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闇世界の廃病棟(第2回/全3回)

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闇世界の廃病棟(第2回/全3回)

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第1章 生命の冒涜

-PM15:58-

 彷徨っているゴーストを成仏させてあげたい生徒たちと、探索目的でゴーストタウンへ向かう人々たちがトンネルの前に集まっていた。
「またあの病棟に行くんですか?」
 眠そうな目を擦り影野 陽太(かげの・ようた)は、元気一杯なエリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)を見送りに来ている。
 ゴーストタウンの廃校舎に行き、朝まで耐久していた彼は眠そうに欠伸をする。
「えぇ、探索がてらに死者たちを成仏させるお手伝いもしてきますわ」
 カバンに詰めた荷物をチェックし終わり、陽太の方を向いてニコッと笑う。
「時間ですね、行ってらっしゃい」
 陽太は片手を振り、廃病棟に向かうエリシアを見送る。

-PM16:30-

 受付カウンターを覗き、樹月 刀真(きづき・とうま)は謎の看護師のがいないか確認する。
「誰かいませんか?」
 少し待ってみるが返事はなく、どうやらそこにはいないようだった。
 ナースステーションも探してみるが、それらしい気配は感じられない。
「いないようですね・・・」
「そうみたいね・・・・・・」
「まぁ・・・気長に探すしかないな」
 漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)玉藻 前(たまもの・まえ)も一緒に探してみるが、看護師の霊の姿は見つからなかった。
 4階のエリアへ移動するために刀真たちは、各エリアのドアの電源を入れに電力室へ向う。
 電力室に入るとすでに緋山 政敏(ひやま・まさとし)たちが電源を探していた。
「これだけの設備があるんだから、他のドアを開けるスイッチがありそうだよな」
 ペンライトの明かりで電力を供給する機器が置かれている隙間を照らし、コンセントが抜けたりしていないか確認する。
「ん・・・ここだけ埃が拭き取られているな。線が引っこ抜かれている・・・・・・誰がこんなことを・・・」
 電力を供給するために機器を動かす必要な線が鋭利な刃物で切られていた。
「誰かが人為的にやったとしか思えないな」
「何か見つかったのか?」
 実験場の各ドアを開くために必要な電源を探していたラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)が声をかける。
「ここ見てくれ、何者かが刃物で切ったような後があるんだ」
「―・・・うーむ・・・、ゴーストの仕業じゃなさそうだな。それも気になるが、とりあえずドアを開ける電源の方を先に探そうぜ」
「あぁそうだな・・・」
 気になりながらも政敏は、ドアの電源探しに戻ることにした。
「ドアの電源を入れに来たんですが、結構集まっているようですね」
「沢山ありますね・・・どれがそうなんでしょうか」
 電力室に入ってきた緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)リュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)は、階段を下りながらラルクたちの姿を見つけた。
「先に全てのエリアの電源を入れておけば、他のエリアを探す者にとってもやりやすくなるだろと思ったんだがな」
 ロブ・ファインズ(ろぶ・ふぁいんず)も一緒に電源を探し始める。
「皆で見つけた方が早いですよ」
