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WahnsinnigWelt…行く手を阻み拐かす森

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WahnsinnigWelt…行く手を阻み拐かす森

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第4章 乗り越えたい・・・己のトラウマ story2

「待ってるより、こっちからぶっ倒しに行ってやるぜ!」
 ゴーストどもが館へ着く前に倒してやろうと、武は嬉々としてイルミンスールの森へ入り込む。
「ここら辺、探してりゃー見つかるか?」
 出口付近をうろつき探し回ること30分・・・。
「ちっ、見つからねぇな」
 まだ館に向かっている途中かと思い、ズンズンと進んでいく。
 探し歩き続け、―・・・さらに1時間経過。
「ぜんぜんいねぇじゃねーかっ。はぁ〜仕方ねぇ、館に戻るか」
 結局1体も見つけられず、つまらなそうに嘆息する。
「って、どうやって帰るんだ?」
 どこから来たのか、辺りをキョロキョロと見回すものの、同じような景色ばかりでまったく分からない。
「うわあぁあああっ。か・ん・ぜ・ん・に、迷ったぁああぁあああーーー!!」
 帰り道が分からなくなった武が両手で頭を抱え、絶叫したとたんに何かが逃げるような足音が聞こえた。
 サササッ。
「ゴーストか・・・?殺気がねぇようだが」
 殺気看破で気配を探すが、殺意といってものが感じられない。
「それにこの甘い匂い・・・何だ?ゴーストの匂いっていうわけじゃなさそうだな。いろんなとこから匂ってんな、だとすると森の植物からか?」
 隠れるように蠢く者からかと思ったが、そこら中から砂糖菓子のような甘ったるい香りが漂っている。
「影・・・?人の形みてぇだが。殺気がまったくねぇ、ゴーストじゃなさそうだな。あいつなら出口を知っているかもな。おーい、森の外に出る方向、知らねぇかー?」
 帰り道を教えてもらおうと声をかけてみるが、人影はふるふると首を左右に振り、小さな声音でぼそぼそっと喋る。
「聞こえねぇよ、もうちょっと大きい声で言えよ!ていうか道知らねぇのか、まいったぜこりゃ・・・。あ、もしかしてお前も道に迷ったのか?だったら、俺と一緒に出口を探そうぜ!独りで探すよりマシだろ?」
 武が人影へ近寄ろうとすると、ブツブツと低く呻くような奇妙な声音で喋り始める。
「お、人間か?たっく、そんなちーせー声じゃ聞こえねぇよ。遭難して滅入るのも分かるが、そんなんじゃ出口を見つける前に倒れちまうぞ?明るく元気に行こうぜ、なぁ?」
 ポンッと軽く彼の肩を叩いたとたん、ズッと滑るように取れてしまった。
「いやっ、その・・・俺はちょっと叩いただけで・・・。―・・・んなっ!?」
 ボトンッ。
 武が触れた彼の片腕が地面に落ちる。
 その断面は誰かに引き千切られたような感じだ。
「まったく力入れてなかったはずだぜ?それに・・・今は変身してねぇ・・・はずだよな!?」
 どうして軽く触れただけで重症を負わせてしまったのか。
 それとも気づかないついにすでに変身し、力を制御出来ず傷つけたのか。
 両手で顔に触れ、格好が変わっていないか慌てて見てみるが、パラミアントの姿になっていない。
「何だ・・・どういうことだ、これ・・・っ。ち、違う・・・俺は・・・・・・っ」
 片からボタ・・・ッ、パタタッと血を垂れ流す相手から目を逸らしそうになる。
「ぁああぁあっ」
 相手は喉の奥底から掠れた呻き声を発し、片腕の断面をギュッと掴んだ。
 真っ赤な血が塊のようにボタッと落ちる。
「お、おまえ・・・。何年も前に死んだはずじゃ・・・」
