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リアクション
十
「そこだあ!」
レキは忍者の中にいる「誰か」を【殺気看破】で見破った。【隠れ身】で近づいていた辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)は、ラスターハンドガンの光を浴び、姿を現した。
しかし刹那は慌てなかった。彼女は再び【隠形の術】で姿を隠した。レキはこれも【殺気看破】を使ったが、今度は忍者たちに紛れて、刹那を見つけることが出来ない。
「どこ!?」
当麻を中心にし、レキとカムイ、静麻とトーマは背中合わせに死角をなくした。
――ヒュッ!
何かが飛んできて、レキの肩を掠った。制服が切り裂かれ、血が滲む。
「レキ!」
「大丈夫!」
カムイは【ヒール】でレキの傷を治療しながら、その武器を睨んだ。くるりと弧を描き、忍者たちの中へ戻っていく。リターニングダガーだ。
気がつけば、忍者たちが五人を包囲し、徐々にその輪を縮めている。そしてリターニングダガーは、その輪のどこからでも飛んできた。戻る場所に使い手がいるに違いないが、静麻の「怯懦のカーマイン」も、レキのラスターハンドガンも撃ったところでそこだけ穴が開いてダメージを与えられない。
カムイがリターニングダガーを光条兵器の鎖鎌で跳ね返した。そしてまた、忍者たちの中へ戻って行く。それを見ていたトーマが、
「あれを何とかすれば、何とかなる?」
「うん。キミたちを逃がすことは可能だよ」
「これ」
トーマはポケットから小瓶を取り出した。
「何だこりゃ?」
「あのダガーにぶつけるんだ。オイラがやりたいけど、あんなちっちゃくて速い的はちょっと自信がない」
「ボクがやるよ」
レキがそれを受け取った。直後、ダガーが向かってくる。しかしレキは、動かなかった。二度三度ダガーが通過した。
「そこだ!」
【エイミング】で狙いを定め、小瓶を投げつける。ダガーは小瓶を割って、また戻っていった。だが、次はなかった。
「何だ? どうしたんだ?」
静麻が怪訝そうに眉を寄せた。
「エステ用ローション」
「ああ。なるほど」
カムイが頷いた。ローションでぬるついて、ダガーを扱えないに違いなかった。
何でそんなものを、という静麻の問いに、トーマは胸を張って答えた。
「イタズラ小僧のたしなみってヤツだ」
「ああそう。……じゃ、いっちょ逃げますか」
「参ります」
カムイがウォーハンマーを抱え、飛び出した。【チェインスマイト】で目の前の敵を無造作に攻撃する。そこに忍者が襲い掛かるが、今度はレキが飛び出し、【アルティマ・トゥーレ】を使った。冷気が忍者たちに襲い掛かる。
トーマと静麻へ、【ブラインドナイブス】を使った刹那が襲い掛かる。
が、
「奥の手なら俺も持っている!」
刹那の目の前で爆発が起きた。静麻の【破壊工作】だと気づいたときには、三人の姿はなかった。
忍者たちが当麻へと襲い掛かかったのは分かっていたが、リカインたちは動けなかった。六黒一派だけでなく、モードレットと夜がいたからだ。
しかしその時、六黒たちの近くで炎が上がり、リカインたちと寸断されてしまった。
敵は二人。しかしモードレットが只者でないことは、目の前にいるだけでよく分かった。
「ガキどもよりは楽しめそうだ」
ニヤリとモードレットは口の端を上げた。整った美しい顔立ちであるのに、酷薄な印象を与える。
「あなた様を楽しませるつもりは、毛頭ないのですけれど」
と言ったのは、中原 鞆絵(なかはら・ともえ)だ。完全に色の抜けた老女を見て、モードレットは顔をしかめた。
「年寄りの冷や水か?」
「あなた様に浴びせる水ですわね」
「何だと?」
鞆絵の【ヒロイックアサルト】が発動した。背丈が伸び、肉付きがふっくらする。白髪は艶やかな緑の黒髪へと変化し、おっとりした目も鋭くなる。
