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【借金返済への道】美食家の頼み

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【借金返済への道】美食家の頼み

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 魔楔 テッカ(まくさび・てっか)はバナナを食しつつキノコ狩りをしている。
「普段からバナナを嗜むあたいが幻覚になど負ける事などありえないっ!」
 思いっきり鼻孔を膨らませジャタ松茸の匂いを嗅ぎ分けようとする。
「むっ? ちょっと違う土の匂いが……この辺りですなっ」
 遠くから何かの掛け声が聞こえてくる。
「……えっほ、えっほ……えっほ、えっほ……キノコー足りてますかぁ?」
 マッチョ神輿がテッカの前で止まる。
「!? あ、あなたは江戸時代の偉大なるバナナ『松尾芭蕉』先生ではないですかな!!」
 神輿の上に乗っているバナナを見つけるといきなり叫び出した。
「テッカよ、そなたに幻のバナナこと『パラミタ房バナナ』を持ち帰る事を許可しよう」
 偉そうなバナナが口を聞いた。
「そ、それはありがたきお言葉っ!」
 目前に現れた房バナナへと手を伸ばす。
「おおーっ! これが幻のっ! なんだか柔らかいんですな」
 現実では後ろを向いていた雄猪のバナナを掴んでいる。
「ぶひーっ!!」
 何が起きたのか解らず、猪が暴れ出す。
 全速力で前方へと駆けて行く猪。
 かなりのスピードが出ているのに、テッカは放す気配がない。
「風を感じるっ! 流石、『パラミタ房バナナ』ですなっ」
「ええー!? ちょっと、ええー!?」
 猪の行く先には皆を守ろうと来ていたウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)が慌てて戦闘態勢に入った。
 轟雷閃を急いで準備し、構える。
「はっ!? 轟雷閃をやるとツインスラッシュまでSPが回らない! しかたありません、轟雷閃だけでも十分でしょう」
 向かってくる猪の顔面へと切り込む。
 自分が走っていたスピードにウィングの攻撃が加わり、呆気なく猪は地面へと伏した。
 後ろで恍惚の表情を浮かべているテッカへ剣は当たらないようにしたが、雷は猪の体を伝いテッカを気絶させた。
「……そんな所を掴んで何がしたかったんでしょう?」
「幻の〜『パラミタ房バナナ』〜ですな……」
 気絶しながらもしっかりと放さない。
「騒ぎはここですか。世話を焼かせるなです」
 突然やってきたエレノア・レイロード(えれのあ・れいろーど)がホイップの所へとテッカを引っ張って行ったのだった。
「まるでお母さんみたいですね」
 その様子を苦笑いしながらウィングは見つめた。

「キノコの幻覚はね、芸術家の感受性やインスピレーションを向上させるんだって!」
「なに!? 本当でござるか? 初耳でござる」
 カッチン 和子(かっちん・かずこ)椿 薫(つばき・かおる)はそんな会話をしながらキノコ狩りをしている。
「うちのパートナーが言ってたんだよ」
「そうでござるか。カッチン殿は歌が好きでござったな」
「うん! だから幻覚見るの楽しみなんだぁ〜」
 暫く歩きながら談笑が続く。
 暖かな日差し、木の上から降って来る鳥の鳴き声、さやさやと枝を鳴らす程度の風、どれをとってもピクニック日和。
 たまに少し離れたところで猪と激突している音や幻覚にやられて何事かを叫んでいる声がするが、それもご愛敬となっている。
「むっ? せ、拙者の髪が……伸びているでござるー!」
 会話に突然現れた異変は薫からだった。
「へっ? 髪はつるつるのまんまだよ……あ、れ……? お母さん?」
 続いて和子が幻覚へと誘われた。
「これで拙者も思うがままの髪型に出来るでござるー!」
 薫はつるつる頭をぺちぺち叩き、喜びはしゃぎまわる。
「お母さん……だよね?」
 和子の方は木へと向かって泣きながら抱きついた。
「お母さん! お母さん! あたし頑張ってるよ……歌ももっと、もっと上手くなって、お母さんがあたしを産んで良かったって誇れるようになるからね!」
 2人の居た場所は人に気づかれにくく、ホイップが到着するまで少し時間がかかった。
「もう大丈夫だよ! まだ幻覚見えてる? 平気?」
 ホイップが2人の顔を覗き込む。
「はっ! 拙者は一体……」
「……薫さんは今までで1番喜んでいたみたいだから戻すのためらっちゃったよ」
「むぅ、まだまだ修行が足りないでござるな。ホイップ殿、かたじけない」
 正座をしてお礼を言う。
「……あっ! 今の幻覚なんだよね! じゃあ歌が上手くなっているはず」
 和子の口から鳥のさえずりの様な森に溶け込む歌声が流れてくる。
 歌い終わるとホイップと薫、そして近くに居た人達から拍手が送られた。
「上手くなってる……? やっぱり幻覚見るとうまくなるって本当だったんだ!」
「ん? そんな効能はないはずだけど……」
 ホイップが首を傾げる。
「えっ!? そうなの? ……うん、まあいっか。なんかすっきりしてるし」
 えへへ、と笑顔を見せる和子だった。