 アリシア・カーライル(ありしあ・かーらいる)は入り口の傍で待機していた。
「・・・廃病院。・・・・・・うわ、絶対ヤバイって。どうしたって変なのが出てくるに決まってるじゃんか。こんな所にわざわざ来たいってのはホンと変わってるっつーか・・・」
 入り口の傍でロブたちが電源を探している姿を見ながら、レナード・ゼラズニイ(れなーど・ぜらずにい)は顔を顰めて呟く。
「こう多いとどれがどれか分かりづらいですね」
 錆びたプレートに書かれている文字を見ながら、刀真はどの場所の電源か確認する。
「見つからねぇな・・・。―・・・もしかしてこれか?」
「どれですか?」
「見つかったようだな」
 確認しようと遙遠とロブが駆け寄っていく。
「文字が擦れていて読みづらいが・・・。Pr・・・ing・・・gr・・・dたぶんこれだと思うぜ。この6つのボタンが各エリアのドアを開ける電力のスイッチなんだろう」
 ラルクはProving groundと書かれているプレートを確認してスイッチを押す。
「これで全部のエリアのドアが開いたのか?」
「そうみたいですね」
 ボタンが緑色になりONになった状態を、政敏と刀真が確認する。
「さぁ、行ってみようぜ」
 各エリアの電源を入れたラルクたちは電力室から出た。
「それじゃあオレたちはラボの方に行くからここで」
「じゃあな気をつけろよ」
 ラボに向かう遙遠とリュースの姿を見送ると、ラルクはエレベーターがある方へ視線を移す。
 ゴーストたちが襲撃してこないか部屋の外で警戒していたカチェア・ニムロッド(かちぇあ・にむろっど)リーン・リリィーシア(りーん・りりぃーしあ)は、エレベーターに乗り政敏たちと3階へ上がった。
 実験場に着くと彼らは、それぞれ探索するエリアへと向かう。
「月夜、玉藻・・・二手に分かれましょう、俺はCエリアへ向かいますから2人はFエリアへ向かってください」
 刀真の指示通り2人はFエリアのエレベーターに乗り、彼はCエリアへ向かった。



「ナースステーションってこっちかな?」
「もしかしたら手術室に近い所にあるかもしれませんね」
 清泉 北都(いずみ・ほくと)クナイ・アヤシ(くない・あやし)は謎の看護師の霊を探し歩いている。
「先に手術室の方に行ってみよう」
 暗い廊下を歩いていると、長い間掃除されていない曇った窓の近くにドアがあった。
 手術室に入ろうとマットを踏んだ瞬間、体重センサーでドアが横にスライドして開いた。
 ゴーストが潜んでいないか中を覗く。
「―・・・いないみたいだね」
「ここにメスが置いてありますよ」
「どれ・・・・・・?」
 クナイに言われ北都は錆ついた銀のトレイに置かれたメスを見る。
「使った形跡があるね・・・僕たち生徒以外に誰かいるのかな?」
 メスには真新しい血が付着していた。
「もしかして心臓を取り出すのに使ったのかも・・・メモしてこう・・・」
 北都がメモしていると突然ドアが開き、背筋が凍るような気配を感じ取ったクナイは、彼の両肩を掴み手術台の傍に隠れる。
「(霊体のようですね・・・。こういう場所でああゆうのに見つかったら厄介です)」
 しばらく身を潜めていると悪霊は手術室から出て行く。
「早くここから離れて別の場所に移動しましょう」
 手術室を出て待合室を通り過ぎすると埃で汚れた壁に、ナースステーションと書かれたプレートを見つける。
「ここみたいだね」
「カルテはこの中でしょうか・・・」
 引き出しを開けると、患者のカルテがあった。
「外来のもありますね」
「そこから全部出そうか」
 事件の被害者がいないか北都たちは引き出しから取り出し、カルテの束をテーブルの上に置く。
「古い記録のばかりだね・・・」
「他のも見てみましょう」
 見終わった方を棚に戻すと、クナイは他の棚から別のカルテを取り出す。
「最近の日付がありますね」
「―・・・この病院、ずいぶん前に使われなくなった感じだけど・・・どういうことかな」