「……さて、わしがお相手いたそう」
口調も雰囲気もガラリと変わり、モードレットは驚いた。木曾 義仲(きそ・よしなか)が憑依しているのだが、無論、知る由もない。
クククッ、とモードレットは笑った。
「面白い。この宝剣『クラレント』に更に血を吸わせてやろう」
「じゃあ、あたしの相手はあんたらだね」
夜はリカインをじろじろと上から下まで舐めるように見た。
「あんた、美人じゃん」
「それはどうも」
「こいつと付き合ってんの?」
親指で指されて、狐樹廊はややムッとした。いいえとリカインがあっさり答えたので、それも面白くない。
「あたしはさー、別にどうでもいいわけよ、あの何とかってガキがどうなろうと」
「だったらどうして?」
「だってダーリンに頼まれちゃったんだもの」
キャッ、と身をくねらせる夜に、リカインと狐樹廊はぽかんとした。訊かれもしないのに夜はペラペラ喋り、自分が久我内 椋の命令で動いていること、【人の心、草の心】を使って当麻を追ってきたこと、椋には報告済みであることを教えてくれた。本人は、椋がどれだけ自分を頼りにしているか、自分が椋をどれだけ愛しているかを語りたいだけのようだったが。
「でね、きっと誰にでもそれぞれの正義ってあるじゃない、だからさ、こっちにはこっちの正義ってあっちゃうから、誰かと敵対しちゃっても仕方がないのよね。だから悪いけど、こっちはこっちの正義を通しちゃうわよ」
最後はそう締め括られたが、「狐樹廊……分かった?」「取り敢えず敵ということだけは」というわけで、戦うことになった。
「だから死んでね!」
夜が「碧血のカーマイン」を構えた。リカインと狐樹廊は慌てて木の陰に隠れた。【スプレーショット】で弾をばら撒き、なくなるともう一丁を使った。まさに銃弾の嵐だ。
「もうっ、出られないじゃないのよ!」
「手前にお任せを」
二丁目の弾が切れた隙に、狐樹廊は飛び出した。――と、夜の大きな笑い声が響いた。まさに大爆笑である。
「アハハハハ! アハ、ハハハハ!」
「ふっ、実戦にも有利だと証明されました。――さあ早く! 何をしているのです!」
夜の笑い声に首を傾げながらもリカインは狐樹廊の後に続き、「誓いの盾」を「怪力の籠手」で増した腕力で突き出した。女神の如き美貌の持ち主が巨大な盾を振り回す様は、ちょっと見物であった。
「アハハ……キャア!」
鳩尾を殴られ、夜は笑い顔のまま気を失った。
振り返ったリカインは、「――!」と吹き出しかけるのを辛うじて堪えた。
狐樹廊の顔には呪術師の仮面を改造した「ひげめがね」がバン! と貼り付いていたのである。ビン底メガネに存在感溢れる鼻、八の字ヒゲの鉄板仕様――この破壊力に耐えたリカインは自分を褒めてあげたいと思った。
一方、モードレットと対していた鞆絵(中身は義仲)は――、
「ハア、ハア、ハア――」
――こ奴、やりおる。
モードレットは「血塗られた炎の宝剣クラレント」ではなく、飛竜の槍で【ランスバレスト】を繰り出した。鞆絵(中身は義仲)はそれを【チェインスマイト】で悉く跳ね返した。
「フン、まあまあだな」
クイ、と指を曲げると、戦いの最中折れた枝が【サイコキネシス】で鞆絵(中身は義仲)の頭上に落ちてきた。鞆絵(中身は義仲)はそれを事も無げに払ったが、モードレットは【その身を蝕む妄執】を放った。
「何!?」
義仲の目前に、彼の最期の地であった粟津の景色が広がった。義仲は愕然となり、鞆絵の身体も硬直した。
その隙を逃さず、モードレットは【アルティマ・トゥーレ】を使った。槍から冷気が迸り、鞆絵(中身は義仲)はそのまま眠るように倒れこみ、彼女の身体は老女へと戻った。
「たりん……たりんな、血と痛みが」
モードレットはなおも満足していなかった。しかし夜が倒されたのを見、已む無く彼女を抱えてその場を離脱した。
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