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リアクション
【10・シャーペン、ネコミミ、ドーナッツ】
空京にある、建設途中のビルの陰に隠れるようにしている人物がひとりいた。
それは、隠れ身を使いながら周りに気を使ってシリウスを捜索中の虎鶫 涼(とらつぐみ・りょう)だった。
若干目つきが悪いため、傍から見れば引ったくりでも企んでんじゃないかと不審がられそうな勢いだが、彼はあくまでただ人探しをしているだけである。
そんな彼は、今まさに長時間の捜索の末シリウスを見つけたところだった。
だがそこには少し意外な光景があった。
ホイップが同行しているらしいとの噂はちらほら流れていたが、テティスまで一緒にいるとは予想外だったからだ。
(連れ帰られる途中なのか? いや、それにしては歩く方向が違うな。もしかして和解したのか。ま、そのへんも話していくうちにわかるか)
そう思い、都合よくこっちに歩いてきた三人の前へと、静かに歩み出た。
「きゃああああっ!」
「な、なに、鏖殺寺院の待ち伏せ!?」
「おふたりとも、下がってください!」
涼を見るなり三者三様に警戒してきた彼女らに、涼は頬をぴくぴくと動かして。
「おい。人がせっかくびっくりさせないよう気を使ってゆっくり出てきたのに、その反応はあんまりだろ」
不満げな涼に敵意がないのを悟ったテティスは、持ち上げかけた星槍コーラルリーフをおろした。それを受けて、ほかふたりも警戒心を緩める。
「えっと、つまりあなたは鏖殺寺院の方ではないのですね?」
「違うよ。俺はただ今回のことで、ちょっとシリウスに聞きたいことがあったから探してただけだ」
「あ、そ、そうだったんですか。それは申し訳ありませんでした」
シリウスはぺこりと頭を下げて、
「お詫びと言ってはなんですが、できる限りの質問にお答えしますよ」
にっこりと、まだ少しだけひきつった笑顔を向けてくれた。
はぁ、と涼は溜め息を漏らし。
「いや。話はちょっと落ち着ける所に行ってからにしたい。他にも何人かと待ち合わせしてるしな。それに、邪魔が入りそうだしな」
そう言って涼は銃型HCで、仲間内にしかわからないよう事前に決めておいた符丁による情報を送りながら、近づいてくる鏖殺寺院の連中に目をむけた。
最初に気づいたのはルカルカ・ルー(るかるか・るー)だった。
箒で空から双眼鏡片手に捜索中だったルカルカは、ある人物から借りておいた籠手型HCに届いた情報を元に深く探していくと。
六人の敵に囲まれているシリウス達を発見し。
直後には考えるより先に、箒は急降下していた。
「ホイップちゃん! 過積載だけどとりあえず乗って!」
彼女達の前に降り立つなり、手荷物のブラックコートをシリウスとホイップに投げ渡すルカルカ。
シリウスとホイップは、ここまで逃げてきた成果もあって相手が味方だとわかった。
涼の反応で彼の仲間であるということも理解できた。
ただ、それでもすぐに動けなかったのは、テティスが一緒にいたからである。
実は先程も、まだ護衛を続けてくれると申し出ていた樹やシャーロット達を、
『一般人の方をこれ以上巻き込めません、この先は私が責任を持って守ります』
と言って帰してしまったこともあり。咄嗟に動くことができなかった。
ゆえに動いたのは別の人間だった。
いや、人間ではなかった。
どこかから現れたゴーレムが、鏖殺寺院達にいきなり突撃してきたのである。
「な、なんだぁ!?」
敵は勿論味方も全員驚いた。
シリウス達はこれも涼やルカルカの仕業かと見るが、ふたりも例にもれず目を丸くしている。
動揺する寺院達に追い討ちをかけるように、今度は上空より光輝く弾丸が飛来して寺院の足下に弾けていく。
「ホイムゥ! 助けに来たよ!」
そんな中、響いてきた独特の呼び方。
ホイップはこれで相手がだれなのか気づきいっぺんに顔を明るくさせた。
「美羽!」
