校長室
建国の絆第2部 第3回/全4回
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砕音との会談 2 アーデルハイトと白輝精の会話に場がのまれている間に、鈴子は隅っこに小さくなって立っているアレナに尋ねた。 「あなたも聞きたいことがあるのではありませんの?」 「え、あの……」 もともと同行を命じられて来たにすぎないアレナは、戸惑いの目をあげた。けれど、この場で聞きたいことはない、と言うのも憚られる。 「何なりと聞いて下さい」 遠慮無く、と砕音にも促され、アレナはおろおろと答えた。 「……皆様が十二星華や神子のことに興味を持たれているようなので……その方々の質問に答えていただけませんか?」 「はい、私に分かることでしたら何なりと」 「では……よろしくお願いします」 他の者たちに話を振ると、アレナはほっとした様子で俯いた。 「じゃあいいかな」 メリエル・ウェインレイド(めりえる・うぇいんれいど)が真っ先に質問する。 「闇龍が出て来てシャンバラが滅びそうなのに、何で十二星華……特にティセラちゃんなんかは出てこないのかな? 危機管理能力なさすぎだと思うんだけど……」 「十二星華には、シャンバラの危機に対して何をやらなければならない、といった使命はないはずです。個人的には何らかの使命を帯びた方もいるかもしれませんが……。そもそも女王陛下は、自分の一時的スペアとして十二星華を作るような非人道的な事には反対していたほどです。その辺りは十二星華たち個々の自由に任されているのではないでしょうか?」 そこまで答えて、砕音は考える風になった。 「しかし、伝え聞いたティセラの言動から考えますと、闇龍に何か対応した動きも見せそうですが……」 会談を面白そうに眺めている白輝精へと、砕音は顔を振り向けた。 「おまえ、ティセラに闇龍に手を出すな、とか脅してるんじゃないだろうな?」 「してないわよ。それ以前に、あっちは私達の事なんか知らないんじゃないの?」 白輝精は軽く答える。 「それはどういうことなのでしょう?」 鈴子の問いかけに、砕音は口調を改めて答えた。 「これについては後ほど、白輝精から説明があると思います。先に他の質問に答えてしまいましょう」 「神子関連ではないけど、聞きたいことがあるんだけどいいかな」 自分の抱いていた疑問を解消するチャンスとばかりに毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)は砕音に質問した。 「今、スフィアのことが騒ぎになってるけど、スフィアって元の持ち主に返すことって出来ないの?」 「元の持ち主?」 「六大都市の地祇に、ってこと」 その答えで大佐が何を誤解しているのか分かり、砕音は答えた。 「地祇は、スフィアの元の持ち主ではありません。持ち主になるか、ふさわしい人物を紹介してほしいと製作者の黄泉之防人が打診しましたが、黄泉之防人が殺されて、その話がなくなったのです。それにスフィアは魂に溶け込んでいる為、一度持ち主が決まれば、他者に譲る事はできません」 「あと、5000年前にパラミタと地球が分離した理由を聞きたい」 「2つに分かれた状態こそが地球とパラミタの本来の姿だからです。直接的な理由としては、両世界を繋げていたシャンバラが、女王を亡くした事と、その後の大戦で大幅に弱体化したからでしょう」 繋げていた力が無くなった為に自然に元の状態に戻ったのだと砕音は説明した。 「私も聞きたいことがあるんだけど……なんで昔のシャンバラの人たちは闇龍がいなくなった後に殲滅塔を使ったの?」 大佐のパートナーであるプリムローズ・アレックス(ぷりむろーず・あれっくす)も砕音に質問する。 「それは殲滅塔を撃った当事者でないと真相は分かりませんが……闇龍が封印された後も、シャンバラを襲う外敵がいた、と見なしたから使用したのではないでしょうか」 そう答えた後、砕音は付け加えた。 「闇龍封印後、シャンバラはパラミタと地球両世界の多くの国々と世界大戦とも呼ぶべき大規模な戦争を行いました。ただその理由は……呪いで、私にはこれ以上は言えません。申し訳ありません」 十二星華や神子から離れた話を、エリオットが元に戻す。 「では、女王を復活させる神子、その反対側で女王候補という存在。