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天御柱開放祭

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06:祭りだワッショイ其ノ弐 祭りの表
(天御柱学院に来るのは去年の合否発表以来ねー。あの時はわざわざ現地まで行ったのに、自分の受験番号が張られて無くてショックだったなー)
 そんな思い出に浸っているのは夏野 夢見(なつの・ゆめみ)。青い髪を頭の横で一本に束ね、銀色の瞳を持ち弱そうでかわいい少女だ。
 彼女は今日はひとり。なかなかパートナーも分かってくれないのだ。巨大ロボットへの憧れを。
 小さい時に家族で旅行に行って「アニメの巨大ロボットの実物大レプリカ」を見に行ってから、もしかしたら実現できるんじゃないかって思ってた。そしれそれは上空にいる。
「あ、お兄ちゃん、お好み焼き二つ」
 夢見はお好み焼きを二人分買うと、適当なところに腰をおろし、上空のイコンを見上げながらお好み焼きの攻略作業に入る。
「……あたしも、やっぱりああいうののパイロットになりたいな〜。巨大ロボはもし実現できても飛べないだろうと思って機甲科に入ったんだけど、空飛ぶ巨大ロボが実現可能と知ってたら航空科に入ってたのになー」
「これからのシャンバラの戦いの主役はイコンになっていくのでしょうか……? フクザツなキブンです」
 そう言って夢見の隣に腰をおろしたのは志方 綾乃(しかた・あやの)薄茶色のロングウェーブの髪と茶色の瞳をもち、胸が大きくて優しそうな女性だ。
「確かにこれからイコンの性能向上や大量配備が進めば、間違いなく今までの戦いとは変わっていくでしょう。戦闘の中心がイコンとなり、結果今までの契約者の役割は変わり、小さくなるのは揺るぎがないはずです」
 そう言ったのはこたつだった。その名も高性能 こたつ(こうせいのう・こたつ)。こたつ型機晶姫である。
「シャンバラの大地を超音速で駆け巡り、並の契約者ではまるで相手にならないイコン。これですら本来の力を全く引き出せていないというのです。『本来の力』を引き出した時、イコンを持たない私はどうなるの? どこへ行けばいいの? イコンの獅子奮迅の活躍を見れば見るほど、私を構成する何もかもが崩れ去ってしまう――そんな感覚に囚われてしまうのです」
 綾乃の言葉に、こたつはこう答えた。
「例えイコンが戦場の主役・花形になっても、それを支えるのは結局人間。一機のイコンを動かすのに、どれだけの人間が関わっているのでしょうか? 一人の高名な英雄を何十、何百の名も知られぬ凡人が支える構図は今も昔も変わりません。それに――所詮イコンは兵器。私のように誰かの心を暖めることなど出来やしない。ついでに暖房性能と居住性も私の方が遥かに上です」
「ぷっ……くくく。そうですね、居住性は貴方の方が上ね、こたつ」
「あのー、そちらの方、あたしは夏野 夢見。こたつさんのテーブル貸してくれないかしら? ついでに、肉の串焼きいかが?」
「私は志方 綾乃。いいですよ、こたつ貸してあげます。あと、肉の串焼き焼きありがとうございます」
「こたつ……イコンに出来ないことを人間がやる? つまりそれはイコンが出来ることに人間は不要になる、そういうことではないですか? イコンだけでは戦えない? 最後は結局人間? そうですね、最後は結局「イコンの関連する技能や知識を持つ人間」のみが必要とされるでしょう」
(それは少し違うな)
 その会話に思念波で割り込んできたものがいる。周りを見ればコリマ校長がそこに立っていた。ジュースを飲みながら。
(イコンの現状の欠点として、歩兵にできることが意外にできない。操縦者が少ない。生産手段が限定されているといったことがある。イコンだけでは敵拠点の占領などもできんしな)
「では、私は将来、あの申し訳程度に配備された飛行兵のように、誰もにも関心を払われず、誰にも気付かれず惨めな最期を迎えることはないのでしょうか? ただイコンに関われない、それだけのために……」
(ないな。イコンだけでは戦争はできん。歩兵科の役割がなくなることはない……)「校長っすね? 俺も質問いいですか?」
 そう言ったのは緋山 政敏(ひやま・まさとし)。パートナーを通じて校長に面会願いを出していたが、ひょんなところで校長と出くわすはめになってしまった。
(ああ、かまわんよ)
「そも、イコンってのは何物なんですかね」
(こいつは何故生まれたのか。妙に引っかかるんだよね。口には出せない違和感ってかさ。兵器ってだけなら、人型である必要も無い筈だし……)
 コリマが政敏の心を読んで答える。
(それは、イコンがサロゲート・エイコーンだからだ)
「どういうことです?」
(サロゲート・エイコーンとは代理の聖像。かつて存在した神に近い種族がいなくなったので作られた、いわば、神の代理だ。神を模して作られたから人型なのだよ)
「神……ねえ」
(実際に闇龍のような神とも見まごう力を発揮するものもいたであろう)
「確かに、あれは強大だった。でも神とまでは言えないだろう」
(そうか? まあいい。とにかく、イコンとは神や悪魔の代理なのだ。私がイコンの力が発揮されていないといったのもそういうわけだ。イコンが本来の力を発揮したら、正しく神魔の如き力を得る)
「おそろしいな……「『コレ』は、次の寺院『への』攻撃を想定してだと思いますがこんな風に公開して大丈夫なんですか」
(例の拠点へかね。アレは東だよな。軍事行動は難しいよな。パイロットへの期待の現われか。戦線の拡大か。そもスパイを含めて情報漏えいの危険を犯す点が分からんよな)
(正直に行ってしまえば、この祭り自体が囮でもあるのだよ。イコンや関係施設を狙ってやってきたスパイを捕らえる。鏖殺寺院の情報を我々は必要としているのだ)
「なるほどね……そう言う考えがあるんだったら納得ですよ」
「綺雲 菜織さんの機体はどれでしょうね?」
 リーン・リリィーシア(りーん・りりぃーしあ)が尋ねる。すると校長が
(あれではないかな?)
 と言って来た。

