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天御柱開放祭

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09:警備の状況其ノ壱
「さて、そろそろ休憩にしようぜ、休憩」
 涼司がそういうと、見回りをしていた一行は出店で飲み物や食べ物を買ってきて適当なところに腰をおろした。
「やあ」
 そう言って声をかけてきたのは五月葉 終夏(さつきば・おりが)だった。
 彼女は薄茶色の髪を後ろで束ねて、緑色の瞳を持つ清潔な印象を受けるごく普通の少女だ。
「終夏じゃないか、どうした?」
「お祭りってみんな楽しそうに笑ってるから好きだなぁふふふー。山葉君と花音ちゃんもお祭りに来てるって聞いたんだけど警備の手伝いしてたんだねー」
(「やっぱりカノンちゃんに会いに来たのかな」)
 終夏はそう言って涼司に耳打ちする。
「まあ、そうだなぁ。上手くいけばよかったんだが」
「カノンちゃんも一緒なんだね。いいこと思いついた♪」
「なんだ?」
「カノンちゃんこっち来て〜」
 涼司の問には答えずにカノンを呼び寄せる終夏。
「なんの用?」
「まあ、いいからこっちこっち」
 カノンは不審に思いながらも終夏の呼びかけに従ってやってくる。
「そうそう、いいね。そんな感じで並んで?」
「こう?」
「はい、いいねー。はい、チーズ!」
 終夏は隠し持っていたカメラを取り出すと、あっという間にならんだ二人を撮影した。
 そして涼司の手を握って走りだす。
「おい、終夏! どうしたんだ!?」
 しばらく走ったところで終夏は足を止め、涼司に『種明かし』をする。
「今の写真みたいじゃなくて、君の思い出の中のような笑顔のカノンちゃんと一緒に思い出を作れる日が必ず来る! ……というわけで、今日のお祭りの思い出に後で現像して渡すから楽しみにしててねー」
 終夏の言葉に涼司は口を尖らせた。
「そりゃ、確かに有り難いが……だからって逃げ出さなくたっていいだろ」
「まあまあ。だってカノンちゃんが文句いいそうじゃないか」
「俺も文句いいてー」
「ま、そこはご愛嬌。ところでさ、一緒に写真、とってくれない?」
「いいぜ」
 終夏の言葉を涼司は快諾する。
「すいませーん、そこの人、写真撮ってもらえませんか?」
 涼司は道行く人物その1に声をかける。
「いいっすよー。いやー楽しいですね、お祭り」
「そうっすねー。じゃ、お願いします」
「はい、いきますよ。ホラホラ、もっとくっついて。はい、チーズ!」
 パシャ!
「もう一枚行きますねー! はい、チーズ!」
 こうして二枚の写真が終夏のカメラに収められた。
「ありがとうございました」
「ありがとうございました」
 と涼司と終夏が礼を言うと通行人その1は去っていった。
(よかった。山葉君と写真取れた……)
 終夏がひとり感慨にふけっていると、花音やカノン、美羽にベアトリーチェにレオにイスカ、千歳、イルマ、加夜がやってきた。
「探しましたよ山葉先輩」
 レオがそう言って肩で息をしている。
「ヤマバ、何をしていた?」
 千歳が尋ねてくる。
「あ〜? 写真とってた」
「涼司くんが、終夏さんと?」
「ああ」
 加夜の問を涼司が肯定すると、加夜は「ずるい」と言った。
「終夏さんだけずるい。私も涼司くんと写真撮りたいです」
「あ、あたしはいいです」
 とは花音。
 ずっこける一同。
「ひゃっは〜。やっぱ花音は俺だよなぁ」
 そこに焦茶色のモヒカン頭の不良っぽくて学生に見えない南 鮪(みなみ・まぐろ)がやってきた。
「あ、鮪さん♪」
 花音が駆け寄る。
「ひゃっは〜。メガネー、花音は連れて行くぜぇ」
「鮪、てめえ……って、まあいいか。花音に危険が及ばないようにしっかり護衛してくれるんならOKだぜ」
「まった、モヒカンくん。私も花音君をお誘いしようと思っていてね」
 そう言って割りこんできたのは金髪のセミロングに金色の瞳、顔立ちが端正でモテそうなリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)だった。
「なんだ〜、割り込みはお断りだぜぇ」
「モヒカンくんと花音君だけ二人きりにするというのも涼司君らしくないな。花音くんの貞操の危機だよ? 護衛もこのとおり、3人連れてきた」
シルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)よ。ここが天御柱……超能力研究のトップ校ね。ついでにあのデカ……イコン唯一の運営校だし、気になることばっかりなんだけど」
 青のショートウェーブに緑の瞳、痩身のはかなげな少女だ。
「シルフィスティ?」
 リカインが笑いながら睨んでいたりする。
「……はいはい、今日は護衛メインでしょ。ディテクトエビルと殺気看破は張っておくから大丈夫だって。いざとなったら魔道銃で鏖殺寺院の連中なんて消し炭にしてやるわよ」
「よろしい」
「だからちょっとだけ、ちょっとだけあっち見に行ってもいいでしょ〜?」
「シルフィスティ?」
 怖い。目が笑っていない。
「はいはいはい。ごめんなさいごめんなさい」
「おお、ここが新しい学校か! オラの友達になってくれる人たくさんいるかな? ん〜、考えててもしょうがない、どんどん声かけてくぞ〜」
 そう言ったのは童子 華花(どうじ・はな)黒のボブカットの髪に同じ色の瞳を持った手がキレイでかわいい少女、というか見た目5歳の幼女である。ちなみに吸血鬼なのに暗所恐怖症らしい。
「もう、華花はしょうがないわねえ……」
 リカインは我が子を見るような満面の笑み。
「フィスと華花の対応ずいぶん違わない?」
 シルフィスティがそう文句を言うと、唯一の男性パートナーヴィゼント・ショートホーン(びぜんと・しょーとほーん)がシルフィスティの方に手を置くと首を左右に振った。
 ヴィンセントは黒いアフロとサングラスと、どう頑張ってもその筋の人にしか見えない学生に見えない男だが、このメンバーの中では唯一の良心と言ってもいい。
「お嬢、フィスにも心配りってもんをおねがいしますぜ」
「もう、ヴィンセントったら……とまあ、こんな面子だけどそこのモヒカンくん一人とよりは安心でしょ?」
「ああ、そうだな」
 リカインの言葉に涼司が頷く。
「おいおい、ちょっと待てよメガネ」
「花音、大勢の方が安全だから、リカインとも一緒に行ってくれ。それが条件だ」
「……むー。わかりました。涼司さんも楽しんでくださいね。修・羅・場♪」
 そう言って花音はクスクス笑う。
 裏では加夜と終夏のバトルが継続中だった。
「……わかったわかった。私が山葉君とのツーショットを撮ってあげるから、それで我慢して」
「うん。でも、ちゃんと現像して渡してね」
「もちろんよ。じゃ、山葉君、加夜ちゃんと並んで」
 その終夏の言葉に涼司はこめかみを抑えた。
「うー。しゃあないな。じゃあな、花音。ヴィンセントさんの言う事よく聞くんだぞ」
 どうやら誰が場を一番握っているか一発で判断したらしい。
「わかりましたー」
 そう言って花音は去っていく。
 そこから涼司と加夜が並んで、終夏がシャッターを切る。
「はい、笑って笑ってー」
 パシャリ!
「はい、もう一枚行くよー」
 パシャリ!
「じゃ、現像できたら渡すから」
「ありがとう……」
「うん。いいっていいって」
 これで涼司をめぐる女のバトルは終わるかに見えたが……
「あー、ヤマバ。なんだ。私とも写真をとってくれ」
 千歳が参入してきた。
「カノン、カノンも一緒にどうだ?」
「あたし? まあ、いいわよ」
 と言うことで涼司は両手に花の状態で写真を取ることになった。
「はい、チーズ!」
 こうして二枚三枚と写真を撮り重ねるようにカノンの心のなかにも『今』という思い出が積み重なっていった。
「ところでカノン、少し話があるのだが……」
「あ、私もカノンさんにお話が……」
 千歳とベアトリーチェがそう告げる。
「私は千歳のお供をしますよ」
 イルマが慌ててそう言う。
「じゃあ四人で警備がてら話し込んでくるといいよ。私は涼司と話があるから」
 そんな彼女たちに美羽がそう言う。
「あ、僕も」
 レオがそう言うと、イスカも「ならば我も」と言う。
「6人か〜、安全上は問題ないよね、涼司?」
 美羽にそう問われると涼司は少し首をかしげてから了解した。
「わかった、行ってこい。ただし、カノンを一人にするなよ」
「了解です!」
 レオが元気にそう言う。
 あの面子ならカノンを任せても問題はないだろう。涼司はそう判断した。
 
 side―涼司―

 殺気を感じる暇もあればこそ、涼司の顔面に缶コーヒーが命中した。
 その缶の主は閃崎 静麻(せんざき・しずま)であった。黒髪を後ろで束ねて黒い瞳をもち、老けていてモテなさそうな、一見すると「実は有能な昼行灯」的な男である。