「もしかしたら心臓を奪われた患者かもしれません・・・」
「それじゃあこのメモとそれをテーブルの上に置いとこうか。ここなら誰か来た時、すぐ目につくよね」
 メモ用紙をカルテの上に置き、ナースステーションを出ようとすると、カツンッカツンッとハイヒールの音が聞こえてきた。
「さっきのような、危険な霊かもしれませんね」
 物陰に身を潜めていると、黒いナース服を着た若い女の姿が見えた。
「(もしかしたら・・・)」
「―・・・北都!今出て行ったら危険です!」
 止めようとするクナイの言葉を聞かず、北都は女の霊に駆け寄っていく。
「ねぇ待って、聞きたいことがあるんだ。どうしてこの病院に心臓が集められているの・・・」
「―・・・・・・どうしてそんなことを・・・」
 女は足を止め、振り返らないまま聞き返す。
「それは・・・成仏できない霊が可哀想だから・・・・・・」
「恐ろしい・・・生き物を・・・・・・甦らせる実験・・・・・・」
「その実験に使われているということなの?」
 北都の問いに女をコクリと頷く。
「あなたはどうしてここに?」
「―・・・あの人を・・・利用して・・・・・・る・・・人が・・・」
「それは誰なの?」
 彼女は首を左右に振り、知らないと答える。
「誰かに伝えたいことはある?」
「―・・・あの・・・人に・・・私・・・・・・のことは・・・もう・・・いいから・・・・・・」
「えっ・・・あの人って・・・?ちょっと・・・ねぇ待って!」
 それだけ言うと看護師の霊はスーッと姿を消した。
「北都・・・そろそろ時間です。あまり長いしてしまうと朝まで出られなくなってしまいますから、トンネルの外へ出ましょう」
「―・・・うん」
 クナイに促され気になりながらも北都は彼と共にトンネルの外へ向かった。



 薄暗い病棟内をハンドライトの明かりを頼りに渋井 誠治(しぶい・せいじ)は、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)シャーロット・マウザー(しゃーろっと・まうざー)の前を歩き注意深く進む。
「灯り消した方がいいわよ。ゴーストが寄ってくるかもしれないから」
「そ・・・そうだな」
 小声でルカルカに言われ、誠治は電源のスイッチをOFFにした。
「離しちゃだめだからね。暗いからっ」
 誠治とシャーロット、ルカルカの順に手をつなぎ慎重に歩く。
 ナースステーションに入ると誠治は、彼女たちよりも先に中を覗き込み看護師の霊を探す。
「―・・・ここにはいないようだな」
「こんなところにメモがありますよ」
 北都が調べて書いたメモを、シャーロットが手にとる。
 手術室に使用したばかりのメスのことや、つい最近来た外来の患者の記録について書かれていた。
「このカルテに書かれているのは数日前に来た患者さんですね。担当者の名前が書かれてしません・・・」
「怪しいな・・・こんな事件が起こっているんだ。メスに血がついていたということは、すでに心臓を奪われてしまって、もうこの世にはいないかもしれないよな」
「看護師さんの日記があったわよね。それに何か書いてないかしら?」
「生徒さんが見つけた場所に戻しているかもしれないから、棚の中とかにあるかもしれませんね」
 引き出しを開けるとシャーロットは書類の束に紛れていないか探し始める。
「見つかりませんね・・・」
「これじゃないのか」
 鍵の開いた日記帳を誠治が棚の中から見つけた。
「例の看護師のかしら?」
「何かゴーストの手がかりとかが書かれているかもしれないよな・・・読んでみよう」
「―・・・前のページの方は、お仕事とか恋人さんのことが書かれていますね。あっ・・・元々ここは良く出る場所みたいです・・・怖い幽霊に遭遇したこともあるみたいですよ」
「いくら頑張って治療しても助けられないこともあるからね・・・、病院だしそういう人たちの霊も出るのよ」
 ルカルカはシャーロットの言葉に頷き、悲しそうな顔をする。
