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リアクション
04:祭りだワッショイ其ノ壱 祭りの裏で1
「というと、イコン格納庫を警備したいと?」
そう言う生徒の声に宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)は真剣な顔で答えた。
「敵が自分達の情報をこれ以上取得されないようにと破壊工作を仕掛けてくる恐れがある。そして仕掛けてくるとすれば模擬戦のあとだ。是非とも警備させていただきたいわ」
黒のロングウェーブの髪と黒い瞳を持ち優しそうな印象の女性がそう言う。
「確かに、その可能性は高いでしょうね。結構です。警備をお願いします」
「感謝します。これが腕章ですね。わかりました。武器の携行はよろしいのでしょうか?」
「ええ、もちろん構いません。生身で敵とやりあうのは無理でしょうからね」
生徒の言葉に祥子は笑った。
「そうでしょうね。敵が丸腰でやってくるとは思えません」
「ですね」
「では、失礼します」
そう言って祥子は無線機を受け取るとイコン格納庫の警備についた。
「私も警備スタッフに志願します。これが国民証とヴァンガードエンブレムです。ご確認を」
ロングの白髪と銀色の瞳を持ち、髪が綺麗で顔にペイントがある水無月 睡蓮(みなづき・すいれん)が身分証を提示して警備スタッフに志願する。
「私は、見回りをしようかと思います」
「ではマップが必要ですね。銃型HCにデータを転送しましょう」
「ありがとうございます」
睡蓮が礼を言うと生徒は
「色が違う部分は立ち入り禁止区域です。そちらには近づかないようにしてください」
と言う。
「……」
黒髪をポニーテールにした黒い瞳の精悍で学生に見えない睡蓮のパートナーの鉄 九頭切丸(くろがね・くずきりまる)もデータを受け取る。
彼(?)は戦闘に特化した機晶姫で喋る機能すらない。
「それから、これは鏖殺寺院のスパイのリストとわかる限りでの顔写真です」
「はい、ありがとうございます」
そう言って睡蓮はリストを見てみる。と、そこに見知った顔があった。
(はわわ……メニエスさん。鏖殺寺院のスパイだったですか……これは、協力関係も見直さないといけないかもしれませんね)
睡蓮が内通しているメニエス・レイン(めにえす・れいん)が鏖殺寺院のスパイリストとしてあげられていた。
「どうしました?」
睡蓮の動揺を見た生徒が何事かと尋ねてくるが、睡蓮は「なんでもありません」とごまかす。
「はあ……」
そう言われれば生徒にそれ以上できることはないので、無線機を受け取ると睡蓮はメニエスのことを考えつつ学院内の見回りについた。
武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)も警備に志願した生徒の一人である。緑色の紙をボサボサにし、金色の瞳を持った目つきが悪く不良っぽい少年だ。
牙竜はコンピュータを持ってないので紙で地図と鏖殺寺院のスパイのリストを受け取る。
「感謝するぜ!」
そしてスパイのリストに目を通していると、これまた知った名前を彼も見つけてしまった。
龍ヶ崎 灯(りゅうがさき あかり)。彼のかつての恋人だ。
「灯……」
「どうしました、牙竜さん?」
「いや、スパイリストに知った名前があったもんでね」
「そうですか。それではスパイの発見も容易になりますね。期待しています」
「……ああ」
彼はヒーローとしての牙竜を一番見られる場所へ行くと言い残し去っていった元恋人を思って祈る。
(俺はもう一度会いたいのか? どうなんだ……? 考えろケンリューガー、いや牙竜)
「そうだ、通信機をもらえるか? 出来ればイコンと周波数があっていればいい。鏖殺寺院が狙ってくるとしたら、機体よりもパイロットの練度を知るのが優先度が高い。そうなると、模擬戦を見て情報を集めるより、天御柱学院のパイロット達の通信や機体データを狙うと思う。特に鹵獲機の鏖殺寺院以外のパイロットの操縦データは鏖殺寺院としても地球人をパイロットにするときに必要なデータの一つじゃないか?」
牙竜はそう言って生徒に頼み込む。
「イコンの通信は機密データでスクランブルがかかっているので周波数を合わせることはできませんが、警備の方には連絡を密にすべく無線機を配っています。特殊なことをしない限りイコンとは通信できませんよ。
