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都市伝説「地下水路の闇」

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都市伝説「地下水路の闇」

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SCENE・6


 地下水路の奥、探索を行っていた面々は未だに化け物にも少女にも会うことなく、黙々と歩いていた。
 一行の先頭を警戒して歩いているのはローグの九条瀬良(くじょう・せら)。そのすぐ後ろをパートナーのラティ・クローデル(らてぃ・くろーでる)がいる。瀬良の懐中電灯が消えたため、拳銃の光条兵器を発動させている。
 瀬良が立ち止まる。
「ちょいタンマ……何か聞こえねえか?」
 瀬良に言われて耳を澄ませてみれば、確かに小さな啜り泣くような声が聞こえる。しかし、声は正確にどこから聞こえてくるのかわからない。横の壁から聞こえるようでもあり、上から聞こえてくるようにも思えた。
 リイヌ・アステリア(りいぬ・あすてりあ)は周りを見回しながら言う。
「きっと行方不明の少女だねぇ。ここらへんにいるのかなぁ?」
 樹月刀真(きづき・とうま)はすぐに判断した。
「この声の反響じゃあ、どこかわからないだろ。幸い、俺たちは人数が多いから手分けして探そう」
 刀真のパートナーである漆髪月夜(うるしがみ・つくよ)は無言で頷く。
 しかし、斎藤邦彦(さいとう・くにひこ)は反対する。
「……この声も罠だったら? 私はあの少女は自分たちをおびき寄せる罠だと思う。この声だって……」
 斎藤の言葉を武神牙竜(たけがみ・がりゅう)の怒鳴り声が遮る。
「少女の言葉を聞いて、ここまで来た自分たちを信じろ! 俺はそんなオメエ等の行動を信じてるから、少女を信じられる!」
「牙竜の言う通りよ! 今更迷っちゃダメよ!」
 牙竜のパートナーのリリィ・シャーロック(りりぃ・しゃーろっく)も威勢良く叫ぶ。
 黒水一晶(くろみ・かずあき)は宥めるように言う。
「まあまあ。俺は助けを求めに来た少女は悪い人ではないと思ってます。ただ、少女が見た友達は幻じゃないかなと思うんですけど」「それなら、少女にはっきりその友人は幻覚だと言えるように、ちゃんと最後まで探すべきだ」
 春日井茜(かすがい・あかね)の言葉に、リイヌと藍澤黎(あいざわ・れい)が頷く。
 斎藤と黒水は押し黙ってしまう。少女のような面立ちの葛稲蒼人(くずね・あおと)はきっぱり言う。
「……仕方ないな。最初に刀真が提案したように、少女の捜索と化け物捜索に別れた方がいいな」
 結局、二手に分かれることになった。
 少女を捜索するのが、樹月刀真と漆髪月夜・春日井茜・藍澤黎・リイヌ・アステリア・武神牙竜とリリィ・シャーロック。
 化け物を捜索するのが、有沢裕也・斎藤邦彦・葛稲蒼人と神楽冬桜(かぐら・かずさ)ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)、黒水一晶とディヌ・フィリモン(でぃぬ・ふぃりもん)、九条瀬良とラティ・クローデル、カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)

「良かったら、これを……」
 別れ際、ウィングが牙竜を呼び止める。ウィングは自分の持っていたカンテラを牙竜に渡そうとする。
「おお! わりぃな! ありがたく受け取るぜ!」
 牙竜は喜んで受け取ろうと手を伸ばしたが、いつの間にか横に立っていたカレンが止める。
「待って! たぶんカンテラよりもこっちのほうがいいと思うの」
 カレンは火術によってつけた松明を牙竜に渡す。
「ああ、火を……」
 ウィングはカレンが松明を進めた理由を悟る。
「そう。ボクの考えだけど、きっとこの化け物には火が有効なんだと思うんだよね!
 ……本当はウィザードのボクが君たちと一緒に行った方がいいんだけど……ごめんね」
 カレンは最後は消え入りそうな声になる。牙竜は無言でカレンの背中をバンッと叩き、ガッツポーズで背を向けた。
 斎藤は刀真をまっすぐ見て言った。
「私は信用できなかったが、少女がいることを祈っている。きっと……刀真たちのように信じる者が必要だ」
「ああ……」
 後ろの方では、有沢が眉間にしわを寄せてまだこだわっていた。
「捜索という目的が一緒なら、できるだけ一緒にいるべきだと思うんだが……」


 集団から離れた場所、羽入勇(はにゅう・いさみ)ゲー・オルコット(げー・おるこっと)は相談をしていた。別に二人は知り合いではない。偶然お互いに捜索班を尾行しているのに気づき、一緒に行動していただけだった。
 捜索班が二手に分かれたので、二人も別れることにする。羽入は少女捜索班に、オルコットは化け物捜索班を尾行することにした。
 
 少女捜索班は一列で移動していた。最後尾には黎がつけ、禁猟区を使って背後からの襲撃に警戒している。黎は先程から背後に気配を感じ、何度も立ち止まって振り返っている。しかし、禁猟区は反応しない。
「困ったよ……ずいぶん隙のない人だな」
 羽入は黎の勘の鋭さに、隠れ身を使おうか迷ったが、化け物に遭遇した時を考えると、出来るだけ力は温存しておきたかった。
「気のせいか……」
 黎はそう思い、距離が開いてしまった列に追いつこうと駆け出した時、
 音もなく水路から黒い津波が浮き上がり、完全に背を向けてしまっていた黎を飲み込んだ。
「きゃああ!」
 尾行していた羽入は悲鳴を上げ、隠れていた角から飛び出す。スクープ写真を狙って持っていたカメラが地面に落ちるが、気にしていられない。
「黎!」
 前方にいた者たちも羽入の悲鳴を聞き、異変に気づいて引き返してくる。
 羽入は水路に消えそうになる黎の手を掴む。しかし、羽入の体ごと水路に引きずり込もうとする。
「手を放さないで!」
 リイヌは羽入の体を掴みながら叫んだ。羽生は無言で何度も頷く。
「月夜! 光条兵器を!」
「ここに!」
 刀真は駆けつけながら言うが、刀真が言う前に月夜は体から黒い刀身の片刃剣を出現させている。
「おおお!」
 刀真は月夜から剣を受け取り、横に並んだ春日井も出現させた光条兵器を振り上げる。
 二本の光条兵器が黎に絡んでいる触手を根元から切り裂く。
「今だ! 引け!」
 一瞬、本体から分離した隙にリイヌが羽入の体を引っ張る。羽入と一緒に黎が黒い触手からずるっと抜け出した。
「トドメだぜ! 化け物!」
 牙竜はカレンからもらった松明の火を投げつける。だが、化け物は松明の明かりが当たる前に水中へ姿を消した。
ハァハァハァ……
 しばらく全員の荒い息だけが聞こえる。その中、再び悲しげな泣き声が聞こえてくる。今度ははっきり通路の奥から、段々近づいてくる。
 全員顔を見合せ、リリィは懐中電灯の光を当てる。
 そこには……青楽亭の少女と全く別人の少女が立っていた。少女は泣きながら言った。
「……助けて……友達に引きずり込まれて……」