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幕間 ウーダイオスの一日(3)
「こうして捕まってた方がいいもん食えるってのも、問題っちゃ問題だよな」
今日のおやつはマドレーヌだ。桐生 円(きりゅう・まどか)が茶菓子として持ち込んだもので、ウーダイオスは初めて食べた時にはうぅむ、と唸りこんでしまった。
「おいしいものが食べれるのはいいことじゃないか、どこに問題があるっていうのかねぇ?」
と、オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)が言う。
「食べ物につられて、寝返る奴が出るかもしれないだろ?」
「いくらなんでも、そんなことはないんじゃないかな?」
「いやいや、あるだろうよ。もともと、軍人なんてもんはほとんどはなれる仕事が無いから仕方なくつくもんだ。よりいい生活があるなら、そっちにつくもんだろ」
「ほんとかな〜?」
円は冗談ぽい口調で言いながら、紅茶のカップに口をつける。
「ところで、片腕はどうするつもりなんだい?」
オリヴィアに言われて、途中からなくなっている左腕にウーダイオスは視線を向ける。
「まぁ、なんとでもなるだろ」
「なんだったら、シャンバラの医者を紹介してあげようか?」
「それも魅力的な話だが、これぐらいなら自分でなんとかできるさ」
「ネクロマンサーだから?」
「おっと、見抜かれてたか。まぁ、正面で切った張ったすりゃわかって当然か。生きが良くてサイズのあった腕さえみつかれば、取り付けるぐらいはわけないってわけだ」
「ネクロマンサーってそんなに万能だったっけ?」
七瀬 歩(ななせ・あゆむ)が首を傾げる。
「あー、その辺りは流派の違いってやつじゃねぇか。アンデッドを操るのに特化している奴もいるだろうし、呪いが得意な奴もいるだろ。うちはどちらかっつーと、生きてる人間含めて体をいじるのが得意だったってわけだ」
「生きてる人間含めてって」
歩の表情が少し曇る。
「自分自身とかな。今は服を着ててわかんねーだろうが、あちこち弄ったあとがある。これだけやっても、神様の相手にはならなかったみたいだがな」
ウーダイオスの体には、ありとあらゆる呪いや状態異常に対する処理がなされているのだという。最も、それでもカナンの石化刑を防ぐことはできなかったようだ。
「石にされてて、気が付いたら全然違う時代ってのも怖い話だね。ボクだったら、どうなっちゃうかな」
「大丈夫よぉ、お姉さんが迎えにいってあげるから」
不老不死の吸血鬼であるオリヴィアなら、確かにそれは可能だろう。
「けど、なんで石化刑になんてされちゃったの?」
七瀬 巡(ななせ・めぐる)がいい事を言ってくれたので、
「そうだね。その辺りはボクも気になるなぁ」
と円も乗っかる。
「あー、つまらない話だぞ?」
「構わないわぁ、もしかしたら私には面白い話かもしれないじゃなぁい」
「んー、そうか………? まぁ、大した話じゃないしな。殺しをしたのさ、同僚を五人だったか六人だったか、まぁそんぐらいだ」
「それだけですか?」
「それだけって、どういう意味だ?」
「ボク達の聞いた話だと、部下を六人に市民を十三人殺したっていう話だったんだよ」
「市民を………? そんな記憶は無いがなぁ、いつの間にか俺の伝説が大きくなったとかそんなんじゃないのか?」
まるで知らない、といった様子だ。
この男が、市民殺しを隠すような人物には思えない。本当にやったなら、さらっと簡単に口にするだろう。しかし、血縁者であるはずのアイアルの情報が正確でないというのも変な話である。いくらなんでも、悪評を上乗せしたいから記録を改ざんするなんて事はないだろう。
「………どうして、同僚を殺したんですか?」
歩の質問に、ウーダイオスは一瞬視線をそらしたが、すぐにまぁいいか、とでも言いたいような顔になった。