相容れないようにみえるこの両者の関連性について問いたい」 その問いに、まず、と砕音は女王候補の定義を示した。 「『女王候補』とは、神子や十二星華などのように、何か特別な存在を示す言葉ではありません。一般的な単語であり、文字通りに女王の候補者という事でしょう」 「では今の女王候補についてはどう考える?」 「ミルザム嬢は、女王陛下の捜索が進まないからと御神楽校長が担ぎ出して候補にすえたのですし、ティセラは自分で女王を目指すと主張しているだけです。神子が復活させるのは女王本人で、皆さんのパートナーの中にもいる、5000年前に死亡して復活した者と変わりません」 砕音の答えをエリオットは胸の内に繰り返し、肯いた。女王を復活させるという話、その一方で女王候補がいるという話、一体誰がどう女王になるのだと混乱が広がっていたが、聞いてしまえばそれほど複雑なことではなさそうだ。 「あのね、神子についていろいろ聞きたいことがあるんだ。まずね、シャンバラ女王と神子って、どういう関係なの?」 情報をまとめたいという意図もあって、波音は順に質問していくことにした。 「女王が闇龍を封印して亡くなった際、女王は必ず復活するだろうと予言されました。しかし復活直後の女王陛下が、鏖殺寺院や他国に見つかって殺されてしまう恐れもありましたし、シャンバラ国内の女王の名を利用してきた者達にまた女王を抑えられてしまう可能性もありました」 そこで、それらの脅威から女王を守る為、女王に忠実だった臣下が集まってその魂を封印した、と砕音は語った。それは女王を正しく迎えられる状態で復活させる為の儀式だった、と。 「この封印を行なった者が、後に神子と呼ばれています。まあ、女王と神子の人間関係に関しては、それぞれバラバラだと思いますので、何とも言えません。忠臣が主だと聞いていますが、女王のご友人や、能力が高いから呼ばれただけ、という者もいたかもしれません。それにシャンバラ末期には、女王を利用する者がシャンバラ中枢を占めていたようですから、女王の忠臣は遠ざけられていた可能性があります」 「じゃあ神子は何人いるの?」 「14人……と聞き及んでいます」 「神子を全員集めないとシャンバラ女王って復活できないの?」 「それはありません。ただ、半数にも満たないとなると、儀式失敗もあり得ます」 「それからえっとね、最近、実は神子でしたって人がいるみたいだけど、神子本人が身に覚えがなかったってケースは割と起こるものなの? 起こる場合はどうしてなんだろう?」 波音の質問に、それまでじっと成り行きを見守っていたレジーナ・アラトリウス(れじーな・あらとりうす)が、ぴくりと身を震わせた。彼女もまた、最近自分が神子であると告げられたばかりだ。そのレジーナを気遣うように、金住 健勝(かなずみ・けんしょう)がその背に手を当てた。 「ハッキリした自覚が最初からある方が珍しいと思います。5000年前に死亡して蘇ったにしても、5000年間存在しつづけているにしても、その間に二つの世界が離れたり、くっついたりしています。それが記憶の混乱や消滅を引き起こしているのです」 「それと……そうだっ。シャンバラ女王を復活させるためには儀式が必要だと思ったけど、儀式って具体的にどういうものなの? ま、まさか神子さんを生け贄にしちゃったりしか悲しいことなんかさせないよねっ?」 波音が不意に声を高くして、生け贄、という言葉を使った為に周囲に緊張が走る。けれど砕音の返答は静かだった。 「詳細な儀式方法は、神子本人が知っています。神子は自分で記憶を封じていて、その時が来れば思い出すそうです。ただ生贄は不要です。そうした邪術を、女王の味方が使う訳がありません。儀式は……女王死亡の地でもある旧シャンバラ王宮に神子が集まり、祈りを捧げて女王の魂に呼びかけるような性質のものです」 そこまで答えると、砕音はそっと胸に手を当てて息を吐いた。 「……私がこれをお話できるという事は、女王復活の機会も近づいている、という事でしょう」 「それでは、神子を集めることは悪しきことではないのですね?」 アンナが確認すると、砕音は、はいと即答する。 「神子を集めるのは、アムリアナ・シュヴァーラ女王を復活させる為のものです。ただ、女王復活を阻止しようとする者……特に大半の鏖殺寺院の襲撃が予想されます。警備や防衛は十分以上に尽くす必要があるでしょう」 これまで女王に関する質問をじっと聞いていたアーデルハイトだったが、皆の質問が途切れた間に、どこか戸惑い気味に砕音に尋ねた。 