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リアクション
自分の仕事を見つけてそれぞれ動きだす二日目
光の指輪をライト代わりに、武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)は地下道を探索していた。
「なんか、思ってたより複雑だな………」
「爆発の影響で広がった、というわけではないようですね」
「天然の迷路ってわけか。こりゃ、色々と面倒そうだ」
牙竜と共に重攻機 リュウライザー(じゅうこうき・りゅうらいざー)も、地下の探索を行っているのだが、思っていたより厄介な仕事だったようだ。
砦に乗り込むために使った通路は、爆発の影響で閉鎖されてしまったため使用できない。しかし、そこからあちこちに道が伸びていて、それが結構複雑に繋がっているのだ。
見晴らしのよい地上より、物資の輸送をするに適しているかもしれないから、という理由で地下の探索を頼まれてきたのだが、マッピング作業でも結構な時間が必要だろう。
「穴を掘り進むって言ってたやつらは大助かりなんだろうけど」
「あちらも地下の探索を進めているのですから、あとで情報交換しましょう」
「だな。しかし、あんな大怪我してんのにはりきってるな、橘さん」
今はゴタゴタしているが、行く行くは地下を使った輸送路は(株)特殊配送行ゆるネコパラミタの配送ルートとして利用する予定だという。
話をしながら、マッピング作業を続けていくと、道の先から足音が聞こえてきた。イナンナの加護が反応しないので、敵意は無いと思うのだが、二人は身構えた。
「おっと、誰かと思えば牙竜じゃないですか」
向こうからやってきたのは、樹月 刀真(きづき・とうま)と漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)の二人だった。
「刀真と月夜か、驚かすなよ。てか、何でこっちを通ってんだよ?」
「日差しが強くて……」
「おいおい」
「あとは、地下に通路があるっていうから少し見ておきたくて。ちょっと見たらすぐ出ていくつもりでしたよ。あてもなく歩くと迷子になりそうです」
「でしたら、道を教えますよ。こちらの方が、上を通るよりは安全でしょうから」
リュウライザーが持っていた銃型HCのマップで、道順を教える。
「なるほど、助かりました。それで、恭司が大怪我したと聞いたのですが?」
「………、ああ。でも、今は元気そうだぜ。勝手に何度も病室抜け出したりして大変だってさ」
「そう、か。全く、無茶をするものですね」
刀真の何気なく呟いた一言だったが、牙竜の表情が少し曇った。詳しい経緯は聞いていないが、恭司の怪我の理由に牙竜が関わっているのかもしれないと刀真は察した。
こんなジメジメした場所で、さらにジメジメした話をするのはよろしくない。体に苔とかキノコとかが生えてくるかもしれない、そんなのは御免だ。
「そうでした、月夜。牙竜に届け物がありましたよね、今のうちに渡しておきましょう」
「え、あれを今ここで?」
「俺達の荷物も減りますし」
「うーん、いいけど………じゃあ、はいこれ」
荷物をがさごそと漁って、武神牙竜宛の紙袋を取り出した。
「届け物? 俺にか?」
「着替えや生活必需品を持ってきてくれと頼まれたんですよ」
「ふーん、そっか。サンキュー助かるわ。どれどれ………え?」
紙袋の中を覗きこんだ牙竜の顔が随分と間抜けな表情になっていた。
「秘蔵のスペシャルコレクションの中から、似合いそうなものをピックアップしてきました」
「いや、そういう問題じゃねーだろ! これ、全部女物じゃねぇか。しかも、下着しか入ってねぇし! どこが生活必需品なんだよ!」
「そんな事を言われましても………ねぇ?」
「いや、あたしに振られても、準備したの刀真じゃん」
「わざとか! わざとなのか! こんなの渡されて俺にどうしろってんだよ!」
「使えば、いいと思いますよ?」
「使えるかっ!」
くだらないやり取りだったが、先ほどちらりと見えた表情の陰りはどこかに行っているようだ。まぁまぁ一安心、といったところだろうか。
「それじゃあ、俺達はこれで………と、そうでした。あれも渡しておきましょう」
「まだなんかあるのかよ………」
げんなりしている牙竜に手渡されたのは、彼の想像に反してネタっぽいものではなく無線機だった。
「ここでは携帯は使えないけど、これだったら離れていても連絡取れるでしょ」
「では、俺達は先に行ってますよ。終わったら、それで連絡してください」