ルカルカの更に上から小型飛空艇に乗って滑空してきたのは、強化型光条兵器のブライトマシンガンを両手に構えた小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)と、コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)であった。
「僕のゴーレムが足止めしてるうちに早く!」
コハク達の助けに続く形で、更なる援軍が到着する。
「ここは俺が引き受ける、彼女を安全な場所へ!」
連絡を受け走って来たのは樹月 刀真(きづき・とうま)と、パートナーの漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)。
刀真はブラックコートをシリウスに羽織らせ、やや強引にルカルカの箒へと乗らせる。
「ほら、いそいでってば!」
ルカルカもホイップの手をとり、もう返事を待つことなく上昇していく。
「あっ、ちょっと待ってよ。ホイムゥはこっちに乗るんだからぁ!」
それに対抗心燃やしてる美羽も後に続いて飛び立ち、
「ああもう! だからおふたりの護衛は私がするんですから!」
テティスも寺院連中が持っていた空飛ぶ箒を奪い、後を追いかけていく。
なんだかもはやシリウスとホイップの争奪戦と化していた。
そのまま暗くなり始めた空京の闇に紛れつつ、空を奔走する彼女たち。
右に左に追っ手を意識つつ飛んでいき、
やがて敵の気配を感じなくなってきたところで一度、手近なビルの屋上にある給水タンクの下へと身を隠す一同。
とはいえ、シリウス、ホイップ、テティス、ルカルカ、美羽、コハクと計六人もいるのであんまり隠れられていなかったが。
「あの。助けてくれたことには感謝しますけど、一般人の方はこれ以上……」
「えー? そういう言い方ないじゃない。それに私はクイーン・ヴァンガードだし」
「ルカルカはホイップちゃんの友達だもん。友達が困ってるのに、放っておけないよ」
美羽とルカルカの言葉に、う……と、押し黙らされるテティス。
彼女は基本的に根が真面目なため、口喧嘩には向いていないようだ。
「とにかく、一度ミスド行こうよ。仲間うちでそこ集合場所に決めてるの。ホイップちゃんたち疲れてるみたいだから、休憩もかねられるし、話もできるし一石二鳥でしょ。ね?」
実際確かにシリウスもホイップも、ここまで色々あったため疲れが目に見えており。
ルカルカにやや押し切られる形で、テティスは渋々頷いた。
「えーっと。コスプレ、ピンクで。シャーペン、ネコミミ、ドーナッツ……っ、と」
そしてルカルカは籠手型HCに謎の符丁を打ち込んでから、何分も経たないうちに屋上へ橘 恭司(たちばな・きょうじ)と閃崎 静麻(せんざき・しずま)が顔を見せた。
「よかった。ミルザムもホイップも無事だったんだな」
「それじゃあ急いで変装して、ここを出ようぜ」
ふたりは色々と変装用の道具を広げていき。
恭司がシリウス、ルカルカと静麻がホイップに、ついでに手持ち無沙汰な美羽とコハクが、テティスへと変装を施していった。
最初ヘンなとこ触られるんじゃあるまいかと不安げだった三人だが、べつにそのようなことはなく普通に髪型や服装をいじられる程度で早々に終了した。
ということで出来上がった三人のファッションは、
シリウスはポニーテールに伊達眼鏡、白の帽子を被って踊り子衣装の上から青のパーカーとジーンズを着て、更にブラックコートを羽織っている。
ホイップはみつあみに同じく伊達眼鏡、黄色の帽子を被り、普段着の上から紺色のパーカーとニッカポッカを着て、更にブラックコートを羽織っている。
テティスはサイドテール。マスクをつけて、ヴァンガード強化スーツの上からベージュのツナギ上下を着て、更にトレンチコートを羽織っている。
「あの。どうも不自然な気がするのは私だけでしょうか」
「大丈夫大丈夫……多分」
ミスドへ向かう彼女達は、どうにも街から浮いている感がにじみ出ていた。
と、そんな怪しげな集団の前から、
もっと怪しげな全身漆黒の騎士鎧を纏った、やけに身長差のある二人組が歩いてきた。
「あの人達、もしかして……」
「シッ! へいきだから、素通りするの」
緊張が張り詰めるなか、互いにすれちがい。
助かったか……と、安堵しかけた一同であったが、
