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WahnsinnigWelt…行く手を阻み拐かす森

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WahnsinnigWelt…行く手を阻み拐かす森

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第7章 葛藤の先

「結構を奥まで進んだか?ほとんどマッピング出来なかったが、多少でも帰り道を迷わず戻るには、ないよりかはましだな」
 すでに要領がいっぱいになってしまっている銃型HCを、瓜生 コウ(うりゅう・こう)はカバンにしまい込んだ。
「エース〜っ」
 クマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)はくいくいっとエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)の袖を引き、ぐぅ〜とせつなそうなお腹の音を鳴らす。
「ん?あぁ、だいぶ歩いたからな」
 銀紙をぴりっと剥がし、チョコバーをクマラの口に放り込んでやる。
「美味しい〜♪」
 甘いチョコをもぐもぐと満足そうに食べる。
「疲れているんじゃないか?少しSPを回復してやろう」
 いつでも動けるようにコウが、クマラにSPリチャージをかけてやる。
「ありがとうっ!」
「この中で唯一、敵に顔を知られていないからな。怪しまれず、潜入出来るのはクマラくらいだろう」
「そうね。ルカたちだと変装しても、すぐディテクトエビルでバレちゃうもの。焦らず機会を待ったほうがいいわ」
 研究所につけたことを仮定し、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は外で攻める時期を狙おうと提案する。
「ふむ・・・。あまり大人数で研究所の中に潜伏するのは、やはり危険か」

 夏侯 淵(かこう・えん)もなるほどと頷く。
「向こうには協力者もいるみたいだし。慎重にならなきゃね」
「想定外のことも起こりうる、と頭の中に入れて動かないとな」
 妨害された時のことも考えておこうと、コウがルカルカたちに顔を向ける。
「十天君ってあと4人よね?向こうもかなり警戒しちゃってるかもだし」
「敵は十天君や唆された魔女たちだけじゃないってことは、もう分かっているよな?」
「えぇ・・・」
「さっきクマラなら潜入しやすいといったが。そのままの格好ではばれてしまうかもな」
「どうして?」
「他の十天君に遭遇しているだろ?その時に顔を知られているなら。向こうにも知られている可能性があるんだ」
 不思議そうな顔をして首を傾げるクマラにコウが説明する。
「これだけ俺たちがやつらの邪魔をしてやっているなら。敵視している者としてのリストがあっても不思議じゃないしな」
 エースは軽く頷きカオが知れている連中が、無策に近寄ると逃げられてしまうというふうに言う。
「まぁ、そういうことだ。逃すわけにはいかないしな」
 当然、警戒されているだろうとコウが頷き返す。
「―・・・ルカ、やはり心配か?」
「うん?」
「オメガ殿のことだ」
「―・・・うん」
 淵に聞かれたルカルカは静かに返事を返した。
「館にいるオメガちゃん、今どうしてるかな・・・てね。でも・・・、ドッペルのオメガちゃんのことも・・・ね」
「やはりそうか・・・。そっちは唯斗殿たちが何か考えているようだ。仮初の城で作った試作品を完成させる必要があるみたいだな」
「何か必要なものを聞いて、クマラに探してもらうのがいいのかな。お願い出来る?」
「うん。教えてもらえればね」
「ありがとう♪えっと、あと話の中で生命に関する知識を持ってる十天君の知恵もいるんだっけ?」
「んー・・・ハツネたちがくっついてるかもしれないし。聞きだすとなると難しいね」
 どうしたらいいものかとクマラがムゥ〜と唸る。
「そうよね・・・。う〜ん・・・頼みを聞いてくれるとしても、絶対条件だしてくるはずよ。それもろくでもないことの協力の・・・ね。ドッペルのオメガちゃんが闇世界に戻らなくていいようにしてあげたい気持ちは本物よ?だけどね・・・他を犠牲にして幸せになるのって、なんかちょっと違う気がするの。その十天君の他に協力してくれそうな人がいるといいんだけど」
「ドッペルゲンガーのオメガ殿が知っているのは、十天君だけのようだが。もしかしたら研究所にいる者の中にいるかもしれん」
「金光聖母を討つのは待つということか?」
 ルカルカたちの話を黙って聞いていたコウが眉を潜める。
「十天君以外に知識がある者がいなかったらね。どうしてもドッペルのオメガちゃんを助けてあげたいの」
「―・・・・・・他の者の考えもあるからな。すまないが了解は出来ない」
「そうよね・・・」
「他の者を止めることは出来ないが。俺は待ってやる・・・」
「いいの?」
「状況に応じて・・・だけどな。いくら死体といえど、材料扱いするのは少々気に入らない。それ以上の領域に踏み込んだのを見たら、その時は・・・分かっているな?」
「うん・・・分かったわ。(オメガちゃんのためだもの。早く魂を返してもらわなきゃいけないし。手段を選んでる暇なんてないわよね・・・)」
 振り向かず言う彼女に廃病棟でのことを思い出し、そんな者の協力をしてもらないといけないかもしれないのかと、心の中で葛藤する。



