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リアクション
1章 「記されし、その名は」
〜イコン輸送艦艦内・作戦室〜
イコン輸送艦の作戦室には、村に滞在していた学者達とその学者の持ってきていた資料が
大きな山を作っていた。一見すると、作戦室は資料室にでも変わったのかと錯覚をお起こすことだろう。
その学者に交じって和服姿の青年が資料の山とにらめっこをしている。
青いポニーテールが特徴的な彼は……拳聖のルファン・グルーガ(るふぁん・ぐるーが)。
学者達と共に人型の木に関する古文書などの記述を探していた。
「資料は多いのじゃが、こうも手掛かりがないと……さすがに探すだけで骨だのぅ……」
「ねぇねぇ、ダーリンッこれは?」
「ふ〜む、さすがに……絵本には書いていないと思うがのぉ……」
「わっかんないよー? 事実を隠す為に絵本の中に真実が……!」
「可能性がないとは言わんが……うーむ」
ルファンにべったりとくっつき、絵本を進めるシーアルジストの少女……イリア・ヘラー(いりあ・へらー)。
魔導書である彼女は、とても深い知識を持っているはずなのだが……彼女にとってはルファンにくっつく事のほうが
優先事項のようである。
「むっ……これはッ!」
「えッ!? まさかまさかの正解引き当てちゃったとか!?」
「…………それっぽく言ってみただけじゃ」
「もーう、ダーリンたら演技上手なんだからーッ! 信じちゃったよぉ」
周囲の学者達の怨みのこもった視線を無視して、べったりとくっつきあう二人の元に金髪の男性が近づく。
「おーい、仲良くじゃれあってるところ悪いんだが、あの木のサンプルが届いたぜ〜」
彼の名は……ドラゴンライダーのウォーレン・シュトロン(うぉーれん・しゅとろん)。人と変わらぬ姿を持った獣人である。
後ろから付いてくる詩穂をエスコートし、傾斜のついた階段を転ばないように気を使う。
「あ、ど……どうも」
詩穂はエスコートされるという慣れない事態に戸惑いながらも、ルファン達の前にサンプルの入った箱を置いた。
「ほう、これがあの木のサンプルか……どれ、開けてみるとしようかの」
「得体の知れない木のサンプルです……くれぐれも注意して開けてくださいね?」
周囲の学者も見守る中、箱を開けるとそこにはわずかに脈動する木片が数枚入っていた。
「……生きている、だと」
「す、すごい……こんなちっちゃな木片なのに、すごい魔力を感じる……」
ウォーレンはそれを見て一言。
「まさに生きた素材ってやつだよな……」
「生きた素材……生きた……ッ!!!」
はっとした表情を見せ、イリアは資料の山に向かって走る。
「どうしたイリア? ……もしかして、何かに気づいたのか?」
「うん、確か……さっき見た資料の中に……」
イリアが意識を集中させると、資料がイリアを中心にゆっくりと浮き上がる。
資料は紙の渦となり、イリアの周囲をゆっくりと周回。それぞれが明滅したかと思うと、ひとつ、またひとつと
足元に落ちていった。
最後にボロボロの古文書のようなものがイリアの手に残った。
「ダーリンッ! この古文書に人型の木に関する記述があるはずだよッ!!」
「だが、文字が掠れておる……これでは読むことなど」
気を落とす一行。調査はふりだしか……誰もが思ったその時、詩穂が控えめに手をあげる。
全員の注目を集め、恥ずかしそうにする詩穂。
「あの……ッ! し、詩穂でよければ……サイコメトリーで読み取りましょうか?」
「お前、サイコメトリー所持者だったのかよ。いやー、人は見かけにはよらないもんなんだなぁ」
「それって……どういう」
悪口を言われたのかと、しょんぼりとする詩穂。
その姿を見て、慌ててウォーレンがそれを訂正する。
「悪いッ! 別にそんなつもりで言ったわけじゃないんだ、悪く聞こえたなら謝るよ……この通りだ」
長身の体を曲げ、深々と頭を下げるウォーレン。
その姿を見た詩穂は「気にしないでください、私も気にしてませんから」と笑顔を見せ、木片に対して
サイコメトリーを行った。
詩穂のサイコメトリーとイリアの知識によって判明したことは、いくつかあった。
人型の木の名前が、略奪者を意味する【ブリガンテ】という事。
そしてブリガンテはどんなダメージを受けても供給源がある場合、無限に再生するという事。
ルファン達は学者達と早急に報告をまとめ、様々な連絡手段を駆使して契約者達に情報を伝達した。
皆が奔走しているその時、木片に近づく青年が一人。
「こんな面白そうな素材、放っておくのがもったいねぇよなぁ」
彼はヘクススリンガーのアキラ・アキラ(あきら・あきら)。
教導団の新兵器の素材を日夜探しているのであった。
木片を掴むと、それを素早くポケットに入れ、その場を後にする。
「我々教導団が為、新【超兵器】を造るのだ……くっくっく」
彼の頭脳の中で妄想が激しく爆ぜる。
無限に再生する戦艦、自己進化、自己再生、自己増殖を行う最強のイコン……などの考えが
泡のように浮かんでは消える。
新しいおもちゃを得た子供のように、彼は無邪気にはしゃいでいた。
「さぁー、なに作ろうかなぁーッ! ああーもう、こんな未知の素材なんてなかなか手に入らないからな」
監視カメラに小躍りしながら、スキップをする珍妙な彼の姿がばっちりと映っていたが、
木片を持っているとは誰も思うことはなかった。
こうして彼は誰にも気づかれることなく、木片をもって実験室へと向かったのである。
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