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泥魔みれのケダモノたち

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泥魔みれのケダモノたち

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第6章 全裸でお祭り!

「ハッハッハ! いいぞ、もっとやれー」
 次々に全裸になって特攻をかけてゆく同志たちの姿をみて、ナガン ウェルロッドは狂喜していた。
 彼自身はすっかり泥まみれになって黒鬼たちと揉みあい、戯れとも受け取れる笑顔を浮かべている。
「どうした、ほかの連中もどんどん脱いでいこうぜ!」
 泥の中に押し倒した黒鬼の背にまたがり、鬼の頭部の2本の角を両手でつかんで、ナガンが叫ぶ。

「では、及ばずながら私も」
 秋葉つかさ(あきば・つかさ)が沼地の泥をしずしずと歩いて、黒鬼たちに近寄っていく。
「泥まみれなのでわかりにくいですが、黒鬼様たちも全裸なのですね」
 そういって、秋葉はにっこり微笑んだ。
「オウ、文明の汚れを受けず、俺たちは原初のままでやってるんだ! 何か文句あるのかコラァ!」
 黒鬼たちが秋葉を取り囲んで、すごみ始める。
 だが秋葉は取り乱した様子もなく、落ち着いた笑顔をみせていた。
「いえ、裸でいることに問題など、あるわけもありませんわ。ただ」
 そういって、秋葉は衣に手をかけた。
「いろいろと亀頭がおありですが、マ・メール・ロアでお相手したフニャフニャ様なみに貧相なモノばかり、私が残らず満足させて差し上げます!」
 するすると、優雅に衣を脱ぎ捨てる秋葉。
 幼いころから何度も繰り返されてきた動きが、秋葉の脳裏によみがえる。
 それこそ、黒鬼たちのいうように、生物としての人間の「原初」の動きであろう。
(フフッ、こんな醜いものばかり、こんなものにすがらないと生きていけない私も醜いものですね。しょせん、金と権力を持った者が得をし、何も持たないものは虐げられるのみ。理想だけでは何も変わりませんよ?)
 秋葉はすっかり全裸になっていたが、いかつい体格の黒鬼たちに囲まれているせいで、他の生徒からは身体がよくみえない。
「むっ!? この身体から発する力は……!」
 黒鬼たちはうめいた。
 全裸になり、黒鬼たちの視線にさらされるままとなった秋葉から、強烈なマイナスエネルギーがもれだしているのだ。
「どうかしましたか、私をもてあそんでよいのですよ?」
 秋葉は笑みを浮かべたまま、黒鬼の腕をとって、自分の身体に導いていく。
「その心の闇を、俺たちと化合させるというのか!?」
「何とでも、おいいになって下さいませ」
 秋葉の身体と密着するにつれ、黒鬼たちの肉体が膨張し、全身にみなぎる力が増していくかのようだ。
「おいおい、マイナスエネルギーを払拭させて相手を倒そうってのに、逆に自分のマイナスエネルギーを与えてどうするのさ!?」
 ナガンは呆れ顔だが、秋葉を本気で止めるつもりはないのか、黒鬼のお尻を叩きながら情勢を見守っている。

「秋葉さん、私は難しいことはわかりませんが、あなたのお身体はきれいだと思いますよ。ふふっ」
 微笑みながら秋葉の近くに現れたのは、藤原優梨子(ふじわら・ゆりこ)だ。
「ここは沼地ですが、水着に着替えるのも面倒ですし、私も脱ぎますわよ?」
 どこかのんびりした口調で黒鬼たちに語りかける藤原。
「ああーん? 脱ぐならさっさと脱げよ。でなきゃ俺たちが脱がせっぞコラァ!」
 秋葉にまとわりついていた黒鬼たちの一部が、藤原に絡み始めた。
「あれあれ、せかさないでったら。ふふっ」
 藤原はどこか楽しそうだ。
「藤原様。私と違って、あなたは心の底から楽しそうですわね。なぜ? なぜですの?」
 秋葉が藤原に尋ねる。
「どうして? 特に理由なんてないですよ。私、あまり難しいことは考えてないですから。実をいうと、先日まで私もパラ実生だったんですよね」
 藤原は笑いながら、衣に手をかける。
「そうそう、精神エネルギーをぶつけるために、叫ばないといけないですね。えーと、えーとえーと」
 何か叫ぼうとして、藤原は言葉に窮した。
 倫理性が低い藤原は、説教の類が非常に苦手なのだ。
「うーん、ばーかばーか、とか?」
 しーん。
 一瞬、沼地に静けさが訪れた。
「あらっ、もう、苦手なんだから、いいですわよ。そーれっ」
 藤原は特に恥じらいもなく、無造作に衣を脱ぎ捨てていく。
 秋葉と同様、黒鬼たちのいかつい身体に邪魔されて、周囲の生徒からは藤原の身体がよくみえない。
「藤原様の身体、きれいですわ」
 秋葉は、藤原の肉体美を讃えた。
「そうかしら? 秋葉さんのようにプロポーションには恵まれてないですよ」
 藤原は笑いながら、黒鬼に抱きついていく。
「ほら、泥んこになって遊びましょ? わーい」
「ああ? 何いってんだ! 全裸になったら今度は闘うのが自然なんだよ!」
 黒鬼たちのムッとした様子を意に介さず、藤原は泥をすくって自分の胸に落書きしたりしている。
(いっとくけど、私だって別にあなたたちの味方ではないですよ。でも、裸って気持ちいいですね)
 藤原は、裸でいる快感に酔いしれたのか、満面の笑みを浮かべ始めていた。