「(何だかオバケが出そう・・・)」
 夜のように薄暗い不気味な森をキョロキョロと見て、クマラはぶるぶるっと身を振るわせる。
 バサササッ。
「うわぁあ!?」
「ただのカラスだ、クマラ」
 エースは怖がる少年の頭に手を乗せ、ぐりぐりと撫でる。
 バッカァア!
「う、うるさいよ!ちょっと驚いただけだよっ」
 バッカァ、バッカァア!
「おおおオバケなんて、こっ怖くないんだからねっ」
 怯える少年を見下ろしバカにするカラスに向かって怒鳴る。
「ん・・・何この匂いっ。いい匂い〜・・・。なっ、何か嫌な感じがする」
 香りにつられてフラフラと歩くと、身の危険が迫っているとイナンナの加護が反応する。
「幻影が現れるかもしれないぞ」
「何が現れても惑われないよう、常に平静を保つんだ」
 コウの声に淵が仲間に回りを警戒するように呼びかける。
「霧の向こうにいるのって団長・・・?どうしてここに・・・」
「ルカルカ、何をもたついている?常に、迅速に行動し、任務を遂行しなければならないというのに」
「で、でも・・・あまり急いでも敵を刺激してしまうと、目的を果たせなくなってしまいます!」
「口答えをする気か?」
「いっ、いえ。そんなつもりは・・・」
「敵を抹殺することだけを考えろ。他のことなど考える必要はない!」
「それじゃオメガちゃんがっ」
「命令に背く気か?教導団の者として失格だな」
「―・・・そ、そんなぁあっ。団長ー!!」
「ルカ、何と話している?おい、しっかりするんだっ」
 ぼろぼろと涙を流すルカルカの肩を淵が揺する。
「うぅう・・・。淵・・・?―・・・淵ーーーっ、うわぁあん。ルカにはオメガちゃんを諦めるなんて出来ないよーっ」
「はっ・・・?何を言っている?ルカ。俺からは見えなかったが、幻影でも見せられたのようだな」
 地面にぺたんと座り込むルカルカの頭を撫でて慰めてやる。
「ひぁああっ。オバケが・・・・・・っ」
「ほら、クマラ」
「はむっ・・・うぅ怖かった」
 エースにチョコバーを口に突っ込まれたクマラの目の前から死霊の幻影が消え去る。
「―・・・くっ。耐えている者がいるというのに。俺が幻影なんかに惑わされるわけにはっ」
 コウは両手で頭を抱えて必死に幻影を振り払う。
「(あれは・・・・・・。―・・・っ、頼む・・・消えろ、消えてくれ・・・っ)」
 冥府の瘴気を纏っても幻影は消えず、彼女へ近づいてくる。
「しっかりするんだ、コウ殿!」
「淵・・・。もう・・・大丈夫だ」
 彼の呼びかけのおかげで実体化しそうになった者の幻影が消え去った。
「(この森にいる限り、また現れるだろうな・・・)」
 幻影を見えたところをちらりと見て、仲間たちの元へ戻っていった。