「必要だったからだ。俺じゃなくて、家がね。なるべく新鮮で、若くて、筋肉質の人間の遺体を頭数揃える必要があったんだとよ。そもそも、俺が騎士なんてやらされたのも、無理なく素材を集めさせるためだったってわけだ」
「それが、理由なの?」
「あー、嫌だねぇ、そういう目で見られるの。別に善人ぶるつもりもないし、殺したのは事実だが一応言っておくか………殺される側も、この話は了承済みだったのさ。献体は、なるべく金に困ってる奴を選んで、命と引き換えに家族に謝礼を払うって約束をな。当時の領主様もきちんと納得してたんだぜ、俺が殺した奴は戦死かもしくは事故死として扱うって事で話がついてた。もっとも、だからこそ俺が捕まった理由がわからんのだがね」
「なんか、話を聞くとウーダイオス君の家は随分と力を持ってるみたいだね。当時の領主に口がきけるなんて、聞いた話だと学者の家って聞いたんだけど?」
「あー、確かに色々とやってたのは確かだろうな。俺は養子だったから、深いところまではよくわからんが」
「養子?」
「別に珍しい話じゃないだろ。それに、可愛い自分の子供の体を弄くりまわすなんて事普通はしないさ。俺も、妹が産まれるまでは子供らしい生活をさせてもらってたが、妹ができてからは邪魔者扱いさ」
「それじゃ、やっぱりウーダイオスくんの家は死霊術の研究をしていたんだね?」
「ああ、そんなところだ」
円は紅茶のカップを傾けて、一息ついた。
彼女の中で、だいたいの話の道筋が通っていく。
「ウーダイオスくんは、はめられたんだね」
「どういうこと?」
歩に尋ねられて、円は推察だからね、と前置きしてから話し始めた。
「たぶん、ウーダイオスくんの家は当時の領主に文句を言えるぐらい強い力を持っていたんだ。きっと、領主も死霊術を研究しているって知ってたんだろうね。けど、ある時ウーダイオスくんの家が邪魔になった。もしかしたら、ずっと前から邪魔だったのかもしれないね。そんな時、研究に使う遺体を欲しいとその家から頼まれて、チャンスだと思ったんだよ」
「チャンスぅ?」
「たぶん、殺された市民っていうのは、ウーダイオスくんの家からお金をもらう約束をしていたところじゃないかな。余計な事を言わないように消してしまって、それも全部ウーダイオスくんのせいにする。そして、ウーダイオスくんの犯罪を理由に、家を取り潰した。そんなところじゃないかな?」
「なるほど〜、円は頭がいいねぇ」
「これぐらい、少し考えればわかるんじゃないかな。たぶん、ウーダイオスくんも大体こんな感じだろうって思ってたんだよね?」
「まぁ、考えられる理由はそれぐらいだが………無関係な一般人にまで手を出していたとはねぇ、ったくどっちが危険人物だんだか」
「でしたら、嫁いでいった妹さんは」
「それなりに大変な目にはあっただろうな。まぁ、自業自得というやつでもある」
「ウーダイオスさんは、家が嫌いだったの?」
「嫌いか、そうかもな。馬鹿馬鹿しい事をしているとは思ってたが、考えてること全部否定するつもりもないし、育ててもらったことには感謝をしているさ。嫌いではないが、涙を流すほど情もないってわけだ」
「ねーねー、全然話は違うんだけど、気になるから聞いていいかな?」
と、巡が割って入る。ウーダイオスも、今している話題は面白く思ってはいないようで、言ってみたらどうだ、と口にした。
「あのね、他の兵士をあらかじめ移動させてたって言ってたけど何でかなぁって? モンスターとかと一緒にいると扱いにくいからとか?」
「ああ、そのことか。それはまぁ、簡単だ。勉強するためだ」
「勉強? 兵士さん達は、勉強中なの?」
「そんなところだな。聞いた話じゃ、シャンバラは今新しい技術や人をどんどん取り入れて凄い勢いで進歩してるらしい。いきなりそんなのと戦ったら、俺はともかく普通の奴等は混乱するだろ。だから、どんな奴らでどんな武器があってどんな戦術をしてくるのか、モンスターを使って観察することにしたんだ。ま、俺が捕まるのは計算外だったがね」