 その機体はライフルをパージしその反動で軸をずらし、模擬刀で教官機に斬りつけていた。
「応えよ。ファング!」
 その手段は教官機を一瞬混乱させたがシュメッターリングの足に破損判定を与えるにとどまった。
 しかしそこにコームラントからの射撃が入る。
 教官たちは散会して射撃の回避に専念する。

 そんな様子を下から眺めながらコリマ達は話をすすめる。
 と、そこに黒髪を後ろで束ね、赤い瞳をもった胸が大きい美少女がやってくる。そして彼女はコリマにあいさつをした。
「初めまして、神裂 刹那(かんざき・せつな)と申します。学校も異なるため会う機会は滅多にないとは思いますが、機会がありましたら宜しくお願い致します」
「初めまして、刹那のパートナーでルナ・フレアロード(るな・ふれあろーど)と申します。刹那共々、以後お見知り置きを」
 銀髪をセミロングにして赤い瞳を持ち、顔立ちが端正で大人びている女性がそう述べた。
「超能力が人の思いによって力を働かせるなら、その思いによって形為すサイコ粒子はまるで闇龍の体を形作っていた粒子みたいですね。」
(それにいくら彼の力が強くとも一人であれだけのことが出来るなら、多くの思いが同一方向に力を働かせたら一体どうなるのでしょうか)
 刹那は『彼』の警告していたサイコ粒子の件を、都合がいいのでコリマに尋ねてみる。
(良い着想だ。人の想念は力となる。それは良き方向にも悪しき方向にもな。だが、それを捉える力が衰えた現在の人類では、実感としてつかみにくかろう。だからこそこの学校の存在意義があると考えている)
「ではやはり超能力者の育成はそれを見越して……?」
(部外者――東シャンバラにそこまで教えることはできんな……ん?)
「コリマ・ユカギール、覚悟!」
 護衛もつけずにであるいているコリマを見て好機だと思ったのだろう。銃を持った普通の学生風の男が三人、コリマに銃口を向ける。
(甘いな……)
 コリマは彼らから思念波を用いて銃を奪い取ると、契約している霊の力を使って鋭い氷の塊を創りだす。
 そしてその塊は亜音速で賊に向かって飛びかかると、その体に銃弾とは比較にならないほどの大きな穴をあけた。
「キャー!」
 見物客の悲鳴が響き渡る。警備の教官が慌ててやってくるとその死体を袋に詰めて持ち運んでいった。
(客人には迷惑をかけた。お詫びにこのチケットで好きなものを購入するがよろしかろう)
 コリマは出店の商品との引換券を現場に居合わせた客たちに手渡す。本来は教官用なのだが。
 

