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第十三章 ハッピークリスマス
メリーィクリスマスー!! パーティの始まりよー!
 すぱーん!という巨大クラッカーの音。
 サンタ姿の神楽 授受(かぐら・じゅじゅ)の鳴らしたそれが、クリスマスパーティー開始の合図だった。
「よーし、今年も一年生き残ってたわねガキども!」
 孤児院に、ヘイリーの快活な声が響く。
「【『シャーウッドの森』空賊団】は差別をしない! 頑張って生きたあんたたちにクリスマスプレゼントよ!」
「やっふぅー! 今年もスカサハは可愛いサンタ服を着ていっぱい頑張るのであります!」
 クリスマスケーキやドーナツにホワイトクッキー、レインボージュースを配るスカサハとカリンも負けてないテンションだ。
「ハッ! 勘違いすんな。別に朔ッチに言われて作っただけだかんな!……いっぱいあるからゆっくり食べろよ!」
 カリンは嬉しそうに寄って来た子供達にそっぽ向きながら、告げた。
「まあ、感謝するんなら真っ当になってもらおうか?」
「もう、悪い事しちゃダメだからね。お姉ちゃんと約束だよ♪」
「絶対の絶対にゃ!」
 葵とイングリットもまた言い聞かせながら、サンタさん最後の仕事を楽しむ。
 プレゼントを渡して行く、ストリートチルドレンにも孤児院の子供にも、わけ隔てなく。
「うんうん、慌てないでね。みんなの分、ちゃあんとあるから♪」
「サンタさん、ボクも貰って、いいの?」
「はい、勿論ですわ」
 おずおずと差し出された手に、ジュジュのパートナーであるエマ・ルビィ(えま・るびぃ)は優しい笑みでプレゼントを渡した。
「わたしもジュジュについてきましたけど……やっぱり、こんな派手な服、すこし恥ずかしいですわね……」
 ただ、ミニスカのベアドレス……ちょっとセクシーなサンタ服は、少しだけ恥ずかしい。
「このほうが旦那さん喜ぶよ」
 とジュジュが「にひひ」と実にイイ笑顔で選んでくれたのだが。
「え〜、そんな事ないよ。エマ、桃色の髪に似合っててかわい〜☆」
「うんっ! すごいステキだよ」
 そんなエマにジュジュと夜魅は口々に言う。
 実際、それはお世辞なしの感想であった。
「あっ、もちろんジュジュのサンタさんも、すっごい可愛いよ!」
「ありがと〜、夜魅もかわいーなぁもう☆」
 むぎゅぎゅっと夜魅を抱きしめてから、ジュジュはニコッとエマに笑い掛けた。
「だからそんな顔してちゃ、勿体ないぞ☆」
「そうですね。子供達だって心配しちゃいますものね」
 エマはまだちょっとある恥ずかしさを笑顔に変えて、子供達へプレゼントを手渡していく。
 変わっていく増していく、子供達の嬉しそうな顔に目を細めながら。
「お手伝いは良い事だよね。良い事をした子供達は、良い子だ」
 終夏は言って、クリスマスケーキを差し出した。
「だから受け取って良いの、食べて楽しんでいいんだよ」
 こじつけかもしれない、けれど。
 だけど今日は、クリスマスなのだから!
「クリスマスは子供の為の日だ。君達もまた、クリスマスを楽しむ権利がある」
 そうして優しく笑むブラックサンタ達に、子供達はおずおずと頷いた。