「それじゃあ、まだまだ戦うつもりってことだね」
「実際に手を出すかどうかは神官様の考え次第だがね。前回の様子を見ていけるって思ったんなら、ちょっかい出してくるんじゃねぇか?」
既にちょっかいなら出しにきている。例の人質交換の話だ。戦うつもりがないのなら、捕まったウーダイオスは捨てて逃走を図るだろう。この男には知らせていないが、既に交換の話は引き受けることになっている。
「そう、じゃあまた会えそうだね。何か要望があるなら、聞いておこうか?」
言いながら、円は席を立つ。もう時間だ。
「そうだな………いい退屈しのぎになるんだったら、何でもいいさ」
「前回捕まえた際、最後に佐野亮司の足を捨てた腕が掴んだのはいったいどんな手品使ったんだ?もしかして家が学者の家筋だったのと関係あんの?俺にも出来る?ってかなんで前日に兵士全部出しちまったんだ?てか本気で守る気あったのか?ところでおっぱいが大きい子と小さい子ならどっちが好き?俺?俺は断然デッパイだな!」
身振り手振りを交えての棗 絃弥(なつめ・げんや)の矢継ぎ早の質問に、ウーダイオスは面食らいながらも、
「胸はでかい方だ。男の胸に興味ないしな」
と答えた。
「お、趣味が合うねぇ。んじゃさ、アレだよ、アレ。あの手品はどうやったんだ?」
「手品?」
「腕を動かしたアレだ。あれって、俺も練習したらできんのか?」
ああ、とウーダイオスは先日切り落とされた腕を操ったのを見せたのを思い出した。
「できる……んじゃないか? 言う通り、簡単な魔法でやるトリックみたいなもんだからな」
「魔法か、ふむふむ。んでよ、一応話としては聞いてるんだが、市民は殺して無いって本当か? アイアルっつー、ここの一番偉い奴に聞いたらそんなはずなって言ってたぜ? わざわざあんたの部下は取り戻したいって言ってるぐらだし、俺はほんとかもって思ってるけどな」
「さてなぁ、もしかしたら寝てる間に切った可能性は否定できないがね」
「そんな恐ろしい夢遊病聞いたことねーぞ。ま、俺はおっさんと剣を交えた仲だ、うさんくせーところはあるが、そこまで腐ってるようには感じなかったがな」
「うさんくさいとは酷い言いようだな、素直で明るいいい奴だろ?」
「そんなところがうさんくせーんだよ。わかって言ってやがるだろ。しっかし、大人気なんだな、おっさん。聞こうって思ってたこと大体聞かれてるじゃねぇか、俺の番の楽しみもとっとけってんだ」
「楽しみねぇ、俺と話して何が楽しいのやら」
「そりゃ、いろいろあるだろう………いろいろ、うん、いろいろだ」
どうやら、いい言葉が絃弥には思いつかなかったらしい。
「まぁ、いいか。胸の好みが聞けただけでも収穫かね」
「なんだ、もう終わりか?」
「俺も実は大人気でね、あれやってくれこれやってくれと色々頼まれてんのさ。パシリって言うなよ? まぁ、そんなわけで聞きたい事は大体わかっちまってるし、ここでダラダラすんのもいいけどよ。今はそんな余裕ねーんだとさ。つーわけで、またな」
絃弥が部屋を出ると、廊下の向こうからアイアルと天司 御空(あまつかさ・みそら)と白滝 奏音(しらたき・かのん)がこちらに向かって歩いてきているのを見かけた。
パシ………ではなく、頼まれごとを引き受けているのも事実だが、次に控えている彼らに押し出されたのもまた事実だ。やれやれ、と内心ぼやきつつ彼らの方に向かって歩き出す
「そうそう、ウーダイオスは胸は大きい方が好みだとさ」
こちらに向かってくる三人に、挨拶も無しに先ほど聞いた話を聞かせる。
御空は「はい?」ってな顔になり、奏音は「それが?」といった様子だ。アイアルはどこか思いつめた表情で、聞こえなかったのか、それともスルーしているのかわからない。
何を悪巧みしているのやら、と思いつつ絃弥は彼らとすれ違いながら、