 メニエス・レインは人ごみにまぎれて校内をうろついていた。メニエスは銀のショートウェーブに赤い瞳を持ち、はかなげで目つきが悪い女性だ。
 なかなか睡蓮を探し出すことができず、そんなうちにコリマが力を振るう場面を目撃した。
(なんて恐ろしいヤツなの……)
 メニエスはコリマの力に恐れを抱く。
(今はそれどころじゃないわ)
「ミストラル、睡蓮を探しましょう」
「はい、わかりました」
 金色のショートヘアと赤い瞳をもった胸の大きな美女であるミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)がそう答える。
 しばらく歩くと、警備をしている睡蓮に会えた。だが……
(「メニエスさん、鏖殺寺院のスパイ名簿に名前が乗ってますよ。何をするつもりかはわからないけど気をつけたほうがいいですよ」)
 睡蓮は小声でそう話す。
(「なんてこと? もうアタシたちのことが出回ってるの」)
(「メニエス様、堂々として人ごみにまぎれていましょう。チャンスはそのうちやってきます」)
 ミストラルも小声で話す。
「そうね。取り敢えずイコンの格納庫にでも向かいましょうか……」
「はい」
「あ、あの……お気をつけて」
 睡蓮がおずおずと送り出す。だが確かに、彼女たちに注目する人物はいない。メニエスの考える通り確かに警備はザルだった。

(彼の都合つかなくて……でも声かけたら鈴木君が来てくれた♪)
 金のショートウェーブに金色の瞳で、かわいくて胸の大きなルカルカ・ルー(るかるか・るー)がブラキャミにホットパンツという刺激的な格好で待ち合わせ場所で待っていると、「おーい」と言う声が響いてきた。
「おーい、ルカルカ! ってホットパンツだと!?」
 思わずガン見する鈴木 周(すずき・しゅう)であった。ちなみに彼は重力に逆らうツンツンの茶髪と赤い瞳の眼つきがわるくて不良っぽい少年だ。
「はっ、いかんいかん! よーし、何か食うものを出店で買ってきちゃうぜ!」
「奢ってくれる?」
「おう、奢る奢る、任せとけよ! 何を買ってくるかなー。うーん、チョコバナナだな。女の子なら甘いもんだろーし(何より食べてるとこが何かエロい)」
「ありがとう〜。超感謝! チョコ大〜好き♪」
 ルカルカはそう言うとチョコバナナを食べ始める。
(さて、食べ物に気を取られた隙に、スキンシップを取ろうとするぜ。やはり紳士のたしなみとして、挨拶的にブラのホック外しを狙うか!)
 そう考えて周が行動に入ろうとしたところ
「みてみてー、すっごい機動性だよー」
 スル。
 空振りである。
(じゃあさりげなくお尻タッチを狙って……)
「あー、推進部がよく見える」
 ガタ。
 こけた。
「あー、周君大丈夫?」
「なになに、大丈夫だよ大丈夫」
 さすがルカルカ。軍で鍛えた危機感知能力と乙女の天然の勘で、無意識に危機(おさわり)を察知している。
「それにしても天学との共同作戦なら光龍や戦車はどう展開し何所にどう撃つべきか……」
 ルカルカは軍人の顔つきになり真剣にビデオ撮影を行っている。
「……カ……ルカ……ルカルカ!」
「へっ? えっ? ひゃわい。んと、なになに?」
 周の呼びかけに我を取り戻すルカルカ。
「イコン、これはなかなかロマンじゃねーか。やはり巨大ロボットはあこがれるよな! なぁ、ルカルカ、これ欲しくね!? なんか俺すげー欲しいんだけど!!」
(君はイコンが欲しいのかね?)
 と、どこからともなく声が聞こえてくる。
 周囲をきょろきょろと見回すとコリマ校長が二人のそばにいた。
「コリマ校長!」
 周とルカルカが思わず姿勢を正す。
(いや、真剣に見ているものだからな、つい。イコンなら、いずれ全学校にといっても西シャンバラのみかもしれんが……とりあえず他の学校にも配備することは御神楽校長との話し合いの中で決定済みだ。その時を楽しみに待っているがいい)
「それは本当か!? いや、本当ですか?」
 それはボサボサの銀髪と目付きの悪い赤い瞳をもち、大人びた印象をあたえる少年エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)だった。
「俺はイコンが天御柱にしかないから、何かあったときに危険だと思っていたんだが……他の学校にもイコンが配備されるならその心配は杞憂になる」
(そのとおりだ。イコンの他校への配備はすでに決定済みだ。まだ時期は未定だがな……)
「そうですか。それで安心できます」
 エヴァルトがそう言うとコリマ校長は
(それは良かった)
 と言って去っていった。
(とは言え、イコンの情報は欲しいところだな)
 エヴァルトはそう考えると<ブラックコート>と<迷彩塗装>で姿を隠し格納庫に忍び込み……祥子らに発見されて袋叩きになるのであった。