「真ん中のページあたりから、重い病気になってしまったことが書いてあるわね」
「恋人さんが治してあげようと頑張っていたみたいです・・・」
「臓器を提供してくるドナーが見つからなかったようだな」
「どうやら結婚の約束とかしてたみたいよ。亡くなった恋人・・・余命を宣告された人たちが実験に使われたことと何か関係があるのかしら。死者の再生・・・・・・もしかして・・・」
「うぅ・・・ふぇえん・・・」
「ど・・・どうしたんだシャロ!」
 突然泣き出すシャーロットに、誠治は驚き両肩に手を置き身体を揺する。
「―・・・・・・ぐすっ、何だか可哀想です・・・。未練のせいで病棟の中を彷徨っているんでしょうか・・・」
「あぁ・・・そうかもな。なんとか事件を解決してやって成仏させてやりたいよな」
「静かにしてっ、誰か来るわ」
 物陰に身を潜めて足音の正体を確認しようとする。
「もしかして看護師さんかもしれませんね。きっとそうです!」
 近づいてくるハイヒールの音を探している霊が来たと思ったシャーロットは、ナースステーションを出て駆け寄っていく。
「待ってシャロちゃん!」
 彼女の後を追うと黒ずんだ肌の、ワンピースを着た女の霊がいた。
 シャーロットの姿を見つけた女は怪しくニヤリと笑い、ゆっくりと彼女へ近寄る。
「早く離れてっ!そいつは私たちが探している霊じゃないわ!」
「本物の・・・幽霊・・・しかもやばそうなヤツじゃないか・・・」
「看護師さん・・・じゃないんです・・・?」
 あまりの恐怖に怯えてしまい、動けなくなってしまう。
「―・・・あぁもう、何やっているんだ。早く逃げろ!」
 なんとか恐怖心を押さえた誠治はシャーロットを抱え、すぐさま亡者から離れる。
 ルカルカがバニッシュを放ち、一刻も早くその場から逃れるために全力で走った。
「ふぅ・・・何とか逃げきったようだな」
「あれ・・・・・・ルカルカ様は?」
 逃げる途中でシャーロットと誠治は、ルカルカとはぐれてしまった。
「看護師さんを探していれば、どこかで合流できるかもな。」
「2人だけで探すんですか・・・」
「心配するな。シャロのことはどんなことがあっても、俺が必ず守ってやるから安心しろ」
 誠治は怯えた顔をするシャーロットの手をとり、暗い廊下を進み始めた。



 髪を掻き揚げ顔にペイントを塗った結城 翔(ゆうき・しょう)は、普段と違う服装で1人で2階の廊下を歩いていた。
 そっとラボ2-1のドアを開け中の様子を覗く。
「さて・・・最初の餌食はどいつだ」
 エペの柄を握り周囲を見回す。
「何だよ・・・何も出て・・・・・・」
 目当てのゴーストが見つかず眉間に皺を寄せて独り言を呟いている途中、ガシャァアンッと金網が落ちる音が背後に響く。
 ゴーストの鋭く尖った爪が翔の喉元を狙う。
 なんとか紙一重でかわした彼だったが、部屋の角に追い込まれてしまった。
「そう簡単にやられてたまるかよ!」
 足を斬り落し、エペの刃で胸部を何度も突く。
 流れ出る血で床が真っ赤に染まる。
「はは、ははははっ。どうしてだろうな、笑いが止まらねぇ!」
 亡者をいたぶりながら翔はゲラゲラと笑う。
「ほらほらどうした?もっと楽しませろよ」
 笑いながら顔面を壁際へ蹴りつける。
 猛スピードで再生していくゴーストは金切り声を上げ、心臓のない部分から触手がシュルルと伸び獲物を探す。
「へっ、何だそんなもの・・・うっ・・・・・・ごほっげほっ」
 床に這う亡者を小馬鹿にしたように見下ろし、余裕な態度で近づいていった翔は首を締めつけられる。
「な・・・ん・・・・・・ううっ・・・うぇっげほっ・・・・・・・・・!」
 突然口から血を吐き出し、ボタボタと床にこぼれ落ちた。
 触手は腹部を貫きながら心臓を狙おうとする。
 ズブリと引き抜くとドアを開け、何とかラボから出て鏡の傍に座り込む。
「くそ・・・こんど遭遇したヤツはミンチにしてやる・・・・・・」