「さぁ、召し上がれ」
 ネージュが差し出したのは、ヨーグルトやレアチーズなど甘酸っぱいのをベースに、いちごやブルーベリーのソースをあしらって、甘く仕上げたタルトだ。
「これ、あたし達も手伝ったんだよ」
「えっマジ?」
「そうそう、味付けとか難しいトコはネージュせんせ達、大人任せだけど」
「でもこれ! ボクが乗せたの!」
「こっちのクッキーの形つくったの、あたし」
「何か楽しそう」
「じゃあ今度いっしょに作る?」
 最初はどこかぎこちなかった子供達も、次第に打ち解けてきたようで。
 自分の作ったタルトを食べながら、楽しそうに話す子供達に、ネージュはとてもとても幸せそうな笑顔を浮かべていた。
「僕と契約して、魔法少女になってよ!」
 キュゥべえのぬいぐるみを【サイコキネシス】で動かし、【テレパシー】で会話するコトノハに、ルルナを始めとする子供達は顔を輝かせた。
 ルオシンからこの子供達が白夜を連れてきてくた事を聞いたコトノハである、自然と力が入るというものである。
「うわぁ、可愛い!」
「うん、あたし魔法少女になる!」
「あたしも!」
「ママすごいでしょ」
「うんうん、みんな楽しそうだよね」
 微笑ましい光景に、夜魅と笑みを交わし合ってから、ジュジュは「そうだ!」と手を合わせた。
「あたしとエマから、かわいい妹と弟にクリスマスプレゼント!」
 差し出したプレゼント。
 夜魅には髪に飾るリボン、白夜にはふわふわの帽子だ。
 自分の為に用意された、特別な贈り物。
 白夜はふわりと浮かび上がり「きゃっきゃっ」と声を上げ。
「ありがとう、ジュジュ!」
 夜魅はとびっきりの笑顔でもって、ジュジュに抱きついた。
「帰ったら、旦那さまとクリスマスを楽しむんですわ。一生懸命選んだプレゼント、喜んでくれるといいな……」
 そんなパートナー達にエマは愛する旦那さまを思い浮かべ、幸せそうに微笑んだ。


「おかえりなさい、って言ってなかったよね?」
「……ぁ」
 奈夏に捕まったエンジュは咄嗟に反応を返す事が出来なかった。
 どこか気まずそうな表情を浮かべたエンジュに、奈夏もまた言葉を探した。
「私は……任務を果たせなくて……」
「でもプレゼント、取り返したんでしょ?」
「ですがそれは……私の力ではなく……」
「だけど子供達は心を入れ替えたし、プレゼントだってみんな配り終えたって……」
「折角ですし、ここで披露してもいいんじゃないですか? ハーブティーもご用意してありますし」
 ぎこちない空気を察し、すかさずフォローに入ったのは、エースだった。
 指し示す先からは、確かにハーブティーのほのかな香り。
 それから、エオリアとリリア、陣と真奈が「頑張れ!」というように見守ってくれている。
「美味しくできましたし、自信持って下さい」
 最後の一押しとばかりにエースが囁いた。
 だってエース達は知ってる。
 奈夏がどんなに頑張ったのか、誰の為に頑張ったのか、を。
「任務を果たせなかった私に……ここにいる資格は……」
 小さくもらし、引こうとした手を、開き掛けた距離を、奈夏は咄嗟に引きとめた。
「これプレゼント、クッキーなの。エンジュに貰って欲しい、デス」
 ガチガチに固まりつつ押しつけた膨らみ。
 エンジュは暫しそれと奈夏を見比べてから、恐る恐るといった風にリボンを解き。
「……どっ、どう?」
「美味しい……です」
 小さな星の形のクッキーは不思議なほど、美味しかった。
 食べ物など、エネルギーとして摂取しているだけの筈なのに。
「やりました!」
 嬉しそうにエースや真奈にガッツポーズをする奈夏を、やはり不思議な面持ちで眺める。
「良かった、会えて」
 そんなエンジュに駆け寄り、嬉しそうに声を弾ませたのは、ロクロだった。
「この間、助けてくれたでしょ? ボクが木に引っ掛かってた時」
「……そういえば、そんな事も……」
「うん、ずっとお礼、言いたかったんだよ。あのね、あの時は『ありがとう』!」
 赤い顔でお礼だけ告げて帰るロクロに、エンジュは途方に暮れる。
 機晶石が熱を持ったようで、落ち着かなかった。
 ただ。
「……お役に立てなかったですが……私はココにいて……いいのでしょうか……?」
 呟きは喧騒にかき消されたけれども。