「だが通信傍受なら? 軍用の無線機を全周波数に合わせて受信にセットして、イコンの通信を傍受できるまで周波数を変え続けるとか?」
「……それは、ありえないことではないですが、それほど重要なリスクとは考えません。むしろ演習後のイコンを奪いに来ると考えられています。出来れば格納庫の警備についていただけませんか? それかコリマ校長の警護……は必要ないか。あの人は強いからな」
そう言われて牙竜は考えた。鏖殺寺院の思考パターンを。
「確かに、その可能性が高いな。じゃあ、俺は格納庫の警備に就く。無線機をくれ」
そう言って牙竜は無線機を受け取ると地図を見ながら格納庫へと向かった。
「私は教導団第一師団少尉クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)だ。こちらはパートナーのエイミー・サンダース(えいみー・さんだーす)。警備に志願する」
「クレアさん、お噂は常々伺っています。貴方が警備をしてくれるならこれほど心強いことはありません。それで、配置はどうしましょう?」
クレアは黒髪をショートにまとめ黒い瞳を持ち、大人びていて厳しそうな如何にも軍人といったタイプの女性だ。
「イコンといっても機体が全てではない。関連施設や研究者へのテロにも警戒しなければな。
ついイコンに目が行きがちになるところだが、イコンのスペックは鏖殺寺院製の方が進んでいる。
ということは【必ずしもイコン奪取が目的とは限らない】。
もちろん、学院に鹵獲イコンのデータを解析されないうちに奪取もしくは破壊、という目的もありえるが、
それを目くらましにして【関連施設破壊や研究者殺害によって研究を遅滞させる】というような意図で動くことも考えられる。
それに、稼働中のイコンに対して生身でそうそう対抗できるものではない。
そこで、関連施設・研究者の警護を重視し、施設への爆発物の設置や研究者への不審人物の接近は厳重に警戒することにしたいと思う。
聞いているとすでに格納庫の方の警備には相当数付いているようだしな」
「はい。了解しました。では篭手型HCに天御柱の地図と前回の空母襲撃で判明した鏖殺寺院のスパイのリストを転送します」
「感謝する。ではエイミーの分も無線機を欲しい」
「もちろんです。武器の所持も自由です。万が一の戦闘に備えて所持しておいてください」
「了解じゃん。光条ショットガンを持っておくよ。無線機ありがとー」
エイミーは赤い髪を三本編みおさげにし、茶色の瞳を持った目付きがわるくて育ちが悪そうな少女だ。だが、その二つ名は【放つは正確無比の銃弾】。見た目で甘く見ると痛い目を見ることになる。クレアのパートナーとしていくつもの戦場をくぐり抜けてきた歴戦の勇士だ。
「こちらが警備の腕章です。これを着けている限り誰何されることはありません」
「サンキューだぜ。隊長、行きましょう」
「了解だ、エイミー。では、研究施設の警備に就く。有事の際には直ぐに連絡を入れる。増援を頼むぞ」
「はい。クレア少尉」
天御柱の生徒はクレアに敬礼をすると45度のお辞儀で見送った。
「私は涼司と一緒に行動するね。同じ蒼学なんだしいいでしょ?」
そう言ったのは小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)だった。青い瞳を持ち緑色の髪をツインテールにした、小柄でかわいい少女だ。
「ねー涼司、いいでしょ?」
美羽にそう問われた山葉 涼司(やまは・りょうじ)は
「あー、好きにしろ」
と答えるとグレートソードを抜いて素振りをした。
「わわっ、危ないですよ涼司さん」
それを見咎めて花音・アームルート(かのん・あーむるーと)が注意する。
そんなやりとりの一切を無視して、美羽は出店で買ってきたフランクフルトを涼司に差し出すと
「ほら、涼司もこれ食べて元気だしなよ」
と言う。
涼司はそれを「ありがとな」と言って受け取ると、一気に口に運んだ。
「っはー、うめえ!」
「あったりまえでしょ、私が買ってきたんだから。感謝しなさいよね」
「おう、ありがとう」
涼司は一応そう礼を言うが表情は暗い。
「まったく……ホント涼司って、いつも世話が焼けるんだから」
「なんか言ったか?」
涼司が尋ねるが
「ううん。なんにもー」
と美羽はとぼける。カノンと花音の問題を抱えて、最近すっかり悩みまくりの涼司。そんな涼司のことを、美羽は友達として心配している。そこで今回は涼司に同伴し、同じ蒼空学園の生徒として、一緒に警備を担当することにしたのだ。
