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恐怖! 森がモンスターになった!?

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恐怖! 森がモンスターになった!?

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 3章 「余計なこと?」


 〜森・中部・上空〜


「てーーーッ!!」

 ヘカトンケイルの二連磁軌砲から次々と砲弾がブリガンテへと浴びせられる。
 ブリガンテの頭が爆砕し、よろめいた所に次の砲弾が着弾、右腕を吹き飛ばす。
 吹き飛ばされた右腕はきりもみしながら地面を跳ね、森の木々を薙ぎ倒していった。

 しかし、数秒の間にブリガンテは損傷部位を完全に再生し、ヘカトンケイルへの攻撃に移っていた。
 ブリガンテは左腕を振り上げ、木の根を数十本ほど絡み合わせると槍のような形へと変化させる。
 それでヘカトンケイルを貫こうと振りかぶる。

 直後、彩羽のスクリーチャー・ゲイルによって左腕が切断される。

「私がいる限り、艦には手を触れさせないわよッ!!」

 反撃しようと枝を触手のように伸ばし、スクリーチャー・ゲイルを追うが、スクリーチャー・オウルに変形した
 機体の速度には追いつけず、あっさりと枝は撃ち落された。

 ヘカトンケイルの戦闘ブリッジではベスティアが額に汗を滲ませながらも、妖しい笑顔を浮かべていた。

「ブリガンテ、損傷するも再生……こちらの攻撃が通用していません!」
「構うなッ! 撃ち続けろ! まったく、楽しませてくれるヤツだよ……お前は」


 〜イコン輸送艦・実験室〜

 怪しげなビーカーや謎の液体が沸騰し、紫色の煙を充満させている。
 蛍光色の薬品が置かれた机の前に、アキラが座っていた。薄笑いを浮かべて。

「くくくっ……なんと素晴らしい素材だ。各種毒物に対し、絶対的な耐性を持ち、このような
 木片になっても自己再生を行おうとするとは……」

 アキラは臭いのきつい液体を木片に垂らし、その反応を見ている。

「おっと、B−115溶液が足らないか……よし、違う溶液に変えてみよう」

 アキラは立ち上がり、背後の薬品棚に向かう。木片に背を向けて、薬品を漁る。
 その時を待っていたかのように、木片から枝が静かに伸び、蜘蛛の足のように変化。
 机から降り立つと、プルプルと震え、次の瞬間爆発的に枝とツタを増殖させた。

「……これでもない。うーん、ここにはないのかぁ? ん……なんか騒がしいな?」

 背後からする物音に振り返って、彼は一瞬動きが止まる。
 それは、現実を受け入れたくない時に行われる自衛行動、思考の停止。
 目の前には、ツタで埋め尽くされた実験室が広がっており、すでに机など跡形もない。

「はは……落ち着け、落ち着け……俺。きっとこれは疲れからくる幻覚だ、うん、そうに違いない!」

 ギュッと目を瞑り、元に戻っていろと念じてから意を決して目を開く。
 しかし、現実は何一つ変わっていなかった。

「あ……ははははッ! もう俺、知ーらねッ!! 何にも知らねぇぇーーッ!!」

 すぐ真横にあった扉を蹴り破り、全速力で走って逃げだすアキラ。
 ツタの化け物はそれを追うこともせず、ただ、ただ増殖を繰り返した。


 〜ヘカトンケイル・戦闘ブリッジ〜


「二連磁軌砲、次弾準備急げッ! チャージ開始!」
「了解……二連磁軌砲……チャージかい……?」

 オペレーターの一人が命令の復唱をやめ、困惑する。

「どうした! 何かあったなら報告しろッ!」
「……はッ! 二連磁軌砲、エネルギーが低下していきます!」
「なんだとッ!? 原因はッ!?」

 ベスティアは驚きの表情を浮かべ、オペレーターの方を向く。

「原因不明は不明ッ! 二連磁軌砲内……圧力上昇! 温度が上がっていきます!」
「こちらからのいかなる制御シグナル、受け付けませんッ!!」
「二連磁軌砲内、モニター不能! 周辺部の作業員、応答ありません!」
「何なんだッ! 一体何が起きている!」

 ベスティアは考えを巡らす。

(オーバーヒートによる暴走? いや、それなら制御シグナルは受け付けるはず……?)

