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リアクション
「来た!」
一緒に参加した仲間からの連絡を待っていた藤川 隼(ふじかわ・はやぶさ)が、メールの受信に気付いて喜びの声を上げる。
「……なんだこりゃ……」
合い言葉に一瞬首を傾げるが、それが合い言葉なら仕方がない。隼はレク研の部員を捜すために移動を始めた。
足音を立てないようにレビテートを発動させてそっと移動する。
が、役立つスキル等があるわけでもなくなかなか見付けることが出来ない。ルカルカが配信したメールには目を通して居るのだが、行ってみたらただ不正がないよう見回りをしているレク研部員だった。
「隠れてた方が得策だったか……?」
動き回るということは発見される可能性が上がるということだ。隼はむぅ、と口をへの字に結んだ。
と。
足音に気付いて後を振り向く。
サングラスを掛けた黒いTシャツに気付き、慌てて走り出す。が、時既に遅く、十分に勢いの付いていたオニの足からは逃れることが出来なかった。
「ありゃりゃー、先越されちゃったにゃん……」
パートナーのエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)に、じゃあ合い言葉聞きに行ってくるにゃん! と一声、元気に出発しようとしたクマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)が、配信されたメールを見てがっくりと肩を落とした。気合い十分だった為に反動が大きい。
「仕方ないな……一緒にレク研の人探そう?」
エースが慰めるように、ねこみみのフード越しにクマラの頭を撫でる。
「よし、オイラがんばる!」
すぐにスイッチを切り替えたクマラが走り出すのを、油断無く殺気に気を配りながらエースが追う。
あっちかな、こっちかな、と落ち着き無くあちらこちらを探すクマラ。
一方エースは、落ち着いて辺りの気配を探りながら探している。
「……うん?」
すると、エースが何かを感じて足を止めた。そこにあったのは、何の変哲もないコンクリ造りの売店とおぼしき建物。
「クマラ、ちょっと乗れ」
そう言ってその場にしゃがみ込み、クマラに視線で肩車に乗るよう要請する。どうしたにゃん、と言いながらも、クマラはぺたぺたと走ってきてエースの肩に乗った。そのままよっこらせと立ち上がると、エースはクマラに小屋の上を調べさせた。
「あ、居たにゃん!」
「見つかっちゃいましたね」
そこに居たのは、腕に腕章を着けた一人の女子部員。軽い身のこなしで屋根から飛び降りてくると、合い言葉をどうぞ、と笑う。
クマラを肩から下ろしたエースは、何処からともなく薔薇の花を一輪取り出すと、ス、と彼女へ差し出した。
「となりのたけがきにたけたてかけた……ですね?」
優雅な仕草にぽっと頬を染めた彼女は、正解です、と小さな声で答えた。
【二人目のレク研部員が発見されました。残り三人】
「……ダメか……」
赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)が、手を突いていた木から手を離して呟いた。
サイコメトリを使いレク研部員の足跡を辿ろうとしたのだが、残念ながら彼、あるいは彼女は気軽な気持ちで隠れたらしい。サイコメトリで読み取れるほどの強い思念は残っていなかった。
「こちらを当たってみるか……」
霜月は、ルカルカから送られてきた不審者情報のメールを開く。
優斗からの情報メールと併せて、レク研部員の居そうな地点に目星を付ける。一番近いであろうポイントにターゲットを絞って捜索に当たると、果たして黄色い腕章を着けた女子生徒が、公園整備のための資材だろう、木材などが積まれたその影に潜んでいた。
「となりのたけがきにたけたてかけた」
霜月が告げると、女生徒はにっこり笑って、指を合わせてマルを作った。
【三人目のレク研部員が発見されました。残り二人】
「合い言葉も解ったことですし、レク研部員の方を探しますわよ!」
海からのメールを確認したクリアンサ・エスパーニャン(くりあんさ・えすぱーにゃん)は、パートナーのレイチェル・スターリング(れいちぇる・すたーりんぐ)と共に西エリアを探し始めた。