「すみません! 美羽さんがご迷惑をおかけしてしまって……」
美羽のパートナーのベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が口癖になってしまったそれを涼司に言う。
ちなみにベアトリーチェは茶髪のポニーテールに青い瞳、優しそうで真面目そうな優等生タイプで、眼鏡がトレードマークである。
「あー、いいっていいって、気にしてないよ」
涼司はそう言って力なく笑った。
(「こりゃ相当落ち込んでるね……」)
(「そうですね……」)
美羽とベアトリーチェはこそこそと言葉を交し合う。
「なにこそこそやってんだ?」
「な、何でもないよ」
「え、ええ。何でもないです」
取ってつけたような美羽たちのリアクションに、涼司は「あー、そうか」と気の乗らない返事を返す。
一層重症だと美羽は判断した。
「ベアトリーチェ……」
「はい……」
二人はなにやらアイコンタクトを取って頷き合うとベアトリーチェが設楽 カノン(したら・かのん)に話しかけた。
「設楽さん、私たちと一緒に警備をしませんか?」
「なんで?」
「その……大勢の方が安全だし楽しいと思います」
そう言われてカノンは考え込んだ。
「まあ、数の暴力の理屈はあっているわね。いいわ、一緒に警備しましょう」
どうやら曲解したようであるが本人が納得したのでよしとしよう。
「まあ、良かったです。涼司さん、設楽さんも一緒に警備をしてくださるようですよ」
「そうかー、それは良かった」
棒読みである。あまり歓迎していないらしい。
「カノン先輩、涼司先輩、僕も一緒させてもらえませんか?」
そう言って来たのは一見美少女に見える蒼空学園の生徒で、黒髪をポニーテールにして赤い瞳を持っている髪が綺麗な男子生徒だった。
「おまえは?」
涼司がそう尋ねる。あまり見ない顔だ。
「僕は平等院鳳凰堂 レオ(びょうどういんほうおうどう・れお)です。得意技は指弾です」
レオはそう言ってから涼司に近づくと
(「なるべく先輩の眼鏡が外れないようにガードします。例のパラ実のやつもこの祭りに来ているみたいですし、何を企んでるかわかりませんからね」)
と耳打ちする。
「そうか。それならよろしく頼む」
「はい」
そう言うとレオはカノンとおそろいのナタを取り出してそれをぶら下げた。
「良い趣味してんな、お前……」
「あの只者じゃない眼光にときめきましたから……」
そう言うレオに涼司は溜息をつく。
「物好きなやつ……」
「まあ、言わないでください。愛情表現が解剖でも僕は構いませんし。ところで、花音・アームルート先輩が狙われる可能性があるってことは、容姿がそっくりな設楽 カノン先輩も狙われる可能性があるってことですよね」
「いいとこに気がつくな。さりげなくガードしてやってくれ。俺じゃ駄目だ」
「わかりました」
レオが頷くとパートナーのイスカ・アレクサンドロス(いすか・あれくさんどろす)がやってきた。
「それにしても涼司は女々しいな。何をうじうじ悩んでおるのだ」
それは征服王イスカンダルの英霊。しかし見た目は幼女。赤い髪を頭の横で一本に束ね、同じ色の瞳を持ち、バカっぽいが強そうでもある。
「うっせーな。俺だって、何とかしたいんだ」
「だったら何とかするのじゃな。我も微力ながら警備を手伝おう」
「おう、助かる。まったく、なんでカノンに会いに来て警備をしなきゃならないんだ」
「それは涼司が有名人だからじゃろう。御神楽校長の幼なじみで学園でも数多くの事件を解決してきた。そして前回は空母潜入部隊の隊長を務めた。だからじゃろうよ」
「有名税ってやつですね」
イスカの言葉尻にレオが乗る。
「有名税ねえ……あんまり有難味がないな」
「まあ、そう言わないでください。おかげでカノン先輩と一緒に警備ができるんですから」
「そうだな。よっし、それじゃ、見回りに出るぞ。スパイリストと地図は受け取ってるな? 怪しいやつがいたら身分証の提示を求めろ。そして敵だと判断したら迷うな。その迷いが死を生むことになる」
「わかりました」
「涼司、早く行こうよー」
レオが答えて美羽が催促する。
こうして祭りの裏は動き出した。
「まて、ヤマバ。私も一緒に行くぞ!」
朝倉 千歳(あさくら・ちとせ) が慌ててそう名乗りでて追いかけてきた。
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