空京

校長室

戦乱の絆 第1回

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戦乱の絆 第1回
戦乱の絆 第1回 戦乱の絆 第1回

リアクション


愚連隊の激闘
 カツアゲ隊はいなくなったのだが、そこにはまだ5体以上のパラ実イコンが残っていた。
「おまえらは逃げないのか?」
 ヘクトルの言葉に、志方 綾乃(しかた・あやの)が反論した。
「逃げるわけがないでしょう!」
 綾乃のイコンがずいっと一歩前に出ると、他の者たちも一歩ずつ前に出た。
 残った者たちは、どうやらチームを組んでいるようだ。統率がとれている。
「私たちは、シャンバラ愚連隊!」
 綾乃が宣言すると、周りの者たちが呼応して、おおーっと雄叫びを上げた。
「さっきのカツアゲ連中とはひと味違うんじゃよ!」
 綾乃のイコンを操縦する袁紹 本初(えんしょう・ほんしょ)が、びしぃっとヘクトルを指さして言った。
「いざ勝負!」
 綾乃を先頭に、愚連隊メンバーは戦闘の態勢を整えた。
「……技術がいくら進歩しようと、地球人は野蛮だな」
 吐き捨てるようにつぶやいたヘクトルは、第七龍騎士団の面々を見渡して、命じた。
「応戦だ!」
 その声を合図に、龍騎士団たちは方々に散った。動きが速い。さすがに戦い慣れている。
 それに対してシャンバラ愚連隊は、単騎にはならず、グループを作って2組に分かれた。
「単騎同士では無理です! 計画通り、必ずまとまって動いて!」
 綾乃の指示に、全員叫び声でこたえた。
「ホントは10機一組くらいがいいと思ったんだけどね〜」
 真っ赤なモヒカンのイコンに搭乗する弁天屋 菊(べんてんや・きく)が、同じく真っ赤なモヒカンの頭をかきながら言った。
「しょーがないじゃん。愚連隊、そんなにいないよ」
 パートナーのガガ・ギギ(がが・ぎぎ)がこたえた。
 予想よりも味方の数が少ない。しかし、だからといって菊の辞書に「撤退」の二文字は無いのだった。
「綾乃さん、ここは俺に先頭を任せてください」
 綾乃、菊とチームを組んでいる志位 大地(しい・だいち)が、綾乃に進言した。
 実はここまで、大地の計画は全くもってうまくいっていなかった。
 御人良雄になりすまし、カツアゲ目的のパラ実生を集めたまではよかったのだ。
 だがそんな彼らは、竜司たちの「名演技」により驚いて撤退したカツアゲ隊に混ざって、ほぼ全員撤退してしまったのだ。
「俺に行かせてください……」
 そんな状況だからこそ、大地は先鋒として、愚連隊の役に立ちたいと考えていたのだ。
 ちなみに現在は御人良雄作戦をあきらめ、眼鏡をかけて落ち着いて対応している。
「いつでもいけるよぅ」
 戦場にはちょっとふさわしくないのんびり口調で、大地のリーゼント型イコンに同乗するシーラ・カンス(しーら・かんす)が言った。
「では、私たちはあのリーダーを狙いましょう!」
 現状は圧倒的に不利だが、リーダーさえ倒すことができれば、相手の戦意は大きく削ぐことができるはず。
 狙いはヘクトルのみ。
 綾乃の提案に、菊と大地はうなずいた。