「むむ。結局、薬屋のおやじは匂い袋はあれ1個しかないと言っていた。目をキラキラさせたにも関わらず……という事は本当の事か」
 イレブン・オーヴィル(いれぶん・おーう゛ぃる)が腕組みをし、隣に話しかける。
「こちらはチャック付きビニール袋と樹様からいただいたマスクをゲットでございます」
 聖・レッドヘリング(ひじり・れっどへりんぐ)がイレブンとキャンティ・シャノワール(きゃんてぃ・しゃのわーる)へマスクを配る。
「とにかく、計画実行ですぅ」
 キャンティがそう言うとそれぞれ割と近くでジャタ松茸モドキを探し始めた。
「意外と見つからないものだな。それに、ありそうな木の根元には何やらキノコがあった痕跡がある」
「そちらもでございますか。こっちもそんな感じでございます」
 しゃがんでいた体を起こし、イレブンと聖が顔を見合わせる。
「こっちもですぅ……ん? 発見ですぅ!」
「でかした!」
 イレブン達が近くへと行こうとした途端、キャンティはアサルトカービンを構え撃ってきた。
「何をするのですか!?」
「危ないではないか!」
 すんでのところで弾を避ける。
 良く見るとキャンティはマスクを外している。
「ヒャッハー! 糞猫かよ! 試し撃ちの的にしてやんよっ!」
 もう一度構え、イレブンへと標準を合わす。
「迷惑になりますよ」
 イレブンへと注意が向いている間に光学迷彩を発動させ聖が間合いを一気に詰める。
 手にしていたデリンジャーで鳩尾に一撃入れ、ダウンさせる。
「はぁ……、ホイップを呼んでくる」
「お願いします」
 イレブンが動き、聖はキャンティの口元へマスクを装着させるのだった。

 巫丞 伊月(ふじょう・いつき)は和子と薫が幻覚にかかった辺りを探って見つけたジャタ松茸を手に笑顔になっている。
 すぐにチャック付きのビニール袋へと入れ、幻覚への対策をする。
「ぅんふふ〜。あ・と・は……」
 周りを確認すると人影はない。
「エレノアちゃ〜ん。キノコ発見したわよ〜」
 幻覚を見た人を介抱していたエレノアを呼ぶ。
「大人しくしていると思ったらそんな所でクソ真面目にキノコを探していたのですか。てっきり悪巧みでもしているのかと思ったのです」
「えっ? 伊月さんっていつも助けてくれてるよ?」
「あの下等生物は悪巧みを嬉々としてやるのです。今まで何もしていなかったのが不思議なのです」
「とにかく、行ってみよう? なんだかキノコがなかなか見つかってなくて……だから、ね?」
「はぁ……解ったのです。でも用心をするに越したことはないのです」
「うん」
 伊月の元へと歩きつつ2人は会話を楽しむ。
 到着すると誰もいなくて、少しさみしい感じがする。
「こっちよ〜。あらあら? ホイップちゃんまで……ちょっと予定が狂ったわねぇ〜」
「何がですか?」
 エレノアは伊月がぼそりと呟いたのを聞き逃さない。
「まぁまぁ、ほらっ。これ!」
 袋に入っているキノコを見せびらかす。
「本当に見つけるとは下等生物なのに良くやったのです」
「今よ〜」
 エレノアを後ろから羽交い絞めにすると袋を開けて鼻と口を袋の口にぴったりと付ける。
「な、何するのです!」
「伊月さん!?」
 いきなりのことにホイップが固まる。
「ああ! これはあまりに高過ぎて手の出せなかった高級鍋! あそこには高級お玉なのです!」
 地面に這いつくばって良く解らないキノコを鷲掴みにしだす。
「エレノアさん!? 今、匂い袋を――」
「次はホイップちゃんの番よ〜!」
「きゃ〜っ!」
 悲鳴を聞き付け、直ぐに現れたのはコウジだった。
「ホイップ、大丈夫でありますか!」
「あら、あなたでも構わないのよ〜。ぅんふふ〜」
 新しい目標をロックオンするとホイップを解放し、コウジの鼻近くにキノコを持っていく。
「ぐはぁっ!! ……あれは……死んだはずの母上? 養母上様も。おかーさーん!」
 近くにあった白に赤い斑のキノコをちゅうちゅうと吸いだし、木に甘えているように見える。
「あらあら……うふふ。やっぱり楽しいわねぇ。さ、残るはメインのホイップちゃんだけよ〜」
 首を横に思いっきり振って拒否の意思を示す。
 迫る伊月。
 後ろは木。
「ホイップ殿の姿が見えなくて心配して来てみれば……まったく何をやっているんだ」
 伊月の後ろから忽然と現れたのは黎だった。
 状況を見て、直ぐに判断すると伊月の背後から袋を奪い、伊月の鼻へと当てた。
「あらあら……沢山の人が幻覚にやられてるのねぇ〜。面白いわぁ〜」
 幻覚でも今と対して変わらないのは流石というべきだろう。
「ホイップ殿、大丈夫か? 伊月殿以外を早く匂い袋で」
「あっ、うん。そうだね! 黎さん助けてくれて有難う!」
「ホイップ殿はもう少し警戒をした方が良い! 全く危なっかしい」
「あ、あはは。早く皆を元に戻すね!」
 逃げるようにエレノアの元へと走る。
「高級調理器具達はどこにいったのです!?」
「はっ! 僕は何故キノコを吸っているのでしょうか?」
「もう大丈夫だね。あとは伊月さん――」
「いや、伊月殿は暫くあのままで。自業自得だ」
 黎の一言でホイップの側には置いておいて幻覚はそのままという状況になったのだった。