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恐怖! 森がモンスターになった!?

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恐怖! 森がモンスターになった!?

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 4章 「侵入者には鉄の抱擁を」


 〜森・南東部・遺跡内部〜


 遺跡の入り口である苔むしたエントランスに一台の車両……パワードスーツ輸送車両が停まっている。
 搭乗しているのはテクノクラートの少年湯上 凶司(ゆがみ・きょうじ)
 彼は遺跡の内部情報、温度情報等の様々なデータが目まぐるしく変化するモニターを見つめている。

「さーて、僕の予想が正しければ……その部屋に何かあるはずなんだが……」

 無線から聞こえる凶司の声に反応し、部屋を見回す金髪の少女。
 彼女はヴァルキリーのラヴェイジャーエクス・ネフィリム(えくす・ねふぃりむ)

 その身には、パワードスーツネフィリム三姉妹を装着している。

「キョウジ……特になんにもないんだけど」
「そんなはずはないぞ、こっちには魔力の反応がある。不可視とかカモフラージュとかされてないか?」
「えー……んー、なんにも隠れてないってば」

 彼女の言うとおり部屋は殺風景で、特に何もないただの部屋であった。

「そうか、お前の眼は節穴だからな……はぁ、しかたない他の奴を当てにするとしよう」
「ないったら、ないよーッ! もう、ちゃんと探してるのにそんな言い方しなくてもいいじゃんッ!!」

 力任せに付近の壁に八つ当たりするエクス。拳が壁にめり込み、壁に亀裂が入る。
 ガラガラと音を立て、壁が崩れて中から重そうな鉄の扉が現れた。

「あ……」
「なんだ、どうした?」
「あら、お手柄ね、エクス」

 エクスと同型のパワードスーツを纏った少女が姿を現す。
 彼女はスカイレイダーのディミーア・ネフィリム(でぃみーあ・ねふぃりむ)
 エクスと同じヴァルキリーである。

「ディミーアお姉ちゃん! 鉄の扉があるんだけど……鍵が掛かってるみたいで」
「そういうことなら、任せて」

 扉の前にしゃがみ込み、鍵の開錠に取り掛かるディミーア。

「まったく、ピッキングなんて……ずいぶんと手癖の悪い古王国の戦乙女様だよな」

 無線から聞こえる凶司の声に眉をひそめるディミーア。

「あなたなんかに……一体何がわかるってのよ……」
「ああ、わからないねー。戦乙女様のつまらないプライドなんてさ」
「……ッ! つくづく最低なのね、あなたって」

 険悪になる場の雰囲気を割るように一人の女性が部屋に入ってくる。
 二人と同型のパワードスーツを纏っているその女性は、スナイパーのセラフ・ネフィリム(せらふ・ねふぃりむ)
 彼女もまたヴァルキリーである。

「いつもながら、仲がいいわねぇ〜あなたたち」
「どこがッ!」
「だってぇーよくいうじゃない? 喧嘩するほど仲がいいって」
「……そんなことッ!!」
「ほーらぁ……開錠は終わったの?」

 ディミーアの技術をもってしても、見たことのない鍵だったらしく開錠はできなかった。
 ここはエクスに頼み、こじ開けることにする。

「いっくよーー! うりゃあーッ!!」

 振り被った拳が扉に衝突し、轟音が響いて扉は粉砕された。
 地面にぱらぱらと破片が落ちる。

「よし! これで先に進めるね!」
「恐ろしいほどの馬鹿力だな……」

 無線から凶司の言葉が聞こえ、エクスが言い返そうとするがセラフに制され、探索の為に先へと進む。

 3人が奥に足を踏み入れると、そこは小さな研究所のような場所であった。
 資料が積み重なっているが、長い年月が経過した為かほとんどが風化しており、読むことはできない。
 セラフが中央に設置されたコンソールのようなものを操作する。

「凶司ちゃん、端末を発見したわよぉ。どうやら、ここからブリガンテのエネルギー供給システムをハッキングできそうねぇ」
「データリンクをしろ。こっちからそのシステムをハッキングして、僕が止めてやる」
「わかったわ……ちょっと、待ってねぇ……はい、リンクできたわよぉ」

 凶司のモニターにリンク完了の文字が表示される。
 すさまじい勢いでキーボードを打ち込んでいく凶司。システムのプログラムが次々と書き換えられ、
 すでに常人には理解不可能な領域に達していた。