「おーし、盛り上がってるやないかー!」
 桜井雪華(さくらい・せつか)が威勢よく叫んで、ハリセンを打ち鳴らしながら秋葉と藤原に駆け寄っていく。
「何だコラァ! またおかしな女かぁ!?」
 黒鬼が威嚇する。
「おかしな女とは、失礼やな。なんや、この沼地では、男女を問わず裸踊りがはやっとるそうやないの。面白そうやし、ウチも参加させてもらうで!」
 桜井はハリセンでビシッと黒鬼の頭を叩く。
「だコラァ!? 真剣勝負を裸踊りとはずいぶんふざけた女だ。ナメくさってっと貞操の保障はできねぇぞコラァ!」
 黒鬼が桜井の肩をつかむ。
「ウチの貞操が危ないやて? ハッ、上等やなぁ!」
 バシィッ
 桜井はその手を弾き飛ばしていた!
「な、なに!? 貴様は強気でいくかー!」
「何やゴラァ! ボケ! カス! んどれ日焼けサロンで居眠りぶっこいて黒焼きになったようなマヌケな顔しくさってからに! シバいたろか、あぁ!? そのいっちょまえの角引っこ抜いて、んどれの大事な穴から突っ込んで脳みそガリガリいわしたろか!」
 ちゅどーん!
 桜井の叫びにこたえるかのように、一部の黒鬼たちの身体が爆発する。
 自ら衣を剥き、全裸になった桜井は堂々と胸を張った。
「ほら、みてみい! ウチやて膨らみあるんやからなあ!」
 だが、次の瞬間、桜井は近くの藤原にしがみついていた。
「あれれ? どうしたんですか、桜井さん?」
「いやぁ〜ん、めっちゃ怖かったわぁ。ウチ、めっちゃ怖かったぁ」
 戸惑う藤原の露な胸の谷間に、桜井は自身の顔を挟んでこすりつけていた。
「鬼さんも怖いし、男の人もハァハァいいながらウチみてるしなあ」
 桜井は藤原の全身を愛撫するかのようにまとわりついた。
「いやん、そんなにやられたら気持ちよくなっちゃいますよ」
 藤原は笑って、桜井を抱き寄せる。
「桜井様、あなたの身体、非常に健康的な輝きを放っていますわ」
 秋葉が桜井の身体を賞賛した。
「うん、ありがとうな。ウチ、裸になるの別にイヤなわけやあらへん! でも秋葉さんの肉体美にはかなわんなあ」
 桜井は羨望のまなざしで秋葉の細部を凝視し、心からの賞賛の言葉を述べた。
 秋葉つかさ、藤原優梨子、桜井雪華。
 この3人は、お互い裸になって近づいたことで、心に相通じるものを感じたようだ。
「おい、女子供が乳繰り合ってままごと遊びしてんじゃねえぞコラァ! 闘う気がないなら、本能のままやっちゃうかんな!」
 黒鬼たちは、3人の裸の女性たちを取り囲む。
 そのせいで、他の生徒からは3人の身体がほとんどみえないが、それでもチラチラみえる白い肌に、何人かは興奮しているようだ。
「役者は揃ったな! ほな、遊ぼうかぁ」
 桜井は藤原と秋葉の手をとった。
「桜井様、なかなかテンションが高いですわね。気に入りましたわ」
 秋葉が微笑む。
「うーん、裸は気持ちいいし、遊ぶの大好きです!」
 藤原の爽快さもマックスに達しようとしていた。
 そして。
 3人は、誰がいうともなく、互いの手をとり、くるくるまわったり、ひらひらステップを踏んだりしながら、裸踊りを始めていた!
「ああ、私たちの身体をみて、みなさま、癒されて欲しいですわ」
 秋葉は自然な興奮を覚えている自分自身に驚いていた。
「くっ、何だ、こいつらの踊りからは、エネルギーの高まりを感じるぜ!」
 黒鬼たちは3人を警戒して、狭めていた包囲の輪をゆるめる。
「あっはっは、戦場で裸踊りとは、こいつは面白いな! あっ、ぽぽんが、ぽん! ぽぽんがぽん!」
 ナガン ウェルロッドは大喜びして手を叩き、3人と一緒に踊り始めていた。
 その周囲では、既に全裸になったナガンの他の仲間たちが、鬼たちを徹底的に追いつめて破壊している。
 ちゅどーん、ちゅどーん!
 まさに、狂気の宴が沼地で繰り広げられていたのである。