 鏖殺寺院に改造手術を受けた武が脱出しとようとした時、変身能力を制御しきれず・・・何も力を持たないただの研究者を殺してしまった。
 警報が鳴り響く中、悲鳴を上げて逃げ惑うその者たちは、獣に食い千切られたように肉片となるまで引き裂かれた。
「くぁっ!?」
 地面に落ちている腕が突然、まるで爆発したかのように飛び散り、それは彼が過去に引き裂いた形となった。
 武の顔にもベチャッと血が飛び散った。
 片手で拭った血はまだ温かく、ぬちゃっとしている。
「―・・・ぁあっ。・・・る・・・・・・しぃ。く・・・るし・・・ぃいっ。ど・・・うして、・・・殺し・・・た?」
「(違う・・・違うんだ・・・!)」
 目の前にある者が実体となって現れ、過去の惨劇を見せつけられた武は混乱のあまり、それから目を背けるように森の中を逃げ回る。
「どうし・・・てっ、こんな姿に・・・・・・」
 逃げる武の足元へドタンッと落ちたかと思うと、身体を破裂させ彼が殺した姿に成り果てた。
 “お前が殺した、お前が殺した。どうしてこんな無残な姿にしたんだ?死ね・・・お前も死ね・・・。”
 研究者たちは口々に呪いをかけるかのように呟き、彼の目の前で死体と化す。
「違う、違う違う!殺したくて殺したんじゃないんだっ。やめろ、やめてくれ・・・っ」
 まるで許しを請うように言いながら走り続けていると、いつの間にか森を抜け出し館の前へ戻っていた。
「だっ、大丈夫!?何か、凄い汗だけど・・・。とりあえず、怪我はしてないみたいだね?(顔とかに血がついているみたいだけど、ゴーストのものじゃなさそうだね・・・。イルミンスールの森の中で、いったい何があったのかな。でも、今は聞かない方がよさそうだね)」
 武に気づいた綺人は館の中へ連れて行く。
 鮮血を浴びた彼の身に何が起きたのか聞きたそうな顔をするが、息をぜぇぜぇときらせ疲労している様子を見て聞かないでおいた。
「あぁ、大丈夫だ。悪いな、少しだけ休ませてもらうぜ」
 何とか喋ることは出来るものの、研究者たちの呪いがかかったかのように数時間経つまで、武はまともに動くことが出来なかった。



「まさかこの森の中に、十天君の研究所があるとはな・・・」
 何度かイルミンスールの森に来たことはあったグレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)たちも、森の奥の方までは行ったことがなかった。
「土地勘がある者でさえ・・・、危険な場所のようだな。さっきから同じような光景ばかりで、気をつけないと迷ってしまいそうだ・・・」
 迷い込んだら無事に出られるか、分からない領域だからこそ、見つけられなかったのだ。
「灯台下暗し・・・と言いたいところですけど。目印を残さず行き来するのには、とてもリスクの高い場所ですね・・・」
 道を知っていても少しでも間違えたら、森で彷徨ってしまうのではと思い、ソニア・アディール(そにあ・あでぃーる)は眉を潜める。
「何年も使ってるなら、それなりに道を知っているんじゃないか?」
 多い茂る雑草の中に埋もれるように、李 ナタは鬱陶しそうに掻き分け進みながら言う。
「―・・・さすがにこれだけでは、道順を記憶しきれないか・・・」
 銃型HCの記憶容量はすでにオーバーし、マッピングしきれなかった。
「そんなに甘い場所なら、誰も迷わないと思うぜ。だからそこに研究所を作ったんだろ?」
「なるほどな・・・それもそうか・・・。―・・・何でも物に頼るようではいけない、ということだな・・・」
 ナタクに言われたグレンは、彼女たちのことを甘くみていたかというふうに頷く。
「場所を知られたとしても、そう易々と逃げられないように考えているんじゃないか」