超感覚を使って何となく気配を探ると、周辺に潜むいくつかの気配。かなりあるのでそのいくつかは参加者のものだろうが、恐らくレク研部員のものもあるだろう。
「行きますわ」
クリアンサはすぅと息を吸って意識を集中すると、アボミネーションを発動させ、凄まじい気配を発した。
すると、物影からいくつかの影が飛び出してくる。が、その中に黄色い腕章は無い。その代わり。
「あ、オニ」
黒いサングラスは混ざっていた。レイチェルが見付けて指さす。
こちらを見付けた黒サングラスは、頭を振って正気を取り戻すとこちらに向かって走ってくる。二人は慌てて踵を返した。
が、オニの方が足が速く、あっという間に追いつかれてしまう。オニがクリアンサに向かって手を伸ばした。腕を掴まれる。
クリアンサが振り向く。オニがバランスを崩して倒れ込んでくる。腕を掴んでいた手が外れて、クリアンサの胸をわしっと――
「こらーっ!」
レイチェルが咄嗟に光術を放った。目を灼かれたオニはその場にしゃがみ込む。
「お姉さまに勝手に触らないでよね!」
「は……はあ……」
しゃがみ込んだままのレク研の部員を見下ろし、レイチェルが強い口調でお説教をする。
その後ろでクリアンサが、「残念な胸」発言にちょっと落ち込んでいた。
「お姉さまの残念な胸に触っていいのは私だけなんだもん!」
「はいはい、確保ー」
延々とオニ相手に説教しているレイチェルの後から、もう一人のオニがやってくると、そっとレイチェルの肩を叩いた。
さて、こちらでは一人のレク研部員が、クリアンサの放ったアボミネーションのとばっちりを受け、うっかり悲鳴を上げて飛び出してきていた。
「そなたは研究会員?わたしくに素直にお話なさい」
その黒いTシャツ姿の男子を見付けるなり、ずずずいっと迫っているのは神皇 魅華星(しんおう・みかほ)だ。高飛車な、しかし有無を言わせない物言いに、詰め寄られた男子生徒はブンブンと首を振る。
「はっ、はい、そうです!」
「となりのたけがきにたけたてかけた、でよろしいですわね?」
「ははは、はい! よろしいです!」
レク研部員が両腕で大きなマルを作ると、魅華星はスッと身を引いて満足そうに笑った。
と。
「殺気ですわ……!」
ディテクトエビルで何かを感じた魅華星は、咄嗟に封印解凍を行い自らの身体能力を向上させ、その場に暗術の闇を展開する。
「そなた達ではわたくしに触れることは叶いませぬっ」
桜色のフリルたっぷりスカートの裾を翻し、魅華星はその場を軽やかな足取りで離脱した。
【二人目のレク研部員が発見されました。残り一人】
「この時期にこの格好は流石に暑いな……」
木の幹の影に隠れてそうぼやくのは、ブラックコートをきっちり着込んで気配を消している佐野 亮司(さの・りょうじ)だ。
隠れ身と隠形の術を併用して姿を隠した上にブラックコート、ついでに木の幹の影に隠れて影もカムフラージュしてしまえば絶対に見つからない自信があった。
と、そこへ海からの一斉メールが届いた。
「なずなは捕まったか……」
打ち合わせしていた友人からの連絡でなかったことに少し残念な気持ちを覚えながら、しかし合い言葉が解った以上作戦は決行だ。
亮司は気配を断ったまま木陰から躍り出た。
そして、自らが纏っている魔鎧、藤堂 忍(とうどう・しのぶ)の力を借りて辺りの気配を探る。殺気はないようだ。
「オニは近くに居ないようだな」
至近距離から聞こえる忍の声に頷いて返すと、亮司はルカルカから回ってきたメールの情報を参考に、気配を探りながら移動を開始する。
と、足元に謎の気配を感じた。
何だ、と思ってそちらに視線を遣ると、道路脇の土が不自然に盛り上がっている。堆肥でも積んであるのかと無視していたのだが、気配は確実にその中からだ。よく見れば、わかりにくいように空気穴らしきものも開いている。
その穴からごりごりと爪先で土山を突き崩してやると、中から泥だらけの男が姿を現した。腕には黄色い腕章。
「あー、見つかったかー!」
「……よく潜ってたな……」
忍が呆れたような声を上げる。
「さ、合い言葉は?」
「となりのたけがきにたけたてかけた」
泥だらけの腕が、大きなマルを作った。
【全てのレク研部員が発見されました。試練2は成功しました。】
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