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吟遊詩人の美声を取り戻せ!

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吟遊詩人の美声を取り戻せ!

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人食い虎あらわる

 ジャタの森の様相が変わってきた。
 これまでは、木々が鬱蒼と生い茂る密林地帯だったのに、ここにきて、普通の優しい森のような感覚を一行は覚えていた。
 それに、心なしか、甘い香りが漂ってくるような空気すらある。
 神和 綺人(かんなぎ・あやと)は、鼻をヒクヒクさせていた。

「なんだかいい匂いがするような・・・・・・もしかしたら、もうパラミタミツバチの巣は近いのかな? ん、でも巣の近くには人食い虎もいるみたいだし。採取している間に背後を襲われたら大変だ。警戒は怠らないようにしよう。よし、殺気看破!」

 クリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)も神和 綺人にならって殺気看破を発動。

「そう、パラミタミツバチと戦っている最中も、虎には気をつけないと。いきなり襲われて、アヤが食べられちゃったら大変ですからね!」

 すると、ユーリ・ウィルトゥス(ゆーり・うぃるとぅす)がすかさず横槍を入れる。

「クリス、他人事のようなこと言って・・・・・・綺人も捕食対象に入るのならば、お前も十分入ると思うが?」

 そう言いつつ、ウィルトゥスも禁猟区をかける。

 しかし、神和たちが慎重に警戒しているのに気づいていないのか、少し離れたところでは鹿島 斎(かしま・いつき)が下手な鼻歌をうたいながら歩いている。
 密林の藪をバッサバッサと薙ぎ払ったりと、騒ぎながら進む様子に、他の生徒たちは思わず眉をひそめた。
 見かねた天城 一輝(あまぎ・いっき)がそれとなく注意する。

「おまえ、あんまり大きな声を出すなよ。グレートキャッツ達を刺激するだろ・・・・・・という俺も戦いは人任せだけどね」

 しかし、天城 一輝(あまぎ・いっき)の注意は遅かったようだ。
 鹿島 斎(かしま・いつき)のたてる音に、森の王者が目覚めてしまったらしい。

 ガサガサ・・・・・・
 向こうの藪でなにかが動く。葉の揺れ具合から、かなり大きい動物のようだ。しかし、身体が迷彩色であるためか、その姿がよく見えない。

 ・・・・・・やがて、その動物は姿を現した。虎だ。さきほどのサーベルタイガーよりも確実に大きい。体長はゆうに3メートルはあるだろう。

 パートナーたちと警戒を強めていた水無月 零(みなずき・れい)の禁猟区が反応する。

「と、虎よ! さっきのサーベルタイガーより大きいわ」

 振り向いた神崎 優(かんざき・ゆう)が見たものは、体長が3メートルもあろうかと思われる、虎の巨躯だった。

「これは、人食い虎だな」

 虎はのっそりと近づいてくる。
 神代 聖夜(かみしろ・せいや)は前に出ると、獣人の特性を生かしながらパートナーたちを護衛しつつ、人食い虎に対峙した。巨大な猛獣に向き合っているものの、不思議と恐怖感はわかなかった。

「だって、みんなを信頼しているからな」

 いざ、戦闘が始まった。
 神崎 優(かんざき・ゆう)神代 聖夜(かみしろ・せいや)をサポートしつつ、攻撃を加える。
 また、水無月 零(みなずき・れい)は、後方にさがり、戦うパートナーの回復に余念がない。
 ただ、神崎も陰陽の書 刹那(いんようのしょ・せつな)も、魔法は使わなかった。

「森のなかで爆炎波や轟雷閃を使ったら、火事になってしまうからな」

 橘 恭司(たちばな・きょうじ)は感心していた。

「戦いの最中にも、自然環境を守ろうという意識はさすがですね、神崎君。俺もラナ・リゼットと高原 瀬蓮を守るべく、戦いますよ」

 すると、ラナ・リゼットは手助け無用とばかり、自らバスタードソードを構えて虎に向き合った。吟遊詩人とはいえ、元は騎士。戦うことに臆するラナではなかった。

「そうか、では共に!」

 こういうと、橘 恭司(たちばな・きょうじ)は雅刀と高周波ブレードを交互に使いわけ、また、狭く木々が立ち込めた森の中で、軽身攻を効果的に使っていた。
 しかし、森は地理は虎のほうに分があった。人食い虎の素早く繰り出す攻撃には、さすがの橘も疲れの色を見せた。

