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第三章 立ち込める熱気

 炎熱♯の入り口。そこから全員が覗き込む
「誰もいませんね」
 一番下から顔を出したのはセレンス・ウェスト(せれんす・うぇすと)。ホッとした表情で、部屋中を眺める。
「つまらねぇな。だから「物理p」「雷電ff」に行きたかったんだ」
 セレンスのパートナー、ウッド・ストーク(うっど・すとーく)が愚痴る。
「で、でも何が出てくるのか分からないから、面白そうじゃないですか」
 言い訳するセレンスをウッドは見下ろす。
「相変わらず怖がりだな」
「違いますー」
 セレンスは手にした箒で、ウッドの足をポカポカ叩く。
「はうっ!」
 ウッドが少し体をひねった瞬間、箒の柄が急所にヒットした。あまりの痛みにピョンピョン飛び跳ねる。
「ヒ、ヒールを……」
「そんなトコにかけるヒールはありません!」
 先に部屋に入った一同をセレンスは追っかけた。

「うーん、石だらけ」
 ミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)は部屋を見回した。床も壁も天井も、そして家具も石造りだった。手近のたんすが気になる。
「何か入ってるのかな?」
 軽く叩いてみるが、乾いた音がするだけで反応が無い。恐る恐る引き出しを引っ張る……が、引き出しひとつであっても、あまりに重くて動かない。 
「開けー、開いてー」
 両足を踏ん張って、思い切り力を入れる。
「開いた!」
 そう思った瞬間、自分で引っ張った引き出しが向かってくる。逃げる間もなくミーナは押しつぶされた。
「重いですー、誰か助けてくださーい」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)ニケ・グラウコーピス(にけ・ぐらうこーぴす)が、引き出しを両方から持ち上げる。
「ありがとうなのです」
 作られた隙間から這い出したミーナが頭を下げた。
「どういたしまして。でもあんまり無茶しちゃだめよ」
「うん、何が出てくるか分からないからね」
 ルカルカとニケが、ミーナの脇に手を入れると軽々と立ち上がらせる。ミーナは両腕に触れた柔らかなモノが気になった。2人を前にすると、壮観な盛り上がりが4つ目に入る。一方、視線を下に落とすと、すんなりお腹とつま先が見えた。
 ミーナはかわいいものが大好きだった。かわいい子を見ると頭を撫でたくなるし、自分も頭をナデナデされるのが好きだ。我ながら子供っぽいと思うものの、それは好みだから仕方ないと考えている。
 しかし年は15歳。そろそろ出るところが出てきても良いと思っている。思っている程に、実現はしていなかったが。
『触ってみたいって言ったら、怒られるかなぁ』
 ミーナの視線を察知したルカルカがミーナを抱き上げる。
「かわいい! ルカも昔はこんなだったよね!」
 力いっぱい抱きしめると、ミーナの顔がルカの谷間に埋もれる。
「私もこんな頃があったでしょうか。何千年前か分かりませんが」
 ニケはミーナの頭を撫でると、こちらも胸で挟み込む。
「ふわぁ、こんな世界があるんですねぇ」

 御凪 真人(みなぎ・まこと)セルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)は、部屋をすみずみまで調べていた。
「焼け跡があると思ったのですが……」
 部屋の隅を指でなぞった真人が立ち上がる。
「えーっと、焼け跡ってことは、炎の攻撃?」
「はい、炎に包まれる部屋で、熱さに耐える訓練とか。それなら燃えずに何度でも使えるように家具を石で造っている事の説明になると思います」
「熱を加えて、何かを壊せとかじゃないの?」
「その可能性もあるかもしれませんが、訓練施設ですからね。壊れてしまっては、何度も使うことができないですよ」
 真人の説明に、セルファも納得する。
「耐熱ならファイアプロテクトね。周囲に居る人達にも使っておこうかな。これで多少の高熱でも何とかなると思うけど、流石にこんがりバーベキューにされる趣味は無いわよ」
「俺のブリザードも役に立つかもしれません。もっとも当たって欲しくは無いですよ」

 同じようにマーゼン・クロッシュナー(まーぜん・くろっしゅなー)達も部屋と家具を調べていた。
「どこかにスイッチがあるはず」
 何らかのトラップや、炎熱属性の魔物が召還されるのではと考えたマーゼンは、手がかりとなるはずのスイッチを探す。マーゼンの考えを聞いたパートナーのアム・ブランド(あむ・ぶらんど)本能寺 飛鳥(ほんのうじ・あすか)早見 涼子(はやみ・りょうこ)も、手分けして部屋中を調べていた。
「何も見つかりませんわ」
 早見涼子がマーゼンに報告する。
イナンナの加護はどう?
「床が怪しそうなのですが、それ以上は何も……」と首を振った。
「床か……」
 考え込むマーゼンに、アム・ブランドが思い付きを述べる。
「床が持ち上がってくるとか」
 マーゼンは否定する。
「それだと炎熱♯の意味がありません。例えば……床から炎が噴き出してくるのなら……ありそうですが」
 4人は考え込む。マーゼンは再度隅々まで調べるよう3人に頼んだ。
「全くひでえことしやがるぜ。おっ、もう皆入ってるんだな」
 ようやく歩けるようになったウッド・ストーク(うっど・すとーく)が、最後に炎熱♯の部屋に入った。
「何か見つかったかい?」
 一番近くにいたマーゼン・クロッシュナー(まーぜん・くろっしゅなー)に話しかける。しかしマーゼンは「いや」と首を振る。そして「床に何かありそうなんだが」と火が噴き出す可能性を示した。
「床ねぇ……」
 ウッドは床を蹴る。石畳はびくともしない。
「訓練施設なんだろ、あまり過激なのは無いと思うぜ。訓練してて死んじゃあ困るからな」
 それを聞いたマーゼンは『なるほど』と思う。
「しかし……なんか熱かねぇか?」
 話しているマーゼンとウッドに、早見涼子が「床が熱くなっています」と報告してきた。マーゼンもそれを耳にした他のメンバーも、床に手を当てる。確かに温かくなっていた。
「床暖房、じゃねぇよな」
 かかとを床に打ち付けるウッドのところに、セレンスが駆け寄ってくる。
「ウッドー! さっきはごめんなさい。良かったら今からヒールを……」
「もう良いって、そんなトコ指差すなよ。俺が小さい子に変なことさせてるさせてるみたいじゃねえか」
 ウッドはマーゼンや早見涼子の目が気になった。
「なんなんですかー、小さい子ってー」
「それより床は大丈夫か?」
「私は箒がありますから……」
 セレンスは空飛ぶ箒にまたがった。宙に浮かべば、もちろん足はつかない。
「ウッドも乗ってください」
「とりあえず俺はここで良いや」
 ウッドは近くにあった石造りの家具の上に上がった。