「それじゃ、あたいたちはあのデッカイやつ狙いでいいんじゃね?」
「そうだな。あいつら目立つから、標的にはちょうどいいな」
 シャンバラ愚連隊、もう一方のグループは御弾 知恵子(みたま・ちえこ)フォルテュナ・エクス(ふぉるてゅな・えくす)が仕切っていた。
 デッカイやつとは、仮面がパンパンの大男と、「っス」と語尾が軽いカンジの男のコンビのことだ。
 確かに、あの二人は妙に目に付く。
「っしゃー! 行くぜ!」
 まさに知恵子が飛び出そうとした時!
「……待て! 何かいるぜ!」
 知恵子をハゲル・鶴飛鳥(はげる・あすか)が慌てて止めた。
 「後ろだ!」
 離れて周辺を警戒していたゴルドヴァ・ブラックドラゴン(ごるどう゛ぁ・ぶらっくどらごん)が、知恵子やハゲルの背後を指さして叫んだ。
「避けろ!」
 ハゲルたちは素早く飛び退いた。
 直後。
 つい1秒前までハゲルたちがいた場所に、カメラのフラッシュのような光が炸裂した!
「……帝国に逆らうのはよくないですぅ」
 愚連隊に向けて威力を弱めた魔法を放ったのは神代 明日香(かみしろ・あすか)
「戦闘はいけないですぅ!」
 明日香は、パートナーのノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)の手を引いて走り、愚連隊と龍騎士団の間に立った。
「本当に今日は客が多いんだから……」
 ころころと変わる展開に、さすがのシャヒーナもこめかみをぐりぐりと押して軽く首を振った。
「私は、龍騎士団さんと戦闘をしたくはありません。
この人たちを止めに来たんですぅ!」
 明日香は、ヘクトルたちに向かって叫んだ。
「お嬢ちゃん。こいつらは帝国だよ!
怪我したくなかったら、離れてな!」
 菊が明日香に、軽い脅し含みで諭す。
「だめですぅ。東シャンバラの者として、帝国に牙をむくのを黙って見ているわけにはいきませんっ!」
 明日香はその場を決して動こうとしなかった。
「本当に……いろんなやつがいるもんだ」
 ヘクトルはそのやりとりを、興味深く見つめていた。
「どかないなら仕方ない! まとめてやっちまうぜぇ!」
 うおおぉぉぉぉ!
 ついに愚連隊は、龍騎士団に向かって飛びかかった!

「始まったアルね」
 霊琳が、愚連隊と龍騎士団の激突を見て、楽しそうに言った。
「それより……こっちもちょっと忙しくなりそうよ!」
 言いながら恵が真上を指さした。
「ガァァァァァァ!」
 地鳴りのような咆哮が響き渡る!
 霊琳とアランは思わずそちらの方に目を向けた。
「違う! そっちは囮!」
 がさがさっ!
 いつからそこに隠れていたのか、木の上から日向 朗(ひゅうが・あきら)が拳を振りかざして躍りかかってきた!
「ちっ!」
 朗の一撃を恵が……正確には恵が身につけている魔鎧のレスフィナが受け止めた。
「龍騎士団の歩兵かと思ったんだが……」
 恵たちを奇襲したのは朗と、地鳴りのような声の持ち主零・チーコ(ぜろ・ちーこ)だ。
「見たところ第七龍騎士団じゃねぇみたいだが、仲間か?」
「今は第七龍騎士団に協力してるよ」
 恵の言葉を聞いた朗は、再び身構えた。
「だったら同じだ! 女子供追いかけるために、大勢で出張ってきやがるクソ野郎どもと同じだッ!」
 朗の言葉が終わるより早く、零が体をぶつけてきた!
 狙われた霊琳を守ろうと、アランが飛びかかるが、技術もパワーも零のほうが勝っていた。
「ああああっ!」
 まるで空を飛ぶように、吹き飛ばされるアラン。
「パートナーを心配している場合じゃないぜ!」
 アランに気を取られた霊琳に、今度は朗が拳で襲いかかる!
 両腕でかばったものの、ガードの上からヒットしたパンチの勢いで、霊琳も飛ばされてしまった!
「あいやー、ワタシじゃどうにもならないあるね!」
「……あんまり邪魔すると、そろそろホンキ出すよ!」
 恵、ケイ、カナタが身構えると、朗はさすがに多勢に無勢を悟った。
「ここまでだな!」
 ぼんっ!
 突然炎と煙が上がる!
 零が放った火術だ。
 その煙にまぎれるように、朗と零は森の中へ消えた。



