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フューチャー・ファインダーズ(第2回/全3回)

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フューチャー・ファインダーズ(第2回/全3回)

リアクション


【18】


「目標、怪物! 撃てっ!!」
 サマーブルーはレジスタンスに一斉掃射を命令。無数の発砲炎が闇を引き裂き、けたたましく鳴る発砲音が地下空間に轟く。
 けれど銃弾を何発浴びようとも怪物はまったくの無傷だった。
「……馬鹿な。強過ぎる」
 再び怪物のくちが灼熱し熱線砲が放たれる。幸い、と喜んでいいレベルかはわからないが、この怪物は盲目な分、狙いは正確ではなかった。熱線はレジスタンスから逸れ、コンクリートの壁を爆発とともに吹き飛ばした。
 怪物はとても生身で勝てる相手ではなかった。せめてイコン級の戦力がなくては……。レジスタンスの顔に絶望が立ち上り始めた。
「……ここで諦めたら人生終了や」
 七枷 陣(ななかせ・じん)は言った。
 「本来、レジスタンスはこの任務に失敗するのかもしれない……しかし」
 レン・オズワルド(れん・おずわるど)は、柊 真司(ひいらぎ・しんじ)に視線を投げる。
「それはこの場に”俺達”がいなかった世界での話だろ?」
 前門の虎、後門の狼ならぬ、前門の怪物、後門のクルセイダー。状況は芳しくないが、だがこの状況を生かす手はある。
「……そうだ、コイツらを引き合わせて潰し合わせるのも一手やな」
「同士打ちを狙うということか?」
「ああ。クルセイダーはオレらの目的を探るどころじゃなくなるだろうし、時間だって稼げる。それに、オレら追跡されてる側の妨害に割く人数も大分削れる。一石三鳥やな」
「なるほど。上手くいけばこちらの被害は最小に留められるな……」
「……桂輔!」
 真司は桂輔を呼んだ。
「なんだ?」
「ここは俺達で引き受ける、お前は先を急ぐんだ」
「え? で、でも……」
「優先すべきはグランガクインの確保だ。最悪、お前だけでも辿り着ければ目的は達成出来る」
 陣とレンは、そういう事だ、と頷く。
「……わかった。でも、絶対に皆もあとから来いよ!」
「当たり前だ。こんな縁もゆかりもないところに骨を埋めるつもりはない」
 陣は、怪物の誘導。
 真司は、クルセイダーの誘導。
 そして、レンは合流地点の確保をそれぞれ担当することになった。
「……ある程度広さが確保出来る場所が必要だな」
 天学で広さのある場所。レンが思いつくのは整備科の格納庫だった。
 幸運にも格納庫はコンクリートの中に埋まってはおらず、中に入れる状態にああった。残されたイコンの残骸が遮蔽物となって身を隠すのにも最適だ。
『……レンさん、今どちらです?』
 ヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)がテレパシーで呼びかけてきた。
『格納庫のほうに向かっている。七枷と柊にこちらに誘導するよう伝えてくれ』
『……わかりました!』
 ヴェルリアが仲介役となり、二人に状況を報告する。
『……わかった。格納庫やな』
 陣は小尾田 真奈(おびた・まな)とともに怪物に立ち向かう。
「みんな、撃つの止めるんや! 音を出すな!」
「撃ち方止め!」
 サマーブルーの指示でレジスタンスの掃射が止む。
 代わって陣は天の炎を。真奈はハウンドドックRによる銃撃を。怒濤の勢いで食らわせる。しかし、どれほどの炎で身を焼かれようとも、どれほど銃弾を撃ち込まれようとも、怪物は平然と炎の中に立ち尽くしていた。
「……目標の損傷、皆無。ダメです、ダメージを与えられません」
「残念やけどそうやな……けど、注意をこっちに向けることは出来た」
 怪物は唸り声を上げて、二人に向かって来た。
「このまま格納庫まで引っ張っていくぞ!」
「了解しました。ご主人様」