「し、しかしこれは何……だな。私がついていける範囲をだんだん超えつつある、な……」
 踊りが始まった辺りから、斎藤邦彦は次第に頭痛を覚えてきていた。
 シャンバラ大荒野と、そこに生きる者たちの実態が、これまでまでに強烈であるとは、いくつもの修羅場をくぐってきた斎藤も想像だにしなかったことである。
 いつもは冷静なパートナーのネル・マイヤーズも、そんな斎藤を気遣うようにみつめていた。
「邦彦は、脱がないの?」
 ネルが尋ねた。
「ああ。脱がないさ……って、普通そうだという気がするが……」
「御免なさい。あの人たちをみていたら、私も調子が狂ってきそうです」
 変な質問をしたと気づいたネルは、素直に斎藤に謝った。
「いいさ。私だっておかしくなりそうなんだ。私は脱がないし、そうなるのを望んでいない誰かが脱がされるのを黙ってみているつもりもない。そう、あの野獣たちから、エリカも、ネルも、私が必ず守ってみせるさ。まあ啖呵は苦手だがな」
「ありがとう、邦彦。ワタシは、あなたのパートナーでよかったと感じています」
 ネルは知らず知らずのうちに、斎藤の側に近寄っている自分に気づいた。
「邦彦、もう、あの人たちの身体はみないで」
 なぜかはわからないが、ネルは頼んだ。
「ああ。特に、女の裸は、みないさ。刺激が強すぎるし、何だか悪いことをしているようにも感じるんだ」
 斎藤はそう答えると、じっと踊りをみているエリカを促した。
「行こう」
「あっ、はい。すみません、とても楽しそうに踊っているので、ついみとれてしまいました。この隙にハムーザ3世ちゃんを探しに行かないと」
 エリカは我に返ったような様子で、斎藤たちとともにその場をそっと離れ始める。
「ナガンさん、すごいアイデアで黒鬼さんたちをひきつけてくれて、ありがとう。みんなは変だというかもしれないけど、私はナガンさんの作戦は立派だと思います」
 エリカの言葉に、斎藤はなぜか自分への説教めいたものを感じた。
「うん? そうだな。私も、ナガンの作戦は功を奏したと感じている。私には思いつけない作戦だし、ある意味天才だな」
 斎藤の言葉に、ネルもうなずく。

 カシャ、カシャ。
「す、すごい。これはすごい!」
 朱黎明(しゅ・れいめい)は眼前に繰り広げられる、美しい女性たちの裸の宴に感嘆しながら、デジカメでの撮影をひたすら続けていた。
「噂を聞いてきてみれば……こんなお宝光景に出会えるとは! 生きていてよかった!」
 充実感に胸を震わせながら、朱はデジカメのボタンを押し続ける。
「しかし、黒鬼たちが邪魔して、よくみえんな……。女たちも、だいぶ泥をかぶってるし。うーむ、とりあえず近づくか。私としては、秋葉もいいが、藤原の身体をたっぷりみたいところだ」
 朱は、踊っている女性たちに近づいていく。
 すると、黒鬼たちが朱に気づいて、デジカメを取り上げてしまった。
「何だコラァ! 文明の利器でスケベ行為してんじゃねえよ!」
 ぐしゃ。
 黒鬼たちは、朱のデジカメを粉々に破壊してしまう。
「くそっ!」
 舌打ちして、朱は退却。
「大丈夫だ。デジカメなら、もう1台ある」
 もう1度、黒鬼に気づかれないように女性たちに接近していく朱。
 しかし、踊っている女性たちのはねあげる泥がデジカメにかかってしまった。
「汚れたか。撮影にも影響が……ある? くそっ」
 朱は、泥がレンズについてしまったのか、画像がどこかぼやけてしまうことに気づいた。
「まあいい。少しぼやけていた方が、モザイクがかかっているようでかえって興奮するかもしれん。それに、瞬間的とはいえ、何枚かきれいに撮影できている。家に帰ってじっくり分析してニヤニヤするとしよう」
 いいながら、朱は早くもニヤけた顔になっていた。
「何だコラァ! 撮ってんじゃねえっつってんだよ!」
 黒鬼たちはしつこい朱に気づいて、殴ったり蹴ったりし始めた。
「くそっ、何があろうとカメラだけは死守し、撮影は続けるぞ! うおー、負けるかー。男のど根性だ!」
 額や鼻から血を流し、泥まみれになりながらも、朱は必死で撮影を続けるのだった。
 しかし、このとき、鮮明に撮影できた写真が1枚だけで、しかもそこには桐生円のたいらな胸しか映っていなかったという事実を、朱は知らなかったという。

「よし、エリカたちが沼地の中心に向かったぞ。黒鬼はひきつけておくから、他の連中は中心に向かえ!」
 ナガン ウェルロッドは他の仲間に指示を出す。
 そう。
 ナガンの仲間には、まだまだ強豪が控えているのだ!