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WahnsinnigWelt…行く手を阻み拐かす森

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第2章 全てを利用せよ・・・狙われた館

「そんじゃリュースさん、五条さん。オメガさんとレヴィアさんのこと、頼んだスッよ!」
 七枷 陣(ななかせ・じん)は彼らに2人を任せ、遠野 歌菜(とおの・かな)たちと共にイルミンスールの森へ向かう。
「陣くん、念入りに任されました。ここはオレたちが何とかしますよ。まぁ頼まれた以上・・・、あのおばさんたちのバカ共に、オメガさんたちは触れさせませんけどね」
 研究所を探しに行く仲間にリュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)は軽く手を振ると館の傍へ戻る。
「1度頼まれたんだ。2度頼まれようが、きいてやるぜっ」
 仲間の頼みなら断る理由もないかと、五条 武(ごじょう・たける)も陣の頼みをきく。
「外の警備は、オレとレヴィアさんが担当しますけど。皆さんはどこを守るか、決めていますか?」
「僕たちは屋敷の中にしようかな」
 侵入されてしまった時に備えて、神和 綺人(かんなぎ・あやと)はパートナーたちと共に、屋敷の警備につく。
「それじゃあ僕と昶は、オメガさんの近くにいるね」
 オメガ・ヤーウェ(おめが・やーうぇ)の心が闇に沈まないように、清泉 北都(いずみ・ほくと)はパートナーと共に彼女の傍にいることにした。
「あら、あの方たちは・・・」
 館の外から聞き慣れた声音が聞こえ、揺り椅子から下りたオメガは誰かが遊びに来てくれたのかと、窓の向こうを覗き込む。
「こんにちは皆さん。遊びに来てくださったの?」
 扉を開くなり嬉しそうに声をかける。
「えぇ。オメガさんが退屈しているんじゃないかと思いましてね」
 ただ遊び相手になってくれるのかと思っている彼女に、リュースが微笑み返して答える。
 彼女に不安な思いをさせないよう、ゴーストが襲撃のことは伏せておいた。
「それでは、お客様をおもてなしするお茶をご用意いたしますわ」
「あ・・・。オレとレヴィアさんは、賑やかな場はどうも慣れないんで・・・、皆さんと一緒に来ただけなんです」
 本当は苦手というわけでないけどレヴィアが屋敷に入ることが出来ないということもあるが、外の守りが手薄になってしまうかもしれないからだ。
「まぁ、残念ですわね・・・」
「昶さんがオメガさんと遊んでくれるみたいですよ」
「よろしくな!」
 狼に変身した白銀 昶(しろがね・あきら)が、トコトコとオメガの傍へ寄る。
「あら、楽しみですわ♪」
「お茶は僕が入れてきてあげるから。昶と2階の部屋で待っててね」
「でも・・・北都さんはお客様なのに。お茶くらいわたくしが出しますわ」
「僕が入れたお茶をご馳走してあげたいんだよ」
「いいんですの?ありがとうございます♪」
「うん。2人でゆっくりくつろいでいていいよ。あっ、そうだ。これ、持っていて」
 オメガの身に危険が迫った時に察知出来るように、銀のブレスレットを彼女の手首につけてあげた。
「ブレスレット・・・?」
「ちょっとしたお守りみたいなものかな」
「では、お借りしますわね」
 彼女はキラキラと輝くブレスレットを嬉しそうに眺める。
「じゃあちょっと台所を借りるね」
 少しでも気分を和ませてあげようと、北都はお茶を入れに台所へ行く。
「僕たちは屋敷の中を見てみたいな。いいかな?」
「はい、ごゆっくりしていらしてね」
「ありがとう。じゃあ皆、一緒に見ようか」
「―・・・え?あ、はい!そうですね」
 綺人の調子を合わせようとクリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)が慌てて頷く。
「ユーリ、わたくしたちも見学させてもらいましょう」
 襲撃を警戒しているそぶりを見せず、神和 瀬織(かんなぎ・せお)はリビングの方へ歩いていく。
「そうだな・・・」
 ユーリ・ウィルトゥス(ゆーり・うぃるとぅす)も館内の散策をしつつ、ただの見学だというふうに見せかける。