 斬り刻んだゴーストの血を全身に被った鏡に映る自分の姿に、翔は正気に戻り欲望のままに行動したことに呻きながら悔いた。
「う・・うぅ・・・くぅっ・・・・・」
 彼は顔を俯かせたまま、血で塗れた手を鏡に押し当てズルリと滑らせた。



 看護師の姿を探して遙遠とリュースは、ラボの中を見て回る。
「視界が悪いですね・・・」
 遙遠は光術を使い明かりを確保する。
「なかなか現れくれないようですよ」
「ここはどうでしょうか?」
 ドアを開けて覗いてみると、室内は鉄分のような匂いで充満していた。
「うっ・・・なんですかこの匂い!」
「仕方ありません、何とか耐えましょう・・・」
 片手で口と鼻を押さえ、遙遠はもう片方の手で煙を払う。
「(血の匂いがしますね・・・)」
「無理ですよ、無理!こんなところ入れませんてば!」
「ひょっとしたら看護師さんがいるかもしれませんし」
 誰かいるか確認しようとラボ内に入ろうとする遙遠を、リュースが止めようと声を上げる。
 ペチッペチッと素足で歩くような音が室内に響く。
「靴音ではないですね・・・おそらくゴーストが近くに潜んでいるのでしょう・・・・・・」
 周囲を警戒しているとグシュリヌチャッという音が聞こえ、近くの棚がガタガタ揺れる。
「―・・・遙遠さん・・・ゴーストが!」
 リュースの声に左側へ顔を向けると、亡者の長い爪が遙遠の足を狙っていた。
「こっちは捜索行ってるだけなのに、めんどくさいですね・・・」
 床を蹴りかわしヘキサハンマーでゴーストの腕の骨をゴキンッと殴り潰すが、折った骨がベキッベキと修復していく。
「再生するのが早いですね・・・」
「ゴベハッ・・・ギッギグェ・・・・・・ギィイイーッ」
 金切り声を上げ心臓のない部分から、臓物のようなドロドロとした触手が伸びる。
 とっさに氷術を発動させ氷の壁を作りガードするが、簡単に貫かれバリィイインッと割られてしまう。
 ドロドロと蕩けている穴の開いた部分を直視してしまったリュースは、あまりの気持ち悪さに思わず吐き出しそうになる。
「刺されたら厄介ですね。室内では分が悪いです、外へ出ましょう!」
 ラボ2-5へ駆け込みゴーストが追ってこないのを確認し、遙遠とリュースはほっと安堵する。
「あんなのいちいち相手をしてたらSPが持ちませんよ」
「―・・・・・・せ・・・」
「えっ・・・今何か言いましたか?」
 項垂れてブツブツと小声で呟くリュースの顔を覗き込む。
「耳障りに喚いてんじゃねぇ、黙ってろ!」
「どうしたんですか突然!」
 霊に憑かれてしまったリュースが、ライトブレードで遙遠に襲いかかる。
「あのー・・・とりあえず冷静になって話し合いませんか?」
「細胞の一欠片までグチャグチャにしてやるよ」
 憑かれた影響でリュースには周囲が全てクリーチャーに見え、自分を喰らおうとしているように見えてしまう。
「イッヒヒ、死ねっ死ねぇええ。骨まで砕け散れぇ、ギャァハッハハー!」
「幻影・・・・・・でも見せられいるのでしょうか・・・?」
「逃げんじゃねぇえクソがぁあっ」
「さてこの状況どうしましょうか。傷つけたくありませんが・・・」
 ラボの外へ出ると薄気味悪い悪霊がニヤリと笑っていた。
 どうやらこの霊が魂憑依し、彼を操っているようだった。
 氷術で凍てつかせようとするが、身体のないゴーストにはまったく効かない。
「仕方ありませんね、争いたくありませんし・・・とりあえず気絶でもさせましょうか」
 向かってこようとするリュースを止めようと、片手で後ろ首に衝撃を与え気絶させる。
「(あれは・・・ナース服の幽霊?もしかして島村さんが探しているのは・・・・・・)」
 黒いナース服を着た女の霊がギロッと悪霊を睨みつけると、それは命じられたのかリュースへの憑依をやめて溶けるように姿を消し、気絶から目を覚ました彼は何が起きたのかまったく何も覚えていなかった。
 女の霊は暗い廊下を歩き始め、闇の中へ消えていってしまう。