 “あいつらがいかにも選びそうな場所だろ?”というふうにナタクが言い、代わり映えしない景色を眺める。
「情報拡散の防止・・・つまり、その者を捕まえて逃がさないためなんでしょうね」
 何のために行き来が不便な場所に研究所があるのかソニアも理解する。
「逃げているうちに、十天君に見つかる確率の方が高いってわけだ。もしも仲間と逸れたりしたら最悪なとこだ。まぁ、俺たちはそんなことにはならないと思う・・・けど。って、言ってる傍からいねぇし!」
 今まで前を歩いていたはずの2人と逸れてしまった。
「まさかどっかにトラップで仕掛けてあるのか!?」
 彼よりも背の高い雑草をぶちぶちと千切り、トラップにかかったんじゃないかと探す。
「特に何もねぇか・・・。てことは、完全に逸れたってことか?どうすっかな、無闇に探してるとこっちが道に迷いそうだし。このまま研究所を探していれば、そのうち合流・・・出来るはずだよな。無駄に体力を消耗するより、グレンたちもそうするだろうし」
 疲れきった身体でたどり着いても、いざという時に動けなくなってしまうと思い、彼らを探さず進むことにした。
「―・・・それに、あいつもいるかもしれないしな」
 そこに思い人がいるなら、一刻も早く研究所を見つけなくてはと必死に探し歩く。
「何かうまそうな匂いがするな・・・。おっ、そこに誰かいるのか?」
 甘い香りが漂ってきたかと思うと、木々の陰から何者かが彼をじっと見つめている。
「―・・・結構背が高そうなやつだな。もしかしてグレンか?おーい、こっちだ!早く来いよーっ」
 背の高い人影に大きく手を振り、大声で呼びかける。
「おい、どうして来ねーんだよ?―・・・・・・っ!?」
 人影の傍へ駆け寄ったその時、奇妙な光景を目にし絶句する。
「―・・・おっ俺!?ドッペルゲンガーの森でもねーのに、何でこんなところに!」
 本物の彼より背の高いナタクの幻影を見上げる。
「(それにしても高身長の俺、なかなかいいじゃねぇか)」
 スラッと伸びた背丈の彼をじっと見つめる。
「あー、そこにいたのか。ちーさすぎて、よく見えなかったぜ」
「人が一番気にしていることを・・・っ。よくも言いやがったな!俺のくせにムカツクぜっ」
 身長180cm以上の幻影に見下ろされ、顔にビキッと青筋を立てる。
「なぁー、お前もそう思うだろ?」
 幻影がそう言うと彼の後ろから思い人そっくりの女が現れた。
「と・・・・・・董天君!?どうしてそんなやつと一緒にいるんだ!!?なんつーかあいつって、俺なんだよな・・・」
「ちーせぇのがなんかごちゃごちゃ言ってるみたいだな?お前みたいなチビに、董天君みたいなイイ女とは不釣合いだぜ。しかも女より背が低いっていう時点で終わってんな」
「うっうるせぇえっ!フンッ、董天君は慎重差なんて細かいこと気にしするやつじゃないっ。そう・・・だよな?なぁ、おい・・・どこいくんだ!?」
 幻影の董天君に見下ろされてふぅとため息までつかれてしまい、無言で去っていく彼女を必死に呼び止めようとする。
「あはは!ちーさい男はキライなのかもな?」
「フ・・・フフ・・・上等だ・・・ぶっ殺す!」
 皮膚を龍鱗化させたナタクは、紅蓮の槍の刃に火術の炎を纏わせ、自分の幻影の腹を貫こうとする。
 カキィイイッ。

 ナタクと同じく硬質化させた彼の皮膚が貫けず、幻影は小ばかにしたようにニヤッと笑う。
「これで終わりなわけねぇだろっ。くたばりやがれぇええ!」
 シュボォオオッ。
 ヒロイックアサルトでターゲットの腹を貫き、そのまま刃に火術の紅の炎を纏わせ中から燃やし尽くす。
「この俺を怒らせた罰だ、せいぜい苦しみなっ」
 燃えながら崩れ落ちた相手は土に溶けるように消え失せていった。
 ナタクが幻影の自分を葬った後、今度はグレンに実体のあるそれを見せられ始めている。