「何をするつもりか知らんが、やるなら穏便に、な?」
と一言忠告を入れておく。
「別に、あなたの思っているような事をするつもりはありませんよ」
絃弥に背中に、奏音の言葉が届く。どうだかな、と聞こえないぐらい小さく呟いて、絃弥はその場をあとにした。
「ほう、大将さんのおでましか」
ウーダイオスがアイアルと顔を合わせたのは戦場での一回きりだが、話で彼が大将であるという事は聞いていた。アイアルの表情は相変わらずいいとは言えない。
さっと、アイアルを隠すようにして御空が間に立った。
「今回は交渉に来たんだ。きっと、君にも悪い話じゃないんじゃないかな?」
「交渉、ね」
「ウーダイオス、こちら側にこないか。あの人がここに居るのは、君が首を縦にさえ振れば、こちらの準備はできているという証明だ。もちろん、これは交渉であって脅しではない、例え断っても殺すなんて言わない」
なるほど、だからアイアルは顔色が悪かったのか、と納得する。
「貴方が何故戦うのか、その理由は知らない。けれど、俺達はそれをあちら以上の条件で満たそう。貴方が戦争屋であるなら、その戦争を買い取ろう………いい話だと思うわないか。俺達は正義の解放軍、もちろん約束を取り違えたりしない。君次第では、英雄になれるかもしれない、そうだろ」
「なるほどねぇ。面白い話ではあるな」
「だったら―――」
「だが、返答はノーだ。悪いが、俺はあんたらと共に戦うというのだけはありえない。個人的に友達になるのなら話は別だがな」
「妙な事を言うんですね」
個人的な交遊なら構わないが、共に戦えない。奏音の言う通り、それはおかしな話だ。大儀や信念で動いている人間の考える発想ではない。まして、差別意識や選民思想を持っているようすもない。
「どういう意味ですか?」
「どういう意味も何も、そのまんまの意味だが………まぁ、後ろで難しい顔している奴の方が詳しいと思うがね、俺はあんたらの掲げる正義にはついていけないのさ」
「彼は、背信者なのですよ」
ウーダイオスの言葉の意味を考えていた二人に、アイアルがそう告げる。
カナンという国は、女神イナンナを国神として崇めている。人々は、イナンナに見守られ、祭り、そしてその恩恵に預かってきていた。カナンとは、そういう国である。
「わからないだろうなぁ。後ろの大将さんには荷が重そうだし、俺が説明してやるよ。あんたら二人は、ここの砂漠地帯を見てどう思ったよ。ああ、いいや、答えなくていい。模範解答としては、ネルガルの横暴に怒りを覚えた、とでもしようか。それはいい、けどこれは別に奴が力を持っていたからじゃない、女神の力を奪ったからできたことだ」
征服王ネルガルは、イナンナを封印しその力を奪った。それは、マルドゥークも言っていた話だ。もちろん、このカナンの地に駆けつけた人達が知らないわけがない。
「今回は、ネルガルが犯人だ。みんなの大好きなイナンナ様は封印されてしまった被害者だ。けどなぁ、考えてみろ、かつての面影が見当たらないぐらいに国をかえる力を持った奴がいる、それも人格を持ってだ。これほど恐ろしい事はないね。今でこそ、女神だと祭り上げられちゃいるが、一体どれだけ自分に逆らう奴らを消してきたんだろうな?」
「我らのイナンナ様がそのような事を―――」
アイアルが語気を荒げる。
「これが、この国の人間って奴だ。もうすっかり洗脳されきって、面白いようにイナンナを祭って崇めるわけだ。そして、心優しいイナンナ様は彼らに施しを与える………いいねぇ、幸せな話だ。何もかも、イナンナ様の御心のままに、ってね。別に、ネルガルに俺は義理も立ててなければ、崇拝もしていない。が、この国で産まれた人間のくせにこんな大胆な事をする根性は買っている。まぁ、そうだな、もし俺を買いたいっていうなら、値段は俺がつけてやろう。ネルガルと一緒に、封印されてるイナンナを消し、セフィロトを焼き払う。それができるんなら、俺は喜んでそっちにつこう。別に報酬もいらない、最低限の飯さえ与えてくれりゃ英雄だろうが魔王だろうが、お好みの仮面も用意してやるよ」