 セラフの前の端末から音声アナウンスが流れる。

「ブリガンテ、魔力エネルギー供給をカットします。全供給プログラムの消去を開始。消去まで……2分」
「やったわねぇ、凶司ちゃん。あとは脱出するだけ……」
「セラフお姉ちゃんッ! 扉が!」

 エクスの声に驚き、背後の鉄の扉のあった位置を見ると、見たこともないような銀色の壁が出現していた。
 ディミーアとエクスが攻撃を仕掛けるも、びくともしない。

「うそッ! これだけの攻撃で、傷一つないなんて!」
「どうしよう……閉じ込められちゃったよ。キョウジ! なんとかならないのー!」
「今、やってる! くそッ! どういうことだよ!」

 凶司は先ほどのシステム内を調査するが、それらしい機能やプログラムは見つからない。
 凶司の無線機に3人の咳き込む声が聞こえる。

「どうしたッ! 何があった!」
「ごほっ、ガスが……意識が……保て、ない……」

 3人の足元からガスが吹き出し、エクスは気を失い、ディミーアも倒れている。
 セラフのみ辛うじて意識を保っている状態だった。

「棘の付いた天井が……徐々に降下してきてるわよぉ……速度から見て、2、3分ってところかしら」
「探してるが、該当するプログラムが見当たらないッッ!! どうしたら……」

 すでにセラフからの応答もない。たぶん気を失ったのだろう。
 3人の生命シグナルを確認し異常なしであることを確かめる。

「勝負は2分……だが…………くっそおォォォッッ!!」

 力任せに机に拳を叩きつける凶司。拳には血が滲んだ。
 時間は空しく、そして確実に過ぎていった。


 〜森・村付近・遺跡内部〜


 村の近くにあった小さな遺跡の中にビキニ姿の少女がいた。
 彼女はコマンダーのセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)。青いトライアングルビキニにコートのみを羽織る、
 という男性がいたら卒倒しそうな服装で遺跡内を探索している。

「おっかしいわねぇ……これだけ歩いたら、ガーディアンの一つでもいたっていいのに」
「ガーディアンなんて、会わない方がいいに決まってるわ」

 隣で静かにそう言い放つその女性はグラップラーのセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)
 シャンバラ人の女性で、セレンのパートナーである。
 時折、漫才のようにボケと突っ込みをする賑やかな二人に同行するのは、テクノクラートの雪住 六花(ゆきすみ・ろっか)
 騒がしいセレンとは対照的に、おとなしそうな温和な女性である。
 彼女は注意深く遺跡の壁や、刻まれた碑文などを見つめている。

「この先に、重要な部屋があるようですね。削れてしまっていて、全部は解読できませんが……何かの制御室のようです」

 セレンが振り返って不思議そうに質問する。

「遺跡に制御室? お宝じゃなくって?」
「セレン、トレジャーハントに来たんじゃないのよ?」

 呆れた風のセレアナにさも当然のことのようにセレンは主張する。

「だって、遺跡って言ったらお宝しか思いつないわよ!」
「そうですね、普通はそうなりますよね。ですが、ここは私達にとっては古い遺跡でも、昔の方にしてみたら
 活動の場、生活の場なんです」

 それを聞いたセレンは手の平をぽんっと叩いて納得する。

「そっか、そう聞くと確かにそうよね」

 数分後、3人はパイプにつながれた古い端末を発見する。
 その部屋は中心に端末があり、壁から延びる無数のケーブルやパイプが端末に繋がっていた。
 苔に覆われた端末はその見た目から、長い年月が経っているのだと推測できる。

「ちょっと待っていてください、起動できないか試してみます」

 端末の前に立ち、六花は端末のパネルを開いて中を操作する。
 低い駆動音をたて、端末のモニターに光が灯った。
 モニターには、侵入者撃退システム作動中の文字があり、倒れているエクス達の姿が映し出されている。

「ちょっと! これって……」
「ここの……いえ、別の場所の遺跡のようです!」 

「誰かそこにいるのか!」

 端末から少年の声がする。

「は、はい……私は、雪住……雪住六花です。あなたは?」
「僕は湯上凶司だ……すまないが、今は自己紹介をしている時間も惜しい、手を貸してくれないか!」
「はい、私でよければ」
「その端末とこちらをデータリンクさせてくれ、その後は僕が何とかする!」
「データ受け取りましたッ! データリンク開始します!」

