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星影さやかな夜に 第三回

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星影さやかな夜に 第三回

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 ハイ・シェンは胴を斬られ、血が噴き出す。

「くそ……! こんな……!」

 恨み言のように何かを呟くが時既に遅く、血は止めどなく溢れていった。
 明らかに手負いとなったチャンスを逃さずルカルカ・ルー(るかるか・るー)が槍で攻撃を開始する。

「アタシ相手に槍で挑むなんて……いい度胸してるじゃない!」

 ルカルカの槍さばきにハイ・シェンも槍で応戦する。
 槍の動作は引いて突く。これが基本である。
 逆に言えば引かなければ槍はその真価を発揮することが出来ない。槍同士の戦いとなれば、いかに相手の突きを払い、自分の攻撃を相手に通すかが重要になる。
 が、ハイ・シェンの動作はまるで突くと引くが同時に行われているのではと錯覚するほど速く鋭い。
 煉と戦っていたときより速度が上がっていると感じ取れるほどだ。
 こんな豪雨のような突きを前にしては払うも何もない。

「危ない!」

 神崎 輝(かんざき・ひかる)がルカルカの前に出ると、混沌の楯を持ちオートガードでルカルカを守った。
 それでもハイ・シェンの猛攻は止まらず、混沌の楯に向かって槍の刃が降り注ぐ。

「なら……これでどう?」

 ハイ・シェンは連続突きを止めると、切っ先から炎を吐き出す。

「ルカルカさん、少し我慢してくださいね」

 輝はファイアプロテクトで炎に耐性をつけると、ルカルカと一緒に炎に飲まれる。
 炎は二人身体を蝕みこそしないが、じわじわと熱が伝わってくる。
 神崎 瑠奈(かんざき・るな)一瀬 瑞樹(いちのせ・みずき)が二人を助けるためにハイ・シェンに攻撃を仕掛ける。

「お兄ちゃんから離れろ〜!」

 瑠奈は霞斬りをハイ・シェンに浴びせる。
 ハイ・シェンは槍の石突きで瑠奈の攻撃を払うと、立て続けに瑞樹が前に出る。

「マスターの邪魔する奴は、誰だろうと許しません!」

 叫びながら瑞樹は魔導剣からスタンクラッシュを食らわせる。

「いい太刀筋だけど、アタシには届かないわよ」

 ハイ・シェンは柄を両手に持って瑞樹の攻撃を受け止める。
 確かに攻撃こそ通らないが、武器の重量が乗ったスタンクラッシュは一瞬とはいえハイ・シェンの動きを封じる結果となった。
 その僅かな隙を狙うようにダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が遠隔フラワシでボムを静かに操り、背後で爆破させようとする。

「援護するよー!」

 シエル・セアーズ(しえる・せあーず)がアシストするようにサンダーブラストを発射する。
 魔杖【エスポワール】から撃ち出された雷はダリルが運んだ爆弾に直撃し、見事ハイ・シェンの背中で爆発した。
 爆発の衝撃でハイ・シェンは背中を仰け反らせバランスを崩す。

「みんなー! 今だー!」

 シエルは我は射す光の閃刃で追撃しながら叫ぶ。
 ダリルはコード・イレブンナイン(こーど・いれぶんないん)の槍に氷術を付与する。

「奴に安息を」

 コードは黙って頷くと、輝、ルカルカと共にハイ・シェンへと攻撃を仕掛ける。

「何人で来ようと結果は変わらないわ!」

 ハイ・シェンは槍を構えようとするがダリルの銃撃が槍を弾き、構えるのが一瞬遅れた。

「加速させる。一気に決着をつけるぞ」

 コードはゴッドスピードをかけ、一気に加速するとルカルカは聖槍からショックウェーブを放つ。
 身体を衝撃が貫き、ハイ・シェンは苦痛に顔を歪める。
 コードは氷術を付与した聖槍を投擲する。

「がっ……!」

 聖槍はハイ・シェンの足を貫き足下が凍り付く。

「今だ! 行くぞ!」
「はい!」

 コードに合わせて輝も武器を構えてハイ・シェンに突撃する。
 輝が魔槍からショックウェーブを放ち、コードは覚醒するとハイ・シェンに疾風突きを放った。

「この程度で……! アタシを殺せると思わないことね!」

 ハイ・シェンは叫びながらコードの疾風突きで伸ばした腕を素手で受け止める。

「……!」
「はぁっ!」

 コードが自分の目を疑っていると、ハイ・シェンはショックウェーブを槍を振るってかき消してしまう。

「こんなチャチな攻撃でアタシをやれるわけ……」
「うん、思ってないよ」

 ルカルカはいつの間にかハイ・シェンの前に立ち、聖槍ジャガーナートを構えた。
 目の前で光る武器を見て、ハイ・シェンは初めて焦りの色を顔に浮かべた。

「まさか……さっきまでの攻撃は、このための囮……!」
「三位一体の攻撃、恐れ入ったかな? ……それじゃあね」

 ルカルカが聖槍でハイ・シェンの心臓を貫こうと動き、ハイ・シェンも目を瞑る。
 だが、ルカルカの槍は刺さらない。
 夜月 鴉(やづき・からす)が雷術で槍を弾いたのだ。

「甘い甘い……報酬貰うまでそいつに死んでもらうわけにはいかないんだよ」

 鴉はバーストダッシュで一気に接近するとコードに斬りかかる。

「邪魔をするな!」

 コードは突っ込んでくる鴉に合わせて聖槍で突く。
 だが、鴉は空蝉の術で攻撃を回避すると、自分を見失った一瞬の隙をついてブラインドナイブスを仕掛ける。

「くっ!?」

 鴉のブレードフォンがコードの右腕に突き刺さる。
 コードはそれでも聖槍を振るい鴉を振り払う。
 三位一体の連携が鴉の出現で崩れ去ると、ハイ・シェンは槍を構えてルカルカの心臓に狙いを定める。

「これで形勢逆転ね! 死ねぇっ!」

 ハイ・シェンは槍に炎を纏わせてルカルカ目がけて勢いよく突く。が、槍の刀身に手が伸び、あろうことかそのまま鷲づかみにしてしまう。
 掴んだのは──輝だった。

「な……!? アンタ正気!?」
「っぐううううう! ああああああああああああああ!」

 輝は悲鳴のような叫び声を上げる。
 声を上げることでレゾナント・アームズに力が加わるが、それでも手は刃に深く食い込み、炎が血と肉を焼け、周囲に吐き気を催すような匂いが立ちこめる。

「今です――ルカルカさん!」

 輝が叫ぶと、ルカルカは再び聖槍を構え、

「はあああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 渾身の雄叫びと共に聖槍が伸び──ハイ・シェンの旨に突き刺さった。
 ルカルカは聖槍を刺したまま動きを止め、ハイ・シェンも動かなくなる。

「そんな……アタシは……まだ……死ぬわけには……」

 ハイ・シェンは力なく口を動かし、口元から血が零れる。

「ナラカに貴方の愛がある事を願うわ」
「……」

 ハイ・シェンは何かを言いたそうにルカルカを一度見つめると、膝を折って頭を垂れると、胸から血を流し続けた。

「ごめん……、ごめんね、みんな」

 人喰いの勇者ハイ・シェンは廃墟の地で、何も成せないままその生涯を終えた。