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ご落胤騒動

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ご落胤騒動

リアクション

   十一

 六黒、冴王、ドライアの目の前が真っ赤になった。
「火事だ!」
「バーカ、【クロスファイア】かなんかだろ」
 冴王は機晶爆弾を放り投げた。更に爆発が起き、その場の酸素がなくなり火はあっという間に消えた。
「オレの目の前で火を使うのは百年早えッつーの」
「ふむ……。他は傷つけずわしらだけを狙うこの手際、見覚えがあるぞ……」
「三道六黒、東シャンバラ・ロイヤルガードの名に於いて、貴様を捕縛する」
 レーザーガトリングと「曙光銃エルドリッジ」を両手に持った早川 呼雪(はやかわ・こゆき)が消えた炎の向こうに立っていた。
「ムサいおっさんな上に中二病なんて、救いようないよねー。呼雪もほっとけばいいのに」
「気が進まないなら、ここは私と呼雪だけで構いませんよ」
「やらないとは言ってないじゃーん」
 ヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)は口を尖らせ、どう見ても年下の少女、ユニコルノ・ディセッテ(ゆにこるの・でぃせって)に言い返した。
「師匠、俺が先に行くぜっ!」
 ドライアは【龍鱗化】で防御力を上げ、更に蛇腹剣である「虚刀還襲斬星刀」を伸ばすと、それを衣のように身に纏った。そのまま弾丸のように突っ込んでいく。
「無鉄砲という言葉をご存知かしら?」
「早瀬神鳥」と「さざれ石の短刀」を両手に、ユニコルノが前に出た。【受太刀】で防ぎ、ドライアの頭部へ向け、二刀を振り下ろした。
 その直前、冴王が「魔銃モービッド・エンジェル」の引き金を引いた。【魔弾の射手】の効果で、四発が同時に発射される。しかしユニコルノに当たる直前、弾は僅かに逸れて彼女の頬を掠め、髪を千切って地面や木の幹を抉った。
「ッだと!?」
 ヘルが指をちょいちょいと曲げた。
「どうせ【サイコキネシス】を使うなら、もっと上手にしてもらいたいものです」
「助けてもらって、それ?」
「……わっかんねぇな。それだけの力があって、何でお前らこんなことしてんの?」
 冴王は本気で首を捻った。
「子供だから助けるのか? こっちは女が一人困ってるんだぜ? そのガキのために平気で暴れ回るお前らの方が、よっぽど社会の敵ってやつじゃねーの?」
「下らない……本当に下らないな」
 呼雪は嘆息した。そして【封印解凍】を発動した。
「正義だの悪だの、そんな受け取り手の価値観や立場で容易く変わるようなあやふやなものでしか、自らを定義出来ないのか?」
 レーザーガトリングと「曙光銃エルドリッジ」を構え、呼雪は地面を蹴った。目的は六黒のみ。他に用はない。
 六黒は「龍骨の剣」を抜き、呼雪の動きを見定めようとした。
 そもそも六黒が九十九 雷火についた理由は、所属する「悪人商会」への依頼が裏にあってのことだ。だがそれとは別に、マホロバ全体のパワーバランスを六黒は考えていた。甲斐、諏訪両家が潰れれば葦原藩の力が弱体化し、瑞穂、暁津に有利になるだろう――今回の件は、その布石だった。
 だが、今は関わりのないことである。
 呼雪は六黒の間合いに入る前に、【魔弾の射手】を始動した。両手の銃が火を噴き、八発が六黒目掛けて発射される。
「師匠!」
 ドライアがいっそ悲痛とも言える声で呼んだ。
 六黒の両腕両足、胸、頭を除く全ての箇所から血が吹き出した。呼雪は眉一つ動かさないが、六黒もまた、鬼の如き形相で「龍骨の剣」を振りかぶった。
 ガントレット、黒檀砂時計、勇士の薬、彗星のアンクレットとあらゆる装備で、今や六黒の速さは人のそれを超えていた。更に【チャージブレイク】が時を迎え、呼雪が【銃舞】で回避したその先諸共、激しく吹き飛んだ。
「呼雪!!」
「呼雪!」
 宙を舞った呼雪をヘルが抱き留めた。ユニコルノは「早瀬神鳥」と「さざれ石の短刀」を構え、追撃に備えた。だがドライアは六黒に駆け寄り、冴王はじっと銃を構えている。お互い、一歩でも動けば相手は攻撃に転じるだろう。
 六黒はごぼりと血を吐いた。
 その時、どこからともなく歌が聴こえてきた。
「おまえらあ! よくも師匠を!!」
【怒りの歌】だ。てき面に影響されたドライアは伸ばしきった「虚刀還襲斬星刀」を振り回しながら、ユニコルノへ突っ込む。
「馬鹿が!」
 冴王は舌打ちし、予め【トラッパー】で仕掛けてあった機晶爆弾を爆発させた。ドライアの足が止まる。
「逃げるぞ!」
「こんなところで逃げちゃうんだ?」
 些か呑気な声が遥か上から降ってきた。だが六黒を抱えたドライアたちには聞こえていない。
 どれ、と声の主――ラファ・フェルメール(らふぁ・ふぇるめーる)は、【バニッシュ】を発動しようとした。しかし同じ高さから、また別の歌が聞こえてきた。今度は【悲しみの歌】だ。ラファはすっかりやる気をなくしてしまった。
「まあ、いいか。悪は必ず滅びるっていうけど、逆だよねぇ。負けたから、滅びたから悪とされるのさ。そういう意味ではかつて滅びたシャンバラも、いずれ滅ぶこの世界も悪という事になるかな? それに比べたら、幾ら言い張っても個人単位の悪なんてちっぽけなものだよね」
 ラファの呟きに、歌声の主、両ノ面 悪路(りょうのめん・あくろ)は一人で勝手に頷いた。
「どうせなら全てが一気に滅びるのが面白いですね。さて――この報告書をどう使えば、一番効果的でしょうかね。誰が拾うか落としてみるのもいい……」
 悪路は様々な計画を思い描いて、楽しげに笑った。
 余談であるが、呼雪も六黒も一命は取り留めた。しかし、度重なる所業がハイナ・ウィルソンの下へ報告され、三道 六黒には葦原明倫館より放校処分が下されたのだった。