 考えをしている間に大きな爆発音。艦全体が振動し、床が震える。

「今度はどうしたッ!」
「二連磁軌砲、右砲塔にて爆発発生、外部装甲に穴が開きました!」
「ツタのようなものが伸びて、二連磁軌砲の右砲塔に絡みついています!」
「……モニタリングできるか?」
「了解、外部カメラ36番……映像来ます」

 戦闘ブリッジ前方の大型スクリーンに映像が映し出される。
 二連磁軌砲の右砲塔は砲塔が丸ごと吹き飛んでおり、大きな穴が開いている。
 その穴から立ち上る黒煙の中に、ゆらゆらと蠢く緑色のツタの化け物がいた。

 ツタの化け物は飛び上がり、地上へと降りる。

「反転すれば攻撃は可能です。いかがいたしますか?」
「……ここで反転しては、ブリガンテに背後を突かれる。しかたあるまい、奴は地上の契約者達に任せ、
 我々は当初の予定通りブリガンテを殲滅する」
「了解」


 〜森・中部〜


「艦から煙が出ている! 大丈夫なのかあれは!?」

 森の中からヘカトンケイルを見ていたソルジャーの大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)はヘカトンケイルから
 黒煙が上がるまでの一部始終を見ていたのである。
 隣のゴスロリ衣装を着た少女が剛太郎に話しかけた。

「たぶん……平気です。兵装の一部が……損壊しただけのようですから」

 控えめに答えるこのミコの少女はコーディリア・ブラウン(こーでぃりあ・ぶらうん)
 剛太郎のパートナーで剣の花嫁である。

「ですから……安心してください、剛太郎様」
「コーディリアが言うのなら、大丈夫のようだな」

 コーディリアの言葉を聞いて剛太郎は安心し、わずかに動揺していた自分を再び律する。

(そうだ、今は人型の木……ブリガンテを破壊することにのみ集中しなければ……)

「ちょっとあんた! ボーっとしてないで武器を構えなさい! 上から何か来るわよッ!!」
「上からッ!?」

 トランスヒューマンの村主 蛇々(すぐり・じゃじゃ)が剛太郎に注意を促す。
 上空を見ると、先ほどまでヘカトンケイルにへばりついていたツタの化け物が、真っ直ぐにこちらへと
 向かってきていた。

 蛇々は最古の銃を構えると、ツタの化け物に狙いをつけ、牽制のつもりで2、3発射撃する。
 最古の銃から放たれた熱の塊は、ツタの化け物に命中しツタの一部を溶かすが……すぐに再生されてしまった。

「蛇々お姉ちゃんッ! あいつも回復してるよ! ブリガンテってやつと同じ!!」
「だったら、回復力を上回る攻撃を叩き込めばいいのよッ!!」

 蛇々は最古の銃を連射し、同じ箇所に続けて熱の塊を放つ。
 着弾した熱の塊は、容赦なくツタを溶かし、ツタの化け物の体に穴を開けた。

「キイイイイイイイイイイイイッ!!」

 金切声を上げて鳴くツタの化け物。

「きゃああああああッ!」
「うああああッ! 耳が……!」

 耳を塞がずにはいられないすさまじい声に、その場にいる全員が膝をつき、身動きを取れなくなる。
 ツタの化け物は地上に到達すると、ツタを蛇々に向けて放つ。

「――ッ!?」

 蛇々の目に自分に向かってくるツタがはっきりと映る。
 しかし、まだ身動きを取ることはできない。

(うそッ!? こんなところで……やられるの!?)

「だめええぇぇええーーッ!!

 金髪のアリスの少女……サイオニックのリュナ・ヴェクター(りゅな・う゛ぇくたー)が蛇々を突き飛ばす。
 衝撃で蛇々は地面を転がる。すぐに起き上がった蛇々は、目の前の光景に驚愕した。

