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リアクション
第九章 あたたかな場所
「ようやく、見つけた」
ゴミゴミとした細い路地の突き当り。
木切れを集めたそこで、身を寄せ合う幼子達に、菜織と美幸はふっと口元を緩めた。
混乱の中、逃げ出す子供を追うのは簡単ではなかったが、二人にとっては至難の技という程のものでもなかった。
「やはり生活環境は劣悪ですね」
襲撃に参加していない子供達がいる、と聞いた優希と麗華もまた、後始末を朔達に任せ少し遅れて到着した。
「というか、冬越せないだろ、これは」
カメラを回しつつ、溜め息をつく麗華。
「で、あんた達は保護者ってわけじゃなさそうだな」
そこには先客がいた。
「ええ、子供達が心配で」
リネン・エルフト(りねん・えるふと)とユーベル・キャリバーン(ゆーべる・きゃりばーん)とヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)、【『シャーウッドの森』空賊団】である。
「その意気やよーし!、と、言いたいけど……いい、あんたたち。盗んでいいのは悪人と調子こいてる金持ち連中からだけよ?」
「盗みはよくないけど……良い子じゃ生きられない、そんな子たちもいるもの。零れたものを救うのも義賊の務め、でしょ?」
真顔で言い聞かせるヘイリーに苦笑してから、リネンは膝をついて幼い子供達へと視線を向けた。
「幸せはね……奪ってくるものじゃないわよ」
「あんたたちも分かってるんでしょ? それはあんたたちへのプレゼントじゃない……盗んでも、それは変わんないのよ?」
リネンとヘイリーに、幼い顔が歪んだ。
帰ってこない仲間……兄貴分達に不安も募っているのだろう。
だが同時に、コレは大切な仲間に託されたものだと、ギュッと重い袋を抱きしめた。
リネン達の意味を、幼いなりに理解しつつも。
そんな姿にリネンはほろ苦く……そして優しく笑んで。
「それは返してらっしゃい。はい……あなたへのプレゼント」
代わりに、と差し出したのは、ケーキとプレゼント。
正直、リネン達は義賊であり。懐事情は少々厳しく。
それでも、ストリートチルドレンを放っておく事は出来なかったから。
「まぁお金の方は何とかなりますわ。後はどこか……場所が借りられるといいのですけれど」
今回の影の功労者、財務担当のユーベルは空を見上げた。
ちらほらと降ってきた雪は、恋人達には嬉しい贈り物だろうが、目の前の子供達にとっては、たまったものではないだろう。
「……あぁ、そっちも片がついたか。では後でな」
どうしたものか、迷うリネンに、そして不安そうな子供達に、政敏との電話を終えた菜織が、にっこりと微笑んだ。
「話はまとまったようだ、とりあえず移動するぞ」
「「おかえりなさい」」
孤児院でアイン達や、連れられてきた子供達を迎えたのは、朱里とピュリアだった。
「あぁ、やっぱりこんなに冷えて。お風呂、沸かしてあるから先ずは身体を温めて」
躊躇い無く伸ばされた手、抱きしめる為の温かな腕。
戸惑う子供達に、ピュリアは屈託なく笑いかけた。
「確かにお兄ちゃんたちは、盗みやケンカもしたかもしれない。でも辛い中、お友達同士で助け合って来たんでしょ? お友達のことが大切なんでしょ? ならきっと、お兄ちゃんたちは『良い子』なの。ママやパパなら、きっとそう言ってくれるよ」
「ええ、勿論よ」
寄り添う朱里とアインは大きく頷き。
「ったく、何だよアンタ達は、揃いも揃って。余計なお世話、かもしれないだろ?」
「余計なお節介? そうかもしれないわね」
小さな抵抗という程でもないぼやきにふと、朱里は微笑んだ。
確かに、全ての不幸を救うことは難しいかもしれない、けれど。
「だけど、救いたいという意志を持ち続け、それを伝え続けることで、どれだけ時間がかかっても悲しみは減らせると、私は信じているわ」
「まっ、それでおまえ達の気が済まないってんなら、とりあえずお仕置きされておけよ」
子供達の中でも年嵩の、分かってやっていたのだろう行為への罪悪感を感じ取った皐月は言ってから、一人一発ずつ軽く拳骨を喰らわせた。
「ていうかやっと見つけたぞ、七日。随分と動き回ってくれたな」
「おや皐月、意外な所で会いますね」
「クリスマスプレゼント強奪なんて、気が気じゃなかったぞ」
「ん〜、でも、これからどうするか……この子達、悪い子じゃないし」
「良い行いをするにも、とりあえず生活基盤を作らないと、ですわ」
「ご心配には及びませんわ」
額を寄せ合う沙幸と美海に、しっかりと告げたのは、龍ヶ崎 灯(りゅうがさき・あかり)だった。
「このツァンダを中心に、各孤児院には受け入れ依頼をしてあります」
「ケンリュウガーは約束を違えない」
牙竜もまた、親もなく育った。
けれどだからこそ、絶望と明日に何も希望を見いだせない中での救いの手は、どんな些細なことでも救いになると信じたかった。
「嘗て、俺が救いの手を握りかえした時の暖かさを襲撃者の子供達に教えたいのだ」
「バラバラになっちゃうけど、でも、また会えるから」
牙竜に続き、ネージュも言葉を紡ぐ。
今回の事で、暫くは孤児院同士の連携も視野に入れようという案も広がっている。
「まぁ経営敵には大変かもだけど」
「問題ありません」
自身も孤児院を経営するネージュの言葉は重みがあるが、これにも灯は動じなかった。
支援のために今後、牙竜の稼ぎから寄付をすることも提示してある。
「子供達が逃げ出した……暴力を振るったり劣悪な環境だったという孤児院は、後でレポートと嘆願書を提出して、改善要求を出しましょう」
根城にいた子供達を連れてきた優希もまた、受け入れ交渉のサポートに回っていた。
「同情、してくれてるのか……?」
「同情では動きません。あなた達の受け入れ先を探すのは将来への投資です」
信じられない、といった顔の子供に、灯はキッパリと首を横に振った。
「大人になった時に、自分とは同じような境遇の子供を救うために稼いでくれれば経済が回りますから……ええ、金儲けですので勘違いしないようにお願いします」
「……」
「だから、金儲けのためですってば!」
じっと見上げてくる、信頼の光を灯らせた潤んだ瞳。
堪らず灯は赤く染まった頬で、叫び声を上げた。
「まっこれで全部ちゃらって事で。後は……ま、皆で楽しいクリスマス、だな」
「む、皐月のクセに生意気です」
「うん、もうピュリアやここの孤児院の子供たちとも、お友達だね! みんなでクリスマスのお祝いしよっ」
皐月がゲシゲシと七日に蹴られる中、嬉しくなったピュリアの声が明るく弾けた。
「と、その前に」
緋山 政敏(ひやま・まさとし)はストリートチルドレンのリーダーと思しき少年の前に膝をついた。
小さな子達は、今のやり取りでホッと気が抜けたようだが、やはり年上の子達はまだ納得できてない、払拭できない……良すぎる待遇に恐縮してしまっている、ようで。
「俺は、緋山政敏ってんだが、君の名前は?」
だから政敏は、作られたお菓子……これから最後のプレゼント配達に向かうサンタ達を見つめ、あくまで真面目に言葉を紡いだ。
「お前達を一人前の良い子と見込んで、俺達に力を貸して欲しい」
と。
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