 十天君の企みから守りに来たと気づかれると、怯えさせて彼女の心を不安定にさせてしまう。
 それどころか傷を負ってしまったら、自分のせいで誰かが傷つくのを恐れ、ガラス細工のように壊れやすいその心が悲しみに沈んでしまうからだ。
「鬼灯、ミィちゃん。見回りよろしくね。他に生きてないやつを見つけたら、僕たちに知らせてね」
 オメガが2階へ行った頃合を見て綺人は、死者を見たら教えるようにアンデッドたちにお願いをする。
 アンデッドたちはこくりと頷くと、ふよふよと浮かび見回りを始める。
 今から起きること気づかない魔女は温かい部屋の中で、暖炉の傍で伏せる昶の背を撫でる。
「狼の姿の昶さんって、とっても可愛いですわね」
「そ・・・、そうか?」
 嬉しそうに微笑む彼女に撫でられた昶は思わず照れ笑いをする。



 オメガと昶が穏やかに過ごしている一方、イナンナの加護でリュースが館に迫る殺気を察知する。
「(この殺意、ゴーストか?だとすると、かなり近くまで来ていそうだな)」
 外の見回りに行っていた綺人のアンデッドたちが、扉の向こうへ怯えながら飛んでいったのを見て、おそらく来たのだろうと亡者たちを待ち構える。
 ターゲットを苦しめるために放たれた、邪気の塊のような神経を苛つかせる存在たちだ。
「来い。ガラクタなバカ共が何体来ようが、ぶっ殺してやる」
 ヒューマノイド・ドールの頭を引っ掴み、首を引き千切る。
 ドプッ。
 断面から赤黒い血を流し、離れた胴体の方へズズズッゴロン・・・と滑り転がる。
 斬られた細胞同士をくっつけ、再生しようとしているのだ。
「どこへ行く気だ、バカ共。今死ね、すぐ死ね、何度でも死ね」
 胴体を探し求めて蠢く頭部を踏み砕き、血管を触手のように伸ばし頭部をひっつこうとする胴体へ、光の尾を引かせ則天去私の拳で殴り潰す。
 オメガの元へ行かせまいと阻む彼らをヒューマノイド・ドールが囲み、背から伸ばした触手で貫き殺そうと襲う。
「それで囲んだ気か?」
 臆する様子もなくリュースは鼻で笑い飛ばす。
「さっさと死ね、死ぬまで死ね」
 触手が両腕に絡みつきながらも、バーストダッシュのスピードを利用して引き千切り、亡者の血管を掴み振り回す。
「やつらはまだ、命を道具扱いするのか」
 静かな口調で言いながらも言葉に怒気を含ませ、扉を乱暴に叩き破壊しようとするキラーパペットの四肢を、細身の長剣で貫き飛ばす。
「意志なき人形にされてしまっては、末路の嘆きも忘れてしまっているだろうな」
 ペタペタと地面を這い回り、人の物ではなくなった鉤爪のような爪で襲いかかる者の懐へ飛び込み、胴体を断裂させる。
「リュース、扉の方に何体か行ったぞ」
「分かりました。―・・・さっさと来い、粉々に潰してやる」
 振り返らず頷いた彼はゴーストたちをギロリと睨み、容赦なく首を千切り地面へ転がす。
 頭だけになりながらも、ヒューマノイド・ドールはニヤリと不気味に笑い、心臓の裂け目から強酸をシュゥウウッと煙のように放つ。
「くっ、酸か・・・!」
 パワードマスクでも防ぎきれず喉がひりつく。
 それ以上吸ってしまわないよう、口と鼻を袖でガードする。
 ゴッ・・・メショッ。
 ターゲットの手首を掴んで片腕を肘で殴り、握り潰しそうなほどギリギリと頭部を握り締め、土へめり込ませる。
「―・・・ちっ、狙いはそっちか」
 亡者はリュースに向かって強酸を放ったかのように見せかけ、彼の傍にある扉を溶かされてしまう。
「すみません、何体か突破されてしまいました!」
「任せて!」
 大広間に侵入してきた再生する亡者を迎え撃とうと、綺人は形見の刀の柄を掴んで抜き放つ。
「グゲッ、ギャッギャヒッ。ゴビャヤッ」
 シュゥァアアッ。
 ゴーストは喉の奥から嗄れた笑い声のような声音を発し、心臓の裂け目から強酸を撒き散らす。
「クリス、これを外へ叩き出してっ」
 刀身からアルティマ・トゥーレの冷気を放ち、酸の白煙を凍てつかせて防ぐ。
「伏せてください、アヤ!」
 彼が屈んだ瞬間、左肩から右脇にかけて龍骨の剣で、ズパッと斬り裂く。
 石のタイルへ肉塊が貼りつくように、ベショッと崩れ落ちる。
「本来の創造主が作り出したゴーストと違って、再生スピードが少し遅いみたいですね」
 再生しようとするゴーストを見下ろし、剣で殴るように外へ叩き飛ばす。