 六花が端末を操作している間セレンとセレアナは、どこからか湧いた大量のツタの相手をしていた。
 擲弾銃バルバロスを放ち、思いっきりツタを吹き飛ばすセレン。
 セレンの攻撃を避けたツタを的確に拳で撃ち落すセレアナ。
 その反応速度は常人の目には捉えられないほどの高速で、あまりの速さに残像が発生していた。

「いいセレン? 絶対に六花にこいつらを近づけちゃだめよッ!!」
「わかってる! セレンこそしくじらないで!」
「あったりまえでしょッ! こんなツタ程度に後れを取るわけないじゃない!」

 データリンク完了の文字が点灯。
 点灯してから数秒で様々な文字がモニターの中を飛び交う。
 すでに六花にも理解できないプログラムや命令が端末を襲っている。
 モニターからついに侵入者撃退システムの文字が消えた。

「はぁ、助かった……あなたには礼を言う。ありがとう」
「いえ、お役に立ててよかったです」

 セレンが六花を手を振って呼ぶ。

「六花さーん、脱出するわよ!」
「さっきのツタが奥から来ているみたい。急がないと」
「あ、はい! そういうことなので、凶司さん、私は行きますね」
「……ああ」


 〜〜森・南東部・遺跡内部〜


 六花の走っていく音が聞こえ、端末から離れたことを確認した凶司は自らの装備を確認する。

「さて、俺も行くか」

 凶司は遺跡に降り立つと、エクス達の元を目指した。


 〜森・村付近〜


「う……ん、あれ? ここは」

 エクスが目を覚ますと、見慣れた天井が目に入る。
 パワードスーツ輸送車両の天井だった。

「ボクは……遺跡で……なんでここに」
「あら、気が付いたぁ、エクス」
「セラフお姉ちゃんッ! ボクは遺跡にいたはずじゃ……」

 二人分のコーヒーを机に置くと、セラフは面白そうに、少し嬉しそうに語り始める。

「きっとエクス、驚くわよぉ? なんと、あの凶司ちゃんが……あたし達を助けてくれたのよ?
 それも、遺跡の中にまで入ってきて」

 ガタッとベットから跳ね起きるエクス。

「うそッ!? あのキョウジが!?」
「そう、その凶司ちゃんが。助けに来たときなんか、必死の表情しちゃって……すごく可愛かったわよぉ?」

 コーヒーに一口だけ口をつけると、エクスは運転席の方を見つめる。

(キョウジにも、いいところ……あったんだ……でも、ボクは……)

 複雑な感情を抱きながら、エクスはコーヒーを飲み干した。


 〜森・中部付近〜


 カルノスは森の中を走っていた。ただひたすらに走っていた。
 幼馴染みの少女との約束……ただそれだけが守りたくて。

「ぐあっ!」

 木の根っこにつまづき、転ぶカルノス。
 すぐに立ち上がり、二人の約束の場所に向かって走る。

「早く、早く……行かないと! 手遅れになる前に!!」

 カルノスの体はすり傷や小さな切り傷でいっぱいであった。
 しかし、痛みも忘れてカルノスは走る。

「俺が……俺が止めるんだッ! あいつとの思い出を、そう簡単に消させてたまるかよッ!!」

 幼馴染みの少女……アリア・イスクードとカルノスはよくこの森で遊んでいた。
 病気がちで、自由に遊びにさえいけないアリアをこっそりと連れ出して、一緒に星を眺めていた。

「ねぇ、カルノス……あの星はなんて言うの?」
「あれか……うーん、よくわかんねえな」
「そっかぁ……」
「ねぇ……」
「ん……なんだよ?」
「今度来る時までに、あの星の名前を調べてきてよ」

 カルノスは驚いた表情をし、すぐに首を横に振る。

「ぇえッ!? 無理だって……俺が馬鹿なのは、よーく知ってるだろ?」
「お願い……だめ?」

 潤んだ瞳でお願いをされ、カルノスは仕方なく首を縦に振る。

「わかったよ……なんとか調べとく」
「やったぁ……じゃあ、次も……絶対、連れてきてくれるよね?」
「ああ、あったりまえだろ?」

 少女は満面の笑みで微笑む。

「うん、約束だよッ」

 しかし、その願いが叶うことは無かった。

「アリア……ッ!」

 走りながら涙をこらえ、彼は唇を噛み締めた。