「―・・・・・・これは森の香りか?」
 妙に甘ったるい匂いに顔を顰めて周囲を警戒する。
 突然、どこからか“ウギャァアアァアッ!!”と悲鳴が聞こえ、辺りを見回す。
 耳を澄ますと今度は銃声と共に人々が泣き叫ぶ声が聞こえてきた。
 “助けて!”と声を上げて若い女がグレンの後ろに隠れる。
「そこを退いてくれ・・・。退かないなら・・・お前も殺す・・・・・・」
 幼い頃のグレンの姿をした少年は冷淡な口調で言い、彼を見上げて銃を向ける。
 ただ命令に従って殺していた頃の幼い彼自身の幻影だ。
「なぜ殺す必要がある・・・?こいつが、お前に何かしたのか・・・?―・・・・・・そうじゃないだろ」
「俺は・・・命令に従って殺すだけ・・・。それのどこがいけないというんだ・・・?お前自身・・・散々やってきたことを、今更・・・否定するというのか・・・?俺が思い出させてやろう・・・」
「どこへいった・・・?」
 幽霊のように幻影の姿が突然消え、辺りを見回して探す。
「―・・・・・・っ!?」
「ここだ・・・」
 グレンの後ろにフッと現れ、怯えている女の心臓をナイフで刺し殺した。
「どうして殺した・・・っ」
「俺はただ・・・・・・命令に従っただけだ」
 暗い“殺人者”の瞳の色をした、ソニアに出会う前の彼は繰言のように呟く。
「今思えば・・・本当に、取り返しのつかない愚かなことをしていた・・・。生きている者を勝手に殺すなど・・・、それが神ですら傲慢だと思うな・・・」
「何もかも生かし・・・それでお前自身が死ぬことになっても・・・・・・。そんなことが言えるか・・・?」
「―・・・!・・・・・・俺は・・・もう、あの時の俺とは・・・違う・・・!」
 戸惑いの色を浮かべながらも、実体のない幻影を撃ち抜き消し去る。
「早くソニアたちを探してやらないとな・・・」
 彼が2人を探している頃、ソニアは不気味にざわつく森の中で心細そうに辺りを見回す。
「美味しそうな香りがしてきましたけど・・・何だか妙ですね。果物や木の実なんて見当たりませんし。それに、なんだか・・・嫌な雰囲気がします・・・」
 森の中を風が駆け抜け、人の泣き声のような音を立てる。
 雲で日差しを遮られ、木々の間から差し込む僅かな日の光がなくなり視界が悪くなる。
「この胸騒ぎ・・・、前にも経験したような気がしますけど・・・。でも・・・、なんだか思い出さない方がいい気も・・・」
 思い出せそうで思い出せず、それが忘れしまった方がいいものかもと思うと、か弱い小動物のように震える。
「―・・・誰かそこいるんですか?グレン・・・?それともナタクさん・・・?」
 ザザザァアッ。
 何者かが手入れのされていない獣道を駆け抜ける。
 しかし、人影は何も答えずソニアに姿を見せず、木々の間を駆け回る。
「ふざけるほど余裕のある場所ではありませんから、2人じゃないみたいですね」
 鬼払いの弓の弦をギリリッと引き、人影の方へ向ける。
 ヒュッ・・・、トスッ。
 ソニアが放った矢は人影に避けられ土に刺さった。
「フフフッ・・・どこを狙っているんです?それじゃあまた捨てられてしまいますよ」
 彼女そっくりの幻影が現れ、クスクスと冷笑される。
「わ・・・私!?」
 もう1人の自分を見たソニアは驚きのあまり目を丸くする。
「森の中といっても、闇世界じゃありませんからね。だとすると、この香りが私に見せているんでしょうか・・・」
 ふるふると首を振り、いつもの冷静さを取り戻す。
 ここにそんなものがいるはずない、ただの幻影だとすぐに理解した。
「フッ・・・フフフッ、私は機晶姫・・・。好きな人とは結ばれない哀れな女。だって・・・機械の身体なんですから」
 本物のソニアが一番逃れたい現実のことを可笑しそうに言う。
