼は無言のまま奥の扉の前に立った。ドアノブを右に左に、決まった数だけ回すと扉の奥からチン! と音が鳴った。扉の向こうにエレベーターが見えた。
「君達に見せたいものがある」
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