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桜井静香の奇妙(?)な1日 後編

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桜井静香の奇妙(?)な1日 後編

リアクション

 部屋で捕まえた3匹の猫を真とベアトリーチェに抱かせ、屋敷の2階を探索中、前方にまた別の影が現れた。最近やたらとフラワシにはまっている弥涼 総司(いすず・そうじ)である。
「あら、先日の変質者さんじゃないですか」
「ムッ」
 総司の姿を認めた弓子の言葉は非常に辛辣だった。というのも、総司は2日前、百合園女学院に侵入し、弓子に襲いかかったことがあったからである。
(こいつらはオカマの静香にドMの真、スカート短すぎ美羽に、インテリのベアトリーチェ……それにプッツン弓子だ……。全員オレとは話が合わないヤツらだ)
 散々な評価ではあるがこれらはすべて総司の主観によるものであることをここに断っておく。
「おいおい変質者とはなんだ変質者とは。アレは結局単なる未遂で終わったじゃあないか」
「未遂でも行動それ自体が危険としか言いようが無いんですけど……。校長先生、行きましょ。あの人と一緒になるとちょっと不安です」
 静香を促し、努めて総司を無視しようとするが、総司の方はそれを拒んだ。
「まあ待ちなよ。今日は別に何かをしに来たわけじゃあないんだ。オレも猫探しに来たんだよ、猫探し」
「はぁ、猫探しですか」
「ああ、そうさ。今日は真面目に仕事しに来たんだぜ? 別に明確な動機があって参加したわけじゃあないが……」
「…………」
 どうにも弓子としては、目の前のこの男のことが信用できないでいた。それが態度に表れているのがわかったのか、総司は馴れ馴れしく弓子の肩を抱く。
「まあまあちょっと落ち着いて話を聞きなよ。なぁ弓子、いい友情関係ってのには、3つの『U』が必要なんだ……。3つの『U』」
「はぁ……」
「ああ、1つ目はな……『嘘をつかない』だ。2つ目は『恨まない』……。そして3つ目は、相手を『敬う』……。いいだろ? 友情の、3つの『U』だ」
「それ、言葉だけは確かに言えてますよね」
「まあな。で、ここからが本題だ。その3つの『U』を実行させてほしいし、弓子にも実行してもらいたいんだよな。まずオレは嘘をつかない。今日は真面目に猫探しを行い、お前には手を出さない……。オレは恨まない。そもそも昨日は別の人間にやられたし、今日、お前から何を言われようとも決して根に持たないことを約束しよう……。そしてオレはお前を敬う。幽霊とかフラワシもどきとかそんなのは抜きにして、お前を1人の人間として見よう……」
「……まあ、最初の『U』だけで十分なんですけどね」
「よし、決まりだ。それじゃあ、早速部屋を探すとするか」
 弓子の肩から手を離し、総司は全員を先導して1つの部屋の前にやって来た。
「おっと、部屋のドアが閉まってやがる……。中に誰かいるのか?」
 言って総司はドアに耳をくっつけた。
「何してるんです?」
「中に誰かいないか確かめてんだよ。なぜなら使用人の部屋だ。巨乳でセクシーな使用人さんがいるはずだし、もしかしたら偶然着替えてるかもしれない。そう考えると好奇心がツンツン刺激される……。どうしても見てやりたくなるじゃあないか」
「……のぞきですか」
「そういうこと。なぜならオレは通りすがりののぞき魔だからだ」
「ほぉ〜。【パンダ隊】の私の前でよくもまあそんなことをぬけぬけと言えたものねぇ〜」
「ハッ!?」
 欲望を大っぴらに口にしたその時、総司の背後で美羽が「怪力の籠手」をはめた手を音を立てて鳴らした。その時点で総司は思い出した。なぜ記憶に残らなかったんだ、さっき会った時にしっかりいたじゃないか!