「島村さんに知らせる前に消えてしまいましたね・・・怒られてしまうかも・・・・・・」
 遙遠は罰として検体にされてしまうのかと思い、頭を抱えてへこんだ表情をする。



 ゴーストの発生の原因がパラ実改造学科過激派の実験施設かと思い込んだ一条 アリーセ(いちじょう・ありーせ)は、リリ マル(りり・まる)を連れて実験場へ向かう。
「ここで何が行われていたんでしょうか」
 アリーセは金属バットを握り締め、実験場内をウロつく。
「(あぁ・・・自分は何でこんなところにいるんでありますか・・・)」
 金網の床に置かれたリリは、探索するパートナーの姿を見ながら早く帰りたい気持ちでいっぱいだった。
「私オバケは信じない性質です。裏には恐らくパラ実改造学科過激派の手による陰謀が!」
「―・・・それではゴーストたちはどうやって動いているんでありますか。死体が魂なしで動くとでも・・・?」
「兵器だから何らかの方法で動くようにしているんですよ!」
「あっ・・・オバケって英語読みにするとゴーストであります」
 リリの突っ込みに対して、アリーセは無視して調査を続ける。
「うーん・・・ここに死体が入っていたんですよね?」
 空っぽのシリンダーの中を覗き込み、中に手を入れて仕組みを調べた。
「それでここからホルマリンを流し込んでいたんですか」
 シリンダーの下につながれたチューブを持ち上げると、残っているホルマリンがポタポタと床に落ちる。
「あれは・・・噂のゴーストですか!?」
 天井を見上げると男女とも区別のつかない、顔を焼かれて潰されたような化け物がペタペタと這っていた。
 ドスンッと地面に落ちると、猛スピードでアリーセに迫りくる。
 リリがアリーセへもう一本のバットを投げ渡す。
 手にしている金属バットで殴りつけ、ゴーストを天井の方へ飛ばす。
 まったく効いていないのかすぐに再生した亡者は、バットに掴みかかりアリーセが振れないようにした。
「離しなさいっ、このぉっ!」
 口を大きく開きゴーストがアリーセの腕に噛みつこうとし、反射的にバットから手を離してしまう。
 今度はリリを火炎放射器代わりに、ターゲットに向かって火術を使わせた。
「やったでありますか!」
「さぁ・・・どうでしょうね・・・」
 シュウシュウを焦げた嫌な匂いが実験場に充満する。
 再生しきらないままゴーストは、長い爪でアリーセとリリに襲いかかった。
 とっさにリリがアリーセの身体を庇い、背に傷を負ってしまう。
「大丈夫であります・・・か」
「私は大丈夫です・・・今ヒールで治してあげます!厄介ですね・・・回復の隙を与えないつもりですか。ここはいったん退きましょう!」
 エレベーターに駆け込み、アリーセたちは2階へ避難した。



「あの実験場で何か見つけられないかしら」
 アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)はカメラと手帳を持ち、実験場の調査をしようとエレベーターに乗り込む。
「本当におぞましい場所・・・・・・でも少しでも情報を集めないと」
 エレベーターから降りたアリアは、周囲を見回して眉を潜めて呟く。
「もしかしたらあの日記の主の想い人の情報もあるかもしれないわね」
 金属の床を歩きながらシリンダーの周りをチェックしながらパシャリと写真を撮った。
「あのマシーンは何に使うのかしら、まだ使えだけど・・・不用意に触らない方がいいわよね」
 ドアの傍にある数台の機械を見て首を傾げる。
「この中に犠牲になった人たちが入っていたみたいだけど・・・。この実験場はゴーストを試験的に動かすためと・・・死んだ人たちを集めるためだけの所なのかしら」
 アリアは口元に片手を当てて考え込む。
「何かの実験に使われようとしていたのかしら。化け物を作るためだけに・・・?ただ単にゴーストを作りだして何をしようというの・・・」