昨日の鬼ごっこはどこへやら、今日の兵士達の訓練は剣の打ち合いをしたり、座学をするものありと訓練らしいものになっている。
そんな中、出雲 竜牙(いずも・りょうが)はキョロキョロと周囲を見渡しながらある人物を探していた。
「居ないなぁ、まさかっ!」
「まだ探して五分も立って無いわよ」
モニカ・アインハルト(もにか・あいんはると)が呆れた口調で言う。
「だって、心配じゃん。彼女の友達はまだ捕まったままなんだろ、探しに行きたいって思うのは当然だろ。もしかしたら、一人で探しに行っちゃったかもしれないんだぞ」
「じゃあ、あの子は誰?」
モニカが顎で示した先には、お目当ての人物、正岡すずなの姿があった。どうやら一人ではないらしい。
「あれは………」
すずなの横を難しい顔をして歩いているのは、教師のアルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)だった。
「おや、君たちもこっちに来ていたのか」
「あはは、どうも」
とりあえずお辞儀をしておく竜牙。
「ところで、すずなは何してたの?」
モニカが尋ねると、すずなは苦笑を浮かべた。
「えと、ありがたいお話を聞いていました………ははは」
ああ、とモニカは納得した。恐らく、アルツールに説教か何かをされていたのだろう。思えば、彼女が失踪したのはカナンからの救援要請より少し前だったはずだ。怒られる理由はいくつも検討がつく。
「そうだな。君達にも関係のある話だ。いいか、シャンバラでの戦い然り、今回のような件は本来、専門の訓練を受けた軍人などの大人が解決するべきものだ。それが装備もスキルもバラバラ、そして年も若く碌な経験も積んでいない未熟な君達がここへ来ているのは、何故だと思う。単に契約者であるがゆえに常人を上回る大きな力を持っている、この一点に過ぎない。経験の無さはいずれ時間が解決してくれる。だが、今すぐどうこうなるものでもない。まずは、焦らずに行く事だ。その上で、今の自分に取れる手段の中から最良のものを慎重に検討したまえ。賢人の学び舎たる魔法学校の生徒である君ならば、必ず最良の選択肢を見つけ出せるはずだ。そのためにはまず―――」
とてもあり難いお話なのだが、道端で出会った途端につらつらと語り始められても、生徒の耳には届かない。モニカは聞き流していたし、竜牙ははやくおわらないかなーって思っていたし、今まで黙っていた出雲 雷牙(いずも・らいが)はどのタイミングで息継ぎしているのかと様子を見ていた。
「つまり、あまり危険な真似はするなという事だ。君達の本分は学業だからな」
と、どうやら話が終わったようなので、
「ところで、銃取り戻したんでしょ? 貸しなさい、メンテナンスしてあげるから」
なんてアルツールをそっちのけですずなに話しかけた。
「これですか」
と、すずなは懐から銃を取り出す。
「へぇ………P210のレプリカモデルね。こんなの今時作ってるとこあるんだ」
「珍しいものなんですか?」
「あんた、自分の使ってる銃のことも知らないの?」
「あ、あはは………私、使えないんですよ、その子。お守りというか、そんな感じで」
「お守りって、使える銃をお守りしてどーすんのよ。いいものなんだから、ちゃんと使ってあげなさい」
「ところで、P210とはどういうものなのだ?」
「随分と昔の銃よ、今から七十年ぐらい前のものね。これはレプリカだから作ったのはそんなに古くないと思うけど。そのあとに出る拳銃のお手本になったぐらい精度がいいって評判だったそうよ」
雷牙の問いに、拳銃の様子を見ながらモニカが答える。竜牙は、七十年かと一言こぼした。
「銃も大事かもだけどさ、それより聞いた? 今、捕まってるウーダイオスって奴に人質交換の話が来てるって」
「はい、そういう話らしいですね」
すずなの反応は、案外あっさりしていた。びびっと竜牙に嫌な予感が走る。
彼女の仲間は、未だ行方不明のままだ。探しに行きたいと思うのが、人の心というものだろう。もしかしたら、人質交換の前にこっそり一人で助け出そうとか考えているかもしれない。
「……まさかとは思うけど、すずなちゃん。交換が行われる前に、一人で人質を助けに行こうなんて考えてないよね?」
「そんな事は俺がさせない」
ずばっと答えたのは、アルツールだった。
「あ、あはは………」
またもすずなは苦笑する。どうやら、既にその辺りの事でも随分とご高説を承ったらしい。少し同情してしまう。
「ご心配をかけさせてしまってすみません。でも、今は私とサフィだけの問題じゃないから………それに、物事にはタイミングがあるって兄さんも言ってました」