「おい、おまえたち。ちょっと待て」
ドキーン! と、心臓が激しくビートを打つ。
「な、なにか?」
答えた静麻の声は、明らかにぎごちなく聞こえた。
「そこの女、帽子と眼鏡をとってみろ」
2メートル近い高身長男の方がまっすぐシリウスを指差してきて、ビートが更に速まる。
「ど、どうしてですか?」
「ん? なに、なかなかの美人に見えるが、服装がそれを隠していてなんとも勿体無いと思ってな。ちょっと外して素顔を見せて欲しいのだ」
男のそれは本気で言っているのか、正体に気づいているのか、微妙な口ぶりだったが。
どちらにせよ大ピンチであることに変わりは無い。
「おい! アニキがそう仰ってるんだから、さっさととらないかっ!」
明らかに腰巾着くさい身長150センチの小男が急かしてきて、
もはや誤魔化すのもここまでかという空気が流れるが。
「わー、なにこのよろいー、かっこいー」
そのとき。5歳くらいの子供と、やけに大柄な狼みたいな犬が駆け寄ってきた。
「あん? なんだこのガキとイヌ。オレらは忙しいんだ。さっさとパパとママのとこ帰れ」
小男はしっしっと手を振って追い払おうとするが、
邪険にされたその子の目に涙が溜まっていく。
「ひっく……じつはぼく、こうえんで、あそんでたら……おとうさんとおかあさんとはぐれちゃって……さがしてたら……みちにまよっちゃったんだ……うえ〜ん」
「はっ、ンなこと知るかよ。ねぇアニキぼはへぁ!?」
言葉の途中で小男は思いっ切りブン殴られ、キリもみ回転しながら地面を転がった。
「阿呆が! こんな小さい子が困っているのに見捨てるつもりか! 恥をしれ!」
「へ、へぇ……すんません。でもオレら鏖殺寺院なんスから、今更そんな善人みたいな真似してもしょうがなぼべぇ!」
今度はキリキリ舞いしながら、そのへんのフェンスに激突した。
「よしよし、悪かったな。おじさんがちゃんと親のところにつれてってやるからな」
「ひく、ひっく。ほんと……? よかったぁ」
優しい言葉に泣きやむ幼子、尻尾を振っている大型犬。
それだけを見れば、平和な光景だった。
だが。
大柄な鎧男は気づかなかった。
もうとっくにシリウス達が逃げていることと、
背後から鞭状になった火術が迫ってきていることを。
「隙ありです!」
ちょうど兜と鎧の中間地点。
喉元にピンポイントで巻きついた炎の鞭は、爆砕音と共に一瞬で男に大ダメージを与え、膝をつかせた。
「アニキ!」
小男が兜の下の目を剥いて、攻撃の放たれた方向を見るとエミィーリア・シュトラウス(えみぃーりあ・しゅとらうす)が物陰に隠れつつ、やさしく微笑んでいた。
「お前も油断しちゃダメなのだよ!」
小男は、犬が発してきた声でやっと気づいた。それは狼化した獣人だと。
だが彼の名がスプリングロンド・ヨシュア(すぷりんぐろんど・よしゅあ)であると知る前に、思い切り股間に頭突きを食らわせられていた。
唯一の幸いとしては、着ていたのが全身鎧だったということだが。
現実問題、間接部分やそれに近い所は通常装甲が薄くなっていることが多い。
早い話が、けっこう痛かった。
「ごめんね、おじさんたち」
悶絶する大小ふたりの男は見た。
ちぎのたくらみで子供に化けていたリアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)が元の姿に姿に戻り、フラメンコを踊っている姿を。
(なぜフラメンコ?)
と疑問を抱く間もなく、リアトリスは高周波ブレードを構えており。
超感覚と破邪の刃を併用し、踊りながらの斬撃で、一気にふたりの意識を狩りとった。
「ふう、意外にあっけなかったね。おとうさん、おかあさん」
「オレ達にかかれば楽勝であろう。逆に純粋に信じていたから、罪悪感が残るのだよ」
「さ。アリス、ロン。シリウスさん達は無事に逃げられたようですし、このあとはお買い物でもしながらゆっくり帰りましょう」
肩の荷を降ろし、笑いあう三人。
それだけを見れば、仲良し家族という光景であった。
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