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泥魔みれのケダモノたち

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第11章 キッコウの縛り

「ぶ、ぶきー! オノレ、人間ども! そうやって私を愚弄するか!!」
 毒の沼地で巨体を見事にひっくり返され、歓声をあげる生徒たちに呪詛の声を吐き散らすダークキッコウ。
 ばたばた、ばたばた。
 甲羅から突き出した手足を振りまわしてもがくが、カメであるダークキッコウは、ひっくり返ればそう簡単には起き上がれない。
「カメさん、あなたに恨みはありません。ただ、ハムーザ3世ちゃんを助けたかっただけなんです。あら? そういえば、ハムーザちゃんは?」
 エリカは、はっとした。
 他の生徒たちも、はっとする。
 も、もしかして!!
「ありゃ? ハムーザはもしかして、甲羅の上にいた連中もろとも、ひっくり返った甲羅の下敷きになっちまったかな?」
 ナガン ウェルロッドはしまったという風に頭をかく。
「なんてこった!」
 ラルク・クローディスも舌打ちした。
「こうなったら、ひっくり返って動けない奴に速攻でとどめを刺して、甲羅の下のハムーザを一刻も早く救出しないとな!」
 ラルクの言葉に、ナガンはうなずいた。
「そうと決まれば、よし! 全員集合だ!!」
 ナガンの呼びかけで、彼の仲間である、自分から全裸になって特攻していった生徒たちが次々に集まってくる。
 黒鬼たちと闘って沼地の中心への道を切り開いてくれた仲間、ちょっとはしゃいで踊ったりしていた仲間、ダークキッコウと闘ってともに甲羅を持ち上げた仲間。
 全ての仲間が揃ったことを確認したナガンは、全員にダークキッコウへの一斉攻撃を指示した。
「奴を倒せるのはいましかない!! みんな、いっきに仕掛けるぞ!」
 わー!
 全裸の戦士たちが、ひっくり返って腹部が露になったダークキッコウを取り囲む。
「みなさま。がんばって下さいね。私たちは応援していますわ」
 秋葉つかさ、藤原優梨子、桜井雪華の3人は応援役として、戦士たちの周囲で裸踊りを踊り、精神エネルギーを高揚させる役割を果たそうとした。
「よし、いけー!」
 ナガンの合図で、戦士たちがダークキッコウにつかみかかったとき。
「ぶきー!」
 ダークキッコウがうめくと、天を仰ぐ腹部から、不気味な光がもれ始めた。
「あの輝き。ウォーマインドがダークキッコウの力を回復させようとしているぞ!」
 エクス・シュペルティアは警戒の叫びをあげた。
 そして。
「ダ・ア・ク・キ・ッ・コ・ウーーーー!!」
 天を聾するすさまじい叫びとともに、ダークキッコウは頭部と手足、そして尻尾を甲羅の中にひっこめた。
 グゥオオオオオ
 円盤に近い姿となった甲羅が、すさまじい勢いで回転を始める。
 回転により、甲羅は徐々に浮き上がり始め、沼地に対し垂直の状態になったときに、ダークキッコウは頭部や手足を甲羅から突き出し、2本足で沼地に直立した。
「許さん、許さんぞ、キサマら!!」
 ダークキッコウの目は怒りに燃えている。
「いかん! 散れ!」
 敵の思わぬ動きに、ラルクは仲間たちに散開を促した。
 だが、遅かった。
「くらえ、我が呪いを!! キッコウの縛り!!
 ダークキッコウの目が赤く光り、恐るべき妖術がラルクたちを襲った。
「ぐ、ぐわああああああ!!」
 全裸の戦士たちは、みな一様に悲鳴をあげる。
「なに、こ、これは!?」
 ナガンも妖術の犠牲になっていた。
「きゃ、きゃあああああ! ナガンさんたち、その姿は、とても痛そうです! 大丈夫ですか!」
 エリカが悲鳴をあげるもない。
 無理もない。
 ナガンたちは、ダークキッコウの「キッコウの縛り」という呪いにより、全身をワイヤーのように強力なロープで、がんじがらめに縛られてしまったのだから。
 その縛り方たる徹底していて、そう簡単には動くこともままならないほどだった。
「あら、いいですわね。私もよく、そういう風に縛られましたわ。慣れれば気持ちのいいことですわよ」
 藤原、桜井とともに踊っていた秋葉が、にっこりと微笑む。
「う、うわー! 解説はいいから、助けてくれー!」
 ナガンたちは縛られた状態で沼地の泥につかり、ごろごろ転がってもがいた。
「待ってて! いま解放します!」
 エリカは慌てて、ナガンに駆け寄り、縛めを解こうとするが、かなり厳重に縛られていて、すぐには解放できそうもない。