 美羽の口にした【パンダ隊】とは、総司が部長を務める【のぞき部】の対抗勢力として生まれた組織である。その行動理念はもちろん、のぞき部の撃退であり、数々の抗争においてことごとくのぞき部の面々を「んぱー」と言わせてきた実績がある。また【パンダ隊】は女子によって構成されるチームで、男子が構成するのぞき部対抗組織は【キリン隊】という。
 もっとも最近では、「キリン隊もパンダ隊も気迫が足りないから、1つにして部名も変えてしまえ」とかいう理由で【あつい部】とかいうものに統合合併されたという話があったり無かったりするのだが……。
「『則天去私』か『正義の鉄槌』、好きな方を選ばせてあげるけど、どっちにする?」
「い、いや、ちょっと待ってくれよ。今日はマジに普通に仕事しに来たんだって。そう、なんていうか、つい体が反応しちまったっていうか……、ホラ『職業病』とか言うだろ? あれだよ。反省はしてます、マジで」
「……ま、いいでしょ。今日は大目に見てあげるわ」
「ありがたき幸せ」
 そんな美羽と総司の会話を真は黙って聞いていた。
(ああ、そういえばのぞき部なんてあったっけ……)
 もはや過去の話と言えるかもしれないあのぶっ飛んだ組織の存在を、彼は改めて認識することとなった。だからといって、どちらかに所属するというわけではないが。
「まあでも、誰かいるのならノックすれば反応があるでしょうし、鍵がかかっているなら後で鍵を借りればいいのではないでしょうか」
 この状況を見かねたのか、ベアトリーチェが至極建設的な意見を出し、そして誰もそれに反対しなかった。それ以上に建設的な意見が存在しなかったからである。
 言いだしっぺであるベアトリーチェが代表してノックし、中に誰もいないらしいことを確認するとドアを開ける。幸いにして鍵はかかっておらず、6人はすんなりと中に入ることを許された。
「あ、ちょうど猫がいますね」
 部屋のベッドの上に1匹の猫が座り込み、こちらを見つめていた。敵意を向けてくるのでもなければ、人間が入ってきたことに対する期待が現れているわけでもない、とりあえず入ってきたのが何者なのかを見ているだけという目であった。
 そんな猫に総司が進み出て、この場では美羽にしか見えないフラワシ「ナインライブス」を呼び出す。
「意外とすんなり見つかったのはいいけどよ〜、猫って嫌いだよなぁ〜っ、ガン飛ばすからな〜っ」
「……え、嫌いなのにこの依頼に参加したんですか?」
 総司の言葉にすかさず弓子がツッコミを入れる。
「いやいや、そこはそれ『ノリ』ってやつだよ。お約束的な?」
「はぁ、お約束、ですか……」
「そういうこと。というわけで……、おい、大人しく捕まれ!」
 総司が「ナインライブス」を操作して、ベッドの上にいる毛皮の塊を捕らえようとする。
 だが物事というものはそう簡単にはうまくいかないものである。
「!」
 総司が猫に手を出した瞬間、一体どこに隠れていたのか、机やベッド等、様々な物陰から次々と猫が現れたのである。その数はベッドの上にいるのを合わせて5匹。
「なっ!? 何ィ〜!!」
 猫たちからは特に敵意を感じない。だがその体の構えは明らかに総司を狙っていた。
「校長先生、これって……」
「うん、さっきの僕らと同じ展開だね……」
 静香たちが数歩後ずさり、総司から離れる。それを見計らっていたのか、猫たちは一斉に総司に飛びかかった。
 後には猫に襲われる総司の悲鳴だけが響き渡った。

 のぞき部・部長。弥涼総司。猫を本気で殴るわけにもいかず、そのまま襲われ再起不能(リタイア)。

「それじゃ、私はちょっとこの男を見張ってたいから、一旦ここで別れるね」
 合計8匹の猫を確保した後、美羽とベアトリーチェは気絶した総司の見張りとして、しばらくその部屋に留まることとなった。