「その女の人って亡くなったのよね?思い人は医者・・・再生するゴースト・・・・・・」
 数日前に生徒たちが倒したゴーストの腐り蕩けた残骸を見つめながら、頭の中で集めた情報を整理していく。
「まさか死んだ彼女を・・・!?―・・・でもそれだけだと人を襲うような化け物を作り出す理由にならないわ。誰かが何かの目的でその人を利用して作り出したとか・・・」
 何故ゴーストを人に襲わせるような必要があるのか、情報整理しようとアリアは疑問に思ったことをメモに書いてみた。
「探検に来た人たちや秘密を探りに来て死んだ人たちはやっぱり、ゴーストの性能をためすの研究材料されたということ?死体は研究材料・・・・・・この実験場に集められた死体・・・秘密を知った者は皆・・・」
 実験場を調べていると、風森 巽(かぜもり・たつみ)ティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)たち他の生徒がやってきた。
 死体の入っていたシリンダーの前に行くと、死者を弔うために巽は床に線香を立てるとライターで火をつける。
「むぅ、中庭の方が良かったかもしれない・・・・・・」
 モクモクと立ち上る煙に、ごほっとむせ返る。
「ここに看護師はいないようだな・・・」
 キョロキョロと辺りを見回すが、それらしい姿は見つからない。
「見てー、あんなところに穴があるよ」
「何のためにあるんだ?」
 天井を見上げると数箇所、ちょうどシリンダーがある真上に丸い穴が開いていた。
「特に紙媒体の資料はないようだな」
「この機械は何?まだ使えそうだけど」
 ティアが指差す方を見ると、パネルやレバーがついている機械があった。
「動かしてみようか」
「わぁあーっ待て待て!不用意にそんなこと・・・」
 巽が止めるのも聞かず、ティアはレバーに手をかけて下ろす。
 ガタガタと機械の騒音が響き、天井の穴の開いている部分から、シリンダーの中にホルマリンの液が流れ込む。
「ホルマリンを流すために使うやつだったんだね」
 レバーを元の位置に戻すと、液が流れなくなった。
「一応メモしておこう」
 デジカメで撮り終わると巽は詳細をメモする。
「さっきレバーに触ったけど埃がついてないよ?」
「ということは・・・誰かが使った形跡があるんだな」
 他に気になる箇所がないか周囲をチェックした。



「ここで生徒たちとゴーストの戦闘があったんだよな?」
 何が起こったのか把握しようと、朝霧 垂(あさぎり・しづり)は実験場の周囲を見回す。
「ぐすっ・・・怖いよ・・・・・・」
 ライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)は腰を屈めて怯えながら、垂の服の裾を掴む。
「倒したゴーストは・・・元はなんだったんだ?やっぱり人だったんだろうか・・・・・・」
「何だろうこれ・・・ぎゃぁああっ、人の死骸ー!?」
 巨大な化け物にされた残骸を踏んでしまったライゼは、ギャアギャアと騒がしく喚き散らしながら駆け回る。
「―・・・う・る・さ・いっ!」
「だって・・・踏んじゃったよー・・・・・・」
 拳を振り上げる垂に、ライゼは涙声で言う。
「うーん・・・やっぱり元は人だったのか。どうしてこんなことを・・・」
「迷い込んできた人たち皆こういうふうにされちゃたのかな」
「ゴーストを作ってどうしようというんだ」
「こんなの外に出てきちゃったら怖いよー」
「外に出てしまったら・・・?(もしかして・・・)」
 ライゼの言葉に垂は最悪な状況を予想する。
「そっちは何か分かったか?」
 巽の方を向き垂は情報交換しようと声をかけた。
「今のところ分かったことは・・・、この機械を動かすと天井の丸い穴からシリンダーにホルマリンが流し込まれるという仕組みだけだな」
「もしかしたらそれに入れられていた死者たちは、生物兵器にされそうになったんじゃないか」
「どういうことだ?」
