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リアクション
■□ 試練 その2 □■
【中央エリア・運営本部で合い言葉を聞き、西エリアに隠れているレク研部員に伝えて下さい。制限時間は五分です】
【合い言葉を伝えられなかったレク研部員は、一人に付き五人のオニを解放します。】
【補足:隠れているレク研部員は黄色い腕章をしています。目印にして下さい】
進行状況を伝える一斉メールが送信された。
「始まったわね……」
詩刻 仄水(しこく・ほのみ)は、メールを確認するとふぅ、と息を吐き出した。
西エリアに潜み、一緒に参加している友人から合い言葉の連絡を待つ手はずになっている。おそらくは西エリアにオニが集まってくるだろうから、それまでなんとか逃げ切らないと……
「みーっけ!」
そう決意したその瞬間、目の前に黒いサングラスを掛けたミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)がこちらを指さしていた。
まずい、と慌てて踵を返すが、如何せん見つかった時には至近距離すぎた。つかず離れずで暫く追いかけっこが続いたが、逃げ切れないと判断した仄水はくるりとその場で踵を返す。そして、ばっ、と両腕を広げるとミーナに向かってニッコリと微笑みかけた。
一瞬え、と思ったミーナだったが、しかしまるでハグを要求するように広げられたその腕には逆らえない。わぁい、と女の子独特のはしゃいだ声を上げて、仄水の腕へと飛び込んだ。
「えへへ、捕まえたぁー」
「捕まったぁー」
ぎゅぅー、とお互いに実益を兼ねて固いハグを交わしてから、ミーナは仄水を中央エリアへと連行していくのだった。
「さて、これでよしっと……」
手にしたチョークで木の幹に数字を書き込むと、風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)はぱんぱん、と手を払う。
それから携帯電話を取り出すと、参加者への一斉メールを送信した。
「優斗お兄ちゃん、何してるの?」
その手元を、優斗のパートナーであるミア・ティンクル(みあ・てぃんくる)が覗き込んで聞く。
「情報共有をスムーズにするために、木に番号を振ったんですよ」
ミアの問いかけに笑って答えると、優斗は携帯電話をポケットへ戻す。
「何処が何番かを皆さんに送信しました。これで、何番の木の近くにオニがいる、とか、レク研部員が居る、とか情報の共有が簡単になります」
「お兄ちゃん、すっごーい!」
「じゃあミア、他の人が合い言葉を聞きに行っているだろうから、その間にレク研の部員さんを探しましょう」
「はーい!」
優斗に言われ、ミアは一緒に連れてきたゆるスターやわたげうさぎなどのペット達を公園に放った。
「優斗お兄ちゃん、僕、頑張るね」
ミアはニコニコと優斗に声を掛けた。優斗がミアの頭を撫でてそれに応えようとした、その時。
「確保ー」
後から忍び寄っていたオニが、ぽん、と二人の背中を叩いた。
「へぇ……面白いこと考えた人がいるのね」
優斗からの一斉メールを受け取ったルカルカ・ルー(るかるか・るー)は、すぐさまその番号を元に、怪しい人物の位置を全員に伝える為のメールを作成する。
事前に、公開されているレク研の名簿を頭に叩き込んで置いたのだ。今日から入部、或いは体験入部の様な状態の人間もいるようで全員の顔と名前までは判明しなかったが、それでも記憶にある人間が西エリアのそこここに潜んで居ることを、第2フェーズの間に確認している。
「ルカ、誰か来たぞ!」
メールを作成しているルカルカの背中を守っていた夏侯 淵(かこう・えん)が、オニの姿を見付けて声を上げる。
ルカルカは素早く作成したメールを送信してしまうと、連れていたフラワシをオニに向けて放つ。そして淵と二人、ダッシュローラーでもってその場を素早く離脱した。
「うわわっ……!」
鉢合わせてしまったオニからバーストダッシュで逃げながら中央エリアを目指しているはコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)だ。