「エリカさんは、縛られた人を助けるのに夢中になってるけど、でもこれって、ハムーザ3世ちゃんを助けるチャンスだよね」
 七瀬歩(ななせ・あゆむ)は、ダークキッコウがひっくり返ったときに、甲羅の下敷きになっていた沼地の部分を仔細に調べてまわった。
 カメの甲羅の模様がついてしまった沼地の泥の中に、甲羅の上にいた、葛葉明と、小鳥遊美羽と、泉椿の3人がぺちゃんこになって伸びている姿が発見された。
「みんな、しっかりして! ハムーザちゃんはどこ?」
 七瀬は葛葉たちを助け起こして、尋ねた。
「うーん、あたしたちが、クッションになったから、そこに……」
 泉が指した方向には、小高い泥の山がみえた。
「まさか!」
 七瀬は慎重に、泥の山の泥を崩してゆく。
 すると。
「あっ、ハムーザちゃん!」
 泥の山とみえたものは、うつぶせに倒れたハムーザ3世の身体に泥が積もったものだということが、すぐにわかった。
 甲羅の下敷きになったにも関わらず、生徒たちが身を呈して守ってくれたおかげで、ハムーザ3世の身体の傷はわずかだ。
「ハ、ハム〜ここはどこハム!?」
 七瀬に顔の泥を払いのけられ、身体を揺すられて、ハムーザ3世はやっと意識を取り戻した。
「ハムーザちゃん! 気がついたのね。よかった!」
 七瀬は思わずハムーザを抱きしめていた。
「む、むぎゅううう苦しいハム!」
「あっ、ごめんなさい!」
 ハムーザが目をまわしたのに気づき、慌てて身を離して謝る七瀬。
「大丈夫ハム。でも、ハムーザは、迷子になって、こんなところにきてしまったハム!」
「ハムーザちゃん。エリカさんが心配してるよ」
「エリカ? ハムー! エリカに会いたいハムー!! どこにいるハム?」
 ハムーザは飼い主の名を聞いて悲痛な声を出した。
「あっちの方にいるよ。ちょっと離れてるけど、大丈夫? 歩ける?」
「ハム〜。何も食べてなかったから、身体がフラフラするハム!」
「でも、がんばって行かないと。エリカさんはいま、ロープに縛られちゃった人を助けているんだから!」
 七瀬はハムーザの手をとって、励ます。
「ハム〜。わかったハム! ここは自分でがんばってみるハム!!」
 エリカのもとに戻りたい一心で、ハムーザは傷ついた身体を引きずるようにして歩き始めた。
「ハムーザちゃん、がんばれ、がんばれ〜!!」
 七瀬はハムーザについて、一緒にエリカのもとに向かってゆく。

「エリカ〜!!」
「えっ、あの声は!?」
 エリカは、ナガンたちの縛めをほどく手を止めた。
「ハムーザちゃん! ハムーザちゃんなの!?」
 エリカは、自分に向かってのろのろ進んでくるハムーザの姿を認めると、なりふり構わず走り出していた。
「ハムー!! エリカ〜!!」
「ハムーザちゃ〜ん!!」
 ハムーザ、エリカ、ともに涙を流しながら互いを抱き締める。
「よかった! 本当に探したわよ、ハムーザちゃん!!」
「ハム〜!! ハムーザも、帰れなくなって、本当に怖かったハム!!」
 再会を喜ぶ二人の姿を、ハムーザ3世について歩いてきた七瀬歩が、笑顔を浮かべながらみつめていた。
「二人とも、よかったですね!」
「七瀬さん、ここまでハムーザちゃんを連れてきてくれてありがとう!!」
 エリカは、七瀬に御礼をいった。
「いえいえ。実は、ハムーザちゃんが自分でがんばるっていったから、ここまで来れたんですよ!」
 七瀬はハムーザに笑顔を向けて、いった。
「本当ですか!? 偉いですね、ハムーザちゃん!!」
「ハム〜」
 エリカに誉められて、ハムーザは嬉しそうだ。