「ああ……ぁぁあっ! リュナァァァアーーッッ!!」

 リュナは数本のツタに身体を貫かれていた。ツタは腹、右腕、左脚を貫通。
 ツタが引き抜かれると、傷口から鮮血が吹き出す。
 力なくその場に崩れ落ちるリュナ。

「剛太郎ッ! リュナを守りたい、ご助力願えないだろうか!」

 剛太郎に声をかけた長身の青髪の青年はエスフロス・カロ(えすふろす・かろ)
 蛇々のパートナーであり、モンクである。

「了解でありますッ! コーディリア、リュナさんを頼む!」
「は、はいっ!!」

 コーディリアはリュナに駆け寄り、ヒールで治療を行う。

「リュナ様……絶対にお助けしますから、頑張ってください!」

 蛇々はリュナの手を握り、心配そうに見つめた。

「どうして、どうしてッ!!」
「……えへ、へへ……だって……蛇々お姉ちゃんが危ないって思ったら、自然に……ごふっ!」

 喋っている途中で口から血を吐くリュナ。

「リュナッ! お願いだから喋らないで! 後で、いっぱい聞くから、ね?」
「うん、わかった……なんか、蛇々お姉ちゃんが無事って……わかって……安心したら、
 眠くなってきちゃった……すこ、しだけ、眠……」
「リュナッ! やだッ! ねぇッ! リュナァーッ!!」

 錯乱しかける蛇々の肩に手を置き、安心させるようにコーディリアは告げる。

「大丈夫です、少し疲れて眠っただけ……ですから。傷口は……もう塞ぎました」
「え? あ、あはは。そうなんだ……安心したらなんだか、力が抜けちゃった……本当によかった、無事で」

 リュナ達を守るようにツタの化け物の前に立ちはだかる剛太郎とエスフロス。

「貴様……俺の大切な仲間に手を出した罪……その命であがなえッ!!」

 姿勢を低くし、ツタの化け物に向かって疾駆するエスフロスの拳と脚に雷光が宿る。
 バチバチと稲光を纏ったその姿は怒れる雷神を思わせた。

 その後ろから光条兵器である、輝く軍刀を構えた剛太郎が続く。

「はああーッ!! せいやぁぁぁーーッ!!」

 襲いくるツタを躱し、渾身の回し蹴りを放つ。
 雷光を伴った回し蹴りは青い閃光となって、ツタの化け物を抉った。
 再生が始まる前に剛太郎が真一文字に光輝く軍刀を薙ぐ。

「再生など、させないでありますッ!」
「ピイイイイイイイイッ!!」

 悲鳴のようなものを上げ、怯むツタの化け物。

「今です、エスフロスさん!
「おうッ! これでッ! とどめだぁーーッ!!」

 右腕に意識を集中させ、大きく後ろに引く。

「貫けええぇぇぇええーーッッ!!」

 雷光を溜めた右腕による突きがツタの化け物に決まる。
 眩い青い閃光の槍がツタの化け物を貫いた。

「ギイイイイイイイーーーーッ!!」

 ツタの化け物の中心にあった木片が雷光を浴びて、粉々に消し飛んだ。
 すると、絡み合っていたツタは自壊を始め、形を保てなくなる。
 数秒後、ツタの化け物はただの動かないツタの塊に変貌した。

「リュナッ! 大丈夫か!」
「リュナさんッ!」

 エスフロスと剛太郎が駆け寄るとコーディリアに注意される。

「お静かに……お願いします。お二人とも、寝てしまわれましたから」

 リュナの隣で静かに寝息を立てる蛇々。その顔には涙の後が残っていた。
 エスフロスは静かに腰を下ろすと、蛇々とリュナの頭を撫でる。

 一行は二人の回復を待つ間、しばしの休息を取ることにした。


 〜イコン輸送艦・作戦室〜

「ルファンさんっ……このデータを見ていただけますか?」
「む? なんじゃ、なにかあったのかのぉ?」

 学者から手渡されたデータに目を落とすと、ルファンはあることに気付いた。

「これは……二つの敵に対し、同じ方向から何らかの魔力が流れている……ということじゃな?」
「そうです、その魔力を線として引いていくと……ここです、この遺跡から流れているとみて間違いないでしょう」
「こうしてはおれん、戦闘ブリッジにいるベスヴィア殿に伝えてくれ、供給源がわかったと」

 走ろうとするルファンに声をかける学者。

「ルファンさんはどうされるのです?」
「様々な手段を講じて他の契約者に、このことを連絡し遺跡に向かえるものがおらんか、探してみるつもりじゃ」
「わかりました。ベスヴィアさんへの連絡の方はお任せください」

 ほどなくして、契約者達全員にこの事実が連絡された。