御空も奏音も、そしてアイアルも一時次の言葉が出てこなかった。
アイアルが何故難しい顔をしていたのか、その理由を二人も理解した。イナンナを救う事が目的である解放軍と、この男は交わらない。交わることは不可能なのだ。
「………どうして、そこまで嫌うのですか?」
奏音が尋ねる。憎しみすら感じ取れる彼の言いように、気になるものがあったからだ。
「別にイナンナ個人の人格を嫌ってるわけでもなし、過去に何かされたわけでもないさ。ただまぁ、なんて言うのかねぇ………、気持ちが悪いのさ。もし、仮に女神様がただの偶像で力が無いのならば別にいいだろう。崇めるも崇めないも、個人の理由になる。それはいい、が、実利を与えてくるとなると話が違う。女神から恩恵を得るために崇める、相手が神様だからいい話のようだが、実際奴隷と何が違う? もし気に食わなければ、天罰が来るかもしれないなんて、まさに奴隷だ。そんなもんが、ここでは延々と続いていやがる。俺が眠っていた二百年が経っても相変わらずだ。気持ち悪い話だろうよ」
ウーダイオスが口を閉じると、しんと辺りが静まり返った。
背信者、確かにアイアルの言葉通りだろう。しかし、果たして彼の全てが間違っているのか御空と奏音にはわからない。この国の人にとって、彼は確かに後ろ指をさされるような人間ではあるのは確かだが、彼の悪は社会悪であって人間悪ではないのだ。
「なるほどわかりました。どうあっても、あなたはこちら側には回れないのですね」
「ご理解いただけたようで」
「でしたら―――」
奏音はヒュプノシスをウーダイオスに向けて放った。相手を眠らせる効果のあるスキルである。
この男を本人の考えや意見を今構ってやる余裕は無い。むしろ、構えばそれこそ余計な事になる可能性がある。それよりも、今はやらなければいけない事がある。
「やはり、ダメでしたね。しかし、彼がこういう思想を持っていると知っているのでしたら、前もって伝えていただけなかったのですか?」
「申し訳ありません。私の口からあんな事を言うことはさすがに―――」
アイアルは申し訳無さそうに目を伏せた。確かに、イナンナを信仰している民としては、そのような事を口にはできないだろう。
奏音は横目で御空を見ると、何やら考え込んでいるようだ。確かに、この男の言葉には感じるものがあるのは理解できる。予定とは違うが、眠らせて黙らせたのは正解だったようだ。
「やはり、影武者を用意するべきです」
「ほぅ、誰の腕を切り落とすんだ?」
奏音の言葉に、ウーダイオスが反応する。
「な、眠らせたはずです」
「悪いな、その手の類いはあんまり効かないんだわ。それより、影武者の話が気になるな、一体誰の腕を切り落とすんだ?」
「どういう意味だよ?」
「そのまんまの意味だ。俺の扮するなら、片腕があっちゃおかしいだろ。だから、誰かの腕を切り落とさないといけないってわけだ」
「あなたが負傷したのを知っているとでも?」
「むしろ、あんたらにここの情報が漏れていないのか、と聞きたいね。俺の話も随分と出回っているようだ。まぁ、影武者の件はまだ出回ってないから大丈夫だと思うが、役者には相当根性いれてもらわないとな」
ウーダイオスは愉快そうにしている。
アイアルは前に出て、ウーダイオスの顔を殴り飛ばした。座っている椅子から吹っ飛び、床に落ちる。
その様子に唖然としていた二人に、アイアルは小さく頭をさげてから、
「申し訳ありませんが、影武者はこの男が言う通り難しいでしょう。情報が漏れていない確証もない。ですが、それよりも私は早くこの男を追い出したい。一刻も早く」
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