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第十二章 未来に続く夜
「俺は、緋山政敏ってんだが、君の名前は?」
 屈みこみ、告げた政敏。
「お前達を一人前の良い子と見込んで、俺達に力を貸して欲しい」
「そうだな。それに約束しただろう、私の仕事を手伝って貰う、と」
「フラメルったら。でも、手伝って貰えたら嬉しい、かな」
「手伝ってくれたら、いいものあげるよ♪」
 政敏のフラメルの終夏のルカルカの言葉に、少年は暫くためらってから、応えた。
「……イクタだ」
 名と、それから頷きとで。
 思い出してクスリと口元をほころばせた政敏は。
「くしゅん」
「おっ、悪かったな気付かなくて」
 聞こえた小さなクシャミに、政敏は自分のマフラーをふわり、と子供の首に巻いてやった。
「はい、どうぞ」
「風邪ひいたらダメだものね」
 それを羨ましそうに見つめた子供に、カチェア・ニムロッド(かちぇあ・にむろっど)リーン・リリィーシア(りーん・りりぃーしあ)もまた自分のマフラーを贈った。
「……変な大人」
「それ言ったら、今夜会ったのってみんな変だよ」
「でも、あったかい」
「まぁ、な……」
 マフラーを巻いてもらった頭には、ちょこんと間に合わせの赤いサンタ帽。
 彼らが向かうのは、プレゼントを待つ子供の元。
 そう、政敏の頼みとは、「プレゼントを配る道案内」だった。
「フレデリカさんが分かってくれて、良かったわ」
「まっ彼女は優しいし……サンタクロースは子供が大好きだしな」
「……あの子達は……悪い子では……ないのですか?」
 と、今までずっと黙って何かを考え込んでいたエンジュが、ポツリと零した。
 見つめる瞳は、揺れていた。
「サンタさんみたいに空を飛びたい?」
 視線の先ではリーンが【空飛ぶ魔法↑↑】を使っている。
 空に溢れる、きゃらきゃらという笑い声。
「エンジュはどう思うんだ?」
「私は……」
 長い沈黙の後、エンジュは「分かりません」と答えた。
 盗みは、彼らがしたのは「悪い事」で。
 けれど今、目の前の彼らは「悪」には見えなくて。
 子供だから許されるのか、聖夜だから許されるのか。
 ならば善悪は、その境界線はどこなのか?
 それに。
「私は……私も壊すだけなのかも……しれません。奈夏の……誰かの命令がなければ……指示がなければ動けない……そんな存在なのかも……しれません」
 エンジュの脳裏に浮かぶ、ハツネの言葉と姿。
「そう難しく考える事はないさ」
 ショートしそうなエンジュを、政敏はぽんぽんと頭を軽く叩く事で止めた。
「零れ落ちるのなら、『手の空いている奴ら』が何とかすればいい。間違ったなら、正せば良い。借りて行くし、返していけばいいからさ」
 触れ合い支え合い補い合い、そうして人は生きていくのだから。
「人を想って心を形にするのは難しいですが、知ると出来る事は広がると思います。出来れば、知ることから始めてみて下さい」
 エンジュに、そして子供達に、カチェアは告げた。
 これからたくさんの事を知って、色々な事をして、そして心を育てて欲しい、と。
 その言葉の意味を、今はまだ分からなくても。
「あっ、こっちの道の方が近いよ」
「こっち、こっちだよ」
 睨んだ通り、街の通りや抜け道に詳しい子供達は、一生懸命に政敏達を案内し。
「懸命に生きてんだ。なら、それを繋たい」
 誰だって、誰かから何かを奪って生きるより、誰かの役に立って生きたい。
 いつかこの子供達もまた、誰かとたくさんの人達と繋がって繋げていって欲しい。
 嬉しそうに声を弾ませる子供達の後を追い、政敏は足を速めた。

「……サンタさん?」
 人の気配に起きたのだろう、小さな……自分達と変わらぬ声に、子供達はギクリと身を強張らせた。
 赤いサンタ帽を乗っけているとはいえ、自分達は怪しいし、終夏とニコラはブラックサンタだし。
 けれど、まだ夢うつつなのか、ことりと小首を傾げたままの少女は、
「ありがとう、サンタさん」
 嬉しそうに笑って。
「……メリークリスマス
 どこか泣きそうな声で囁いた子供の頭を、終夏は無言で撫でてやった。

「本当は、知ってたんだ。このままじゃ冬は越せないって」
 プレゼントを配りながら、ポツリ零れた言葉にルカルカはじっと耳を傾けた。
「死ぬか捕まってどっかに入れられるか……俺達はどうしようもないくらい、子供で」
 空から少しだけ降りてくる雪は不思議と冷たくなくて。
 ただ優しくミニスカサンタや子供達をかすめていく。
「だから最後にどうしても、上げたかったんだ」
「手に入らない、どうしても欲しいモノの代わりに?」
 ルカルカは少し、笑んだ。
 住所を居場所を持たない子供の元にはプレゼントが届かない、届けられない。
 プレゼントを貰えないという事は良い子でないという事で。
 だから不安でだから怖くてだから、肯定が欲しくて。
「手段は間違ってたけど、でも、行動したのは良かったかな。ルカルカやフレデリカに会えたし」
 だからそう、昏い道に堕ちる前に掬い上げる事が出来る。
 正しい道に導く事が出来るのだから。
 そして。
「は〜い、コレにて無事終了でっす!」
「みんな、よく頑張ったわね!」
 ペッタンコになったリュックを指し示したルカルカとアコに、頬を紅潮させた子供達が顔を輝かせた。
「とりあえず、これはイクタ達にね」
 アコのカプセルのリュックからルカルカが取りだしたのは、セーターにケーキ……プレゼントだった。
「あぁ、孤児院に行けば分かるけど、ちゃんと他の子の分もあるから」
「君達はサンタクロースの仕事を手伝ってくれた……『良い子』だからね」
 政敏や、やはりクリスマスケーキをチラつかせる終夏。
「さあ、フレデリカさん所行って食べましょう♪」
 差し出されたそれにまだ実感の湧かないだろう子供の背を、ルカルカは促した。
「あっでも、とりあえずフレデリカさんに『ごめんなさい』言おうね?」
 孤児院の前、その姿を見つけたアコは言って。
「ベアトリーチェにもちゃんと謝るのよ」
「そうですね。人から物を取るのは悪い子ですから、それだけはちゃんと反省しないと、です」
 フレデリカと同じく待ち構えていた美羽とコハクが、頑張って表情を引き締め、告げた。
 その周りには、イクタ達を心配して待っていた、子供達もいて。
「「「「「ごめんなさい」」」」」
 大きな、少しだけ濡れた声で言って頭を下げたイクタ達に、フレデリカは目を真ん丸にしてから、ふわりと小さく微笑み。
「良く言えたわね」
 ルカルカとアコはその小さな身体達をギュッと抱きしめ撫で。
「はい、もう怒ってませんよ」
「じゃあ、ごめんなさいタイムはもう終了ね☆」
 ベアトリーチェもまた、優しく告げて傍らの子供達を抱き寄せ。
「さっ、早く中に入って! 準備はバッチリなんだから♪」
 美羽がウインクしながら上げた扉から、明るい光があふれた。