 先ほど吹き飛ばされた霊琳とアランは、赤十字の腕章を身につけた相田 なぶら(あいだ・なぶら)に、応急処置を施されていた。
「まあ、命に別状はないから……簡単な手当をしたら野戦病院に運ぼうかねぇ」
 手当をしている間も、少し離れたところから、金属のぶつかる音や、人々の叫び声が響いてくる。
「動けそうかなぁ?」
 問いかけた相手は、パートナーの木之本 瑠璃(きのもと・るり)だ。
「ここは戦場の中心から離れているから、迂回すれば問題ないであろう」
 ぐるりと周囲を見渡して、瑠璃は答えた。
「大丈夫アルよ……イテテ。第七龍騎士団のヘクトルは、その腕章さえ着けていれば、邪魔しないと約束したアル」
 体中に擦り傷や打ち身がたくさんできてしまっているものの、意識はしっかりしている霊琳が、なぶらに言った。
「それじゃあ、行こうかねぇ。
怪我人さんたちを、野戦病院に連れて行くよ」
「一人ずつ、慎重に。
輸送を待つ間は、吾輩が護衛しているから心配はいらない」
 なぶらと瑠璃は協力して、怪我人を野戦病院に輸送することにした。
 輸送中、戦場をちらっと見たなぶらがつぶやく。
「うーん、これはもしかしたら……野戦病院のほうがパニックになってるかもねぇ」


 森の出口では、シャンバラ愚連隊と第七龍騎士団の戦闘が開始したところだ。
 明日香は、まだ戦場の真ん中に立ち続けている。
「恨みなさるな、お嬢ちゃん!
軽く放り投げるだけにするから勘弁だぜ!」
 まずは明日香を戦場から遠ざけようと、ハゲルのイコンが明日香に近付いた。
 クローで掴んで投げれば、擦り傷くらいで済むだろうと考えたのだ。
「仕方がないですぅ」
 明日香は素早くノルニルを後ろに下がらせると、魔法でイコンの手足を狙った!
「なにっ!?」
 その衝撃は、ハゲルが想像していたものの数倍はあった。
 イコンの足を集中的に狙った攻撃は、効果的にヒット!
 ハゲルのイコンは足を破壊され、使い物にならなくなった。
「なぁにやってるんだよ!」
 ハゲルがやられたのは油断のせいだと思った知恵子が、明日香に向かっていった。
「おいおい、手加減してやったほうが……」
 フォルテュナが一応、知恵子に言ってみたのだが、もはや知恵子はおかまいなしだ。
「ちーっと無茶しても大丈夫だよ!
そこらへんちょろちょろしてる赤十字に助けてもらいなっ!」
 生身の人間にそこまでするかとツッコみたくなるほどの体当たりをかましていった!
 ……が。
 明日香のもとにたどり着く数歩前で、知恵子のイコンは動きを止めてしまった。
「な、なんだよ……!?」
 がくっ。
 突然イコンが斜めになり、知恵子は落とされないようにしがみついた。
 イコンの左足が、ない。
「戦闘は、ダメなんですぅ!」
 機龍ではなくパラ実イコンであるとはいえ、生身の女子が、2体のイコンを屠ってしまった。

 一方、ヘクトルをターゲットにしていた綾乃たちは、当然といえば当然だが、ヘクトルのもとには辿り着けていなかった。
 龍騎士団のほうが遙かにイコンの数が多いだけでなく、単独では戦えない。
 そして、別働隊だった知恵子のチームはつい先ほど、明日香によって壊滅してしまった。
 そんな状況ではあったが、チームの連携はどうにか保たれていた。
「てやああぁぁ!」
 陣形を、大地を先頭とした三角形にとり、敵に突っ込んでいく!
「なにをっ!」
 ガンッ!
 ターゲットとなった機龍は、大地の体当たりを受け止めた。
「今ですっ!」
 大地が機龍のクローを塞いでいる間に、左右から綾乃と菊が飛び出した!
「しまった……!」
 ガアンッ!
 先ほどよりひときわ大きな金属音が響いた!
 左右からの攻撃をまともに喰らってしまった機龍は、さすがに損傷して動きを止めた。
 搭乗している団員も負傷している。
「へへ。やりゃあなんとなかるじゃん」
 どうにか戦果を上げることができて、菊がにやりと笑った。
「良い攻撃でしたね」
 大地も柔らかい笑顔でこたえ、先ほどの衝撃で痛んでいないか、クローのチェックをしている。
「でも……同じ攻撃はもう通用しなさそうですよ……」
 綾乃が戦場を見渡して、つぶやいた。
 第七龍騎士団たちは、単独行動をやめ、集団を作ってじわじわとこちらに接近してくる。
 綾乃は、手のひらがじんわりと汗ばんでくるのを感じた。
 囲まれている……下手に身動きをとることができない。