地面すれすれを最高速度で駆け抜けていけば、オニはコハクに手出しすることが出来ない。
数人のオニが中央エリアへの道を固めていたものの、素早く足元を通り過ぎて、何とか中央エリアの本部テントまでたどり着いた。
「一番乗りおめでとうございまーす」
そこでは、スタッフの黒いTシャツを着たレク研の部員が待っていた。
「あ、合い言葉は……!」
「はい、いいですかー、合い言葉は『となりのたけがきにたけたてかけた』です。いいですか『となりのたけがきにたけたてかけた』ですよ。噛まずに伝えて下さいね」
「とっ……となりのたけがけ……いや、解りました」
コハクは慌てて、パートナーの小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)へ電話を掛ける。
「合い言葉聞けました……となりの、たて……たけがき、に、たけ、たてかけた、です」
「え? え? となりのたけがきにたっ……たけ、たてかけた?」
パートナーからの電話を受けた美羽は、予想外の早口言葉に狼狽えながらも解った、と答える。
「まあ、これなら一度聞いたら忘れないよね! 早く見付けないと!」
美羽は連れているフラワシを辺りに展開し、人海戦術ならぬフラワシ海戦術でレク研部員を捜索する。
すると、程なくしてフラワシから反応があった。
桜の木の上、生い茂った葉の影に隠れている、黒いレク研Tシャツに黄色い腕章、間違いない。
「みーっけた!と……となりの、たけ、がきに、たけ、たて、かけた!」
美羽が木の下から声を掛けると、木の上のレク研部員は両の腕で大きなマルを作った。
【ひとりめのレク研部員が発見されました。残り四人。】
その、少し前。
コハクが本部へ向かっているとは知らない木本 和輝(きもと・ともき)と四季 椛(しき・もみじ)の二人もまた、本部を目指して走っていた。元々中央エリアの外れに潜んでいたので、そう距離はない。
が、本部へ続く道には数人のオニが待機していた。おまけに先ほどコハクがバーストダッシュで振り切ったオニ達が、さらに警戒を強めている。
「イザとなったら俺が囮になるから、椛は合い言葉聞きに行ってくれ」
「は、はい……私に出来るでしょうか……」
「大丈夫やって。信じてるからな」
走りながら、和輝がニッコリと笑う。それに自身を貰った椛は、こくりと力強く頷いた。
が。
二人の行く手には、四人ほどのオニが結集していた。
「ふ、二手に分かれるぞ!」
こっちだ、と大声を上げて和輝はオニを引きつけようと走り出す。しかし、オニは冷静に二手に分かれると、二人の行く手に立ち塞がるのだった。
「い、いくよ、海くん!」
和輝と椛が捕獲されていた頃、西エリアで合流した芹 なずな(せり・なずな)と高円寺 海が中央エリアを目指していた。
「いざとなったらボクが囮になるからね! 海くんは合い言葉の一斉メール、頼んだよ!」
どこかで聞いたような台詞と共に、なずなは禁猟区を展開する。
「ああ……解った」
海が真剣な顔で――ただし、視線は前を向いたまま――頷いた、その時。
「来た!」
なずなの禁猟区が反応した。
「あっちにオニいっぱい居るみたい。あっちが手薄になってるから、海くん、そっちから回って!」
ボクなら大丈夫、と告げてなずなは海の背中を押す。
「気をつけろよ」
「ありがと!」
ちらりと一瞬だけ目配せをすると、二人は分かれて走り出す。
なずなはわざとオニの集まっている地点を目指して走り出す。そのため、オニはなずなに気を取られて海の行く道のガードが緩む。
その隙をついて、海は本部まで一直線に走った。
「はい、お疲れ様でした。合い言葉は『となりのたけがきにたけたてかけた』です」
「……は?」
「『となりのたけがきにたけたてかけた』です。頑張って下さいね」
ニッコリと笑うレク研の部員をよそに、海は慌てて携帯電話を取り出す。そしてなずなと打ち合わせしたとおり、参加者への一斉メールを送信した。
【合い言葉は、「となりのたけがきにたけたてかけた」】
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