「不死者の軍団が外に出たらどうなると思う?」
「―・・・・・・沢山の犠牲者が出てしまうかもな。消耗戦になったら明らかにこっちが不利になるな」
「誰かが作ったとしたら、パラミタの地はどうなる?」
「そいつらのいいように・・・あっ!」
 垂の説明に巽は思わず声を上げた。
「何者かが征服を目論んでいるかもしれない・・・ということだ。それに・・・・・・」
 説明を続けようとしたその瞬間、ガタッガタンッガタタッと何者かが天井裏を這う音が聞こえてきた。
 丸い穴からゴーストたちがドスンッと床に落ちてきた。
「―・・・やれやれこういう展開になるわけか」
 ため息をつきながらも垂は鞭状の光条兵器をバシイッと振るい、襲いかかるゴーストの四肢を絞り切る。
 恐怖のあまり気がふれてしまったようなライゼは、パートナーが四肢を千切ったゴーストへウォーハンマーを振り下ろす。
 ベキィッゴキンッと骨を砕く音が実験場に響く。
「うあっ、何やってんだ。こっちに当たりそうになったじゃないか!」
 ハンマーを振り回し続けるライゼに、垂がゲンコツをくらわす。
 殴られた衝撃で気絶しそうになりながらも、ライゼはハッと正気に戻った。
「やっぱりそうなるのね。秘密を知った私たちを葬ろうと・・・でもそうはさせない・・・」
 アリアはターゲットに向けてリカーブボウの弓を引く。
「雷の煌きよ、亡者たちに一時の眠りを!」
 矢尻に雷術で雷の気を纏わせ数本の矢を同時に、迫り来るゴーストへ放つ。
 命中させた頭部や腕が千切れ飛び床に刺さる。
「死後ももがき苦しむ者達に今ひとときの安息を・・・・・・バニッシュッ!」
 ティアが放ったバニッシュによって一瞬、ゴーストたちの動きが鈍る。
「悪いが、今はあんたらに時間をかける暇はないんでね!」
 ダンッと床を蹴り、巽はすかさず白の剣の刃でターゲットの胴を薙ぎ払う。
「せっかくやっつけたと思ったのに、再生していくよ」
「厄介だな・・・」
「こいつらの再生能力は無限なのか・・・。―・・・今度は何だ!」
 垂は鞭を振るいながら何度倒しても再生する亡者に顔を顰めていると、突然天井の通機口の金網が外れ地面にガシャァアンッと落下する。
「あわわっ、天井からまた何か落ちてきた!」
 ライゼの騒ぎ声に垂たちは天井を見上げ、金網が外れた通気口からボタボタッと人間の心臓が落ちてきた。
「あのゴーストたちの心臓か?」
「それなら早く燃やしちゃおうよ!」
「―・・・あっ、待て!」
 向かっていこうとするライゼの腕を垂が掴むのと同時に、通機口から真っ赤な炎がゴォオオッと噴出す。
 垂が止めていなければパートナーは今頃、落ちてきた心臓と一緒に丸焼けになってしまうところだった。
 心臓を燃やされてしまったゴーストは動かなくなり炎の中で焼かれていく。
「―・・・これって火術?誰かが助けてくれたのかな・・・」
「いや・・・もしそうならライゼがいるのに術を使ったりしないだろう」
「もしかして・・・ゴーストを作った犯人が・・・!?それじゃあ、あの天井裏に行ければ捕まえられるんじゃないかな!」
「追ってる途中で新たなクリーチャーを差し向けられたりしたらこっちが不利になる。悔しいが地理的にも向こうの方が有利だしな」
 犯人を追おうとするティアに、巽は首を左右に振る。
「まだ近くにいるか・・・それとも逃げた先で我たちを監視しているのか・・・」
「きっと今もどこからか私たちを見ていて笑っているのよね・・・」
 通機口を睨みながら、アリアは悔しそうに呟く。
「犯人は秘密を知った私たちを生かして帰さないようにゴーストを送りこんできたのよ。それで役に立たないと分かったゴーストを、利用するだけ利用してあんなふうに殺すなんて許せないわ・・・沢山の命たちを玩具のように扱うなんて・・・」
「くそぉっ・・・・・・卑怯者めー!隠れてないで出て来いー!!」
 生命を冒涜する卑劣な犯人に対して、垂の怒りの声が実験場に響き渡った。