「外からも殺気が感じるから分かりづらいですが。他にもまだいるはずです」
「どこかに潜んでいるかもしれない・・・ってことですか」
 瀬織はディテクトエビルを発動させ、ゴーストの位置を探知しようと意識を集中させる。
「―・・・綺人、シャンデリアの陰に1体いますっ」
「僕が酸を防ぐから、クリスはあいつを床に落として叩き出して」
「アヤ、了解です!」
 バーストダッシュの加速で手摺を踏み台に、シャンデリアに飛び乗る。
 金色に輝く照明の細工がぶつかり合い、シャララランッと鳴り響く。
 優美な場に似つかわしくない、生者の命を疎む死者を蹴り落とし、頭部を真っ二つにする。
「ぅくっ。やはり、脳を斬り離しても動くようですね」
 強酸を吸い込み、内臓がやられないように、両腕で顔を覆い隠す。
 シュルルルッ。
 クリスを捕らえようとヒューマノイド・ドールが触手をぐねぐねと伸ばす。
「冷気で酸は防げたけど、・・・間に合わないっ」
 シャンデリアから落ちる彼女を助けようとするが、綺人の刃では届かず悔しそうにギリッと歯を噛み締める。
「手元が狂ったら、終わりな距離だな・・・」
 棘のような触手がクリスに届く寸前、ユーリが凍てつく炎を放ち、冷気で凍結させて封じ火炎の礫を叩き込み粉砕する。
 ドサッ。
「―・・・っ。すみません、アヤ」
 床へ落ちそうな身体を綺人にキャッチしてもらう。
「腕にちょっと怪我しちゃってるね。でも、酷い傷を負ってなくてよかったよ」
 両腕の中に納まっているクリスの顔を見つめ、少しミスしても無事ならそれでいいと彼女に微笑みかける。
「あの・・・、アヤ。もう大丈夫ですから、おろしてください」
「え?あ、うん。そうだね」
 恥ずかしそうに顔を赤らめるクリスを床にゆっくりとおろしてやる。
「クリス、傷をみせてください」
「ありがとう、瀬織」
 酸の焼けどをヒールでキレイに治療してもらったおかげで、傷痕が残らず完治した。
「これで3体目か?追い出したそれは外で食い止めてもらっているが・・・。全部片付いたわけでもなさそうだ・・・」
「はい・・・。早く探して片付けましょう」
 ユーリに頷いたクリスが、1階のフロア内にゴーストがまだ潜んでいないか探しに行く。
「2階にはまだ侵入されてないみたいですよ」
 階段の上にいる瀬織が人差し指と親指で丸印を作り、下の階にいるユーリたちに教える。
「僕もその辺を見回りしてくるね」
「なるべく離れないようにしてくれ。禁猟区で綺人たちに危険が迫っても・・・、駆けつけられるかどうか分からなくなるからな」
「うん、分かった。気をつけるよ」
 2人が見回りに行った後、どこからかじっとりとした嫌な気配が漂う。
「何でしょうかこの気配・・・」
「ゴーストの気配か?」
「えぇ、おそらく・・・。疎まれ・・・憎まれているような、・・・殺意しかない・・・。そんな気配です・・・」
 やっぱりまだいるのかとユーリに聞かれた瀬織が静かに頷く。
「あれ?こっちは、台所ですよね。ゴーストが狙うような相手って、そこにいましたっけ?」
「確か・・・北都がお茶を入れに行っているはずだ。数はどれくらいだ・・・?」
「えっと・・・、ちょっと待っていてください。―・・・うーん、今のところ分かる気配は1体だけですね」
 彼にゴーストの数を聞かれ、ディテクトエビルの探知で確認する。
「急いで北都さんに知らせてあげましょう!」
「待て瀬織。オレたちが大広間を離れたら、2階へ侵入されてしまうかもしれない・・・」
「そんな・・・ユーリさんっ。危険が迫っているのに、知らん顔するつもりですか!?」
「彼なら相手の動向を冷静に判断出来るだろう?1体くらい、1人で倒せるはずだ。―・・・そろそろ綺人たちのところへ戻らないとな」
「はい・・・。(無事だといいんですけど・・・)」
 瀬織はしぶしぶ頷き、ユーリと共に2人の元へ戻っていった。


 
 ゴーストが台所へ襲撃する数分前、亡者たちに紛れて泡とドッペルゲンガーのオメガが館へ侵入する。
 本物のオメガのいる部屋を探し、鍵のかかったドアを破るように無理やり開ける。
「何だ泡、無理やり入ってきて!びっくりするじゃないかっ」
 物音に驚いた昶がビクッと驚いて立ち上がる。