 一方、後方の通路の中ではクルセイダーとの火花が早くも散っていた。
 リィムと共にクルセイダーを警戒を行っていたヨルディア・スカーレット(よるでぃあ・すかーれっと)は、隠形の術で隠れながら、通路を曲がって出てきた敵に出会い頭のしびれ粉を浴びせた。
 しかし、クルセイダーにはある特性があった。それは”状態異常・精神異常”の類いがまったく通用しないということ。
「……そんな!」
「我等、神に祝福されし理想の尖兵。大いなる加護が災いから我等を守る」
 クルセイダーの放った掌打がヨルディアの胸を打った。
 吹き飛ばされた彼女に、敵は聖剣を斧状に発現させ襲いかかる。
「……くっ!」
 胸のダメージに耐えつつ、ヨルディアは徒手空拳で反撃を行う。
「君達の相手はこっちにもいるぞ」
 十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)が戦闘に加わった。
 ソードプレイで振るわれる剣の猛攻で、クルセイダーを斬り伏せる。一人、二人と紫の煙に変えたところで、敵は間合いをとった。
 バウンティハンターとして培った戦いの勘が、宵一に身の危険を伝えた。
「ヨルディア、こっちだ!」
「……え?」
 彼女を抱きかかえるようにして、傍の階段から踊り場に飛び降りる。
 すると次の瞬間、クルセイダーの放った無数の銃弾が通路を走った。間一髪、判断が少しでも遅れていたら、大分身体の風通しが良くなっているところだ。
「……距離を取られてしまいましたね」
「……厄介なことになった。この狭い通路で相手が銃とはな……」
「こっちだ!」
 声に振り返ると階下に真司の姿があった。
「考えがある。こっちに敵を誘き寄せてくれ」
「柊……。ああ、了解だ!」
 三人が向かった先は格納庫。イコンの残骸が転がる中にレンの姿を見つけた。
 ちょうどその時、別の入口から怪物を引き連れた陣と真奈も到着した。
「……大変ですわ!」
 陣と真奈の後ろで、怪物がくちの中に炎を溜めているのが見えた。
 ヨルディアは藍鼠の杖でねずみを喚び寄せ、怪物のほうに走らせる。怪物の注意が、ねずみに向いたそのを瞬間、すぐさまクルセイダーのほうにねずみを移動させた。すると、二人を指向していた熱線砲がクルセイダーに発射された。大爆発がクルセイダーを襲い、一発で三人のクルセイダーが煙になった。
「皆さん、目を瞑ってください!」
 真奈の合図でみんなが目を閉じた瞬間、彼女はレジスタンスから貰った閃光弾と煙幕を炸裂させた。
 盲目の怪物はともかく、クルセイダーの目を潰している隙に、レンは素早く後方の出入り口に仲間を誘導し撤退させる。
 上手く逃げられたのを確認した後、レンはその場に留まり、両者の戦いを見つめた。戦いはどう見ても怪物の優勢だった。さしものクルセイダーも為す術なく熱線から逃げ回るばかりだ。
「……これでも元刑事だ。人死にを見るのは偲びない」
 レンはクルセイダーに逃走の隙を与えようと、物陰からG.G.を構えた。
 ところがその時、アレーティア・クレイス(あれーてぃあ・くれいす)リーラ・タイルヒュン(りーら・たいるひゅん)が格納庫にやって来てしまった。
(……何故またここに……!?)
 二人の目的は怪物の足止めだった。
「あの怪物ならクルセイダーを倒してくれるじゃろうが、問題はその後じゃ」
「また校舎のほうに戻ってこられたら、大変だものね〜」
 アレーティアとリーラは怪物に戦いを挑む。
「蹴散らせ、羅刹王!」
 アレーティアはぽいぽいカプセルから出した3mの戦闘用イコプラ”羅刹王”をけしかける。クルセイダーに気を取られ、背中ががら空きになっている怪物に体当たりをかまし、その態勢を大きく崩させる。
 リーラはDインストールで巨大な竜と化し、怪物にのしかかった。
「今よ、アレーティア〜」
 素早く懐に潜り込んだアレーティアは、羅刹刀クヴェーラを突き刺した。
「……どれほど不死身でも石になっては身動き取れんじゃろ」
 しかし、怪物は石にはならなかった。
「……なにっ!?」
 怪物は”状態異常・精神異常”に対して協力な耐性を持っていた。まるでクルセイダーと同じように。
「……な、なんなのだ、こいつは」
「……ん?」
 その時、リーラは怪物の脇腹に”6”と数字があるのに気付いた。
「何かしら、この数字?」
 とそこに、レンはG.G.を撃ち込んだ。怪物の身体が重力に沈み込む。
「……早くそこから下がるんだ!」
 結局、怪物は倒せそうにない。この状況で最も危険なのはクルセイダーに先に撤退されることだった。そうなった時、残されたアレーティアとリーラに怪物の矛先が向くのは必至。その状況で、二人が死から逃れる術はないだろう。
「……可哀想だが、怪物と追いかけっこをしてもらうしかないな」
 二人が退くのに遅れ、クルセイダーも格納庫から撤退を始めた。
 怪物はクルセイダーを追って格納庫を飛び出して行った。