「―・・・その口、喋られないようにしてやります!」
 冷静さを保ちながらも動揺の色はやはり隠せず、声が聞こえないところまで距離を取ろうと、加速ブースターで彼女から離れる。
「私の前から・・・消えなさい!!」
 自分の幻影に向かって無数の矢の雨を降らす。
 シュパパパパパッ。
 矢をくらった幻影の身体は破損しスクラップと化した。
 たとえ幻影であっても、自分自身の成れの果ての姿・・・。
「どこへ行くのですか?」
 目を背けようとするソニアの目の前に、またもや幻影が現れる。
「ほら・・・はっきり見なさい。あれは、あなたと同じものなんですよ?」
「―・・・・・・いやです。見たくありません!きゃぁあ!?」
 いやいやするように首を左右に振り、逃げようとするともう1体の幻影が現れ、逃げ場を失ってしまう。
「現実から目を背けてはいけませんよ?さぁ〜、ごらんなさい。フフフッ」
 ソニアの頭を掴みスクラップとなった幻影へ顔を向けさせる。
「やめて・・・いや、・・・いやっ」
「あらあら、泣きそうな顔になっても泣けないんですね」
「仕方ありませんよ。だって・・・機晶姫なんですから。所詮は機械の身体・・・。仮に泣けたとしても、人のものとは違う涙・・・」
「それってもしかしてオイルか何かですか?分析してデータを見せれば、人と違うってもっと分からせてあげられるかもしれませんね」
 彼女に機晶姫という現実を見せつけながら、2人の幻影が可笑しそうに話す。
「もっとよく見なさい。今度壊れたら、好きな人でさえ拾ってくれず・・・。どんな末路をたどるか・・・」
「そ・・・そんなはずありません!たとえ・・・また傷ついても、きっとまた・・・グレンが助けてくれるはずです!」
 2人に捕まったままのソニアは顔を背けることが出来ず、立っていることさえ出来なくなり、見たくない幻影を見せられ続けてしまう。
 幻影となって現れたパラミタの住人が、壊れたソニアの幻影を回収してゴミ袋へ放り込んで乱暴に引きずり、森の奥へと消え去った。
「夢見がちなお姫様のような言葉ですね?現実を見たくないあまり、夢ばかり見ている哀れな女の子♪」
「も・・・もう見たくありません・・・いやです。いや・・・いやっ・・・・・・いやぁああーーー!!」
 ソニアの悲痛な声を聞きつけたグレンが幻影の頭部を撃ち抜き消し去る。
「実体のないものだったようだな・・・。逃げようと思えば逃げられたぞ・・・」
「今のは・・・ライトブリンガーですか?―・・・っ」
 幻影が消え去り安心したのか、立ち上がろうとしたとたんソニアはトサッと地面に尻餅をつく。
「ソニア・・・無事でよかった・・・」
 戦意を喪失しきったソニアの元へ駆け寄り、彼女の細身の身体を力強く抱きしめた。
「―・・・ありがとう・・・。グレン・・・」
 彼に抱き締められ、ほんの一時だけ自分がどんな存在の者なのかトラウマを忘れ去った。
「・・・いつまで乳繰り合ってんだ2人とも・・・」
 彼女を抱き締め・・・、彼に抱き締められている彼女をナタクが見下ろす。
「―・・・・・・っ!」
 ナタクの視線に気づいたグレンは慌ててソニアから手を離し、彼女から視線を逸らす。
「・・・よ・・・余計な時間を喰ったな。・・・は、早く研究所を見つけないとな・・・」
「ふぅん、・・・余計な時間・・・か」
「―・・・・・・。(どうしましょう・・・、胸の高鳴りがおさまりませんっ。グレンに聞こえてしまうかも・・・)」
 ポツリと言うナタクの言葉にソニアは顔を赤面させて顔を俯かせた。



「あれ、ここ・・・。さっきも通った道よね?どうしよう・・・どこから来たか、全然分からないわ・・・」
 イルミンスールの森の中に迷い込んだアリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)は、雑草が多い茂る獣道を歩き、必死に出口を探し歩く。