「よっ、山葉」
「ってーな。何すんだよ」
「お前だったら避けれると思ったんだけどなぁ。いやあ、わりいわりい」
「お前悪いって思ってねーだろ、絶対!」
「いや、思ってるって」
 静麻がそう言った時だった、美羽が割り込んできた。
「ちょっとあんた、涼司の顔が潰れたらどーすんのよ」
 と。
 たいして静麻は
「大丈夫だろ? 山葉だし」
 と答える。
 美羽は
「それもそうだね」
 と納得した。
「ちょっとお前ら、なにかってに納得してんだよ」
「まあまあ。それより、今を待ってたんだ。お前が、設楽 カノンとも花音・アームルートとも離れるタイミングをさ」
「どういう事だ?」
「前の空母強襲前後に山葉が話しかけて後で大騒ぎになった少女、設楽 カノンについて話があってな。なに、山葉が前に妹みたいな子を事故で失ったと前に聞いた事あるし、カノンって子がその妹みたいな子とか推測は出来るがキッチリ本人から聞かないとなと思ってな」
「……そうだよ」
 涼司は憮然とした表情で答える。
「今のカノンがなんであーなのかはわからねーけどな」
「俺は思うんだよ、山葉。大切な人を目の前で失う。それもその場に居て助けられたのに助けられなかった後悔とか
 他に大切な物を持つ事に対する恐れとかは俺も同じ事があっただけによくわかる。
 だが、山葉はそれを取り戻すチャンスに、もう一度護る機会に恵まれたんだよな。
 ……カノンに関して山葉に手助けしたいとは思うが同時に嫉妬している俺も居るんだ。
 だからだ、山葉、取り戻せ。何としても。護れ。どんな手段を使ってでも」
「………………ああ」
 長い沈黙のあと涼司がひねり出したのはその一言のみだった。
「あのね、涼司、無理に刺激してこの前みたいにまたカノンが倒れても困るからね。もどかしいかもしれないけど……しばらくは焦らずに、じっくりカノンと関わっていこうよ。そしたら、そのうち涼司のことを思い出してくれるかもしれないし……記憶を戻すきっかけだって見つかるかもしれないもん」
「そうだな」
「涼司とカノンってどんな関係だったの?」

 Side―カノン―
「カノンさん。あたしの涼司くんって、どんな方だったんですか?」
 ベアトリーチェの質問にカノンが答える。
「涼司くんはあたしの幼なじみでいつもあたしを守ってくれた人。何でもできて、強くて、カッコよくて、優しくて、お兄ちゃんみたいな……うう頭が痛い」
「カノン先輩、無理に思い出そうとしなくても大丈夫ですよ」
 レオがそう言ってカノンを止める。
「そうそう、カノン先輩の趣味って何ですか?」
 レオの質問は鬼門だった。
「趣味? 刃物を研ぐことよ……うふふ……」
 うっとりとしている。
「そ、そうか……今回会った同姓同名の山葉 涼司。やつをどう思う?」
「メガネがダサい……でも、素顔は格好良いかもしれないと思う」
(やはりメガネか……しかしカノンの中では万能のヒーローだったようだな。だからか? 過去のヤマバにこだわるのは……)
 千歳はそう考える。そして考えを巡らせすぎて周囲への警戒が留守になっている千歳に変わってイルマがライトブレードを懐に忍ばせながら警戒を行っていた。その警戒の対象にはカノンも含まれる。いきなり暴走して千歳を傷つけはしまいか? そんな不安があるのだ。
「カノンさんは、すごいイコンの操縦技術をお持ちなんですね。いつ頃からイコンに携わっていらっしゃるんですか?」
 ベアトリーチェが地雷に触れるか触れないかぎりぎりのラインで質問を飛ばしてくる。これには周囲の人間がヒヤヒヤしていた。
「なんでかわからないけど気がついたら病院にいてずっと入院していたんだけど、元気になって退院した後に天御柱学院に行くように勧められて、それでなぜかイコンの操作については何故か手に取るように分かるようになっていたの」
「それは強化人間になったってこと……って、やば」
 レオは慌てて口をつむぐ。だが
「何のこと? 知らないわ」
 カノンはあっさりスルーする。
(強化人間になった自覚がない? 先輩の不安定さはそれと何か関係しているのか?)
 レオの推論は当たっている。カノンに強化手術を受けた自覚はない。ただ入院していた記憶があるのみだ。
「お姉ちゃん!」
 と、突然カノンに飛び掛ってくる少年がいた。イルマはその少年に向けてライトブレードの刃を出す。
「お姉ちゃんでしょ?」
「……だれ? 邪魔よ」
 突然の闖入者に一行の警戒レベルは上がったのだった。