「―・・・って、傍にいるのはドッベルゲンガーか!?どういうことだ・・・。事と次第によっちゃ、容赦しないからな!」
 獣人の姿に変身し、うぅぅう・・・っと低く唸り声を上げる。
「(すでに生徒が傍にいるなんて思わなかったわね)」
 オメガに伝えたいことがあるのだが、その前にいきなり生徒に見つかってしまった。
 彼の後ろへ隠れるようにいる彼女に近づこうと、バーストダッシュでさっと傍へ寄る。
「あなたを元に戻すための考えられる一番良い方法を見つけたの・・・お願い、私を信じて」
 彼女の華奢な身体を抱き締め、もう魂を取られる心配はないと伝える。
「いやっ、離して!いやぁああ!!」
 泡の気持ちを分かりきれなかったのか、怯えきったオメガが悲鳴を上げる。
「この、離しやがれっ」
 ドッ。
 オメガの身体を抱える泡の手を引き離し、それ以上触れるなという態度で昶が突き飛ばす。
「―・・・そいつを目の前に連れてくるだけで、恐怖心を与えちまうことくらい、分かってるだろ!?本物のオメガとも友達みたいだからな。大人しく去るなら、今回だけは簡便してやるよ」
 今にも殴りかかりそうなほど怒りをつのらせ、彼女たちをギラリと睨みつける。
「ここで無駄に争う気はないわ・・・。嫌な思いをさせてしまったなら、・・・ごめんなさい」
 ドッペルゲンガーを連れてきてしまったことで恐怖心を与えてしまったかと泡は俯いて謝り、彼女を連れて部屋から去っていった。



 お茶の用意をしようと、北都はティースプーンで茶葉を救い、サラサラッ・・・と3杯分ポットに入れる。
 95度に温めたお湯をポットにコポポ・・・と注ぐ。
「熱すぎても、美味しくないからね」
 ティーセットを銀のトレイに乗せ、オメガが待つ部屋へ向かう。
「―・・・やだな。余分なお茶は用意してないんだよね」
 超感覚の嗅覚で鼻をつくような死臭を嗅ぎ、トレイを片手で持ちながらぴたりと足を止めた。
「2階の部屋で禁猟区が反応してるし・・・。あまり、時間はかけたくないんだけどさ」
 スッと飛び退き、天井を這うキラーパペットの手から逃れる。
 コトンッ、とラックの上にトレイを置き、エレキギターを弾き鳴らす。
 ギャギャギャギィイイィイッ。
 亡者は撃ち落とそうと迫る雷をかわし、北都の首筋へ手を伸ばす。
「しつこいね。出直してきてよ」
 サイコキネシスの念力で生者を疎む両手をベキッとへし折る。
「確か、再生しないんだっけ?追っかけてこられると、お茶が渋くなりそうだから。―・・・お行儀の悪いお客様はここで、ご退場してもらわないとねっ」
 首を捻り折るような念力を発し、雷で頭部を破壊し破裂させる。
「いけない、もうこんなに時間が経っちゃったよ。早く運ばなきゃ」
 身なりを整えた北都は何事もなかったかのようにトレイを抱えて、床に飛び散った破片を避け、2階の部屋へ向かう。
「(何しに来たのかな。よくないことが起こってなければいいんだけど)」
 すれ違い様に外へ出ようと走る泡ともう1人のオメガを見たが、気になりながらも急いでお茶を運ぼうと階段を上っていく。
「なるほどね、こういうことだったんだ」
 壊れたドアノブを見て、おそらく泡かドッペルゲンガーの仕業だろうと、ふぅと息をつく。
 禁猟区の反応の原因は魂を奪われるかもれない恐怖心からだろう。
 昶が傍にいなかったら、また吸収されてしまっていたかもしれない。
 部屋にいる2人へ視線を移すと、怯えるオメガを宥めようと昶は狼の姿になっている。
「お待たせ。温かいうちにどうぞ」
 気分を落ちかせてあげようと北都は何も聞かず、ティーポットのフレーバードティーをカップに注いでオメガに差し出す。
「何か怖い夢でも見たのかな?大丈夫・・・、このお茶は現実でしか味わえないお茶だからね」
 もう人の自分が部屋の中に現れたのは、ただの怖い夢だったんだよ・・・と思わせるように、受け取ろうとしない彼女に優しい声音で話しかける。
 今、ここにあるのが現実だから大丈夫・・・、と甘酸っぱい香りのお茶を勧める。
「ありがとうざいます・・・。―・・・いい香り」
 彼の手からカップを受け取り、爽やかなアップルティーの香りを楽しむ。
「(少しは落ち着いたのかな?)」
 カップに口をつけ、怯えて凍えてしまいそうになった心を温める彼女の姿を眺め、ほっと息をついた。