「誰にも連絡出来ないし・・・。こんなところで遭難なんかいやよ!―・・・何、この香り・・・。果物でもあるのかしら?」
 散々歩き回ったせいか喉もカラカラで、水の変わりにならないか探す。
「さっきからいい香りがするだけで何もないわ・・・」
 甘い香りをたどっていくもののまったく見つけられず、蜃気楼の向こうにあるオアシスを探し求めているのと同じような感覚だ。
「―・・・な、何!?」
 ガササァッ。
 草を掻き分ける音が聞こえ、森に住まう腹を空かした獣でも現れたのかと身構える。
「あ、貴方たちは・・・・・・」
 男どもの卑劣なトラップにかかり、自分を屈辱的な目に遭わせた者たちの幻覚が現れ、恐怖のあまり動けなくなってしまう。
 しかし陵辱されたのは過去のこと・・・。
 どうして彼らがこんな場所にいるのか分からず、頭の中では早く逃げなければと思っているのだが、体が凍結したように動けない。
 アリアで遊んでやろうと男どもが彼女に近づく。
「いや・・・・・・。来ないで・・・・・・いやあああああああ!」
 森の植物の香りに幻覚を見せられていることとは知らずに悲鳴を上げる。
 彼らは逃げようとするアリアを取り囲み、木に磔て服をびりびりに剥ぎ取る。
「誰かっ、誰か助けてぇええ!!」
 過去以上に辱められ、助けに来る者などいない森の奥深くで泣き喚く。
「う、嘘でしょ・・・・・・そんな・・・・・・」
 自分を陵辱した者たちが現れて襲われる。
「いやっ、放して!・・・服にっ!?ぃや、ぁあああぁっ」
 黒々とした薄気味悪い触手にジュゥウウッと服を溶かされる。
「んぁあああ!!や、やめて・・・いつまで、続くの・・・・・・」
「ブタ女、いじめてやるよっ!」
 男の魔女たちは無数の嵐のフラワシに命じ、乱暴にアリアを弄ぶ。
「い、やぁああああ!」
 幻影のゴースト兵に鎖で腰が折れそうなほどギリギリと締めつけられる。
 ヒュ・・・ッ、バシィイッ。
 電流をバチチッと放つロープで身体中を打たれて拷問され、トラウマの幻影に襲われ苦しみもがき続ける。
 激痛のあまり気を失ったが、何者かに頬を殴られ目を覚ます。
 磔にされたままだが、他の幻影はいつの間にやら消え去っていた。
「独りでのこのことこんな場所に来るなんて。相変わらずマヌケだな、ブタ女」
「また幻覚・・・?今度はあなたたちなの?」
「寝言は寝て言え、ブタ女。オレらは幻覚なんかねぇよ。見回りに来たら偶然お前を見つけただけだ。前みたいにいじめてやるよっ」
 幻覚で弱りきっているアリアをいじめてやろうと、彼女の足をガンッと踏みつける。
「ククッ、お前を辱めてネットに流してやる。まぁ、ガキの身体なんか興味ねーけどな。暇つぶしに、なっ!」
「もう許して・・・・・・いやぁ・・・・・・いやあああああああああ!」
 現実に陵辱されながら、再び現れた幻覚に屈辱を受けて弄ばれる。
「さてと、面白い動画が撮れたな。お前って相変わらず汚らしい、ブタみたいな人間だな?タイトルは・・・そうだな、Sau menschでいいや」
「えっ・・・・・・?」
「マヌケにも分かるように、ゆっくり言ってやるよ・・・ザウメンシュ。つまり、メスブタ人間だ。じゃあな、ブタ女。動画の公開、楽しみに待ってろよ!はははっ」
「それって私が通っている学校の人も見られちゃうんじゃ・・・。待って、やめて・・・お願いだから・・・それだけはやめて・・・。いやぁああぁああ!!」
 自分の辱められた姿がネットにばら撒かれると知り、必死に止めようとするがボロボロに傷つけられた身体ではもう追いかけることは出来ない。
 パラミタ中に恥をさらしてしまうことになったアリアは森の中で独り孤独に泣き叫んだ。