「お兄さん?」
「はい。兄さんだったら、きっとこんな時はじっと様子を伺って、ここ一番のタイミングを見極めようとするはずです」
「もしかして、そのお兄さんも捕まってるのか?」
「それはないですよ。だってもう随分前に死んじゃいましたから」
「え?」
さらりと、何か凄い事を言われたような気がした。
「あ、そんな気にしないでください。私がまだ小さかった頃なんで、とっくに吹っ切れました。あ、今でも小さいほうなんですけどね、私。あはは、それに人質交換されるんなら、その時にサフィも帰ってくるかもですし、今はまだ動く時ではないことぐらいは私でもわかります。だから、大丈夫です」
「………そっか、なら大丈夫そうかな」
からからと笑うすずなの様子からは、いきなり何かしでかすような危なさは感じない。まだ安心できる程でもないが、それでも落ち込んでいたりなんかしなくて良かったと竜牙は思うのだった。
「そうだ。それじゃあ、俺と一緒に訓練に参加しようよ。その、タイミングが来た時にきちんと動けるようにさ」
ちらっとすずなはアルツールに視線を送ると、
「うむ、体を動かす事はいいことだ」
と頷いた。
「それじゃ―――って、あの、モニカ? なんでこっちにライフルを向けていらっしゃるんのですか? は? 至近距離でライフル弾を避ける訓練? そんなのが訓練にって、うわっ、待て待て待て―――はぁっ、はぁっ、ほ、本当に撃ちやがった。死ぬから、そんなもんに当ったら死んじゃうから!」
何故かライフルで狙わる竜牙。そんな彼の肩を、がしっと雷牙が掴む。
「俺も丁度体を動かしておこうと思っていたところだ。よし、お前がその気ならしっかりと訓練をしようではないか」
「はい? いや、兄さんは兄さんで訓練すればいいんじゃないかなーって、痛い痛い、なんで、いやいやいや、わかった、わかったから痛いってば!」
鼻歌交じりで雷牙は竜牙をひきずって行ってしまった。よほど、竜牙が訓練をしようなんて言ったのが嬉しかったのだろう。
「あ、あれ?」
「すずなはこっち。銃のメンテナンスの仕方とか、教えてあげるから。それと、簡単な射撃の訓練ね」
残されたすずなの手を取って、モニカは竜牙とは別方向に向かって歩き出す。
その様子を眺めていたアルツールは、彼らに任せて大丈夫だろうと判断した。なんだかんだいっても、同年代の方が大人の言葉よりも耳に入ることぐらいわかっている。それでも、言わずにはいられないものなのだ。
「さて、俺は他の生徒達の安否を確認してくるか。彼女はまたあとで様子を見ればいいだろう」
地下の探索を行っていたロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)の視界に思いもよらない光景が広がっていた。
「水が、こんなにたくさん」
(株)特殊配送行ゆるネコパラミタの配送ルートとして活用すべく、地下のマッピングをすすめていた彼女の前に現れたのは、川だった。そのまま飲めそうなぐらい透明の綺麗な水が、ゆったりと流れている。
光術を使って照らしてみると、深さは一メールあるかないだろうか。生き物の姿は見えない。左右を見渡すと、どちらも先が見えないほど延々と続いているらしい。どこかから湧き出ているのか、それとも川が途中から地下に潜っているのか、今ここで確かめることはできなさそうだ。
なんとなしに手をつけてみると、とても冷たい。
「これは思いもよらない掘り出しものですね。飲み水としては使えなくても、水は必要なものですから」
水を手に入れたのと同時に、この川を水路にできないだろうかという案がロザリンドが出てくる。もっと調査しないとわからないが、水路があれば大荷物を運ぶ労力を一気に軽減することができるはずだ。
「おーい………っと、居た居た。そろそろ時間だ、あがろうぜ」
そこへ、牙竜とリュウライザーがやってくる。
「なんだこりゃ、川か?」
「そうみたいです。これを水路にできればと思ったんですけど」
「この先がどうなってるか次第ですね、使えるといいのですが」
「まぁ、川を調べるのはあとのお楽しみだな。今日はもうあがりにしようぜ、早く出ないと日が暮れちまう」
三人は朝からずっと地下の探索を続けていた。落石の危険性はあったが、モンスターの姿はなくトラップもないので、今日だけでも随分と作業は進んでいた。帰り道の途中、互いのマップを交換しておく、複雑だと思っていた地下はやはり複雑だったと再認識させられた。
「そうそう、このあと橘さんとこに顔出そうと思うんだけど、一緒に来るか?」
