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リアクション
拝殿 〜トップを狙え! その弐〜
境内をぐるりと囲む茂みの中に正座して、ラズーは拝殿を眺めていた。
ラズーのひざの上には匠が、心地よさそうに寝息を立てている。
「……」
白く繊細な指で、ラズーは匠の黒髪を梳く。
ふと、境内に砂利を踏みしめる音が響き始めて、ラズーははっと顔を上げた。
「また……騒がしくなりそうだな」
ラズーは髪を梳く手を止めて、匠の両耳をそっとふさいでやった。
「あーん? なんだ、こりゃあ?」
渡された絵馬を眺めて、サンダー明彦は首をかしげて見せた。
「書いてある通りよぉ〜。一番乗りで「世の中のカップルに、破局の鉄槌を下してください」って願いをかけて、カップルの妨害をするのぉ〜。目的はあなた達と一緒、だから、邪魔しないでぇ〜」
頼み込むように、巫丞 伊月が言った。その傍らで、ラシェル・グリーズがその様子を一言一句逃さず、メモ帳に書き付けている。一体何を表しているのだか分からない、謎の絵をところどころにちりばめながら。
「目的は一緒だァ? はっ!」
サンダー明彦は絵馬を放り捨て、伊月に詰め寄った。
「俺の目的は現ナマだけだっつーの。分かったら、とっとと賽銭置いてけや」
「う〜ん……困ったわねぇ……」
伊月が、形のいいあごに指を当て、首を傾げてみせる。
瞬間。
「――とうっ!」
流星の如きとび蹴りが、サンダー明彦を吹っ飛ばした。
ざしゃっ、と砂利を響かせて、五条 武が着地を決める。
「――どいつもこいつも邪魔だ、退け。トップでゴールするのは、この五条武だ」
「てンめえ、やりやがったな!」
立ち上がったサンダー明彦、加勢に入った清景に拳を向けて、武は身構える。
「死に急ぐか……それもいい」
ラルクは、サンダー明彦、清景らと殴り合いを始めた武を眺めて、眉をひそめた。
「おっと……あれはちょっと、いかんなァ」
定位置で待機していたオウガも、首を伸ばしてラルクの視線の先を追った。
「あー、確かにあれは物騒ですね……」
「いっちょ、脅かしついでに止めてくるか」
拝殿脇から歩み出て、武たちのほうへ向かって歩みだしたラルクに、オウガも続く。
「ですね……。せっかくの楽しいイベントですから、あまり怪我人が出られても困ります」
「うまいこと邪魔が入ってくれて助かったわぁ〜。あのまま共倒れになってくれないかしらぁ〜」
「あいも変わらず、性根が曲がっておられますね」
平然と拝殿にたどり着いた伊月とラシェルは、賽銭箱に硬貨を放った。
ちゃりんっ、と澄んだ音がして、賽銭箱ががたがたと震え始める。
「……なに、かしらぁ」
「―――う、ううう、うう」
賽銭箱の中から、恨めしげな声が聞こえだした。
「私の前で……幸せなカップルアピールして……ゆ、る、せ、なぃいィ……」
がたがた、がたがた、賽銭箱の震えは、少しずつ、少しずつ、その音を増す。
「お賽銭を大目に置いていったら……許してやるですよぉおおおおお……」
伊月はすっと目を細めて、賽銭箱にもう一枚硬貨を放った。
ぴたり。と一旦賽銭箱の揺れが止まる。
けれど、すぐにまたがたがたと震えだした。
「こんな額で許してもらえるつゥもォりィ――――……? 有り金全部おいていきなさぁ―――……い」
「……」
伊月は、賽銭箱のふたを、ばかっと持ち上げた。
「お金を貯めて、彼のためにプリンを……あ」
はっと顔を上げた英希と、薄笑いを浮かべた伊月の、視線が絡む。
英希は、すかさず営業スマイルを浮かべた。
「どっ、ドッキリでしたー」
「あら、そう?」
伊月は手の中から、しゅんしゅんと音を立てる何かを、賽銭箱の中に投げ入れる。
「おや? これは?」
「ぅんふふふ〜。急いでいる私をくだらない遊びにつき合わせた、お仕置きだべぇ〜」
火のついたねずみ花火をそのままに、伊月はそっと、賽銭箱のふたを閉じた。
「はあ……はあ……お前さん、なかなかやるなあ」
砂利の上にどっかと座り込んで、ラルクが荒い息をついた
オウガ、サンダー明彦、清景も周囲にへたり込み、彼らに取り囲まれるようにして、五条武が大の字になって倒れている。
「しかしお前さん、どうしてそんな一番乗りにこだわるんだ? しかも単身で」
がばっ、と武は上体を起こして、きっとラルクを睨んだ。
「何か成す者は常に孤独だ」
「ほう?」
「別に寂しくなんかないぞ」
「……ははっ。そうかそうか」
よいしょ、とラルクは立ち上がり、武を肩の上に担ぎ上げた。
「おっ……おい、何をする!?」
「なあに、俺も、ちとゴールを目指してみたくなった」
「だから……俺は一人でだなぁ……」
「まずは参拝して絵馬を取りに行こう。賽銭箱の中にも誰かいたよな? 誘うか」
ラルクが武を担いだまま歩き出し、オウガも苦笑しながらそれに続く。
「サンダーさん。清景さん。あなた達も行きますか?」
「しゃーねえ。ちょっくら遠征して妨害するのも悪くはねえな」
サンダー明彦と清景も、どっこいしょと立ち上がってラルクに続く。
「今からでは間に合わんかも知れんぞ」
武が言って、ラルクは高々と笑った。
「なあに、それはそれでおもしろいではないか。勝っても負けても面白い、そいつが、みんなで行くところの醍醐味だ」
「……ふん」
鼻で笑って、それ以上武は文句を言わなかった。
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