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リアクション
それから2日が過ぎた。
静香は幽霊の憑依から解放され、隣にいる誰かとの距離を気にする必要が無くなったため自由に歩きまわれるようになり、今までの校長職に戻ることとなった。
また一方でパートナーのラズィーヤは、弓子という存在がいなくなったおかげで精神的に解放され、ここ数日は笑顔を見せっぱなしであった。静香が映った動画データとビデオカメラも戻ってきたため、楽しみは尽きないようだ。
成仏した弓子の百合園制服と、そのポケットに入っていた「Naraca」は静香が預かることとなり、自室のクローゼットの中に入れられた。
またヨーヨーと寄せ書きの色紙の束は、一応という形ではあるが、七瀬歩が全て預かることとなった。
百合園女学院は、弓子がいた時とほぼ変わらない日常を送っていた……。
仕事を行う静香とラズィーヤの耳に、校長室のドアが叩かれる音が飛び込んできた。
「どうぞ」
静香が入室を促すと、出入口から全身を包帯や湿布薬、そして絆創膏で身を包み、何やら厚そうなファイルを小脇に抱えた毒島大佐が姿を見せた。
「た、大佐、さん……。こないだリタイアしたんじゃなかったの?」
「甘いな。我にとっての再起不能(リタイア)とは、撮った写真や動画が全て消去されることを言うのだよ。たかが肉体的なダメージなど、それと比べればとるに足らん」
それにしては痛々しい大佐の外見である。
「まあそんなことよりも、だ。はいこれ、桜井校長にプレゼント」
特に痛むような様子を見せず、つかつかと静香の前に歩み寄ると、大佐は抱えていたファイルを机の上に置いた。
「……何これ、アルバム?」
「そう、アルバム。まあ開けば中身がわかるがな」
大佐に促され、静香はその厚いアルバムの表紙をめくってみる。
そこには、静香と共に弓子の姿が写っていた。
「僕と、弓子さんの写真……。どのページもそうだ。これどうしたの?」
「先日から撮影してた動画や画像を編集して、それをアルバムにしてきた。本当ならあの成仏の翌日辺りにでも渡すつもりだったが、さすがに体の痛みのせいで満足に作業が進まなくてな。時間がかかってしまったのだよ」
「そんな……無理しなくてもよかったのに……」
「何を言うのかね桜井校長」
怪我を心配する静香に、ニヤリと大佐は笑う。
「それでもやりたかったのだよ。たった数日間とはいえ、彼女は我々と共に過ごした仲間というやつだ。だったら、そんな友人のためにひと働きするのは当然というものだろう?」
「大佐さん……」
静香はアルバムの表紙を閉じて、大佐に苦笑いを見せる。
「かっこいいセリフだけど、そんな格好で言われても締まらないね」
「ほっとけ!」
まったく、あのフラワシ使いが余計なことさえしなければ。そう毒づきつつ、大佐は校長室を後にした。
「これが、娘さんが写った画像データです。どうぞお納めください」
弓子の成仏の後、橘美咲は地球へと降り立ち、弓子の両親に面会していた。
その目的はもちろん、弓子が写った画像データを渡すことである。
「歩さんといい、あなたといい、本当に何から何までありがとうございます」
「お礼なんていいですよ。これは私がやりたかっただけなんですから!」
頭を下げる弓子の両親に、美咲は軽く笑う。
「……弓子さん、すごく喜んでいましたよ」
「そうですか……」
「あ、そうだ。すみません、ちょっとお聞きしたいんですが」
「あ、はい、なんでしょうか」
「いえ……、弓子さんのお墓って、どこにあるんでしょうか。パラミタに帰りがてら、お墓参りに行こうかと思いまして……」
「……案内いたしますよ」
「へ?」
立ち上がる弓子の両親の姿に、美咲は目を見開いた。
「私たちも今日は時間がありましてね。ちょうどいい機会だから、一緒にお墓参りに行きましょうか」
もちろん、断るような美咲ではなかった。
ちょっとした幽霊の存在から始まった、この数日間の、百合園女学院を舞台にした群像劇。
果たして彼女の存在は、何を残したのだろうか……。
果たして彼女たちの心に、何を残したのだろうか……。
それぞれの思いを胸に、彼女たちは今日を生きる……。