「変な事を聞くが……女王はもしやすでに復活してはいないか? 少し前くらいから、どうも、そんなような気がしてきてな。それも日ごとにどんどん、そんな気がしてきているのだが……何か知らぬかの?」 砕音は一旦開きかけた口を閉ざし、そして慎重に答えた。 「……貴女は、5000年前に女王陛下と親交がおありだったようですね?」 「うむ。親しいという程ではないが、御目にかかった事は何度もあるぞ」 「これは、5000年前に死亡したり破壊されて、現代に復活する人物や物について普遍的に言える事ですが、復活対象に関係していた人々の記憶も復活の前後に蘇る事例は多々あります」 一般論として答える砕音に、アーデルハイトは首を傾げる。 「それを知っておるから、おぬしに聞いたのじゃが……」 そして、砕音の様子に気づくと納得したように呟いた。 「答えれば呪いに触れるか。ふむ。では私の気のせいや間違いないではないと思っておこう」 「ただ、どのような状態であれ、神子が女王の封印を説かなければ、陛下はシャンバラの国家神としての力を取り戻せません」 それが『女王の復活』なのだ、と砕音は言った。 アーデルハイトの質問が終わったとみて、健勝が前に進み出る。 「お初にお目に掛かります。自分はシャンバラ教導団に所属する、金住健勝と申す者であります。本日は、神子をパートナーとする者として、ラングレイ殿にお聞きしたき事があり、参上つかまつりましたのであります!」 緊張の余り、敬礼までしている健勝だが、今のレジーナはそれを注意する心の余裕はない。 「どのようなことでしょう?」 「儀式の際、神子は現地に行ってから一体何をすれば良いのでありますか?」 それも神子が思い出すでしょうが、と前置きしてから砕音は自分の知っていることを答えた。 「儀式場となるのは、女王が亡くなった場所でもある旧シャンバラ宮殿です。宮殿内に女王の力と魂が封じられた場所があり、女王復活が近づいた事でそこには力が満ちているはずです。女王復活に必要な呪文は、それぞれの神子が自身の中に封じたそうで、その時がくれば思い出せる、と聞いています」 「では、復活にかかる時間、神子にかかる負担はどれくらいでありますか?」 「時間や神子の負担は分かりませんが、封じた際の儀式では、ほぼ一昼夜がかりで、数日間は魔法を使ったり戦闘できない程度に疲労したようです。キュリオが、女王の魂を封印後に王都を脱出する際、それで苦労したと話していましたから」 復活の儀ともなれば、相当な力を使うのだろう。健勝は心配の目を傍らにいるレジーナに一瞬注いでから、質問を重ねた。 「パートナーである自分は、儀式の最中何をしていれば良いのでありますか?」 「そうですね……パートナーは互いに影響を与えあいますから、何よりも、心身の危険を避ける事でしょうか。これは神子に限った事ではありませんが、過去の記憶を強烈に揺さぶる事例に遭遇した際に、精神的ショックから力を暴走させたり、術を失敗してしまう事があります。女王復活儀式の際には、パートナーや親しい友人が神子を支える事が理想的です」 「はっ。了解したであります」 しかと肯く健勝の横で、思い詰めた表情のレジーナが砕音に話しかけた。 「今話に出た神子というのは、私のことなんです……」 レジーナはラク族のヤンナ・キュリスタから神子と告げられたこと、旧シャンバラ宮殿で女王を復活させる記憶が蘇ったことを砕音に伝えた。その上で問いかける。 「知りたいんです。どうして神子という存在ができたのか。私は女王を復活させるために生まれてきたのか。今この時代になって目覚めたのもそのためなのかを……。何でもいいんです、教えてください!」 「貴女が今、この時代に復活した理由のひとつには、女王を復活させる為もあるでしょう。過去に女王と親しくされていたのかもしれませんし、関係者の誰かが貴女を信頼して託したのかもしれません。女王の魂を封じた理由を考えれば、女王を助ける為や、シャンバラを救う為かもしれません」 そこまで答えた後、ただ、と砕音はレジーナの不安な瞳に語りかける。 「……ここからは私見ですが、5000年前に非業の死や活動停止を向かえた人々が、今度こそ未来を手にする為、ではないでしょうか」 「今度こそ……未来を手にする為……?」 レジーナは囁くように言うと、自分の手をじっと見つめた……。