「む、ここはひとまず他の人に任せて離脱しよう。バーストダッシュ!」

 ガキーン!
 虎に最後の一撃を加えると、その場を離れた。
 次に瀬蓮を守るべく、虎に立ち向かったのはシュネー・ベルシュタイン(しゅねー・べるしゅたいん)クラウツ・ベルシュタイン(くらうつ・べるしゅたいん)のふたりだ。手に持ったアサルトカービンを構える。

「瀬蓮には、そう簡単に近付けさせません!」
「そうだ、このスプレーショットを受けてみろニャー」

 ふたりから同時にスプレーショットを浴びせかけられた人食い虎は、苦しそうに顔を背けた。
 つづけて藤原 雅人(ふじわら・まさと)が虎の足元に銃撃を加える。

 立て続けに飛び道具の応酬を受けた人食い虎は、思わず茂みの中に逃げ込んだ。

「ふう、とりあえずいなくなったわね。でも雅人さん、あなたなんで虎を撃たなかったの?」

「ああ、シュネー。僕は撃たない。だって、やつらは野生のルールに従って生きているだけなんだ。無法を働いている訳じゃないし可哀想だろ、虎だって生きてるんだぜ」

「そうよね・・・・・・」

 藤原 雅人(ふじわら・まさと)は、銃をクルクルッと格好良くスピンさせながらホルスターに戻した。

「僕は保安官だ。人々、特に女の子たちを危険から守るのは僕の義務だと思っている。なにより百合園はお嬢様高だろ? またいつ虎が現れるかもしれないから、女性たちは僕の後ろについていてくれ」

 女性の前でひたすら格好いいところを見せようとする雅人を、パートナーのローゼ・ローランド(ろーぜ・ろーらんど)は若干困惑して見ていた。

『雅人様がトラウマを克服されて、卑怯外道の道から正道に復してくださったことは嬉しいのですが・・・・・・なんでしょうか、そばで見ていると保安官・・・・・・もとい、不安感が襲ってきます。雅人様は、ちょっと自信過剰なところがありますからね。格好つけすぎて大失敗しないように注意しないと・・・・・・でも、さすがは無類の猫好きの雅人様、虎を撃たなかった。これは評価します。よし、これからも私がちゃんとフォローしないと。何者にも雅人様を傷つけさせはしませんわ』

 こう思いをめぐらしつつも、ディフェンスシフトを崩さないローゼ・ローランド(ろーぜ・ろーらんど)であった。

 と、再び人食い虎が一行に向かってきた。手負いの虎は非常に危険だ。
 ラナ・リゼットたちのそばで護衛をしていた鹿島 斎(かしま・いつき)は、剣技で応戦するが、太刀打ちできない。
 素早く瀬蓮を小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)に託すと、大声でパートナーに助けを求めた。

「きゃー、助けてー。わらわ達はぴんちじゃぞー」

 いかにも棒読みなセリフに拍子抜けした鹿島 斎(かしま・いつき)だが、そこは助けなければならない。不器用ながら敵に立ち向かう。
 彼は、自らダメージを負いながらも、的確に相手の爪や牙を攻撃していった。
 ビーストマスターのマリー・ランカスター(まりー・らんかすたー)も、光精の指輪で援護射撃。目くらましをくらわせたところを、適者生存で追撃する。
 遠くからは、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が瀬蓮を守りつつ、強化型光条兵器ブライトマシンガンを発射。
 あまりの執拗なる攻撃に、ついに人食い虎も怒りの矛を収め、その場から立ち去っていったのだ。

「ふう、大変じゃったのう。斎のおかげであのしつこい虎のやつ、やっと逃げていったぞ」

「カカカッ! でかい猫に敗れる斎ではない」

 パートナーに誉められ、高笑いをする鹿島 斎(かしま・いつき)であった。

「ほら、斎くんも雅人くんも、こんな怪我しちゃって・・・・・・私が治してあげるから。ほらヒール。ほらナーシング・・・・・・」

 こういって負傷したふたりを優しく介抱するのは小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)。甲斐甲斐しく治療する彼女の姿は、まるで天使のようであった。