「そういえば」
「ん、なんねロクロさん?」
「クリスマスって何?」
 今更な質問をしたロクロは、めっちゃイイ笑顔で。
「……クリスマスってなにて? ん〜神様のバースデーパーティやっとけの? で、皆でプレゼントをあげる日やな! もらう日やなくて、あげる日! クリスマスは愛情を分け与える日やってカノコは教わったでー」
 ストリートチルドレン達を、その手に惜しみなく与えられた『プレゼント』を見てから、カノコはロクロとナカノさんをぎゅぅっと抱きしめた。
「つまり心がこもってればなんでもプレゼントやの! ナカノさんがいつも作ってくれるごはんも、エフさんがカノコのおうちにいてくれる事も、ロクロさんが一緒にお絵描きしてくれる事も、カノコにとっては毎日プレゼントばもらってる気持ちやで!」
 腕の中、ちょっとだけ空いているスペースは、エフの為のもの。
「皆、これからもよしなに!」
 むぎゅむぎゅむぎゅー!、限りない感謝を込めて、カノコはパートナー達を抱きしめた。


 やり遂げた達成感と、身を包む心地よい疲労感。
 それから、心の片隅に僅かに残る、昏い影。
 ふかふかしたソファに身を預け、楽しそうなパーティーをぼんやりと眺めていたフレデリカは、
「はい、フレデリカさん。メリークリスマス」
 眼前に現れた鮮やかな色彩に、暫し反応する事が出来なかった。
「あれ? もしかして寝ちゃってます?」
「!? いいえっ! すみません、ちょっとボーっとしてましたすみませんっ!」
「いいんですよ。驚かすつもりは……なかったとは言えませんか」
 小首を傾げたフレデリカにリュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)は、少しだけイタズラっぽく笑み。
 黄色にピンクにオレンジ、色とりどりの可憐をフレデリカの手に渡した。
「オレからフレデリカさんへご褒美って所ですね」
 それは、華やかで可愛らしいガーベラを中心にした、ブーケ。
 今年も頑張ったフレデリカの為に、リュースが手ずから整えたものだった。
「終わったらあたしにもプレゼント頂戴、って言ったよね?」
 可愛らしいブーケを大切そうに大切そうに抱きしめるフレデリカに言ったのは、未沙だった。
「去年はkissだったけど、今年はまたすごく大変だったし、色々と頑張ったゃったから」
「あの、そんな大したものは……」
「だから、『笑って』?」
 顔を赤くしてうろたえるフレデリカに、未沙は見惚れるような笑顔を浮かべた。
「笑って、フレデリカさん。いつもみたいに」
 それが今一番欲しいプレゼントだよ、告げられたフレデリカは目を瞬かせてから。
「ありがとうございます」
 満面の笑みを浮かべた。
 リュースに未沙に、手伝ってくれた和輝や美羽達に。
 限りない感謝と愛しさを込めて。
 時同じく、すぐ近くで声が上がった。
「フフ……やはり、このように子供は笑顔が一番ですな! 撮った写真は無料で配布してやるのでな。最後に集合写真でも撮りますかな?」
 カメラマンよろしく写真を撮りまくっている、里也のものだった。
 やはり悲しげな怯えた顔よりも、子供達には笑顔でいて欲しい、と。
「それは良いであります!」
 ずっと優しく緩んだ顔をしていた里也に、スカサハが大きく頷き。
 それからはちょっと大変だった。
 朔や近遠や樹達、子供達に、ブーケを抱えたフレデリカや奈夏に、皆で肩を寄せ合い一つのフレームに収まる。
 ちょっとだけキツくて、くすずったくて、でも皆、笑顔で。
「では、行きますぞ! ココをちゃんと見て下され」
 夜魅やルルナ、ストリートチルドレン達の笑顔と笑い声と。
「どうか来年も、素敵な年になりますように」
 それを愛しく見つめながら、ジュジュは心からそう、祈った。

担当マスターより

▼担当マスター

藤崎ゆう

▼マスターコメント

 こんにちは、藤崎です。
 お待たせしてしまいました、のクリスマスリアクションです。
 意外にシリアス風味、というかフレデリカさんやエンジュや子供達もそれぞれ色々と思う所があったようです。
 それでも、子供達も楽しいクリスマスを過ごせたのだと思います。
 ではまた、お会い出来る事を心より祈っております。

▼マスター個別コメント