「はい、お供します」
「おっけー。あ、ただちょっと寄り道することになるんだけど、いいか?」
「寄り道ですか?」
「ああ、ほんのちょっとだけどな」
「随分と疲れた顔してますね」
「馴れていたつもりだったんですが、少しばかり主に振り回されまして」
病室の外。刀真の問いにミハエル・アンツォン(みはえる・あんつぉん)は苦笑して答えた。
先日の戦いで大怪我を負った橘 恭司(たちばな・きょうじ)は、命にこそ別状はないもののしばらく安静にしないといけないと言われていた。
しかし、ミハエルが少し目を離すたびに、用意された個室はもぬけの空になり、やれアイアルに交渉だ、やれ支店の店舗を確保だと動き回っていた。見つけるたびに、丈夫なハリセンで突っ込みをいれつつ病室に引きずっていたのだが、丈夫なハリセンの方が先に壊れてしまった。
「はは、恭司らしい」
「元気なことはいいことなんですけど………はぁ」
何故か恭司より先にミハエルに疲れが出ているようだった。
その頃、病室の中には珍しく恭司の姿があった。ベッドで体を起こしている彼のすぐ隣には、月夜の姿もある。
「………はじめるわよ?」
「ああ、やってくれ」
月夜の手には、機晶姫の腕がある。肩から先を失った恭司の新しい腕とするために、持ち込んだものだ。
それを、今ここで取り付けようというのである。設備も何も用意できないこんな場所でするなんて、と月夜も最初は断ったのだが、結局恭司に押し切られてこうしてやる事になってしまった。
そうなってしまっては、月夜も覚悟を決めるしかない。
足りない設備や薬品は、魔法で代用すればいい。それに、機晶姫の腕を持ってくるように頼まれた時から、こうなる可能性を考慮して機晶姫の腕に対しての知識はできうる限り頭の中にいれてきている。
もしも不足することがあるとしたら、それは自分の勇気と覚悟だ。
魔法と科学を一つの技術として扱う人、機工魔法士という目標がある以上、勇気や覚悟が足りないからなんて失敗だけは絶対にしたくない。
「………どう?」
一通りの手順を終えて、月夜は恐る恐る恭司に尋ねた。
完璧だったはずだ。少なくとも、手順に一つの間違いも無いはずだ。少なくとも、自分で見つけられるようなミスは一つもない。
息の仕方も思い出せないような緊張の中、恭司の新しい腕はわずかだが確かに動いた。最初はほんの小刻みに、しかし少しずつはっきとした動きになっていく。
「少し違和感があるな、それに筋肉痛のような痛みを感じる」
「………はぁ〜、よかったぁ、ちゃんとくっついたみたいね。今は違和感を感じるかもしれないけど、ちゃんとリハビリをしてけばそれは消えていくはずよ。馴れれば以前の手と変わらないように使えるはずなんだから」
「そうか。すぐには無理か」
「当然じゃない、人間の体なんだから。そもそも恭司は働き過ぎよ、ミハエルなんか気苦労でげっそりしてたじゃない。いーい、これを機に少しは自分の体を労わる事、わかった?」
「努力はしよう」
あ、ダメだ、こいつ。と、月夜は思った。ため息をして、彼の言葉の返事としておく。
それよりも、集中したいからと追い出した二人を早く呼びに行こう。刀真なんか、あんまり態度には出さないようにしていたようだが、物凄く心配していたのだ。早く安心させてあげたい。
ふと、外が妙にがやがやしている事に気づく。あれ、と思いつつ扉をあけるといやに沢山の人の姿があった。牙竜や、ロザリンドのような見知った顔もあったが、他は全く知らないおじいちゃんとおばあちゃんと子供達だ。
「どうだった?」
真っ先に声をかけてきたのは刀真だった。成功したと伝えると、表情に安堵の色が浮かぶ。
「それで、この人達は?」
「ああ、これは俺が声をかけてきたんだ。とにかく、廊下じゃあれだし中で説明していいだろ?」
「あ、うん」
牙竜に言われて、道を明ける。ぞろぞろと大人数が入ってきたのには、恭司も少し驚いたようだ。だが、すぐに意味を察したらしく、
「おいおい、あまり人に迷惑をかけるものじゃないだろ?」
なんて口にする。
「橘さんに、みんなでお礼を言ってもそんな態度取ることぐらいわかってますよ。だから………」
と、牙竜が振り返ると、部屋にやってきた人達全員が何か取り出した。手紙だ。おじいちゃんもおばあちゃんも、子供それぞれ手紙を持っている。
「仕事取ってきました」
にっと牙竜が笑ってみせる。
「やれやれ、休めとついさっき言われたばかりなんだがな」
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